溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

経常利益は重要なの!? 【利益の意味】

以前も書いたような気もするが、今回

改めて利益の意味について考えてみたい。

 

皆さんは、損益計算書(P/L)のどの利益を重視するだろうか?

 

例えば、経常利益は『ケイツネ』とも呼ばれ、

日本の経済社会では、

長らく経常利益が会社の収益性を代表する利益

として重視されてきた。

 

何故、ケイツネが重視されてきたかというと・・・

 

【経常利益が重視されてきた理由】 

ちょっと難しい話になるが、

P/Lの利益の考え方に、

当期業績主義包括主義がある。

 

 当期業績主義:正常な収益力を示すことを目的とする考え方


包括主義:処分可能利益を示すことを目的とする考え方

 

日本基準では、P/Lの作成において包括主義を採用している。すなわち、P/Lの主たる目的を処分可能利益の計算とし、同時に包括主義の欠点の克服としてP/Lを主要な活動に区分し、段階的な利益計算の形式をとることで、処分可能利益を算定するまでの計算過程で正常な収益力を把握することも可能にしている。

 

処分可能利益と正常な収益力をP/Lの利益に当てはめると、以下となる。

 

正常な収益力(当期業績主義)⇒経常利益

 

処分可能利益(包括主義)⇒当期純利益

 

経常利益は、その名の通りだいたいいつもこんな感じという、会社の通常(正常)な収益性を示す指標となる。

つまり、ある年の経常利益を見ることで、会社のおおよその稼ぐ力を把握することができる。

 

また、減損損失のように、過去の投資意思決定がたまたま当期に損失として発生することもある。自然災害による損失も然りで、そうした特別損失がその時の経営者の責任かというと、そうとも言い切れないだろう。

つまり、業績に対する経営者の責任という点においても、経常利益は経営者の意思決定に対する責任を反映した利益とも言える。

これに対して、包括利益は、特別損益や税金なども経営者の責任とする考え方だ。

 

包括利益は重要か?】 

ところで、現在のP/Lは当期純利益では終了せず、さらに包括利益(*)がある。

 

(*)包括利益有価証券報告書の連結財務諸表に限定して開示が求められており、個別財務諸表や株主総会招集通知に添付される会社法に基づく財務諸表(連結、個別とも)には強制適用はされていない。

 

包括利益当期純利益+その他包括利益

 

だ。

 

その他包括利益とは、

 

保有株式の含み損益(投資有価証券等評価差額金)
・為替予約、通貨オプション等の金融商品時価差額(繰延ヘッジ損益)
・退職給付に係る調整額
・海外子会社への投資後の為替変動(為替換算調整勘定)
保有土地の含み損益 

 

等の当期間中の増減が主な内容だ。

会社の事業活動の結果に加えて株価、為替、金利等による保有する資産・負債の時価の変動も含めた利益である包括利益が重視されていることに対応して、財務数値の国際的な比較可能性の向上などを目的として2011年3月期から日本に導入されたのだが、未だに聞いたことがないという人も少なくないのではないだろうか?

 

その他包括利益には様々な項目があるが、共通しているのは株価、為替、金利等の変動が発生原因と言う点だ。

導入の趣旨は上述のとおりであり、確かにそのような資産負債等を有する会社の投資家にとっては、会社の現時点の財務状況を把握する上では有用な情報となるだろう。

一方、その他包括利益、つまり、株価、為替、金利等による保有する資産・負債の時価の変動を企業努力の結果、経営者の成績と位置付けるかは意見の分かれるところだろう。感覚的には、特別損益と同様、あるいはもっと遠い存在かも知れない。

また、その他包括利益の項目は、中間計測的な位置づけでもある。例えば、株価であれば、現時点ではこれだけ勝っている/負けているを示すが、決済していないので確定利益/損失ではない、あくまで現時点では、だ。

 

経常利益、当期純利益包括利益

 

いずれも、会社の業績を表す利益だが、それぞれの表す意味が異なる。

ある年の経常利益によって、会社の稼ぐ力(正常な収益力)を把握することはできるが、経常利益さえ黒字であれば良いかというとそうも言えない。

例えば、特別損失によって当期純利益が赤字となったため、配当見送りとなれば株主としては残念であろう。

何をもって経営者の責任とするかも、一概に決めることは難しいだろう。

 

【営業利益 日本とIFRSの違い】

また、国際財務報告基準IFRS)のP/Lには、経常利益は存在しない

 

しいて言うならば、

 

営業利益+金融収益/費用(+その他の収益)

 

となるが、IFRS営業利益には減損損失などの特別損益が含まれている。

IFRSでは、特別損益は使用が禁止されている。

 

会計基準によって、

営業利益の考え方が日本基準と大きく異なる

ので注意が必要だ。

 

これは、IFRSの利益の考え方による。IFRSでは、利益を一定期間の会社財産の増減額と捉える。昨年末から今期末の1年間でいくら財産が増えたか/減ったか、その差額が利益と言うことだ。

日本基準のように、本業、本業以外、臨時の儲けなどと細かいことは言わない(それを細かいというかどうかは別として)。理由の如何を問わず、財産を増やしたら利益、減らしたら損失、いたってシンプルというか手段を択ばないというか・・・

 

どうだろうか?

もはや経常利益も含めて、どの利益が重要と一概には

言えなくなるのではないだろうか?

 

画一的な利益の見方ではなく、自分が会社の何が知りたいのか、

どんな成果に興味があるのか、利益の意味の理解した上で、ニーズに応じて

チェックする利益を使い分けられるようにしたいものだ。