溝口公認会計士事務所ブログ

京都在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。会計監査、内部監査代行、内部統制の構築・改善業務、IPO支援業務、原価計算制度構築・改善業務、企業価値算定業務等のコンサルティング業務を中心に活動しています。また、グロービス経営大学院大学でアカウンティングとファイナンスの講師活動も行っています。日頃の業務の中で気づいたことをブログに書いていきます。【保有資格】公認会計士(CPA)、公認内部監査人(CIA)、証券アナリスト協会検定会員(CMA)、地方監査会計技能士(CIPFA)、(元)公認情報システム監査人

セブンイレブンの24時間営業の是非     【会計士のつぶやき】


www.nikkei.com

 

セブンイレブンの24時間営業が社会問題となっている。

フランチャイズ(FC)加盟店のオーナーが、本部に営業時間の短縮を求めているが、

これは高騰する人件費を抑制するため、自ら度重なる深夜業務に疲弊してのことだ。

セブンイレブン本部でも一部店舗で時短営業の実験を始めるらしい。

 

我々消費者にとっては、事が急に動いた感があるが、実際にはこのような

問題は以前から起こっていたのだろう。

コンビニ経営をしている(加盟店オーナー)も本部からの要請が厳しい

というボヤキを耳にした記憶がある。

 

24時間営業も『粗利分配方式』も本部と加盟店オーナーの間の契約に基づくものである限り、法的には問題ないし、互いに遵守すべきものだろう。

”しんどい”という理由だけで加盟店側の主張が通るならば、互いのビジネスが成り立たなくなってしまう。

 

また、契約内容も最初から不合理なものであったならば、これだけ多くの加盟店を抱えるFCビジネスには成長しえなかったのではないかとも思う。

 

粗利分配方式では、粗利(=売上高―売上原価(加盟店の本部からの商品仕入

を一定割合で本部と加盟店が分け合う(記事には本部取り分が4割~6割)とある。

店舗運営で必要となる人件費、店舗の維持管理費等の経費は加盟店の負担となる。

店舗経費の中でも人件費の占める割合が大きいとのこと。

 

加盟店側の損益構造をざっくりまとめると、

 

限界利益-固定費=利益

 

となる。限界利益は店舗の粗利(本部分の粗利分配後)のことだ。

小売業では粗利=限界利益となる。

なお、ここでは便宜上、粗利と限界利益を使い分けるが、その意味は同義として取り扱うこととする。

 

店舗の限界利益から店舗に係る固定費を差し引いた利益が店舗利益となり、その多くは加盟店オーナーの報酬(所得)となるのだろう。

このビジネスモデルがそれなりに機能していた時期は、加盟店は限界利益で固定費が賄えたのだろうと思う。

 

それが、昨今は厳しくなってきた原因としては、

 

限界利益の減少

・固定費の増加

 

のいずれか、または両方が考えられる。

 

限界利益の減少の要因として、まず店舗売上高の減少が考えられる。1店舗当たりのコンビニの売上高がそれなりに見込めた時代は、仮に粗利の6割を本部に持っていかれたとしても、手元に残る粗利(限界利益)は”一定の金額”を確保することができたのであろう。しかし、コンビニ店舗数の増加や深夜の購買客の減少などの外部環境の変化により店舗売上高が減少すると、粗利すなわち限界利益は減少する。

また、粗利率の低下の可能性もあろう。具体的には小売価格の低下や仕入価格の増加などが考えられる(実際の例は把握していない)。しかし、セブンイレブンは24時間営業を継続する(したい)理由の1つとして、24時間営業を前提とした商品の生産システムや物流システムを維持することを挙げている。一般的にこれらは店舗側から見ても仕入価格が低下するだろうから、むしろ店舗の粗利率の改善につながるのではないかと思う。

 

一方で、店舗の固定費の増加については、店舗の維持管理費用の増加、中でも店舗人件費の高騰が主要因と考えられる。

 

店舗の限界利益が減少して、固定費が増加すれば、利益は減少する。

 

会計的に見れば、このような状況がセブンイレブンのFC加盟店で起こっているのではなないかと思う。

 

そして、この状況が、特定の店舗、加盟店の努力不足ではなくセブンイレブンの店舗の98%を占めるFC店のほとんどで起こっているとなれば、もはや個別の問題ではなく、構造的な問題と言えるだろう。

 

これに対して、本部は利益分配比率を見直したとのことだが、それで十分かどうかは検討の余地はある。また、例えば、従来店舗経費として固定費扱いにした店舗人件費の内、店舗の営業時間に比例的に発生する人件費については仕入代金と同様に売上から控除後でロイヤリティ計算する等、粗利分配方式の見直しも必要になるかもしれない。

 

問題はFCビジネスの根幹である加盟店の事業継続の可否であり、24時間営業の是非ではないように思う。

 

現在起こっている問題が、24時間営業を止めれば解決するのであればそれで良い。しかし、本部が24時間営業を継続する理由はそれによって店舗の売上が伸びると考え得るからだ。ニュースによれば、24時間営業を止めたら昼間の売上も含めて店舗売上が3割低下した例もあるらしい(真偽のほどは明らかではないが)。

仮に24時間営業を止めて店舗の売上が下がれば、限界利益も低下する。これに対して、時短営業による店舗固定費がそれを上回らなければ、店舗の利益は悪化する。

また、時短営業によって24時間営業を前提とした生産、流通システムから加盟店が得られたコストメリット仕入金額等の低下)が失われる可能性もある。これも、粗利率の低下→限界利益の減少となる。

 

24時間営業は、現在のセブンイレブンのFCビジネスモデルの1つのピースだ。部分的に変更することでビジネスモデル全体が機能不全を起こすこともある。加盟店オーナーが気の毒といった感情的衝動による対応は賢明とは思わない。

仮に、本部が店舗人件費の一定割合を負担しても店舗の売上高規模を維持するメリットの方が大きければ、本部にとってもFC加盟店にとっても24時間営業を継続した方が得策かもしれない。

その場合は、大枠は現状のビジネスモデルを維持しつつ、本部とFC加盟店の負担関係の見直しという対応が望ましい

 

一方、セブンイレブンの本部が、24時間営業の”原則”と言ったり、24時間営業を見直すつもりはない、とするのもどうかと思う。数店舗の店舗閉鎖や加盟店の解約であればFC体制全体としては維持できるが、多くの加盟店がやっていけない、事業継続が困難ということであれば、いかに本部が24時間営業の原則と声高に叫んだところでビジネスモデルが成立しない。この場合は、現状のビジネスモデルの改革が必要となるだろう。

 

ビジネスモデルやそれを支える管理会計の仕組みは、外部環境などを踏まえた事業戦略を支援するための手段、ツールだ。会社の目指すゴールは同じであっても、外部環境の変化により事業戦略が変われば、それを支援するビジネスモデルや管理会計の仕組みもまた変化が求められる。ビジネスモデルは、早晩改廃される、宿命だ。

 

セブンイレブンが、24時間営業やそれを前提とした生産、物流システムを構築するのに多大な時間やコスト、努力があったろうことは想像する。

 

とはいえ、それを維持することが目的となると本末転倒になりはしないだろうか・・・