『JTBが資本金を現在の23億400万円から1億円に減資することが23日、わかった。税制上、中小企業とみなされることで税負担を軽くするほか、今期発生する巨額損失の補填原資を確保する狙いがある。増資で財務を健全にする手もあるが引受先を見つけなくてはならない。減資は緊急事態宣言の影響を受けた航空や飲食業界でも相次いでいる。外出自粛による苦境は一段と深まっている。』
(添付記事より)
JTBが減資を公表した。
昨日、ニュースで報じられたが、会社の電子公告はこちら☟
https://www.jtbcorp.jp/jp/company/publicnotice/pdf/public_announcement2021.pdf
2/12に臨時時株主総会決議、今後1か月の債権者異議申立期間を経て、減資の効力発生日は3/31を予定している。
3月決算の会社であれば、定時株主総会は6月に開催される。定時株主総会を待たずに、臨時株主総会を開催しての減資決議とは、いかにも急ぎましたという印象だ。
JTBが、減資を急ぐ理由は何だろうか?
ニュースでは、JTBの減資の目的は、
・欠損金のてん補
・税務メリット
とのことだ。
『JTBは、12日の株主総会で決議済みで、3月31日付で実施する。JTBの2020年4~9月期は781億円の連結最終赤字に転落した。株主資本のうち利益剰余金は20年9月末で799億円と、半年でほぼ半減した。10月以降も利用は回復せず、21年3月期は過去最大の1000億円程度の経常赤字を想定する。』
(添付記事より)
減資の目的の1つに、欠損金のてん補がある。
【欠損金てん補の場合の会計処理】
借)資本金 ××× 貸) その他資本剰余金 ×××
借)その他資本剰余金 ××× 貸)繰越利益剰余金 ×××
以下、簡単な例を図示する。
減資による資本金の減少分は、その他資本剰余金とされる。また、原則として資本金の減少分を利益剰余金(繰越利益剰余金)へ振り替えることはできない。会計では、会社と株主との取引である資本取引と会社の事業取引である損益取引を明確に区分しているためだ(資本取引・損益取引区分の原則)
しかし、欠損金のてん補の場合に限りその他資本剰余金から利益剰余金への振替が認められる。
但し、無尽蔵に資本金を欠損金のてん補に充てられるかというと、そこには一定の規制がある。前期末決算時点での欠損金の金額の範囲内でその他資本剰余金をてん補に充てることができる。
ここで、JTBの前期末の決算書を確認すると、利益剰余金は約1,193億円であり、欠損状態にはない。
JTB:2020年3月期決算書☟
https://www.jtbcorp.jp/jp/company/accounts/pdf/accounts_balancesheet_2020_02.pdf
つまり、今期決算で発生する赤字の程度にもよるが、欠損金が生じた以降の事業年度にその他資本剰余金を繰越利益剰余金へ振り替えるという別の株主総会決議を採ることになる。少なくとも来期以降の話だ。準備は早い方が良いというのは分かるが、そこまで急ぐこともなさそうだ。
税務メリットについてはどうか。
JTBに限らず過去から多くの会社が、税務メリットを目的に1億円減資を実施している。
資本金が1億円以下の会社が得られる代表的な税務メリットを例示すると以下だ。
・法人税の軽減税率の適用
800万円以下の所得に対しては15%の軽減税率が適用可能(通常は23.2%)。
但し、2019年年4月1日以後に開始する事業年度においては、直前3年以内に終了した各事業年度の所得金額の年平均額が15億円を超える法人等は、年800万円以下の部分については19%の税率が適用。
・交際費の損金算入可能額
資本金が1億円超の場合、接待交際費の50%までしか損金算入ができないが、資本金1億円以下の場合は、接待交際費の50%か年間800万円のうち、いずれか多い金額の損金算入が可能。
但し、2020年4月1日以後に開始する事業年度からは、資本金が100億円を超える会社については、接待交際費は全額損金不算入。
・繰越欠損金の控除
資本金が1億円以下の場合、過去10年以内に発生した繰越欠損金
・外形標準課税の減免
事業所の床面積や従業員数、資本金等及び付加価値などの外観から客観的に判断できる基準で課税する外形標準課税の対象外となる。
有名企業、大企業が資本金の『数字』だけを減らすだけで形式的に中小企業となり税金を減らすことは、実質的な税金逃れではないか?という批判も多い。
例えば、シャープはそうした批判もあってか、5億円までの減資に留まった。
そして、上記の中小法人に対する節税メリットを受けるには、事業年度終了時の資本金の額が1億円以下であることが要件となる。
事業年度終了日=3月31日
減資効力発生日=3月31日
なるほど、今期から税務メリットを享受できる訳だ。
節税と捉えるか、モラルハザードと批判されるか、改めて、税という視点からの会社の存在意義が問われるかもしれない。