溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

あずさ監査法人の研修不正に思う 【不正の根本原因】

www.nikkei.com

 

公認会計士の法定義務である研修制度で不適切行為が発覚し、波紋を呼んでいる。あずさ監査法人の一部の会計士がオンラインで複数の講座を同時に受講し、必要な単位を不正に取得していたことが判明した。日本公認会計士協会は研修体制の実態調査に乗り出すなど解明を急ぐが、会計士への信頼は再び揺らぎ始めている。」

「あずさでは2014年に自宅端末などから職場と同じ環境で作業できる「仮想デスクトップ」を導入した。オンラインのeラーニングで二重にログインして、2つの講座を同時に受講できるようになっていた。今年3月に内部通報があり実態を調査。同時受講の可能性がある会計士が6年間で延べ83人見つかった。

あずさは同時に受講した研修は両方とも単位を認めないとして単位を取り消すなど再算定した。その結果、法令や会則に定められた単位に満たない会計士は延べ45人に上った。役職者であるパートナーを含み、複数年にわたって不適切行為をしていた会計士もいた。」

 

大手監査法人での研修の不正事例だ。

もちろん、良くない話、あってはいけない話だとは思う。

 

と同時に、まあ

やってるだろうな

という感想。驚きはない。

今回のあずさ監査法人の対象人数、不正期間、あるいは”やり口”など

程度の問題はあるだろうが、

どのファームの同じような状況でないかと思う。

 

監査法人時代、僕も似たような経験はある。

e-learningを流しっぱなしにしておいて単位を取得するなんてことはあったし、

集合研修中に他の仕事の案件を調べたり、電話対応で抜け出すこともあった。

 

どこまでを悪質とするか議論があると思うが、

しっかり研修内容を理解したのか、

という点においては実質的には同じような話だと思う。

 

「研修は「監査という公益に資する会計士制度の根幹をなす」(会計士協会の手塚会長)。」

と言われる。

その通りなのだが、そうした自覚が無いということではないか。

研修不正によって何かメリットを得ようとしたわけではないだろう。

(単位不足だとそれはそれで対応が面倒にはなるが・・・)

 

最近は様々な要因から現場作業が膨大に膨れ上がり、

その上研修なんて勘弁してくれ、

という悲鳴も聞こえる。

 また、研修よりも実際に現場から学ぶ方が有益と思い込むことも、

潜脱行為のエクスキューズ

となっているのではないだろうか。

 

いずれにしても、当人たちに罪の意識があったかというと・・・

希薄だったのではないだろうか?

 

対するに会計士協会の対応の大きさ・・・

まさに、

コンプライアンス意識ギャップ

だ。

 

記事には、「会計士への信頼は再び揺らぎ始めている」とあるが、

監査法人に所属する会計士のどれくらいが、社会からの信頼を意識しながら仕事をしているだろう?

 

会計士は、会計士試験合格後の既定路線として監査法人へ就職することが多い。

会計基準や監査基準を介してクライアントと向き合うことがほとんどで、社会からの信頼を背負っている自覚のある会計士は少ないのではないだろうか。

僕自身、クライアントや事務所からの信頼は感じたことはあっても、直接かかわることのない”外部”の一般社会からの信頼を日々感じながら仕事をしたという意識は正直言ってなかった。

いわゆる象牙の塔だ。

 

また、大手監査法人では、研修などは法人内の専門部署が用意をしてくれるし、また最新の会計基準や事例などの情報にも気軽にアクセス可能だ。しかも、グローバルに。

 

事務所を離れた独立した時に、いかに今まで自分が情報や研修に恵まれた環境にいたか身に染みて理解した。

と、同時に、いかに世間から隔離された環境にいたかも自覚した。

現在の業務では、業種や職種など様々な立場のビジネスパーソンと直接に接する機会が多いので、社会からの会計士への期待や不満を肌で感じることが多い。

その結果、誰かに任せておけば良いという意識から、自分が責任を果たさなければならないという意識が強まり、皮肉にも、以前よりも積極的に研修を含め会計の最新情報等を入手する意識が高まったように思う。

 

要するに意識の問題なのだろうか、あるいは、

意識を変える環境の問題なのかも知れない。

 

会計士は、比較的、真面目で努力家が多いように感じる

(自分自身は脇に置いて)。

今回の事例はあったが、やたらと規制を強化するというよりは、

彼らの意識を鼓舞するような方向への改善に期待したい。