溝口公認会計士事務所ブログ

京都在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。会計監査、内部監査代行、内部統制の構築・改善業務、IPO支援業務、原価計算制度構築・改善業務、企業価値算定業務等のコンサルティング業務を中心に活動する傍ら、グロービス経営大学院大学でアカウンティングの講師もしています。日頃の業務の中で気づいたことをブログに書いていきます。【保有資格】公認会計士(CPA)、公認内部監査人(CIA)、証券アナリスト協会検定会員(CMA)、地方監査会計技能士(CIPFA)、(元)公認情報システム監査人(CISA) 

グローバル監査体制は画期的なことなのか? 【あずさ監査法人の例】

www.nikkei.com

 

今回は(も?)マニアックねた。

 

正直驚いた。

 

いや、極めて真っ当で、一般には

『何当たり前のこと言ってんの?』

と思うかもしれない。

 

が、この業界でにとっては当たり前でもない。

 

何の話かと言えば、富士フィルムの監査体制の話。

記事によれば、先の(富士フィルムの子会社の)富士ゼロックスの不適切会計の摘発のウラに新日本監査法人からから交替したあずさ監査法人の監査体制が寄与した、とのこと。

 

富士フイルムは2016年6月末の株主総会後に会計監査の担当を新日本監査法人からあずさ監査法人に切り替えた。国内はあずさが監査し、海外グループ会社はあずさと提携するKPMGが各地域を受け持つ体制だ。 「日本のあずさがまとめ役となり海外から情報を吸い上げる仕組みが効果的」富士フイルムのグローバル監査部の花田信夫部長はKPMGのネットワークを評価する。』

 

 

特に評価されているのは、あずさの監査体制の

グローバルネットワーク

だ。

 

グローバルにビジネスを展開している(日本)企業は、海外に多数の子会社等の拠点を持つ。

有価証券報告書提出会社であれば、

自身の会社のみでなく、

国内外の子会社を含めたグループ全体

の業績を反映した連結決算書を作成、開示する義務がある。

 

ということは、子会社を含めた連結決算体制を整える必要がある。

とは言うものの、これがなかなか難しい・・・

 

何が難しいかを書くと長くなるので別の機会に書きたいが、記事にもサラッとこんな件が・・・

『あずさで監査の品質を担当する金井沢治専務理事は「一般的に親会社の財務担当者が海外子会社について外部の視点で客観的な情報を入手する機会は多くない」と会合を開催した狙いを明かす。』

 

本来はこうであってはダメなんだけど・・・

 

で、その

フォローアップを監査法人に任せる

という構図が出来上がる。

 

会計監査は、会社が作成した決算書、子会社であれば子会社が作成した決算書、親会社がであれば親会社が作成した決算書(連結決算書含む)が全体として業績等の実態を反映しているかどうかを監査すれば良いのだけれど、なんせ会社(本社)だけでこれだけの作業とそのための子会社等とのコミュニケーション(むしろこっちがネック!)をするだけの体制が整っていないことが少なくない。

そこで、監査法人に白羽のが立つ。

 

また、監査法人として、海外子会社を含めたグループ全体の決算数値の作成をいかにスムーズにサポートするかは差別化要因、会社に対してはアピールポイントとなる。

 ☟

『海外ネットワークの整備が急ピッチで進む。あずさは海外の会計事務所とのやり取りを密にするため、海外赴任経験のある人材を大幅に増やした。』

 

言うは易しではないが、実はこれは簡単にはいかない。

1つはスキルを含むメンタリティの問題。

もう1つは監査法人の建付けの問題。

 

スキル&メンタリティについては、語学力&チームをリードすることに長けていないということだ。語学力は言わずもがなで、当然コミュニケーションは英語がベースになる。この点は想像に難くないだろう。そして、それ以上に厄介なのが、不特定多数の多国籍の監査チームをリードする(というかしたがらない)メンタリティにあると思う。日本人というか、さらには公認会計士の気質というか、職員気質の会計士が多く、組織をコントロールする意識が高い人はそれほど多くない。自分も経験があるが、グローバルクライアントになると、国内外の子会社数(連結会計の対象とする)も数十、百社なんてこともあり、各国の監査チームも相当に上る。これらに指示を出したり、作業の進捗をコントロールしたりするだけでも相当の労力が必要になる。ましてや、日本人みたいに期日を守ってくれないし、時差もある(アメリカだと早朝会議とか・・・)。基本WEB会議、メール、電話でのやり取りになるので、経験がある人は分かると思うが、フェイストウフェイスのコミュニケーションに比べて圧倒的に不便だし、お互いの理解度も低下する。語学だけでなく海外のファームの事情をよく理解した人材を監査チームに増加したというのもその対応だろう。

 

監査法人の建付けの問題というのは、KPMGに属するアカウンティグファーム(監査法人をグローバルでは通常こう呼ぶ)といっても本社、支店といった関係ではなく、同じ看板を掲げてはいるが『別会社』だ。ちなみに、資本は各国のファームのパートナー(職位)が拠出している。あずさ監査法人であれば日本国の公認会計士(でパートナー職)が出資している。

つまり、それぞれのファームが独立しているので、トップが右向け右!といってもそう簡単に物事が決まるものではない。ちなみに、日本の監査法人の中の意思決定も同様だ(1つ決めるのにも多くのパートナー(出資者)の同意が必要なので、やたら時間がかかる・・・)

なので、監査法人が監査クライアントに対するアピールでよく使う『ウチのグローバルネットワークによって御社グループ全体にスムーズなサービスを提供します』というのも嘘ではないが、あくまでもネットワークをスムーズに運営できれば、という前提が必要になる。

普通に考えて、同じ看板というだけで上司でも無い会ったことも無い人間にいきなりあれしろこれしろと言われたら『何だ!?』と思うだろう。

 

また、あずさ監査法人にとって(親会社が)重要クライアントであっても、子会社を担当するファームにとってその子会社が重要かどうかは分からない。したがって、プロフェッショナルのアサインや諸々の対応等で優先的に便宜を図ってくれるかどうかは何とも言えない。

といった状況も考えられるのだが・・・

 

ちなみに、日本の監査法人が『海外子会社の監査で揉めた時も同じメンバーファームであれば調整しやすい』なんてセールストークに入れるのは、上記の理由によりあまり期待しない方がいい。かえってメンバーファームじゃないファームの方が監査法人を変更される緊張感が大きいので融通が利くなんてこともあるとか無いとか・・・(笑)

 

『さらにグローバル企業を担当する国内の監査チームが、海外子会社を担当するKPMGの現地事務所の監査チームに直接指示を出す体制に切り替えた。「現地の情報を収集しやすくなり、不正につながる情報も素早く把握できる」(金井氏)

 かつてあずさは現地拠点を通じて国内と海外の監査チームが間接的に情報をやり取りする体制だった。今は国内で監査全体のリーダーを務める会計士は、海外の監査チームの人事権までも持つ。』

 

ということで冒頭の驚きにつながる。

もちろん、グローバル企業に対する(監査)サービスの在り方としては当然あるべき対応だとは思うが、先述の問題もあって中々実現できていない監査法人も少なくないのではないかと思う。

富士フィルム富士ゼロックス)の場合は海外子会社の担当であるアカウンティングファームにとっても重要なインシデントであり彼らにとっても対処すべき重要案件という理解もあっての今回の体制かもしれない。同時に富士フィルムにとっても再発防止のため、あずさとがっちり協力体制を敷いたということもあるだろう。仮にそういった事情があったとしても、日本の監査法人(チーム)がグローバルに監査チームをリードする(それも権限を持って)のは容易ではない。が、そうあって欲しいという思いを持ってあずさの取り組みに期待したい。