溝口公認会計士事務所ブログ

京都在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。会計監査、内部監査代行、内部統制の構築・改善業務、IPO支援業務、原価計算制度構築・改善業務、企業価値算定業務等のコンサルティング業務を中心に活動する傍ら、グロービス経営大学院大学でアカウンティングの講師もしています。日頃の業務の中で気づいたことをブログに書いていきます。【保有資格】公認会計士(CPA)、公認内部監査人(CIA)、証券アナリスト協会検定会員(CMA)、地方監査会計技能士(CIPFA)、(元)公認情報システム監査人(CISA) 

会計の数字は本当に客観的なものか? 【ソフトバンクの例】

www.nikkei.com

「日本、いや世界で最も複雑な財務諸表かもしれない」。トーマツ幹部がこう形容する担当企業がある。それは大型M&A(合併・買収)を繰り返し、姿が大きく変わり続けるソフトバンクグループだ。担当会計士は当然、エース級を送り込んでいる。』

 

何が「最も複雑なのか分かりにくいんじゃないだろうか?

記事は続く。

担当会計士を悩ませる原因の一つはソフトバンク資産評価だ。』

 

資産評価が(日本の会社の中で)最も複雑で、会計士を悩ませる、という。

ソフトバンクの場合は、巨額買収によりバランスシート(B/S)の総額の内、

 

のれんが約16%を占める。

金額では4兆3,900億円にも上る

 

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のれんについては、当ブログでもいくつか記事を書いているが、買収金額と買収先の会社の純資産の差額であり、買収金額>純資産の場合、ソフトバンクのように資産側にのれんが発生する。簡単に言えば、

買収金額が高くなればなるほどのれんは大きくなる。

 

のれんは、目に見えない資産(無形固定資産)だ。目に見える資産でも時価の査定はそれなりに難しいが、無形資産となればなおさらだ。

仮にのれんが”価値無し”となると、

のれんの減損損

が必要になる。

減損損失当期純利益を悪化させるだけでなく、

その分の純資産も吹っ飛ぶ

ことになる。

ザックリ言うと、ソフトバンクの場合、

純資産の16%が吹っ飛ぶことになる。

(正確には税効果分が考慮されるので、吹っ飛び分はもっと小さくなるが・・・)

ちなみに、平成30年3月期の第2四半期(平成29年9月末)時点では純資産比率は19.5%なので、インパクトの大きさがイメージできるだろう。

 

では、のれんの評価はどうするのか?

 

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記事にもあるように、のれん発生後、年に一度、あるいは事業の収益環境などが悪化した際に減損の要否をチェックすることになる。

 

そして、事業の収益環境などの悪化とは、要するに足元の業績だけでなく、

将来の事業見通しをどう評価するか

に掛かってくる。

 

 「(あらゆるモノがネットにつながる)IoTが普及すれば、このくらいの売上高と利益は出る」。孫正義会長兼社長は本社の会議室で

アームの成長性について熱弁を振るった。

面談相手は投資家ではなく、トーマツの担当会計士だ。』

 

記事のこの部分が、この状況を物語っている。

仮に足元の業績が悪くても、

『このビジネスは、将来、”カクカクシカジカ”で成長するのです』

と会計監査を担当する会計士を納得させられるかどうか、

のれんを減損するかどうか、の分かれ目となる。

(カクカクシカジカの部分が重要なのだけれど)

 

これは、のれんに限ったことではない。現在の会計ルールのトレンドからは、B/Sの多くの資産、負債を時価評価することになる。その際の、中古市場などの実際の直近の売買の実績価格が把握できる場合はその金額を時価とみなすが、そういった市場がない場合は、のれんと同様の方法、つまり将来その資産からどれだけのキャッシュを見込めるか(その現在価値)、から時価を把握する。

会社が保有する資産の内の多くは後者で時価を把握することになるが、これは、

時価は経営者の将来見通し次第ということを意味する。

 

(会計の)数字は客観的なものと思われるかもしれないが、

意外にそうでもないことが分かるだろうか。

 

現在の資産評価は依然、取得原価主義だ。

つまり、B/Sの資産、負債の金額は、当初その資産、負債を

ゲットした際に支払った/受け取ったおカネの金額

で据え置かれている。

この良し悪しは置いておいて、少なくとも過去の一定時点の実績としての金額で評価されている。その意味では、金額にそれなりの客観性を見出すこともできるだろう。

 

しかし、今後益々、資産、負債を時価評価する流れは進むと考えられる。

つまり、

”経営者の将来見通しが会社の数字を決める

ことになる。

極端になるが、同じ事業、同じ業績の会社であっても、楽観的な経営者の会社であれば楽観的な数字、悲観的な経営者であれば悲観的な数字となることもあるので、会社の数字を活用して会社との関わり方を判断するステークホルダーとしては、数字だけでなく、

数字の前提となる経営者の事業見通しやその妥当性を理解する必要性が今後益々重要になるだろう。

 

会計士が会計監査でチェックしてくれるんじゃないの?

確かに、会計士は会社の数字を会計監査する。

 

君和田氏は「会計士は過去のことを見るのは得意だが、

将来の見積もりは不得意」と指摘する。』

 

会計士は、会計、監査には詳しいが、

経営や会社が営む事業のプロではない

少なくとも、そのようなスキルは試験制度にも無いし、教育研修にもそれほど時間を割かれていないだろう。

ぶっちゃけ、

経営者が提示する将来の見積もりが明らかに合理性を欠いたり、蓋然性に乏しかったりしない限り

 

”ノー”は言えないだろう。

 

ということで、一般のビジネスパーソン

アカウンティングリテラシーの重要性

が今後益々問われることになる、というお話でした。