溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

PBR1倍割れ株は割安なのか?

www.nikkei.com

少し古い記事ではあるが・・・

『 東京株式相場は日経平均株価 が連日の高値更新となり、2000年4月12日に付けた情報技術(IT)バブル当時の高値2万0833円まで、あと400円ほどに迫った。原動力は足元の円安、それに企業の業績見通しが意外と明るいことだ。』

2015年5月27日の記事なのだが、大体の状況は今と同じと見て良いだろう。株価はITバブル当時の高値水準まで回復しつつある一方で、

『 日銀の黒田東彦総裁は22日の記者会見で「現時点で資産市場や金融機関行動において過度な期待の強気化を示す動きは観察されない」と述べ、バブル懸念を否定した。実際、東京証券取引所第1部の上場銘柄のうち株価純資産倍率 (PBR)が1倍に満たないのは44%、816銘柄もある。』

ということだ。

未だ半数近くの銘柄がPBRが1倍に満たないとのことだ。

 

PBRは、発行済株式の時価総額/純資産(*)

(*)厳密には、純資産から少数株主持分と新株予約権は除く

株価純資産比率(Prie Book Value Ratio)と言って、1株当たりに引き直すとわかりやすくなるが、

PBR=1株の株価/1株当たり純資産(*)

つまり、B/S(貸借対照表)の1株当たり純資産の金額に対して株価がどの程度か、を示す指標だ。

それで、何でPBRが1倍割れ(PBR<1)だと、割安と言われるのか?だが、それぞれの価格の決定要因の違いを見てみよう。

まず、B/Sの純資産の構成要素はざっくり言うと、株主からの拠出金(例:資本金)と会社が自分で儲けた利益の累積(の未処分部分)(例:利益剰余金)だ。つまり、手段はともかく過去に調達したおカネの累計になる。そして、そこには、ブランド、技術力、ノウハウ、人材、販路等々の自社で生み出した様々な無形の資産の価値は含まれない。何故かと言うと、現在の会計ルールでは、自社で生み出したこれらの無形の資産の価値の存在自体は認めるものの、その価値がどのくらい(測定)かという点において、言ってみれば、会社が自分で自分の値打を言い値で決めることになるので、『本当にそんな価値あるの?』と客観性が保てないためだ。

一方で、株価には、新技術の開発や社長交代が発表されると株価が変動することからもわかるとおり、これらの無形の資産の価値も株価の評価に含めれる。少し厳密に言うと、無形の資産の価値は、これら無形の資産が経営上フル活用された結果、将来の稼ぎ(キャッシュ・インフロー)が増えると期待される額(の現在価値)とも言える。

要は、1株当たりの株価と純資産額は、理論上、このような無形の資産の価値分だけ株価の方が大きくて当たり前、ということになる。

株価=1株あたり純資産+(1株当たり)無形の資産の価値

ということで、株価と純資産が逆転現象(株価<純資産⇒PBR<1)という状況は、このような無形の資産の価値が全く考慮されていないばかりか、既に獲得された実績金額(B/Sの純資産)までも(株価が)評価されていない状況を示すことから、『異常な状況』であり、早晩修正されるはず、と考えられることがある。これが、PBR1倍割れが割安と言われる理由である。

確かに、少し前の日本がそうであったように、個々の会社の実力ではなく株式市場全体が低迷しているような場合であれば、その時点の会社の株価はそもそも適正に評価されていないのであるから、いずれ近い将来に適正な価格に評価が是正されるという前提に立てば、PBR1倍割れ⇒割安論は成立し、今のうちに買っておけ!ということになろう。

 

割安のワナ』という言葉がある。PBR1倍割れ、これは割安と思って買った株がその後一向に株価が上昇しない。おかしいなと思っていると、実は訳あり株、つまり割安では無かったということだ。どういうことかというと、無形の資産の価値の値踏みを既に株式市場は適正に評価して『価値なし』として株価に織り込んでいた、という場合である。価値なしってどういうこと?と思うかもしれない。若干上でも記載したが、資産の値打の株価への反映は、その資産が将来いくらのキャッシュを会社にもたらすかによって決まる。つまり、潜在的には素晴らしい技術力、人材、ノウハウ等の無形の資産であっても、それが経営者によって活用され将来の売上、利益を通じてキャッシュに繋がらなければ、価値なし、と見なされるのである。要は、宝の持ち腐れ状態を見透かされているということだ。

ということで、PBR1倍割れであれば必ずしも割安と考えて良いか?というと必ずしもそうとも言えないので注意が必要だ

 

ところで、経営者としては、自社の株価が低迷(PBR1倍割れ)している場合、会社に存在する様々な無形の資産を経営に活かしきれていないのではないか?少なくとも株式市場からはそう見られているのではないか?という課題意識を持つ必要があるだろう。14年から既に始まったスチュワードシップコード、そして今年6月からスタートしたコーポレートガバナンスコード、中長期的な企業価値を高めるための双方向のコミュニケーションにおいて大いに議論して欲しいと思う。