減損損失の戻入の可否【日本とIFRSの違い】
コロナショックやら3月決算やら株主総会やらで、
前回の投稿からはや1ヶ月が経とうとしている。
本当に時間が進むのが早い・・・
世間では、コロナウィルスによる自粛疲れとか、
暇つぶしの方法を見つけるのが大変といったニュースを見ても、
どこにそんな暇があるのか信じられないくらいだ。
そう言えば、コロナショックが会社の決算数値など会計に与える影響
なんてもの書いてみても面白いのかな、
と思ってみたりもしている。
さて、今回のテーマは、
減損損失の戻入の可否
日本基準とIFRSとの相違
について。
先日、こちらにザックリとした内容は書いているが、
事務所ブログではもう少し掘り下げてみたい。
☟
簡単にまとめると、
減損損失の戻入は、
日本基準:NG(不可)
IFRS :OK(可)
但、のれんはNG
ちなみに、
米国基準:減損の戻し入れ NG
で日本基準と同じだ。
(日本基準が米国基準を参考にした)
この相違は両者の減損に対する考え方の違い
によると言われる。
【減損の考え方の違い】
日本基準は、本当に固定資産の減損と言う事象が発生しているのかの検討に重きを置く。
まず、継続的な営業利益や営業キャッシュ・フローの赤字などの
減損の兆候が認識されなければ詳細な減損テストは不要だ。
また、減損の認識では
2ステップアプローチ
を採用している。
2ステップとは、減損の兆候が認識される場合、まずは割引前の将来キャッシュ・フロー(CF)の合計と対象となる固定資産簿価を比較して、
(ステップ1)
割引前将来CF<固定資産簿価
の場合に、次のステップ、
(ステップ2)
割引後将来CFと固定資産簿価を比較
して減損損失(額)を測定する。
ファイナンスに明るい方は、かなり緩いルールだということが分かるのではないか?
割引率の設定にもよるが、通常は割引前CF>割引後CFであるし、そもそも割引前CFと帳簿価額を比較する意味が乏しい。
減損の兆候の有無の把握然りで、検討プロセスの省力化が目的だろうか。
ともかく、これだけ下駄を履かせた状態でなお、減損が認識されるとういうことは、
その特徴はもう完全に減損やがな
すぐわかったやん、そんなんも〜
ということで、満を持しての減損となり、戻し入れるなんて考えられない、となる。
これに対して、IFRSでは決算時点における固定資産の価値の毀損に重きが置かれる。
価値があるかな~どうかな~微妙だな~
という時は、取り敢えずというと誤解を招くけもしれないが、まあ、積極的に資産価値を切り下げる、つまり減損と言うことになる。
減損テストも、減損の兆候についての具体的な数値基準等が無いため、日本基準と比べると減損テストの頻度は増すように思う(ぶっちゃけ、兆候があろうがなかろうが毎期必要)になる。
また、減損の認識も1ステップアプローチなので、
日本基準のような割引前将来CFと帳簿価額との比較は無い。
その結果、どちらかというとIFRS採用会社の方が日本基準採用会社よりも減損の認識が早い傾向があるように思う。
【減損損失の戻入の相違】
その裏返しが、減損損失も戻入の考え方に影響していると思われる。
IFRSでは、時点時点の判断で、固定資産の価値毀損が把握されば積極的に減損と言う価値修正を実施する。つまり、
あー、ほな減損と違うかぁ
価値の回復が認められれば積極的に(回復の)価値修正も実施することにもなる。
その分、毎期毎期の減損テストの検討という事務コストが発生するのだが・・・
日本基準が、減損の戻し入れを認めていないのは事務コストの問題もあるように思う。
【のれん減損の取扱い】
しかし、IFRSにおいても
のれんの減損損失の戻入はNGだ。
これはのれんの正体にも関連するのだが、買収差額を特定の有形・無形資産へ
個別に配分した結果、個別の資産として認識できなかった差分がのれんとなる。
のれんは超過収益力と表現されることが多いが、その超過収益力を個別に識別することは極めて困難だ。
つまり、積極的にのれんの存在を示すことは困難であり、
のれんは、それだけ実在性が危うい資産ということでもある。
IFRSのスタンスも、対象会社の収益性の低下などを原因とするのれんの減損以降、のれんの価値の回復を証明するのは実質的に不可能ということだ(戻入不可)。
M&Aは今後まずます増加すると思われる。ということは、のれんも益々積み上がる傾向は否めない。
こうした点からも、のれんという資産の企業経営における意味について再考が求められるのではないだろうか?