再春館製薬所のドモホルンリンクルのCMが物議を醸しているようだ(強引)。
問題となっているのは現在放送されている
「お試しセットで試されるもの」篇だ
(再春館製薬所のウエブサイトでは既にオンエアCMから除外されているよう・・・)。
CMでは多数のお試し用の製品が並べられ、
ナレーションで「これは検品ではねられたドモホルンリンクルのお試しセットです」と説明。
さらに、「理由はこのキズ」としてパッケージに付いたかすかなキズを紹介し、「無料でお届けするお試しセット、1本1本すべて検品しています」と高品質であることをアピールしている。
これに対してインターネット上では、
『もったいない』、『時代錯誤』、
『その分安くして販売すれば良いのに』
などといった批判が寄せられているようだ。
こうした批判は、自分たちは関係ないけど会社がもったいないことをしている、といったニュアンスで聞こえるが果たしてそうなのだろうか?
職業柄かもしれないが、このCMのおびただしい量の不良品を目の当たりにして最初に思ったのは、
不良品分の製造コストが売価に転嫁されるんだろうな
だ。
不良品とは言え、材料費、加工費がかかっている。
加工費は不良と判断される工程までの分だが、例えば、最終工程終了後の品質検査で不良と判断されるとすると、ざっと良品の製品と同じだけの製造コストが消費されていることになる。
不良品の製造コストはどう処理されるのだろうか?
簡単に言うと、不良品の製造コストは
良品の製造コストへ加算
されることになる。
例えば、ある月に材料費1,000千円、加工費2,000千円で製品を100個製造したが、品質検査でその内10個が不良と判定されたとする。
100個すべてが良品であれば、1個当たりの製造コストは30,000円(3,000千円÷100個)となる。しかし、10個は不良であり外販できず廃棄されるとすると、極端な例ではあるが1個当たり30,000円で販売すると不良品部分が常に赤字となってしまう。また、生産管理や品質管理を徹底等により不良率を改善することも考えられるが、かえって製造コストが膨らむ場合がある。であれば、ある程度の不良率を許容することによって製造コストをコントロールしているという見方もできる。
上の例では、10個の不良を許容することによって90個の良品を製造することができる。つまり、10個の不良品の製造コストは90個の良品の製造コストの一部であるという考え方だ。
したがって、1個当たりの製造コストは33,333円(3,000千円÷90個)となり、この製造コストをベースに販売価格を設定すると、90個の製品で不良を含む100個の製造コストを回収できることになる。
会計では、このような何らかの理由による製造工程での失敗を
『仕損じる』、『仕損』
と呼び、仕損によって生じた失敗作を『仕損品』という。
ちなみに、これは製造工程上ある意味不可避的に発生する仕損の会計処理であり、例えば、災害等の突発的な原因で発生した通常の不良を大幅に上回る仕損は異常仕損として製造コストではなく非原価処理(特別損失など)する。
何が言いたいかもうお分かりだろう。
ドモホルンリンクルのCMでのおびただしい数の不良品が多ければ多いほど良品の製造コストが高まる。
そして、会社がそれで利益を出そうとすれば、その分販売価格が高くなる、ということだ。
なお、これは試供品(の不良)なので、会計上は試供品の製造コストは他勘定振替で販売費及び一般管理費の見本費、あるいは販売促進費などで処理されていると思われる。
厳密にいえば良品の製造コストへの影響はないが、その場合であっても営業利益レベルの採算管理では不良発生による見本費等の上昇分を販売単価の上昇により補う必要があるので結局は同じことだ。
経済原理を考えれば当たり前のことなのだが、一見、会社が顧客や消費者へのサービスとしてやっている行為であっても
そのコストは誰かが負担することになる。
高品質をアピールするのであれば、できるだけ不良を出さないような生産管理、品質管理を徹底して欲しいものだ。とはいえ、その結果、製造コストがかえって上がりましたというのは避けて欲しいけど・・・