在庫評価益って何だ?(再び) 【昭和シェル石油の例】
先日、別件でこちらのコラムを書いた☟
在庫評価益の概要についてだが、こちらではもう少し突っ込んでみたいと思う。
このテーマについては過去数度書いているので既読の方もいると思うが、
まとめということで理解いただきたい。
何に突っ込むかと言うと、
在庫の仕入価格変動と
す在庫評価方法の関係
だ。
知見録コラムにも書いたが、昭和シェルのような相場モノを扱う会社では
在庫の価格変動が業績へ与えるインパクトが大きくなる可能性が高い。
そのため、仕入れ価格の変動を業績説明でも大きく取り上げる。
では、そのような会社はどんな在庫評価方法をとっているのだろうか。
会計方針に記載される在庫(棚卸資産)の評価方法には、大きく
先入先出法
平均法
がある(他に、個別法、売価還元平均法、最終仕入原価法もあるがここでは省略)
コラムで使った設例を使って説明する。
設例
期首に@100円の商品が100個 あり、当期中に@150円で900個仕入れ、800個販売し、期末に200個残ったとする。
期首 100個 @100円
仕入 900個 @150円
販売 800個 @ ?円
期末 200個 @ ?円
在庫評価方法によって、?部分、つまり
期末在庫単価、そして差し引きで販売された在庫単価が変わる。
平均法の場合、
期末在庫の単価=(@100円*100個+@150円*900個)/1,000個=145円
また、総平均法の場合は販売された在庫の単価(売上原価)も@145円となる。
売上高は@200円とすると、
売上高=@200円*800個=160,000円
利益=売上高―売上原価=160,000-116,000(@145*800)=44,000円
先入先出法だと、以下。
先入先出法:
期末在庫単価:@100円(期末残200個は当期中仕入の900の内200個が残ると考える)
なので、期末在庫金額は@150円*200個=30,000円となり、
売上原価=(@100円*100個+@150円*900個)-30,000円=115,000円
売上高=@200円*800円=160,000円
利益=売上高―売上原価=160,000-115,000=45,000円(>平均法:44,000円)
先入先出法では、仕入れ値が低い(値上がっていない)在庫から先に払い出す(売上原価)ため、仕入れ値の値上がり局面では、平均法に比べて利益は高く、期末在庫金額も高くなる。
ちなみに、現在は使用不可であるが、後入先出だと以下。
後入先出法:
期末在庫単価:@100円(期末残200個は当期中仕入の900の内100と期首100個が残ると考える)
なので、期末在庫金額は@100円*100個+@150円*100個=25,000円となり、
売上原価=(@100円*100個+@150円*900個)-25,000円=120,000円
売上高=@200円*800円=160,000円
利益=売上高―売上原価=160,000-120,000=40,000円(<平均法:44,000円)
後入先出法では、値上がり後の高い在庫を優先して払い出すだめ、売上原価が最も高くなり、利益は最も低くなる。
先入先出法:利益 45,000円 大
総平均法法:利益 44,000円 中
後入先出法:利益 40,000円 小
では、先入先出法が会社に最も好ましいのかというとそうではない。以上は、在庫の値上がり局面での話であるので、逆に値下がり局面では後入先出法が最も有利になる。
つまり、先入先出法、先入先出法は在庫の仕入価格の変動の影響が大きく出やすい(有利か不利かは相場による)ということだ。
昭和シェルなどが、平均法を選択しているのは仕入価格の変動が利益に与える影響を中和するためとも言えるだろう。
なお、後入先出はIFRS(B/S重視)の影響もあって2010年4月1日開始事業年度以降(3月決算会社だと2011年3月期)廃止となったので現在は使用不可。
後入先出法は、売上原価を通じて現在の仕入単価を『利益』に反映する、つまりフレッシュな利益を計上することに意義があると言える。計算上、利益の大小で有利/不利と言うことだけでなく、経営管理上は実勢価格と計算される利益の一致が経営課題の把握や対策の検討に有用だ。現実に起こっていることと数字とに乖離があると経営判断が間違う可能性が高まるということだ。
ラグによって数字が良く見えるのは、
アパレルショップのやせて見える鏡のようなものだ。