溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

企業が開示する『2つの利益』って何だ!? 【少しボヤキ系記事】

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180515&ng=DGKKZO30459070U8A510C1EN1000

 

『決算発表で企業が「2つの利益」を開示する例が増えてきた。会計基準に基づく利益に加えて、同基準に基づかない独自の社内利益指標を開示し、利益の傾向をわかりやすくする狙いがある。一方、米国では経営者が都合の良い数字を選ぶことに批判が根強い。どちらの利益を重視すべきなのか、開示情報から企業価値を探る投資家を悩ませている。』

2つの利益を開示する企業が増えつつあるとのこと。

といっても、2つの利益って何のこと?

という疑問もあろう。

 

記事にもあるように、2つの利益とは、

 

会計基準に基づく利益

・会社独自の管理指標としての利益

 

のことだ。

 

例えば、ルネサスエレクトロニクスであれば、日本の会計基準に基づく営業利益と買収で発生したのれんの償却をしない場合の営業利益の2つを開示しているということだ。

 

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営業利益を2つも開示してよいのか?という疑問もあるかもしれないが、会社の業績を説明する上で、会社が業績を含めた会社の実態を説明する上でより有用だと判断するのであれば一向に構わない。

誤解してほしくないのだが、会社法決算や金商法に従った決算といった法定の決算上の利益はあくまでもルールに従う必要がある。あくまでも、その上で会社の業績等の説明上に2つめの利益を開示する、ということだ。

 

記事には、昨年からの決算短信の様式の自由化が2つの利益開示を後押しとあるが、それもなくはないだろうが、それよりも会社として

業績をより良く見せた

という意向の表れだと思う。

 

ルネサスGCAもそうだが、のれんは日本の会計基準では20年以内の一定期間で償却する。例えば、企業買収によってのれんが100億発生したとして、これを20年で償却すると5億/年の償却費(営業費用)が発生することになる。ということは、買収によって少なくとも5億超の追加利益が見込めないと、差し引きで営業利益は買収前より悪化することになる。そもそもそんな買収すること自体を問題視すべきであるが、そこで、仮にIFRSのようにのれんを償却しないとすれば営業利益はこれだけ大きくなりますよ(例だと5億/年)というアピールだ。

 

 これに対して市場はどう受け止めているかというと、

14日の東京株式市場ではルネサスエレクトロニクスと、M&A(合併・買収)助言のGCAの株価がともに一時、前週末比7%の大幅安となった。』

 

会社のアピール空しく、

会計ルールに基づく利益に軍配

が上がったようだ。

 

記事にも、GCAを例にとって

『純利益は前年同期と比べ2.7倍と開示。ただこれものれんの償却などを除く社内指標で、会計上の最終損益は赤字だった。両社とも株価は下落し、資家は今のところ会計上の損益を重視しているようだ。』

 

とあるが、果たして会計上の利益を重視しているのかどうかというと少し怪しい気もする。

例えば、のれんも償却も日本基準では償却ありだが、米国やIFRSでは償却はしない。つまり、計上の損益といってもどの国の会計基準によるかで利益は変化する。

 

果たしてどこまで分析して「本業の利益」と評価しているのだろうか?

 

案外、2つの利益の内、いずれか小さいほうを保守的な観点から重視するとしているのではないだろうか・・・

 

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私見であるが、例えば、

のれんの償却にしても、投資行為として行ったM&Aによるのれんは非償却、事業シナジーを期待するM&Aによるのれんは償却といったように、のれんを発生要因別に区分するとか、固定資産の減損損失も多店舗事業における事業の一環として発生する減損損失は営業費用に含めるといった、実態の応じた分析、評価を期待したい。

 

とはいえ、個人的には、会社にとっても投資家にとっても、会社が会計ルールにとらわれない独自の業績指標を開示すること自体には賛成だ。

 

過去ブログは☟

 

tesmmi.hatenablog.com

 

 

tesmmi.hatenablog.com

 

企業間の比較可能性を担保するためにも、やはり一定のルール設定は必要だ。とはいえ、ルールである以上、どこかで線引きをせざるを得ず、百社百様に当てはまるかというとそうとも言えない。場合によっては、会計ルールよりも会社独自の業績指標の方が会社の実態をより的確に表す場合があるかもしれない。

 

投資家にとっても、会計ルールに従って計算された利益を鵜呑みにするのではなく、会社の本来の実力値を主体的に検討評価するという意識を持つためにも効果的のように思う。

 

いずれにしても、今後益々、会社の開示する数値を見抜く眼力が求めれることは間違いなさそうだ。