「ヤマトホールディングス(HD)は23日、2021年4月に純粋持ち株会社から事業会社に移行する構造改革プランを発表した。傘下の宅配便最大手、ヤマト運輸などを事業ごとに再編する。ヤマトは、宅配ドライバーの待遇改善を目的に17年に料金を値上げして取り扱い荷物を抑制する方針に転換した。だが、コストの増加で足元の業績は低迷しており、再編による意思決定の迅速化で立て直しを図る」
TwitterとFacebookでこのニュースにコメントしたところ、
どういうこと?説明して!
とリクエストをいくつかもらったので、少し解説してみる。
とはいえ、
あくまで私見、妄想であることを予め断っておく。
「組織再編は、ヤマト運輸など子会社8社をヤマトHDが吸収合併し、機能別に「リテール」など4事業本部と「輸送機能」など4機能本部に再編し経営のスピードを早める。IT化では、23年度までの4年間で1000億円を投資。人工知能(AI)を活用して業務量を予測し、人員配置や配車、配送ルートを効率化するほか、倉庫での荷物の仕分け作業の自動化も進める。また、今年4月から、荷物を受け取る時間や場所などをより柔軟に設定できる電子商取引(EC)向けの新たな配送サービスの導入も目指す。」
ヤマトHDは、今回の事業持株会社への移行の目的を経営のスピードを早める
ことと発表した。
なお、ヤマトHDによるニュースリリースはこちらを参照☟
事業規模の成長や事業の多角化などにより企業のグループ化が進む中で、元々の事業会社が親会社としての役割を同時に担う事業持株会社が純粋持株会社(HD化)へ移行するのが今もっての流れのように感じる。
ヤマトHDも同様で、2005年に事業持株会社から現在の純粋持株会社であるヤマトホールディングスへ移行した。
それを今回、逆行するように事業持株会社へ再移行するという。
一般的にHD化の目的は以下が挙げられる。
■グループ全体の経営戦略の促進
親会社である純粋持株会社が特定の事業に傾倒しないため、グループ全体の視点に立った経営戦略の策定が促進が期待
■経営意思決定のスピードアップ
純粋持株会社が特定の事業から切り離され、グループ全体の経営戦略の策定や事業会社の業績管理が主たる事業となるため、グループ全体の経営意思決定のスピード化が期待
■事業評価・再編の効率化
傘下の事業会社を別会社とすることで、会社ごとに財務や決算が独立するため、事業の業績評価がしやすくなります。同時に、M&Aへの対応がスムーズに
■事業に即した人事制度
傘下の子会社を事業ごとに別会社とすることで、事業に適した人事制度等を導入可能
詳細はこちらを参照☟
HD化の目的、メリットの2点目に経営意思決定のスピードアップを挙げている。
これはまさに、ヤマトHDが事業持株会社への移行の目的として掲げている点だ。
HD化のメリットの1つである経営意思決定のスピードアップを目的として
HD化を止めるという・・・
これは一体どういうことか?
HD化の留意点として以下が指摘される。
■グループ間のミスコミュニケーション
親会社、傘下の事業会社がそれぞれ別会社となるため、運用によっては親会社である純粋持株会社に対して事業会社の情報が適時適切に伝わらない恐れがある。また、事業会社間の意思疎通も困難となることが考えられる。その結果、グループ全体の経営意思決定に悪影響が出ることがある。
HD化それ自体の留意点というよりは、運用の問題だろう。
ロボットやAIであれば同様の問題は発生しないかもしれない・・・
例えば、事業ごとに会社を別にすると、求める人材も変わる、お互いのバックグラウンドが異なることで意思疎通がうまく行かなくなる、ということは少なくない。
僕の前職でも会計監査部門とコンサル部門では人員のバックグラウンドも違って、お互い人種が違う(から分かり合えない)とか言ってたような・・・
あるいは、同じフロア(近く)にいる相手であれば容易にコミュニケーションが取れる(取ろうとする)が、他のフロアまでわざわざコミュニケーションをとりに行くのは面倒、といったこともあるだろう。
これも、前職で経験済み(笑)
そして、HD化のメリットの経営意思決定のスピードアップ。
これは、純粋持株会社と事業会社の役割分担や事業会社への権限移譲が適切に行われることが前提となる。
HD化により自動的に経営意思決定のスピードアップが図られるわけではない。もしそうだとすれば、それは非常に安易な発想だろう。
蛇足だが、日本企業は権限委譲があまり得意でない印象がある。
多くを純粋持株会社に留めるか、あるいは事業会社に丸投げするか・・・
例えばの話だが、ヤマトHDが事業会社に事業の意思決定に関する権限を委譲せず、その多くを持株会社に留めているとすれば、事業に関する経営意思決定が遅くなる可能性はある。
ここで、ヤマトHDの役員構成を確認すると、
役員12名の内、
社内取締役4名
社外取締役4名
実際にヤマトグループの事業執行は4名の社内取締役が中心となる。
社外取締役の皆さんがどの程度ヤマトグループの事業に精通しているかは不明だが、客観的、一般常識的な見地からの経営に対する意見、助言といった、いわゆる社外取締役に対する期待役割が大きいほど、社内取締役の提案に対する批判的機能が高まる。
結果として意思決定のスピードが阻害される可能性はある。
とはいえ、それはそれで社内の常識は社会の非常識、社内取締役の暴走を防いだり、企業価値を高める投資の促進など意味のあることでデメリットとは言えない。
あくまで、運用上の問題だ。そして、その運用を司るのは人間だ。
人間だもの・・・
どんな制度、仕組みにもメリットもあればデメリット(注意点)はある。
メリットを最大限追求しつつデメリットをいかに抑制するか、
を検討する必要がある。
今回、ヤマトHDは事業持株会社という仕組みを選択するが、それもまた同様だ。
もともと事業持株会社だったヤマト運輸が純粋持株会社を選択した目的に、経営意思決定のスピードアップがあったとしたら要注意だ。