溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

武田薬品工業の上方修正の要因は!? 【PPAの功罪】

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO55239360U0A200C2DTB000/

 

武田薬品工業4日、2020年3月期の連結最終損益(国際会計基準)が1620億円の赤字(前期は1091億円の黒字)になる見通しだと発表した。従来予想より赤字幅が1110億円縮小する。今期の上方修正は3度目だ。アイルランド製薬大手シャイアーの買収完了から1年たち、在庫や特許など無形資産の金額が確定した。暫定値より小さくなり償却費などの負担が減った

(2/4/2020 日経朝刊より抜粋)

 

3月決算会社の第3四半期決算発表という時期的なものもあり、本決算の数値を見据えた発表が多くなる時期だ。

事務所ブログのネタも増える(爆)

このニュースもその一例だ。

 

記事が悪いということではないが、紙面の関係なのか、少し省略したというか、前提をおいて書いているように思える。

あまり会計知識に明るくない人にとっては、

何で利益が増えるのか?

上方修正の理由がいまいち分かりにくいのではないだろうか?

 

武田の上方修正のカギをに握るのが

パーチェスプライスアロケーション(PPA

だ。

いきなり何のことかと思われるかもしれないが、PPAは2010年度から日本の会計ルールにも導入されているのでそれほど新しい話ではない。とはいえ、無形資産の評価が絡む少々ヤヤコシイ話なので、一般的にはあまり理解が浸透していないと思う。

 

PPAについてコチラ(https://maonline.jp/articles/ppa0372)に説明しているが、

ざっくりいうと、

買収差額の細分化

だ。

買収差額が生じる、つまり定価(純資産)よりも高く買うということは、買収先企業に何らかの追加的価値を認識したからに違いない。であれば、何に対して追加でおカネを払ったかを明確にするべき、ということだ。

補足だが、のれんは極論すれば、具体的に何に対しておカネを払ったかが判然としないということの現れでもある。

例えばビットの競り合いによって勢いで払ってしまったかもしれない(笑)

ということもあって、僕は

のれんは出がらし

のような存在と考えている。

 

コチラを参照☟

 

tesmmi.hatenablog.com

 

さて、武田の話に戻る。

武田の上方修正とPPAの関係については、こちらにザックリとまとめているので参考にしてほしい。

 https://globis.jp/article/7488 

 

ポイントは2点

・PPAにより当初見積よりものれんが大きくなった

IFRSではのれんは償却しない

 

 PPAは買収完了から1年以内に完了させる手続きなので、当初の見積もりよりも

のれんの金額が多かった(無形資産等の配分が減った)ということだ。

なお、PPAの完了が買収完了の翌事業年度以降となった場合は、過去の決算を遡って修正して、買収が完了した事業年度にPPAが完了(無形資産等の配分が確定)したとして会計処理することになる。

 

詳細は、「企業会計基準適用指針第 10 号 企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」を参照のこと

https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/ketsugou_10.pdf

 

知見録コラムにも書いたが、武田がIFRSを採用していることが1つのポイントだ。

日本基準ではのれんも償却するため、今回の武田のように会計数値に対するインパクトは大きくない。

のれんの償却期間と個別に認識される無形資産の償却期間の違いに伴う毎期の償却費差額分だけの損益影響があるのみだ。

 

武田にとっては利益の押上要因にもなったので、PPAに武田の意図が働いたと勘繰る向きもあるかもしれない。可能性は否定しないが、PPAは通常、会社とは別の財務コンサルティング会社等の外部の専門家が担う。また、その結果に対する公認会計士の監査も必要だ。したがって、会社の意向は介入しにくいと考えて良いように思う。

 

では、武田にとってラッキーだったかと言えば、それは何とも言えないのではないだろうか?

確かに目先の増益にはなるが、同時に減損リスクを将来に繰り越したとも言える。

無形資産は、買収先企業、この場合はシャイアーの将来の業績に関わらず当面は耐用年数によって粛々と償却される。もっとも、それ以上に無形資産の価値が棄損すれば減損もあるが、それでも償却が進行する分減損損失は縮小される。一方、のれんは非償却な分、シャイアーの業績悪化により減損となる場合の損益インパクトが大きくなる

 

 

ちなみに、IFRSがのれんを非償却としていないのは、出来るだけ個別に識別可能な資産を認識してのれんを最小化することを前提としていることもある。のれんは非償却だが減損テストは必要だ。買収した会社がその後、期待に見合った業績を上げなければのれんの減損リスクは高まる。つまり、買収差額をできるだけ無形資産等へ配分してのれんを大きくしないようにするということだ。