溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

経営者のレベルは株主のレベルを反映する!?【阪急阪神HDの例】

news.yahoo.co.jp

 

6月15日に開催された阪急阪神HDの定時株主総会の話題。

季節の風物詩と言うか、今年も3月決算会社の株主総会のシーズン。

 

株主総会は、株主と経営者の重要なコミュニケーションの機会だ。最近では、株主総会の開催日の分散も図られ、シャンシャン総会ではなく、出来るだけ株主と積極的にコミュニケーションの機会を持とうとする会社も増えているようで、そう考えると、スチュワードシップ・コードコーポレートガバナンス・コードの効果もそれなりに発揮されているように思える。

 

株主総会と言えば想定問答集ということで、株主からの想定質問について事前に会社としての回答を作成するQ&Aが思い浮かぶ。従業員株主を交えたリハーサルが一番白熱するという会社も少なくないだろう。従業員は会社の業務に精通し、また、会社のイケてないところも熟知しているため、ここぞとばかりにキツい質問を役員に投げかける。監査法人時代にはリハーサルを含めて株主総会に控えていることが多かったため、株主総会によっても会社のカラーが違うと思ったものだ。

 

さて、今年の株主総会での株主質問のトピックスはと言えば、まず挙げられるのは、

 

・円安、ウクライナ危機が業績へ与える影響と対策について

最近は、1億総株主政策もあってか一般株主が増加しており、この点は一般株主から注目される質問だ。そして、こうした懸念材料が株価へ与える影響と会社の対応についての質問も想定される。回答に際しては、そもそも現在の株価が理論株価よりも高いか低いかを把握していることが前提となるだろう。

 

そして、21年のコーポレートガバナンス・コード改訂ポイントに関連する事項。

 

サステナビリティを巡る課題に対する対応

・取締役会の機能発揮

・中核人材の多様化の確保への対応

 

サステナビリティ課題は、TCFD(企業業績等に対する気候変動リスクの開示)が中心となるが、SDG’s、ESGに対する対応や投資の方針、また、それによってどのように将来の収益機会を獲得するか、といった内容だ。また、取締役会の機能発揮については、社外取締役の人数もさることながら、外国人などの多様性をどう考えるのか、それから、取締役の候補者の経験、経験、能力が会社の事業(将来を含め)に照らして十分なのかを明示したスキルマトリックスについての質問が想定される。

また、会社の取締役候補者に対する反対票が増加しているようだ。これには、米国の議決権行使助言会社インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズISS)が政策保有株式(企業間持ち合い株式)の金額が純資産の20%以上の会社のトップの選任に反対推奨していることなども影響しているとされる。

 

・事業ポートフォリオについての考え方

コーポレートガバナンス・コード上、中長期的な事業戦略に対する取締役会での議論が十分でないと回答している会社が多い。これを反映してか、会社の現在の事業ポートフォリオについての見解、そして中長期的に事業ポートフォリオをどうしていくのか、その考え方についての質問も考えられる。

 

さて、阪急阪神HDでは、こんな株主からの質問が・・・

「子会社の阪神タイガース関わる質問がでは「数年前にも要望したが、なぜ甲子園でたこ焼き、焼きそば販売されているのにイカ焼きが販売されないのか」というほんわかした内容からスタート。しかし、次の質問者からは手厳しい言葉が飛んだ。「矢野監督がなぜ辞めると言ったのか。プロ野球の正月にあたるキャンプインの前日に辞める、あんな自分勝手なことあらへんでしょ。さらにキャンプ中に予祝で胴上げをした。社会的な常識のない監督に役員はちゃんと言ったのか?次誰になるか気になるでしょ。アメリカ大統領が次誰になるのか、日銀総裁が次誰になるかと同じ。そっちに話題持っていかれてそんなもったいないことはない」(日経新聞記事より)

 

関西人としては、真面目な中にも笑いあり、緊張感のある株主総会の最中の一服の清涼剤としてはありだと思う。しかし、こうした質問に終始するとすれば(あくまで仮定)、それは果たして株主にとって有益なのだろうか、と思ったりする。

例えば僕が経営者であれば、こんな質問はウエルカムだ。事業戦略、企業ガバナンス、企業価値などに対する現状の課題認識や今後の改善プランと言ったシリアスな質問の時間を避けると同時に、株主からの質問に回答した実績にもなるので、めっちゃ丁寧に時間をかけて回答するだろう(笑)

そんな悪い経営者の思うつぼにならないように、株主の皆さんには何が株主にとって有益な質問なのかについて、今一度考えてほしいと思う。

 

なお、特定の会社をディスったりするつもりは全く無いので、念のため申し添えておく。