溝口公認会計士事務所ブログ

京都在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。会計監査、内部監査代行、内部統制の構築・改善業務、IPO支援業務、原価計算制度構築・改善業務、企業価値算定業務等のコンサルティング業務を中心に活動する傍ら、グロービス経営大学院大学でアカウンティングの講師もしています。日頃の業務の中で気づいたことをブログに書いていきます。【保有資格】公認会計士(CPA)、公認内部監査人(CIA)、証券アナリスト協会検定会員(CMA)、地方監査会計技能士(CIPFA)、(元)公認情報システム監査人(CISA) 

粉飾分析官は機能するのか?


www.nikkei.com

 

少し前の記事(日経)になるが、会計評論家の細野氏に関する興味深い記事。

 

東芝富士フイルムホールディングスなど、企業の会計不祥事が後を絶たない。背景には会社に雇われている監査法人が、顧客である企業に強い姿勢で臨めない構造上の問題があるとされる。そんな中、数多くの有名企業の粉飾決算を暴いてきた会計評論家の細野祐二氏が主要企業の財務諸表を分析したリポートを出した。』

 

ということで、独自の企業分析の手法の概要の記事。

 

『「キャッシュフロー(現金収支)」や簿外債務など計78項目をピックアップし、独特の重み付けで評点した。』

 

 

5段階に区分され、営業キャッシュ・フローが赤字、

M&Aによる多額ののれん等を抱える会社の評価が低くなる仕組みとのこと。

 

会計監査を担当する公認会計士の頭の中を整理して数値化したものというイメージだ。専門家の頭の中を見える化したという意味で、意義のある分析資料だと思う。

 

意義深い分析資料だとは思う、一方で、

実際の活用局面を考えると色々と疑問も浮かぶ・・・

 

【分析資料をどう使うのか?】

 

分析報告書は東京経済が販売するとのことで、おそらく一般に入手可能と思うが、一体だれが購入するのだろうか?

 

企業が、ウチはどう評価されているのか?

投資家が、危ない会社はどこか?

銀行も、危ない会社はどこか?(←取引先、従業員も)

 

など考えられる。

この分析報告書がどれくらいの社会的なインパクトがあるかにもよるが、

あくまで専門家による1オピニオンである(と思う)。

しかもおそらくは、会社ごとの個別事情を斟酌した判断ではなく、いくつか(記事には78項目)の基準に照らした『客観的』評価結果であろう。

とすれば、評価結果の活用は分析者のリテラシーが問われるのではないかと思う。

つまり、財務評価についての専門知識を持たない人が当該分析結果を

鵜呑みにして、あの会社は危ない、と盲目的に信じると(で、行動に移すと)それこそ危ないな、と・・・

 

青山学院の町田教授は記事で以下のコメント。

 

『町田教授は「実際、専門能力があり独立した立場にありながら、企業の内部に立ち入って事業をみられる監査人だけが判断できる。監査人が適正だとした判断を疑う合理的根拠を我々は持ち合わせていない」と話す。』

 

『町田教授は細野氏の手法について「財務諸表の分析でもかなりのことがわかるのは確かだが、事業の詳細や将来計画までは外部から知り得ない圧倒的に情報が不足している外の人間が『不正』と言うのは乱暴な議論だ」と指摘する。』

 

全く同感。

会社の財務諸表を通じて財政状態や経営成績に対する判断(監査意見)を下せるのは担当する監査法人のみだ。

 

監査法人にとっては有用か?】

 

会計監査を担当する会計士にとっては、この分析結果はさほど影響はないと思う。というのも、先述のとおり、分析結果は会計士の頭の中を見える化したものに過ぎない。細かいリスク分類はともかく、会計監査上問題になりそうな(不適正意見や意見差し控え)レベルの会社であれば、まともな会計士の意見も分析結果の『危険』や『警戒』と一致するだろう。

細野氏も指摘しているが、問題は、会計士がこのような危ない会社を見分けられないのではなく、

分かったうえでNOと言えない構造的な問題

ということだ。

 

『会計に詳しい青山学院大の町田祥弘教授は「細野氏の主張の焦点はまさにこの点で、『監査が甘いのではないか?』と挑戦しているに等しい」と指摘する。これは細野氏が「監査法人企業から高額の監査報酬を受けているから、顧客と対等な立場でモノを言えない」という主張と重なる。』

 

この点は、粉飾決算(最近は不適切会計などという曖昧な表現が多様されるが・・・)の度に指摘される。この点については過去記事参照☟・・・

 

tesmmi.hatenablog.com

 

【分析資料は会計監査を後押しか?】

 

是非はともかく、監査法人にとっては黒を黒と言えない事情がある。

会計監査は、会社と監査法人の言わば密室で行われる。密室での判断だからこそ、場合によっては(危ない会社ほど)歪んだ判断となるおそれがある、したがって、

会計監査の見える化の作用がこの分析資料にはあると思う。分析資料の利用者は自ら会社の財務状況に対するジャッジを下さないまでも、事前情報として(細野氏の)分析結果を利用する。それと監査法人の会計監査の結果を照らし合わせて、

会計監査の結果の妥当性を判断する。

もし、分析結果とはかけ離れた監査意見が表明されたとすれば、社会的な視点からのチェック(例えばメディアなどを通じて)が入る、という感じだろうか。監査法人に対しても会社に対しても、

歪んだ監査意見に対する抑止力

として期待される可能性はある。

 

【粉飾分析官の位置づけは?】

 

粉飾分析官という制度は(日本)には無い(と思う)が、記事には欧米では慣行があるとのことから『公認不正検査士(CFE)』とは異なるのだろう。

 

『欧米の資本市場では監査法人とは別に、会計に詳しい「粉飾分析官」なる者が企業の財務諸表を読み込んで警告する慣行がある。細野氏が目指すのもまさにこれだ。「監査法人とは異なる立場で企業を監視し、多面的に会計を分析する土壌を日本でも根付かせたい」と話す。財団法人の設立も検討しているという。』

 

どうなんだろう・・・

確かに粉飾の手口や摘発のスキルという点では期待できるかもしれない(会計士は粉飾のチェックを専門としているわけではない)。しかし、粉飾を含む不正の手口や摘発にはCFEも相当のスキルは有していると思う。

ということは、独立性の強化ということだろうか?CFEは企業の従業員だったり、コンサルタントだったりすることが多く(弁護士、会計士等の専門家がCFEを兼ねる場合もある)、『報酬はどこから問題』

に照らすと粉飾の当事者である会社(経営者)に対して強気で向かえるのか?という問題がある。

粉飾分析官は、会社から報酬を得ない公務員的な存在なのだろうか?加えて、警察や税務署のような強制捜査反面調査権を持つのだろうか?

気になるところだ。

 

自身も公認会計士である細野氏が監査法人体たらくに業を煮やしての粉飾分析官の提案ということかもしれない。

粉飾決算に対する抑止力として期待したいが、

個人的には監査法人(会計監査)に頑張ってもらいたい、と思うんだけどなあ・・・