溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

経営トップ選任プロセスの合理化こそコーポレートガバナンス強化の本丸!?

 

 最近の日経、コーポレートガバナンス・コード(CGコード)関連の記事(特集)が取り上げられている。

 

2016年12月の関連記事一例

統治指針「全て順守」58% 取締役会充実に重点 企業法務・弁護士調査 2016年 :日本経済新聞

 

悩める会社 取締役はいま(上) 生かせぬ「社外の目」 企業統治役割どこまで 現場と投資家に板挟み :日本経済新聞

 

自身が上場会社の社外役員であることもあり、スルーはできない内容。

過去にも、CGコード関連ではこんな☟記事を書いた。

東証新ルール 社外取締役複数化へ 【ボヤキ系記事】 - 溝口公認会計士事務所ブログ

 

コーポレートガバナンスコードの本当の意味とは? - 溝口公認会計士事務所ブログ

 

最近流行りの『監査等委員会設置会社』って何? - 溝口公認会計士事務所ブログ

 

 

『攻めのガバナンス』、現政権の肝いりで指導したCGコードだが、記事内容は、守りのガバナンスに寄った内容。もっとも、本来と言うか、ガバナンスと言えばまずはこっちになるだろう。

 

日経記事で紹介されている、「トップ人事にかかわる改革の遅れを指摘する弁護士が多い」に挙げられている項目を列挙すると、

 

・経営トップの選任プロセスの透明化

・相談役・顧問制度の見直しや廃止

・独立社外役員の選任

・取締役会の充実、取締役会評価の実施

 

CGコードに盛り込まれ、その導入状況や実質的な機能が注目されている事項だ。

 

これらは要は、

 

経営トップの暴走を防ぐ

 

ことを目的としていると言って良いだろう。

 

今更ながらだが、それだけ

営トップは会社の経営判断を左右する重要な存在

だということだ。

 

経営トップの代表格は、代表取締役だが、名目上は代表取締役を辞任しても相談役や顧問と言う立場で実権を振るう院政を含む。不透明な意思決定プロセスと言う点ではむしろこっちが問題かも。

外部から見れば、中興の祖であったとしても、現在は代表権など法的な立場の無い人が会社の実質的な意思決定権者って、考えたら空恐ろしいことだ。

 

暴走と言うのは、経営の失敗を招いた意思決定はモチロン、そこに至らずとも、重要な経営意思決定が、経営トップの勘と経験や思いつきで決められる状況も含まれるだろう。

また、取締役会といった会社の機関は形式だけで、実質的な意思決定はそれ以前の上皇を中心とする御前会議で決まるという意思決定プロセスの不透明さも問題視される。

 

CGコードの取締役会評価も要するに、

取締役会が本来あるべき形で運営されているかどうかを社外取締役を中心に社内(あるいは社外のサポートを受けて)で評価するプロセスだ。取締役会の構成人員、意思決定プロセスについてあるべき運営がなされているかを問うているに過ぎない。多くの会社がこういった評価に慣れておらず、どう評価したらよいかと戸惑ったということはあろうが、CGコードにおける取締役会評価 の導入が遅れている事実は、ある意味、あるべき形で運用されていないと言うことの裏返しかも知れない。

 

さて、

他の株主(オーナー系企業は経営トップ自身が大株主なので)から見て、

その経営判断は合理的なのか?

株主の利益に報いるものなのか?

また、

経営意思決定のプロセスはどうなのか?

 

単なる思いつきで意思決定するのももちろんダメだが、

過去の意思決定の失敗を認めたくない、露呈したくないために、

隠ぺい工作なんてこともあり得る。

 

株主、投資家にとって、自分が投じたおカネが不透明な不合理な経営判断によって使われるかもしれない、となれば

そんな会社におカネを預けることに躊躇するのも当然だろう。

 

となれば、会社の経営判断を大いに左右する存在である

経営トップをどう選任しているか?

が気になるのは当然だろう。

指名委員会等設置会社でなくても、任意で『指名委員会』、『報酬委員会』を設置することをCGコードが求めていることからも経営トップ指名プロセスの透明性や合理性が期待されている表れだろう。

 

ところで、取締役は本来、取締役相互の監視・監督責任がある。つまり、取締役は代表取締役を含む他の取締役を監視・監督する義務がある。

しかしながら、

絶対的権力を持つ経営トップに対する牽制だが、現実問題として社内取締役には期待できない…

 

 そこで、白羽の矢が立ったのが独立社外役員だ。

 

社内の取締役であれば言いにくいことでも、

しがらみのない独立社外役員であれば指摘してくれるだろう、あるいは、経営トップとして相応しい人物を選任してくれるだろう、

と言うことなのだが・・・

 

昭和ホールディングスの事例は、頼みの綱の独立社外役員が期待通りの役割を果たせなかった事実を紹介している。

 

昭和ホールディングスは、従来『指名委員会等設置会社』型の統治形態を採用していた。いわゆる欧米型で、形態としては花丸、二重丸、だ。

果たしてその実態は・・・

記事にもあるが、実質的な意思決定は独立社外役員を抜きで実施とか・・・

生かせぬ(活かせぬ?)『社外の目』

外部の株主、投資家の視点からはまさにそういうことなのだろうが、制度の運用を担う当の会社がこういう意識ではどんな素晴らしい制度も画餅に終わることになる。

意図的に情報を隠されたり、間違った情報を与えられると、ただでさえ社内事情や事業に精通していない社外取締役は機能しない。


昭和ホールディングスは、形式的には社外の目を多用するフリをして、その実、社外の目を活用させないように工作していた訳だ。


また、昭文社の例では、5%超を保有する株主から、任意で社外役員が主導する役員人事と報酬の委員会を立ち上げる、と言う助言に対して、

 

「(社外取締役が人事に大きな影響力を持った)セブン&アイ・ホールディングスのような騒動になるのは困る」

 

社外取締役が主導する役員人事と報酬の委員会を任意で立ち上げる助言に対する昭和HDのホンネが透けて見える

 

裏返せば、

まともなプロセスでは選任されないような人が社内事情により経営トップとなる可能性もあるが、そっとしておいて欲しい

 

外部からすれば、そっとしておけないのだが(笑)

 

CGコードが導入されてまだ2年目、独立社外役員の複数化などCGコードの適用の進行など外堀は徐々に埋まっているが、本丸は未だ遠い・・・