新型コロナウイルスで減損が見送られる!?
日経朝刊4/3’20より
『金融庁や日本公認会計士協会などは新型コロナウイルスの感染拡大に伴う需要の急減を受け、企業がただちに工場や店舗の資産価値の切り下げを迫られないようにする方針だ。日本の会計基準では資産価値が取得時より大きく下がれば減損処理しなければならないが、企業や監査法人が柔軟に判断できるようにする。会計ルールの適用を弾力化することでコロナに伴う業績悪化を和らげる。』
とのことだ。
新型コロナウイルスの感染拡大による影響が計り知れない・・・
健康面、医療面への影響はもちろんのこと、
経済面でもリーマンショックを上回る影響が見込まれると言われる。
未だピークを超えず、終わりが見えないことも更に不安を煽る。
このような状況で決算期末を迎える3月決算会社。
会計上もいろんな影響が予想される。
関与する会社でも実際のビジネスへの影響は2月まではほとんどなく、3月以降で出してきているので、本業、P/Lで言えば営業利益段階では新型コロナウイルスによる影響はさほどないだろうと思う。
ビジネス上の影響はむしろ来期、2021年3月度の影響の方が圧倒的に大きいと予想される。
しかし、来期(2021年3月度)以降の業績が当期、つまり2020年3月期に影響を及ぼす項目もある。
いわゆる見積り項目だ。
見積り項目の中でも具体的には、
固定資産の減損
有価証券の減損
繰延税金資産の取崩し
といった項目だ。
これらは、決算期末時点における会社の資産の評価において、これまでの業績(実績)だけでなく今後の業績見通しを判断材料とする。つまり、足元の業績が悪化したとしても、来期以降の業績の回復可能性も考慮して評価しろ、と言うことだ。
そのため、来期以降の業績見通しが悪化すると、当期末における資産評価へマイナスの影響が出ることになる。
過去記事にも書いたが、現在の会計ルールでは目下のビジネスが悪化すると、それに影響を受け、固定資産の減損損失、さらには繰延税金資産の取り崩しによる税金費用の増加と連鎖反応を起こし、実態以上に見た目の業績が悪化する傾向がある。
記事は、コロナショックによる影響は一時的なはずだから、会計士の皆さん、そこは割り引いて監査してくださいよ、
忖度しろよ
という趣旨だろうか。
『金融庁は3日にも公認会計士協会や東京証券取引所、経団連、全国銀行協会などと会計実務に関する対策協議会を立ち上げる。会計基準そのものは見直さないが、現行のルールを弾力的に適用できるように関係者で認識を擦り合わせる。』
これに対して例えば日本公認会計士協会は、以下の反応だ。
『昨晩および今朝の会計ルールの弾力化に関する報道の内容については、当協会から発したものではありません。また、このような報道がなされることについて、当協会が事前に承知していたものでもありません。』
ということで、未だ本決まりではないようだ。
とはいえ、メディアで報じられたということは大筋は合意され、
具体的な施策について今後明らかになるということだろう。
監督官庁しては、固定資産等の減損等によってパッと見の業績が著しく悪化したような印象を抑制したいという考えなのだろうか。
確かに、現在のような未曽有の経済状況においては、マスクやトイレットペーパーの買い占めのようにパニック的な行動を起こす人もいるので、不安を煽りたくないというのは理解できる。
しかし、気になる点もある。
まず、
新型コロナウイルスの影響は一時的なものと言えるのか?
現時点は、専門家の間でも見通しは立っていないだろう。
経済への悪影響を避けるために減損を先送りしたいというのは分からないではないが、新型コロナウイルスの影響が今後数年継続するということであれば、やはり会計的な判断には含めるべきだろう。
また、
2020年3月決算は、業種にもよるが米中貿易摩擦や円高の影響で業績が悪化していた会社は少なくない。新型コロナウイルスの影響による業績の悪化部分をどう切り分けて把握するのだろうか、いう疑問も生じる。
そして、
記事には、監査法人に対して、機械的にルールを適用せず柔軟な対応を求めるとしている。
そのための指針やガイドラインがどの程度出されるのだろうか?実務を考えた場合、会社と監査法人が個別に検討して判断ということなると、これはもうかなりの混乱が予想される。また、検討による時間の増加、そしてそしてそれに伴うコストもかなり積み上がりそうだ。
キャッシュアウトのない減損の抑制のためにキャッシュアウトを強いて、
不安な経済状況下の企業の財務安全性を損なわせるのは笑えない冗談だ。
機械的にルールを適用せず柔軟な対応については、やり切れない気がする。
過去の会計不正の影響は理解するが、その改善対応として、現在、監査法人の監査が監督官庁や会計士協会から審査される状況にある。その結果、現場の会計士にとっては個社の状況に即した会計的判断が難しく、どちらかというと保守的な判断を下す傾向にあると理解している。保守的と言うのは損失を計上する方向という意味だ。
いきなり逆方向に舵を切れと言われてもどこまで対応できるのか疑問がある。
そして、やはり、どんな事情があるとはいえ、会計的な判断に手心を加えるというのは適切な会計処理と言えるのだろうか?
要するに、国民の会計リテラシーが低いから、数字が悪くなると不必要に不安を煽ることになる。
だから、見た目の数字を取り繕う、というように思えてならない。
だとすれば、
粉飾決算を正当化する会社と考え方は同じだ・・・
今回はともかく将来同じような事態にならないとは限らない。
自分で会社の業績を評価する力、会計リテラシーの向上
の必要性を改めて感じた。
『疑義のついた企業は格下げになり、融資を受けにくくなることも想定される。コロナの終息がまったく見通せないなか、画一的に運用すると多くの企業がこのルールに抵触する懸念が出てくる。このためコロナの拡大に伴う不透明感が漂うあいだは、すぐに適用しなくてよいようにする。
銀行と企業の融資契約の条件も和らげる。融資契約では、融資先の企業が最終赤字や債務超過などに陥った際に借入金の一括返済などを求める「コベナンツ条項」と呼ばれる特約を結ぶことがある。金融庁はコロナの影響で赤字などになっても、この条項をすぐに発動しないように金融機関に要請する方向だ。』
注)疑義は、継続企業の前提(ゴーイングコンサーン)の疑義
せめてプロである金融機関や機関投資家には、見た目の数字ではなく、
実態の評価による投融資の判断をして欲しいものだ。