溝口公認会計士事務所ブログ

京都在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。会計監査、内部監査代行、内部統制の構築・改善業務、IPO支援業務、原価計算制度構築・改善業務、企業価値算定業務等のコンサルティング業務を中心に活動しています。また、グロービス経営大学院大学でアカウンティングとファイナンスの講師活動も行っています。日頃の業務の中で気づいたことをブログに書いていきます。【保有資格】公認会計士(CPA)、公認内部監査人(CIA)、証券アナリスト協会検定会員(CMA)、地方監査会計技能士(CIPFA)、(元)公認情報システム監査人

未だ判然としない一括計上された92億円の根拠 【日産の例】

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日産の19年3月期第3Qの決算発表動画。

 

以前から報じられていたが、日産は過年度に過小計上されていたとされるゴーン氏に対する報酬等をこの第3Qに一括費用処理した。

その額ざっと92億円

普通の会社であれば、過年度遡及修正になりそうな金額だが、日産のビジネスボリュームからは過年度遡及修正には該当せず、当期の決算への影響のみとのこと。

 

ゴーン氏の逮捕当初から、今回の修正対象となるゴーン氏に対する過年度の報酬等の金額が一体どういう内容なのか不思議だった。

検察は確定した報酬の単なる後払いと主張、これに対して、ゴーン氏側は未確定要素を含む金額と主張が対立していた。当然、いずれの主張に基づくかは会計処理にも影響を与える。

ということで、早速決算短信を見てみた。

 

☟日産の19年3月期第3四半期決算短信

https://www.nissan-global.com/JP/DOCUMENT/PDF/FINANCIAL/ABSTRACT/2018/20183rd_financialresult_875_j.pdf

 

 


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一括費用処理の対象となる金額が9,232百万円であることが分かる。

そして、これが、販管費『給料及び手当』に含めて計上されていることが記載されている。

取締役としての報酬、役員報酬としたのだろう。

 

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連結P/Lを確認すると、前期と当期の第3四半期累計会計期間の販管費の『給与及び手当』は、それぞれ、約3,000億円、約3,060億円なので、60億の増加要因の内の多くが今回の一括費用処理の影響であることが推察される。

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興味があったのは、過年度に過小とされたのが報酬なのか、退職金なのか、それともコンサルティング料等の他の名目なのか、だ。

過去ブログにも書いたが、支払の名目によって過年度の費用計上の必要性、さらには今回の一括費用処理の要否への影響もあるからだ。

 

これに対して、日産は『役員報酬』と定義した訳だ。

 

詳細は後述するが、ということは、日産は一括費用処理の92億円を確定した債務として認識したということだと理解した。

 

【想定される会計処理】

借方)給料及び手当 92億円 /貸方)長期未払金 92億円

 

連結B/Sではそれらしき勘定科目が見当たらないが、

固定負債の『その他』が8,634億円から8,680億円に約45億円増加しているので、ここに計上されているのかなと思うが、これだけでは疑問は晴れない。

 

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役員報酬は、株主総会、取締役会等の承認プロセスを経て決定される。支払のタイミングは後払いであっても会社にとって支払い義務は年度ごとに確定しているはず、これが一つ。しかし、ゴーン氏やケリー氏が主張するようにそのような意向で話はしていたが不確定要素がある場合は、必ずしも確定した債務(ゴーン氏等にとっては権利)とは言えない。

支払のタイミングは同じ後払いであっても、金額の性格が異なると思われる。

 

tesmmi.hatenablog.com

 

前者であれば、

確定債務⇒長期未払金

 

後者であれば、

未確定債務⇒引当金

となる。

 

この点をどうしたのか、会計処理を通じて知りたかったのだが、残念ながら決算短信からは分からなかった。

 

とはいえ、役員報酬であれば、株主総会や取締役会等のドキュメントに記録、保管されているはずで社内や会計監査の過程で当然チェックされるはずだから、それを決算処理上も、(有価証券報告書等の)開示上もスルーすることは考えにくい。

したがって、個人的には後者、未だ確定したとは言えない債務(引当金)なのだろうと考えた。そして、役員の報酬は上述のように法定の承認プロセスを経て決定されるわけだから、普通に考えてそれが不確定であることは考えにくい。もちろん、インセンティブのような条件付の報酬(賞与のような)は考えられるが、今回の件ではそういう話は聞こえてこない(日産の役員報酬体系は、基本報酬+株価連動型インセンティブ受領兼のみでそれほど複雑なものではない)。

 

したがって、日産が今回の一括費用処理の対象となる金額を役員報酬と定義づけたということは、確定債務であり長期未払金と考えた訳だ。

ところが、決算短信の注記には『入手可能となった情報に基づく最善の見積り額』と記載され、19年3月期第3Qの決算説明会では、会場からの質問に対して、西川社長もCFOの軽部氏も、処理対象となった92億は『保守的に見積もった金額』と回答されている。

 

今もって過年度の役員報酬の金額を確定できない理由って何だ?

 

また、決算発表会の西川社長と軽部CFOによれば、実際に支払う金額とは異なる(西川社長の見解では、支払うつもりはない)とのことだ。もしかしたら、過年度の報酬自体は確定債務なのだけど、今回明らかになったゴーン氏の様々な不適切な行為のペナルティとして権利はく奪ということを言いたいのかもしれないが、確定債務とは考えていないという印象だ。仮に、将来の支払の可能性が高くないとなれば、引当金の要件すら満たさない、92億円の一括費用処理は不要となる。

 

仮に支払わなければ、今回一括費用処理した92億円は将来戻入れ

つまり利益となる…

 

昨年の11月19日の金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽表示)による衝撃的なゴーン氏逮捕。

それから3ヵ月が経過しようとする今もってなお、個人的には一旦何が問題で、何が判明したのかがよく分からないし、何を根拠に92億円を一括費用処理するのかも分からない。

そんな中で、過小とされる金額を一括費用処理して早期に幕引きを図ろうしているように思えてしまうのだ。

 

決算説明会での記者の質問は6名で11個。そのうち、一括費用処理については2つのみ。

日産の将来(ルノーとのアライアンス、仏政府との交渉、北米での事業戦略等)ももちろん重要だが、もう少し決算数値の妥当性についても突っ込んで欲しいなと思う。