http://www.nikkei.com/paper/article/?ng=DGKKZO04055330U6A620C1DTA000
『LIXILグループの2016年3月期末ののれん代と商標権が急増したことが有価証券報告書で明らかになった。自己資本(5248億円)の74%に相当する3861億円に達し、前の期末から5.4倍に膨らんだ。将来の成長性を高めるために積極的なM&A(合併・買収)を進めたが、異例の規模で、状況次第では財務を毀損するリスクも高まったといえる。』
なんとまあ、膨れ上がったものだ・・・
LIXILに限らず、投資家などからの成長期待に応えるエンジンとしてM&Aを駆使している会社も多いと思う。
LIXILの例は、ある意味、そのような会社が直面するだろう経営課題だと思う。
グローエの中国子会社不正会計問題(海外子会社に対するガバナンス)と言い、多くの日本企業が現在、近い将来に抱えるだろう課題をいつもLIXILは先行するというか・・・会社には悪いが、目が離せない。
(過去ブログ参照:問われる海外子会社ガバナンス 【LIXILの例】 - 溝口公認会計士事務所ブログ)
ところで、LIXILの採用する会計基準は、IFRS(国際財務報告基準)だ。日本基準に比べて財務諸表に附属する注記情報が多い。当期のLIXILの有価証券報告書(172p)のうち財務パートが87p、このうち注記情報が72p(全体の42%)
を占める。財務諸表本編よりも圧倒的なボリュームだ。内容も、会計方針やB/S,P/Lなどの内訳項目の詳細説明、オフバランス項目の詳細説明、セグメント情報など多岐にわたる。IFRSでは日本基準よりも注記情報の分量が概して多くなるため、作成する方ももちろんだが、読む方もそれなりの知識が必要とされる。
「のれんと商標権」についての情報も注記情報の各所の散らばっているため、しっかり情報を拾い上げて書かれた記事だと思う。
さて、記事で言うところの、
『(のれんと商標権 3,861億円が)自己資本(5248億円)の74%に相当する3861億円に達し・・・』
だが、読者はどう感じるだろうか?
要するに、仮になんらかの要因でのれんや商標権が無価値となった場合に
約4,000億円、約74%の自己資本が吹っ飛ぶ
ということを記事は言っている。
ちなみに、LIXILの場合、
当期末のLIXILの純資産比率25.2%が8.7%まで悪化
する。
純資産比率が10%を切るとなると財務安全性はかなり危険な水準だ。
では、そんなに簡単にのれんや商標権が無価値になるのか?と言いうことだが、
そもそも、LIXILののれんや商標権はどのようにして取得されたのかと言うと・・・
『急増の主な要因は15年4月に独水栓金具メーカーのグローエの出資比率を引き上げ子会社化したため。3861億円のうち、グローエ分が3293億円で、全体の85%を占める。残りの大半はイタリアの建材子会社ペルマスティリーザ(201億円)、米衛生陶器子会社のアメリカンスタンダード(311億円)でいずれも藤森義明前社長の時に買収した。』
子会社を買収した際に発生したものだ。簡単に言うと、
定価(簿価純資産)より高く買った「上積み分」
だ。
一般に、上積み分=のれんと理解されているかもしれないが、会計ルールでは、このうち、商標権、ブランド、ノウハウなど個別の無形資産に区分できる資産は区分把握してそれぞれを連結B/Sに記載することを要求している。
そして、個別の無形資産に区分できなかった残り、言ってみれば
出がらし、がのれん、だ。
要するに、
のれんも商標権も発生原因は同じ(M&A)
ということだ。
『LIXILグは国際会計基準に基づき、のれん代などの減損損失を計上する可能性も検証した。グローエの場合は5カ年分の事業計画の将来キャッシュフローの見積額を現在価値に割り引いて回収可能額を計算した。水回り設備市場の期待成長率は16年3月期末で2.8%だったが4ポイント低下するなどの状況変化で減損損失が発生するという。』
定価(簿価純資産)よりも高く買うからには、その会社を使ってより一層の設けを期待したということだ。では、実際の儲けがその期待を下回ったらどうだろう?
のれんにせよ、商標権にせよ、期待する儲けが上がってこその価値だ。
期待倒れになれば、無価値となるのはある意味、解りやすい。
グローエの売上、利益が事業計画を下回ったり、ましてや赤字なんてことになれば、
のれん、商標権の減損ということになる。
ちなみに、
LIXILは当期に約134億円ののれん減損
を計上している。
期首(2015年4月)ののれん残高は560億円だから、23.9%ののれんが失われた(無価値となった)。
のれんの減損はさほど珍しいことではないのである。
繰延税金資産も同様だ。
そういえば、以前は純資産の3割(以上)を繰延税金資産が占める会社を会計監査では要チェック会社としていたな。今はどうしているか定かでないけど・・・
のれんや商標権は、土地や建物のような不動産と違って形があるものではない。不動産であれば、仮に事業が難航したとしてもそれ自体の価値からのキャッシュフローが期待できる。のれんや商標権はそうはいかない。事業と一蓮托生だ。
まして、IFRSではのれんは日本基準と違って非償却だ。それだけに、減損となった場合の損益や純資産に与えるインパクトは相当だ。
IFRSでも、のれんと違って商標権などの
無形資産はIFRSでも一定期間で償却
される。この点は日本基準と同じだ。前もって償却されるため、減損となっても既に償却された分はインパクトが薄まる。
『耐用年数を確定できる無形資産は、それぞれの見積耐用年数にわたって定額法で償却しております。耐用年 数を確定できる無形資産の主な見積耐用年数は、次のとおりであります。 ・ソフトウェア :5年 ・顧客関連資産 :13~30年 ・商標権 :5~20年 ・技術資産 :6~10年
商標権のうち事業期間が確定していないものは、事業が継続する限り基本的に存続するため、将来の経済的 便益が期待される期間について予見可能な限度がないと判断し、耐用年数を確定できない無形資産に分類して おります。 耐用年数を確定できない無形資産又は未だ使用可能でない無形資産は償却を行わず、少なくとも年に1回及 び減損の兆候がある場合には都度、減損テストを実施しております。』
行きはよいよい帰りは・・・LIKILはいばらの道を選んだようだ・・・