1/23/2019の日経朝刊にこんな記事が記載された。
収益性、効率性(資本の効率性)、事業構造、無形資産と論点が飛び散りまくりで散漫な様相・・・
もう少し論点絞った方が良いのになあ、と思いつつ、要するにあれこれ引き合いに出して、
欧米に比べて
日本の経営は
遅れている、劣っている
ということを言いたいのだろうか。
このような主張は今に始まったことではないし、実際、改善すべき点は多々あるとは思うので、そういう意味では欧米の優良な会社を参考にするという点については賛成だ。
しかし、だからといって、不適切な情報を引き合いに出してこの点も劣っている、というのはいただけない。もう少し丁寧にやって欲しいな、と。
この記事では、知識産業への転換度合いを示す指標として総資産に占める無形固定資産の割合を比較している。
『米国の成長を支えるのは製造業や小売りなど現実のモノを扱う産業から知識集約型産業への転換だ。米国企業の持つ資産を調べると技術力を示す特許やブランド力を示す商標権といった無形資産が4.4兆ドルと10年前の2倍以上に増えた。工場や店舗など有形固定資産を17年に上回っている。』
(記事より)
『日本企業の無形資産は約50兆円。総資産の6.4%で米国の26%に遠く及ばないが、10年間で2.2倍に増えた。』
(記事より)
一般に知的産業や知的財産と言うと、どんな資産をイメージするだろうか?
記事にもあるように、特許、ブランド、商標権のような資産をイメージするのではないだろうか?
だとすれば、必ずしも総資産に占める無形資産の金額の割合が知識産業への転換度合いを示しているとは言えないのではないか。
会社が発明、構築、創出した特許、ブランド、ノウハウはその価値がバランスシート(B/S)に表現されるわけではない。
この点は、以前も当ブログに書いたが、例えば、自社で発明した特許権や商標権等の権利であれば、B/Sに計上される金額のほとんどは特許等の権利取得にかかった事務手数料だ。特許や商標などの市場価値ではない。
ましてや、ブランド、ノウハウ、あるいは人材についてはB/Sへは一切表れない。
詳細はこちらを参照☟
これは欧米の会社も同様だ。
但し、例外がある。
他社から特許、ブランド、ノウハウなどを他社から取得する場合、あるいはこのような無形資産を有する会社をM&Aする場合だ。
自社で創出した特許等がB/Sに計上されない理由は、その価値を客観的に測定が難しい点にある。しかし、他社から取得する際には、相対取引とは言え、実際に金銭の収受が伴うため、客観的な価値測定がなされたとみなすわけだ。
つまり、同じ特許等であっても、自社で創出した場合はB/S上の金額は小さい、他社から取得した場合は大きい、となるので、金額や総資産に占める割合だけを見ると、無形資産の多寡だけではなく取得手段の影響が混入することになる。
また、ノウハウの中には研究開発による技術ノウハウなどが含まれる。
日本や米国では、研究開発費用(R&D)は発生時に全額費用として会計処理される。つまり、いくらR&Dに時間もお金を費やしても、その結果なんらかのノウハウを得たとしても、その事実がB/Sに反映されることはない。
一方、IFRS(国際財務報告基準)では、R&Dの内、開発ステージ(*)で発生した費用は即時償却せずに一旦資産計上して将来の収益に応じて償却する。
(*)R&Dの内、具体的にどのプロセスに係る費用が資産計上の対象となるかは会計基準にしたがって個別に判断される。
仮に同様のR&Dから同様のノウハウが得られたとしても、適用する会計基準の違いによって結果としてB/Sに計上される金額は異なる。つまり、無形資産の金額や総資産に占める割合に入って、実際のノウハウの蓄積状況だけでなく会計基準の影響が混入することになる。
そんな訳で、単に無形資産の金額や総資産に占める割合だけで知的産業への転換云々を論じるのは荒っぽいなあと思うのだ。
新聞記事なので、ある程度のバイアスというか主張を導くための材料としてデータを活用することは理解できるが、もう少し丁寧に扱ってもらいたいな、と。でないと、データに潜む示唆を見逃すことにもなる。
読者にとっては、必ずしも目にする情報が額面通りではないという理解すると同時に、その真贋を見分けるスキルを身に着ける必要があるな、とこの記事を読んで益々思うのだった。