溝口公認会計士事務所ブログ

京都在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。会計監査、内部監査代行、内部統制の構築・改善業務、IPO支援業務、原価計算制度構築・改善業務、企業価値算定業務等のコンサルティング業務を中心に活動する傍ら、グロービス経営大学院大学でアカウンティングの講師もしています。日頃の業務の中で気づいたことをブログに書いていきます。【保有資格】公認会計士(CPA)、公認内部監査人(CIA)、証券アナリスト協会検定会員(CMA)、地方監査会計技能士(CIPFA)、(元)公認情報システム監査人(CISA) 

内部通報者保護は何のため⁈

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180213&ng=DGKKZO26811360S8A210C1MM8000

 

本日(2/13 ’18)日経朝刊一面記事

 

内部通報者の保護厚く 企業の報復防止へ罰則 
政府、年内にも具体案 

 

内部通報者保護に関する記事。

 

政府は不正を告発した内部通報者報復的に解雇したり異動させたりした企業に、行政措置や刑事罰を科す検討に入った。現在の制度は企業が通報者に不利益を与える行為を禁じているが、民事裁判で解決するしかなく実効性が乏しい。通報しやすい制度を整えることで、企業のリスク管理能力を向上させ不正を抑止する。消費者が企業の品質不正などで被害を受けないようにする狙いもある。』

 

内部通報者に対する報復人事を防止したり、報復人事に対する法的是正措置を強化するということだ。これによって、内部通報の実効性を高めようという狙い。

 

少し古いデータになるが、AFCE JAPAN調べでは2009年10~2010年9の社内で発覚した横領着服等の不正について、外部・内部通報が端緒となって摘発された割合が圧倒的に多い。

f:id:tesmmi:20180213191341p:plain

 

外部監査による摘発が3%というのも何とも情けないが(ま、ある意味”外部”としてはこんな程度とも思うが)、内部監査を含む内部統制も上回る数値だ。

 

ちなみに、ざっくりと

外部通報は取引先などの会社に外部の関係者による通報

内部通報は従業員などの会社内部からの通報

 

粉飾決算、横領着服、データ改ざんなどの企業不祥事は後を絶たず、コンプライアンスの点からも社内外から企業不祥事に対する防止や早期摘発体制の整備・運用を迫られる会社(経営者)としては、内部通報や外部通報制度の実効性を高めることが効果的だということが分かるだろう。

 

本日日経朝刊の別記事にも内部通報による不正摘発例が紹介されている。

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180213&ng=DGKKZO26813650S8A210C1NN1000

 

 

ところが、である。外部通報に比べて社内内部通報、つまり従業員等による通報の少なさが気になるだろう。

不正が悪いことと分かってはいるが、内部通報は、

 

チクリ行為、仲間を売る行為

 

にもなる。


内部通報によって不祥事が明るみに出た会社は、刑事罰(不正を働いた本人あるいは法人)はもとよりマスコミなどの報道により社会的な制裁も免れない。

そして、その影響は、不正を働いた個人や法人に留まることなく、ブランドの既存や不買行為などを通じて会社の従業員へ広く及ぶことになる。

 

要するに、不正摘発は社会的に見れば確かに賞賛すべき行為ではあるが、

会社の従業員にとっては大迷惑な行為にもなる。

 

こうした事情もあって、不正を働いている人間が内部通報者の上司や人事権を持っている場合はもちろんだが、そうでない場合であっても内部通報者に対する報復的人事はなくならない。

 

以下は、2015年にエンロン粉飾決算を内部通報したワトキンス氏が来日した際のインタビュー記事だ。

toyokeizai.net

『──2002年1月、議会で貴方が内部告発者であることが明るみに出て、2月の上院聴聞会で、スキリング氏やファストウ氏の犯罪を裏付ける証言をし、一躍ヒロインになりました。

ただ、どこの国でも内部告発者は、結局はトラブルメーカーという烙印を押され、なかなか再就職は難しいようです。あなたもそうでしたか。

そのとおりです。私自身、二度と米国企業では働けないということは自覚しています。エンロンを辞めたあともオファーはいろいろあったのです。大学で教えないかとか、取締役会向けのコンサルティングをやらないか、とか。でも最終段階でいつもダメになる。』

内部通報者”whistleblower”は組織では”危険分子”とみなされ、

当社だけでなく他の会社への就職の機会も奪われることになりかねない。

 

これでは会社の不正行為の重要な抑止、摘発手段である内部通報制度の実効性が損なわれる、ということで今回の措置ということだろう。

 

もちろん、報復人事は巧みに遂行される(例として『空飛ぶタイヤ』(池井戸潤氏)参照)。

法の目をかいくぐるような手立てもあるし、仮に内部通報者が法的には保護されたとしても(社内の)”周りの目”までは止められない・・・

 

とはいえ、である。内面、実質を変えるにもまずは形式、法整備からというのは賛成だ。

 

願わくば、内部通報者保護強化により不正行為に対する抑止力が高まり、

結果として”抜かずの宝刀”となって欲しいが・・・