溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

非財務情報?「未」財務情報?

このところやたらと忙しく、気づいてみれば随分と久しぶりなブログとなってしまった(汗)

少し落ち着いたと思ったら気になる記事があったので、少しコメントしてみる。

 

統合報告書、665社発行 東証再編にらみ中堅でも:日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGKKZO58980630Q2A310C2DTA000/

www.nikkei.com

 

『財務情報と、ESG(環境・社会・企業統治)など非財務情報をまとめた「統合報告書」を発行する上場企業が増えている。2021年は前年比2割増665社になった。投資家の要望に加え、東京証券取引所の新市場区分「プライム市場」で高い水準の情報開示を求められ、中堅企業でも発行が広がっている。今後は具体的な内容や目標など情報の質が焦点になる。』

 

統合報告書は売上高や利益など財務情報に加えて、経営戦略や企業統治、環境・社会への対応などの非財務情報もあわせて記載した報告書のことだ。統合報告書は企業が任意で作成し、投資家などに対して中長期の視点から自社の理解を促す狙いがある。任意ではあるが、東証の新市場区分やコーポレートガバナンスコードの要請などから、統合報告書を作成する企業が増加傾向にある点は日経記事の指摘の通りだ。

 

【参考】コーポレートガバナンス・コード(2021年改正)

https://www.jpx.co.jp/news/1020/nlsgeu000005ln9r-att/nlsgeu000005lne9.pdf

 

コーポレートガバナンス・コード【2021年改正の3大ポイントの1つ】

3. サステナビリティを巡る課題への取組み
■プライム市場上場企業において、TCFD 又はそれと同等の国際的枠組みに基づく気候変動開示の質と量を充実
サステナビリティについて基本的な方針を策定し自社の取組みを開示

 

ちなみに、他の改訂ポイントは、以下。

・取締役会の機能強化

・企業の中核人材における多様性の確保

 

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日経新聞朝刊3/11’22より

いわゆる時代の流れと言う部分もあるだろうし、これまで対応すべき事項に十分対応しきれていなかった点の是正という部分もあるだろう。一企業の、そして目先の利益を重視しすぎると公害のように将来の社会全体の損失を招くことにもなる。そういう意味では、従来必要なコストを払っていなかったのだから本来の負担をすべきということにもなるのだろう。

 

しかし、投資家目線としては、やはり無駄なコストはセーブして欲しいとも思う。

例えば、会社が法的義務、任意で定期的に作成、発行している報告書は、ざっと以下が挙げられる。

 

(法的義務)

・税務申告書(法人税、消費税等)

会社法計算書類(株主総会招集通知)

有価証券報告書、四半期報告書(金融商品取引法

 

(任意)

・アニュアルレポート(英文財務諸表:外国人株主等への説明)

・IRレポート(投資家への説明)

CSR報告書

・株主通信(事業報告書)

 

法令等の要請に基づく報告書はともかく、任意の報告書は、内容的に重複する点も多く、整理統合も含めて見直す必要もあるのではないだろうか。

これらに加えての統合報告書となればなおさらだ。

 

そして、コーポレートガバナンス・コードの補充原則2-3にも、

 

サステナビリティを巡る課題への対応は、リスクの減少のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題であると認識し、中長期的な企業価値の向上の観点から、これらの課題に積極的・能動的に取り組むう検討を深めるべきである。』

 

と明記されており、サステナビリティへの対応が単なるコストではなく、企業の将来の収益機会につながることを求めている。

 

この点については日経新聞の記事にも、

開示が広がる一方、課題も残る。環境や社会問題は幅広く、企業ごとに取り組むべきESG課題は異なる。日経平均株価を構成する225社のうち176社が、統合報告書に重要なESG課題を記載しているものの、経営戦略との関係を説明した企業は48%の84社にとどまる。関連するESG指標の目標と実績を開示した企業は56%の99社だ。』

とある。

 

従来、中期経営計画に企業のミッション、ビジョン、戦略が反映されていない、あるいは両者の関係が希薄であると言った指摘は少なくないが、統合報告書においても同様のようだ。ESG課題への対応などの非財務情報がどう財務情報と関係するのかのつながりが見えにくいということだろう。当の企業(経営)において両者の関連が明確でないと、結果としてESC課題への対応コストだけが浪費される(企業としてはやるしかないんでしょ!という開き直り?)だけで、将来の収益獲得に有機的につながるとは到底期待できないだろう。そして、統合報告書と言うからには、まさに財務と非財務を有機的に関連づける、つまり統合(インテグレート)することが求められる。財務情報と非財務情報のそれぞれを単品のまま開示するのであれば、それは合算報告書だ・・・

 

非財務活動も含めて人が動けばおカネも動く。つまり、全ての企業活動は遅かれ速かれ最終的に財務活動に帰結する。その意味では、非財務情報ではなく『未』財務情報と言った方が適切なのかもしれない。

 

知らんけど。