前回に続いて、アスクル第2弾。
前回書いたように、アスクル対ヤフーの役員選任決議を巡った論争で、まず気になったのはアスクルの社外取締役≠独立役員、だったが、関連する情報を得る中で、もう1つ気になる点に出くわした。
【親子上場が問題なのか?】
7/23の独立役員会による記者会見でも、再三、ヤフーによる権力の乱用が指摘された。
また、そうした状況を生むそもそもの要因として親子上場の是非が質疑応答でも議論された。
親子上場については、日本特有の上場形態とも言われ、そのメリット・デメリットについて従来様々な議論がなされてきた。
当事務所ブログでも過去記事で言及しているので、参考にしていただきたい
過去記事はコチラ☟
奇しくもコチラのソフトバンク・・・
アドバイザーの松山弁護士の回答の中で以下の件があった。
「親会社=支配株主というのは、自分の一声でその会社のガバナンスを変えてしまうことが出来る力を持っている。~中略~ただ、自分の議決権行使で上場企業のガバナンスを変えられるとう力を持っている以上はやはり、そこには守るべきルール・マナーがあるべき。」
まさに、ノブレスオブリージュ、
個人的に大いに納得させられた。
と、そこで疑問。
ヤフーってアスクルの親会社だったっけ?
【子会社の判定根拠は?】
ヤフーの議決権比率は約45%
議決権の過半数を持っているわけではない。
でも、会計上は必ずしも議決権割合だけで親会社と判定されるわけではない。
会計上の親子関係、つまり親会社から見た場合の、連結子会社の判定は以下の通り。
①50%超の議決権を所有
②40~50%の議決権を所有+緊密者の議決権や役員等の特別な関係あり
③0~40%未満の議決権を所有+緊密者の議決権+役員等の特別な関係あり
なお、
緊密者:自己の意思と同一の内容の議決権行使が認められる者
特別な関係:過半数の役員派遣、重要な財務、営業、事業の契約等、資金調達額の総額の過半の融資、など
議決権は関係ないんか~い!?
連結子会社かどうかの判定は、実質支配力基準といって、対象企業の意思決定機関を「支配」しているかどうかがポイントとなる。
筆者は、通称、ゼロ連結、つまり、会社としては0%の議決権の所有だが、連結子会社とした例も経験したことがある。
詳細はこちらを参照☟
https://www.shinnihon.or.jp/corporate-accounting/commentary/consolidated/2016-04-12-01.html
だから、ヤフーが議決権割合以外に、緊密者がいたり、人事、契約、資金、技術等の特別な関係をアスクルと有していれば、連結子会社と判定することも大いにあり得る。
【実は親会社では無かった!?】
そういうことで親子関係なのかなと思っていたら、記者から以下質問というかつぶやきがあった。
『アスクルのコーポレートガバナンス報告書には親会社ナシと書いてあるのに、親子上場しているのか不思議』
ん?どういうことだ?
気になったので両社の有価証券報告書を調べてみた。
まず、ヤフー側
議決権割合は過半には満たないが、アスクルを子会社と判定しているようだ。上述の実質支配力基準に基づいた特別の関係を考慮した結果だろうか。
次に、アスクル側
【その他の関係会社って何?】
それはさておき、アスクルはヤフーを
『その他の関係会社』と判定している。
親会社ではない・・・
なんだ、これは?
親は子と呼び、子は親じゃないという、
その関係・・・
まず、その他の関係会社の説明が必要だろう。
その他の関係会社とは、ある会社が他の会社を関連会社としている場合、他の会社から見てある会社のことを指す。
言葉で説明すると分かりにくいかもしれないので、図示するとこう☟
関連会社の定義はこちらを参照☟
https://globis.jp/article/4533
要は、アスクルから見た場合、支配されているとまでは言えないが、それなりの影響力を持たれている会社として、ヤフーを認識している、ということだ。
そのままやん!
ヤフーはアスクルの約45%の議決権を持っているから、この点だけでアスクルの重要な意思決定に対する影響力を持つ。これは明らかだ。
しかし、アスクルは、一定の影響力は持たれているが支配はされていない、と認識しているということになる。
『え!?僕、あなたの子供でしたか?
全く気が付きませんでした~』
議決権比率などの外形的な点以外は外部から親子判定するのは難しい。
が、
当事者同士の認識がズレるということはあるのだろうか?
答え
そういったケースは、まず、無い。
100万歩譲って、もし仮に当初の親会社、子会社の判定に食い違いがあったにせよ、関連会社と子会社ではグループ内での位置づけも、コミュニケーションの取り方も異なる(例:連結決算において必要な情報)から、両社が親子認識のズレに気づかないことはあり得ない。
そもそも親会社子会社とった関係は、会計数値のみならず、経営のガバナンスにも大きな影響がある。相手が了解していないのに一方が勝手に子会社とするなど考えられない。
と、書きながら、そういえば、他に大株主がいながらも40%所有の会社を連結子会社にしていた例があったなあ、と思い出したが、それもかなりレアなケース(笑)
両者が、互いに会計ルールに従った親子判定の結果が食い違うことは無い、普通。
では、ヤフーとアスクルで起きている認識の齟齬は何故か?
【GAAP差異って何?】
実は、両社、財務諸表作成において適用する会計ルールが異なるのだ。
アスクルは日本基準で財務諸表を作成している。
実務では、IFRSの方が日本基準よりも連結の範囲、つまり子会社の判定を広く捉えることがあるようだ。
参考情報☟
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/ifrs/disclosure/ifrs-disclosure016.htm
ヤフーは、15年3月期にIFRSへ移行したが、その際はアスクルは未だ持分法適用会社だった。
ヤフーがアスクルを連結子会社化したのは、16年3月期のことだ。
その理由について、ヤフーは有価証券報告書で次のように述べている。
『アスクル㈱による自己株式取得の結果、当社が保有するアスクル㈱の議決権比率は41.7%(2015年5月20日現在)から44.4%(2015年8月27日現在)となり、議決権の過半数を保有しておりませんが、議決権の分散状況および過去の株主総会の投票パターン等を勘案した結果、当社がアスクル㈱を実質的に支配していると判断し、同社を連結子会社としております。』
また、その後提出された訂正有価証券報告書では、
日本基準では持分法適用関連会社であるが、IFRSでは連結子会社と判断した旨が記載されている。
(参考)ヤフーの訂正有価証券報告書(2017年2月21日提出)
https://s.yimg.jp/i/docs/ir/archives/vsreport/yuho2015_vsreport_teisei.pdf
この理由付けも微妙な感じがするなあ・・・
要するに、日本基準では連結子会社に該当しないが、IFRSだと連結子会社と判定されるケースがある、ということらしい。
なお、ヤフーはアスクルの連結子会社化に際して、ヤフーが保有するアスクルに対する資本持分を公正価値により再測定した結果、16年3月期の連結PL上、約600億円の再測定益を計上している。
これが無かったら、減益だったのね・・・
隙間で生じたズレ、
とでも言うのか・・・
こうした例を直接経験したことがないので何とも言えないが、日本基準も実質支配力基準で子会社判定しており、IFRSはパワーと影響力基準とでも言うのか、表現方法の違いはあれどIFRSと基本的な考え方に差異は無いと認識していた。
確かに、日本基準では重要性の判定、特定の特別目的会社、一時的な支配といった連結の範囲から除外する特例的な取り扱いはあるが(IFRSではこうした明文の規定はなく、個別に判断する)、一般の事業会社における連結の範囲の判定にGAAP差異はちょっと想像し難い。
具体的に、どの項目の考え方が変わるのだろうか?
日本基準だとプラス社は緊密者には該当しないが、より実質的な判定が必要なIFRSでは、実はヤフーの息がかかった緊密者に該当し、これと議決権を合わせると過半を押さえる、ということだろうか?
いずれにしても、ヤフーとアスクルの親子認識のズレは、両社の適用する会計基準の違いが絡むかなりレアなケースであることは間違いない。
前回の社外取締役と独立役員の違いと言い、なんと言うか、稀であること自体が問題であるとは言わないが、レアであることはやはり通常では都合の悪い事情があるということでもあり、そうした事情から派生的に通常ではありえないような状況に発展する可能性はあるだろう。
連結決算における親子会社の判定は会計の話ではあるが、こうした会計的な判定の食い違い1つをとっても、両社の関係のこじれの原因が透けて見える気がする・・・
岩田社長の再任の決議の行方は果たしていかに?