溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。元BIG4パートナー。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

自己資金での投資はハードルレートを意識する必要があるの?

先日、コーポレートファイナンスの授業で、受講生の方から、

 

「自己資金での投資の場合、ハードルレートを超える必要があるのですか?」

 

という質問を受けた。

 

ハードルレートとは、企業が事業等への投資から得るリターンが超えるべき利回りのことだ。

投資家、つまり株主と債権者、は、企業に投融資する際、当然ながら一定のリターンを期待する。株主であれば配当や値上がり益、債権者であれば利息がリターンになる。株主と債権者では、期待リターンの水準が異なる(詳細についてはここでは割愛する)が、株主と債権者が総じて会社に対して期待するリターンをWACC(加重平均資本コスト)という。

 

企業が投資から得るリターンの水準がWACCを上回らないと、企業は投資家の期待に応えていないことになる。企業が超えなければならない利回り(レート)という意味で、WACCがハードルレートのベースとなる。ここでは、単純化のため、ハードルレート=WACCとする。

なお、企業が投資から得るリターンはROIC(投下資本利益率)で測るため、

 

ROIC>WACC

 

であることが期待される。

 

【参考】

ROIC=NOPAT(税引後営業利益)÷投下資本(運転資本+固定資産)

 

従来、日本企業が事業の業績評価や事業撤退を検討する際、きっかけとして、継続的な営業赤字や営業キャッシュフローの赤字などを基準とする(減損処理の兆候も然り)が、投資家の期待を考慮すれば、

 

赤字は論外!

黒字でもWACCを下回る場合、実質的には赤字!

 

ということだ。

なお、2023年3月に東証から出された「株価と資本コストを意識した経営」をきっかけに上場会社にこうした考え方が浸透しつつあり、事業ポートフォリオの見直しを経営課題に掲げる企業が増加傾向にある。

 

話は戻って、

 

質問の趣旨は、投資家らから調達した資金ではなく会社自身の資金であれば、投資家の期待リターンであるWACCは意識しなくても良いのか?ということだろう。

 

一瞬、そうかな?と思うかもしれない。しかし、バランスシートの構成を見ると分かるが、全ての資金は結局は負債か純資産、つまり債権者と株主から調達していることになる。

あれ?買掛金等は?と思うかもしれない。買掛金や未払金といった利子を伴わない負債を事業負債という。事業負債は、運転資本からマイナス(控除)されている(下記運転資本の計算式参照)。

 

筆者作成


質問者は、自己資金は、新たに外部から資金調達をせずに手持ちの資金で、という意味であろうが、その自己資金の出所はどこだろうか?事業活動から獲得した当期純利益から得たものであれば、それは株主に帰属する利益(資金)である。株主が、今すぐ配当として回収するよりは、内部留保という形で企業に再投資した方が、将来より多くのリターンが期待できると判断した結果だ。

 

つまり、自己資金は投資家(この場合は株主)の期待が乗った資金であり、したがって、自己資金であってもハードルレートを意識する(超える)必要があることになる。

 

なお、自己資金は、通常、現金及び預金という形態で存在するが、現金及び預金は流動資産の一部であるため運転資本に含まれることになる。現金及び預金も事業運営に必要な資金であり、既に事業に投下(コミット)した資産ということだ。

 

【参考】

運転資本=流動資産ー(有利子負債を除く)流動負債

 

 

会計のレジェンド問題って何だ?【小ネタ】

【今回の参照記事はコチラ☟】

会計基準変更、国の「介入」どこまで のれん非償却で波紋 - 日本経済新聞

 

「今から二十数年前、日本の会計基準は世界から懐疑的な目で見られていた。不信感が積もりに積もって1999年に勃発したのが「レジェンド問題」だ。」

 

レジェンド?

イチローマイケル・ジャクソンスティーブ・ジョブズ

 

会計界のレジェンドって誰だ?

 

と勘違いする人がいるかもしれない。

 

実は、「レジェンド(legend)」

には、伝説、伝説的な人物(←多分これが一番イメージしやすいかも)の他に、

凡例、説明文といった意味がある。

 

会計においてレジェンドという場合、通常は凡例や説明文という意味で使用する。

具体的には、記事にあるように、

 

「この決算書は日本の(会計)基準に従って作られており、国際的に通用する基準に従ったものとは異なる」。日本企業が英文の年次報告書で決算書を公開する際に、「警句(レジェンド)」を記載することが求められた。国際的な会計事務所からの申し合わせによるものだった。」

英文財務諸表だと、ユーザーにしてみれば当然IFRSか米国基準で作成されているよね、と思うかもしれないので、実は違いますよ!、という説明文を注釈で入れるというものだ。

説明文という意味だが、ユーザーに注意喚起のための警鐘を鳴らす目的なので、レジェンド=警句と表現されていると思う(legend自体に警句という意味は無いと思う)

 

上場会社などが海外投資家等用にアニュアルレポート(英文財務諸表)を作成したとしても、それが単に日本の会計基準による財務諸表を英訳したもである場合、

つまり、

IFRSや米国基準に従って財務所諸表(注記等も含めて)を作成し直してない

・ISAに従って会計監査を行っていない

場合、

英文で作成された財務諸表の監査報告書に、「この財務諸表は日本の会計基準で作成されており、また監査も日本の監査基準で行われている」といった旨の警句(LegendClause)が付されていることがまだ多いと思う。

 

財務諸表等に対するレジェンドは、山一證券北海道拓殖銀行などの大手上場企業の破綻をきっかけに日本の財務諸表に対する信頼性が揺らいだことをきっかけにしたことから、

 

レジェンド=警戒⇒日本の会計基準や監査基準のレベルが低い

 

といった、日本の企業や公認会計士にとっては不名誉な印象を抱きがちだ。

しかし、以降、米国やIFRSとのコンバージョンなども進み、現在では、ほぼ主要な差異については解消されている状況だ。

 

でも何でここにきてレジェンド問題を持ち出すのだろうか?

 

GAAP間の差異の解消が進む中、ある意味、残された最後の大物のGAAP差異がのれんの償却問題ともいえる。

のれんを償却しているから、IFRS等の国際的な会計基準等から遅れていると思われる、だからレジェンドを付けられる。

どこかの首相のように”なめられてたまるか!”と、ナショナリズムを煽って、一気にのれん非償却に突き進もうとしているように思えてしまうのは僕だけだろうか。

 

そういうことじゃないんだけどね・・・

 

償却か非償却か、それが問題だ【のれんの会計処理】

www.nikkei.com

 

「日本企業のM&A(合併・買収)の障壁を見直す議論に動きが出てきた。政府の規制改革推進会議が28日とりまとめた答申に、M&Aで生じる「のれん」をどう費用処理すべきか検討するよう盛り込まれた。目先の負担が軽くなればM&Aが活発になる半面、環境急変で巨額損失が生じる恐れもある。長年議論となってきた課題で、見直しには慎重論も根強い。」

(添付の日経新聞記事より)

 

のれんは、簡単にいうと、買収額のうち買収先企業の純資産を上回った額をいう(正確には、個別に認識可能な無形資産等を控除した部分)。

日本会計基準がのれんを定期的に償却するのに対し、IFRS等では価値が減った際のみ減損処理するため、毎年の償却負担が軽減されることになる。

答申では、スタートアップの成長促進に向けて「のれん会計処理のあり方について検討が必要」とし、企業会計基準委員会(ASBJ)への政府の支援策が盛り込まれた。

ASBJの運営母体である財務会計基準機構(FASF)は、テーマに重要性があればASBJにテーマとして提言していく意向とのことだ。

 

これまでも度々盛り上がったのれん償却を巡っての議論。

今回は、スタートアップの成長促進のためにはのれんは非償却が”都合が良い”ということだ。

ということは、

①スタートアップの成長には多額のM&Aが必須

②スタートアップの企業価値評価において営業利益が重視される

ことを前提としていることになるが、果たしてそうなのか?

 

①について、東証グロース市場に上場する企業は、上場5年後に時価総額100憶円以上が上場維持に求められるよう検討されているという。

2025年5月9日時点で時価総額100億円を達成しているグロース市場企業は188社(グロース市場全体の約30%)とのことだ。
自力成長だけで時価総額100億円達成は必ずしも容易とは言えないため、時価総額100億円に向けて、今後益々M&Aが重要視されるという点は理解できる。
 
では、②の営業利益についてはどうか?
のれんの非償却が検討されるのは、営業利益が企業価値に対して重要な影響を持つということだろう。しかし、営業利益は本業の収益性を表す指標ではあるものの、単年度の業績を表すものであり、中長期的な企業価値向上という点においてはことさら重視されるべき指標とは言えない。例えば、DCF法による株価算定では、営業利益ではなくフリーキャッシュフローで評価する。
そして、フリーキャッシュフローを予測、測定するにおいては、のれんの償却は問題にならない
 
盲目的に、営業利益が重要、営業利益を良く見せるにはのれんは非償却が都合が良い、だから非償却を検討、ということであれば、短絡的過ぎるように思えてしまう。
 
こういった議論においては、これまたよく「IFRSではのれんは非償却だから、日本も併合わせるべき」という意見が上がる。個人的には、企業活動のグローバル化に伴い、ヒトもカネも情報もグローバルに飛び回るようになれば、会計基準も統一する方が望ましいと思う。なので、そういう目的でのれんを非償却とすることには賛成だ。しかし、のれんの会計処理として非償却が望ましいと考えているわけではない。個人的にはどっちでも良いと考える。というのは、のれんに限った話ではなく建物、設備などの固定資産も同様だが、資産の価値の評価を重視するか、資産の使用等から発生するコストの把握を評価するかによって、償却すべきか否かは変わるためだ。
 
例えば、資産の価値評価という点では、毎年一定時点で、資産の価値を鑑定等で評価し、評価された価値に置き換えることのが望ましい。その結果、価値が下落していれば減損処理することになる。
一方、超過収益力とされるのれんは、買収後の(買収企業との)シナジーの発揮により期待される将来の収益のための必要経費(コスト)という考え方に立てば、将来の収益に対応させるように償却すべきとなる。
なお、これは、のれんを価値を積極的に認めた場合の考え方だ。そもそも、のれんは、現在の会計基準によれば、買収先の純資産を上回る金額のうち、ブランドやノウハウなどの無形資産として個別に認識されなかった(できなかった)部分を指す。つまり、実際のところ何なのかの積極的な説明がつかない部分でもある。減損後価値が復活したら減損損失を戻し入れるIFRSですら、のれんについては戻し入れを認めていないことからも、のれんの資産価値の脆弱性が分かるだろう。そういった資産であれば、粛々と償却するという考え方も理解できる。
 
この点に関連して、2022年には、IFRSにおいてものれんの償却が議論になった。当記事にもあるように、純資産に占めるのれんの割合が、非償却のIFRSや米国基準は高い。M&Aの過熱により積みあがったのれんが一気に減損となると、世界規模の不況に陥る可能性を懸念してのことだ。IFRSでは、議論の結果、非償却を継続することになったが、のれん減損のドミノ倒し現象に対する懸念が払しょくされたわけではない。
 

2025/5/29日経新聞より
 
これは、日本でのれんが非償却となった場合も同様だ。スタートアップにとって、M&A後当面の間はのれんの償却負担を免れるが、将来の減損リスクをキャリーオーバーしていることになる。これって、今コーポレートガバナンス・コード等で指摘される中長期的な企業価値向上というよりは、短期的な業績重視ということにならないだろうか?
 
また、減損テストの事務コスト負担が問題となる。のれんの兆候がある場合だけの日本基準と異なり、IFRSは少なくとも年1回はのれんの減損テストを実施する(会計監査も)必要がある。買収先の事業計画に基づくキャッシュフロー予想などの都度更新、割引率も類似企業を参考に計算など、外部のコンサル会社に外注する場合もある。

 

メリデメの話でも無いと思うが、のれんを非償却にすればすべて丸く収まるということでもない。むしろ、追加的なキャッシュアウトフローは非償却の方が大きくなるかもしれない。

果たして何を重視し、また、懸念点についてはどのように対応するのだろうか・・・

不適切会計の原因は?【サイバーエージェントの例】

www.nikkei.com

サイバーエージェント連結子会社で不適切会計が発覚したらしい。

不正の発覚を外部公表したのが、3/26で、社内の調査委員会の調査結果報告書が4/16(外部公表)なので、かなり迅速に調査が行われたように思う。内容がシンプルだったのか、それとも・・・

 

社内調査委員会の調査結果報告書を読んで、感じたことをつらつらと書いてみたい。

 

【参考:調査結果報告書】

/https://pdf.cyberagent.co.jp/C4751/dRUj/Alpi/goXS.pdf

 

まず、不適切会計の内容と発覚の経緯から。

 

【不適切会計の内容】

・会社

 サイバーエージェント連結子会社であるCyberOwlで発生した。同社は、塾情報サービス「Ameba塾探し」などのメディア事業を手掛ける会社で、2012年に設立された。代表取締役サイバーエージェント出身の田中啓太氏。

 

・不適切会計の内容

CyberOwlの経営管理責任者(取締役)が、2020年以降、概算売上の一部に成果の見込みとして予測の根拠がない売上を計上していた。

 

・影響額

サイバーエージェントの調査結果報告書を基に筆者作成

不正の常であるが、年々雪だるま式に不正額が増加していることが分かる。

なお、Cyber0wlの売上と営業利益の推移は以下のとおり。

とはいえ、サーバーエージェントの全体、連結決算に与える影響割合(%)からは、それほどのインパクトはなかったことが分かる。

 

サーバーエージェントの調査結果報告書を基に筆者作成

2024年9月期には、Cyber0wl全体の売上の約17%、営業利益の約74%が不適切会計処理によるものであったことが分かる。

 

・処分

サイバーエージェントは、量的なインパクトもさることながら、不適切会計処理という質的なインパクトを重視して、過年度の有価証券報告書及び内部統制報告書を訂正するとしている。

 

また、経営責任として、

改ざんに関与した子会社の取締役は解任

また、2025年5月から3カ月間、

サイバーエージェント藤田晋社長と中山豪専務の月額報酬を30%減額

Cyber0wlの田中啓太社長の月額報酬を10%減額

する。

 

・今後の改善

①広告主の承認が得られた確定売上高のみを計上する方法に変更

経理、内部監査の機能強化

③子会社役員・子会社経理経営管理)・本社経理の権限分離と牽制機能の強化

の再発防止を図るとしている。

 

【株価への影響】

Cyber0wlの不適切会計を公表した3/26の終値1,291.5円から、4/7には1,030円まで落ち込んだ。

ただし、不適切会計がどの程度影響したかは定かではない。

なお、4/24の終値は1,158.5円。

 

【発覚の経緯】

Cyber0wlが2024年後半から買い手側としてM&Aの検討を進めており、その資金繰りについて同社の代表取締役経理業務担当が協議する中で、概算売上計上に係る売掛金の滞留が発覚した。管理責任者である担当取締役(不適切会計の当事者)を詰めたところ、不適切会計を認めた、とのこと。

 

不適切会計がおそらく2020年9月期からなので、結果的に、約5年にわたってサイバーエージェントとしては不正を見逃していたことになる。

 

【不適切会計の原因】

調査結果報告書には、不適切会計の原因として大きく次の3点を挙げている。

 

アフィリエイト事業の特性(売上概算計上)

②不十分な管理・監査体制

コンプライアンス意識及び知識に関する問題点

 

アフィリエイト事業の特性(売上概算計上)について、

Cyber0wIは、月次決算を翌月3営業日までに行っていたが、アフィリエイト報酬の成果が確定したことを確認する広告主の承認が広告主の事情で翌月に繰り越されることがあった。そこで、業績管理を適時に実施するため、未承認額を概算額として売上計上し、翌月に概算額を承認された際に実績に置き換える処理を従来していた。

月次決算はともかく、年度末において最終的に実績値に修正されるのであれば、会計上問題はない。

しかし、その後、広告主(だけではないのだろうが)の都合等により、承認のタイミングが多様化する中でより後ろ倒しになっていき、その対応として、Cyber0wlでは概算売上の金額及び割合が相対的に増加していった背景がある。

概算売上を認めるということは、売上の計上に担当者の見積もりが介入する余地があるということを会社が認めているということだ。不正のトライアングルで言えば不正の「機会」が発生、増長していることになる。

この点を、Cyber0wl、サイバーエージェントはどの程度認識していたのだろうか?

 

なお、これは他の不適切会計でもよくある話で、当初は非常に限定的な例外処理であったものが、その後のビジネスの変化により事象が増加する、つまり例外が例外でなくなっていくということだ。

そして、次の②にも関連するが、そうした状況変化にもかかわらず、管理体制がそれに適切に対応できなかったということだ。

 

②不十分な管理・監査体制について

職務分掌、内部統制、内部通報制度について課題、問題点が書かれている。

職務分掌については、不適切会計の当事者であった取締役が、経営企画部門、アフィリエイト事業責任者を兼務し、さらに、本来引き継ぐはずの経営管理業務(概算売上計上)も抱え込んでいたという。これも他の不正事例でもよく見られる。1人数役の兼務は、外部からの目が届きにくい。特に、ラインとスタッフ部門や申請者と承認者など、両者でチェックアンドバランスが機能するが、両方を兼務すると不正や間違いが発覚しにくくなる。これは、意図的でなくても、例えば、(海外)子会社のように、ヒト・モノ・カネといった経営資源が不足しがちな小規模な組織にはよく見られる状況でもある。

経理部門については、従来、会社が概算売上計上をしていることはもちろん、概算売上の運用について、以前から釈然としない思いを抱いていた従業員はいたとのことだ。しかし、そのモヤモヤが内部通報などのアクションにつながることは無かった。社内の人間関係や様々な要因は考えれるが、③のコンプライアンス意識の問題にも関連するだろう。

Cyber0wlは、サイバーエージェントの約90社ある連結子会社の中ではそれほど規模の大きな会社ではないと思われるが、とはいえ、内部統制評価上、業務処理統制評価の対象となる拠点なので、マイナーな存在ではないと思われる。2024年9月期の内部監査において、概算売上計上について当該担当取締役に質問、資料要求するも、詰め切れなかったのは悔やまれるところだ。もしかしたら、「まさか不正などないだろう」といった思い込みがあったのかもしれない。

 

Cyber0wl、そして親会社であるサイバーエージェントを含めて、アフィリエイト事業に係る概算売上計上のリスクについて、従来、どう評価(例えば、JーSOXにおけるリスク評価)し、対応を検討していたのかが気になるところだ。

 

コンプライアンス意識及び知識に関する問題点について

・会計に関するコンプライアンス意識及び知識の不足

・企業風土

の2点を挙げている。

・会計に関するコンプライアンス意識及び知識の不足については、売上計上の会計基準に照らした妥当性であったり、ましてや複雑なアフィリエイト売上への当てはめてとなると、確かに求められる知識のハードルは高いだろう。

しかし、上述のように、概算売上について、何やら釈然としない(あるべき実績値が経営会議で報告されていないなど)思いを抱いていた従業員もいたとのこと。

また、サイバーエージェントグループでは、一定のグレード以上の従業員を対象に、広告不正、情報漏洩、インサイダー取引、取引一般に関する研修を実施しており、また、内部通報制度の窓口の設置及び従業員の周知もなされていたとのことだ。

社内で何やら不審な動きがあった場合に、どう行動すべきか、といった点まで腹落ち感をもって周知できていなかったという反省なのだろうか。

 

以上、つらつらと、サイバーエージェント連結子会社の不適切会計の内容と原因について、書いてみた。

だいたいの内容については、こうした事例によく見られる内容で、まあそうだろうなという感想だった。

 

しかし、1点だけ、ちょっとした違和感というか、感じたことがあった。

 

最後の社風にも関連するのだが、そもそも不適切会計の当事者である取締役は、何故不適切会計を行ったのか?といった「動機」がよく分からないのだ。

この点、調査結果報告書には、コロナによって業績が悪化したことをきっかけに、「Cyber0wlにおいては、アフィリエイト事業の業績が好調であることにより、新規分野への進出や投資のためのキャッシュエンジンであると認識されていたことから、経営会議やマネスト等において、(代表取締役である)A氏にアフィリエイト事業の業績が順調であることを見せる必要があった」点を動機として記載している。

 

しかし、その動機がどこから来るのか、具体的には、

昇進や待遇などの個人的な利得目的なのか、

それとも、

業績目標達成に対する過度なプレッシャーといった社風、企業文化が原因なのか、

が調査結果報告書からは判然としない。

 

調査結果報告書からは、当該取締役が単独で行った不適切会計との印象を受ける。

類似の不正事例の改善施策では、経営トップからのコンプライアンス意識や企業文化改革に関するメッセージの発信などの全社的な取り組みがよく見られる。しかし、今回の調査結果報告書ではそうした施策は見られない。あくまで個人の不正であり、会社ぐるみでは無いですよ、と言うことだろうか。

あくまで個人的な印象だが、果たしてどうなのだろうか?

ROICとEVAの違い、説明できますか?【J・フロントリテイリングの例】

 

 

www.nikkei.com

 

J・フロントリテイリングが進める投下資本利益率(ROIC)経営が岐路にある。ROICを主な経営指標に採用して5年目を迎えたが、それだけでは測りにくいデベロッパーの大型案件が進行してきたためだ。株式市場へより丁寧に成長戦略を示すために経済付加価値(EVA)といった新たな指標とのハイブリッド(併用)型を取り入れる検討を始めた。」

 

J・フロントリテイリングが、ROICに加えて、EVAを新たに経営指標として採用するとのことだ。

正直な第一印象は、「?」だ。

というのも、ROICとEVAは本質的に同じ意味だからだ(記事にも書いているけど…)。

 

簡単にROICとEVAの説明をしておく。

 

ROIC(投下資本利益率)は、事業に投下された資本がどれだけの利益を稼いだかを表す指標で、以下の計算式で表される。

 

ROIC(%)=NOPAT(税後営業利益)÷投下資本(運転資本+固定資産)

 

また、ROICを分解すると、次のようになる。

 

ROIC(%)=税後営業利益率(収益性)×投下資本回転率(効率性)

 

つまり、ROICを改善するには、収益性を高めること、そして、効率性を改善することが求められる。

 

ところで、ROICと似た指標にROCEがある。

ちなみに、

ROICは、Return on Invested Capital

ROCEは、Return on capital employed 

の略だ。

 

両者の関係は、次の図を見ると分かりやすい。

筆者作成

計算式では、分母の資本を投下資本側からとらえるか、調達資本側からとらえるかの違いだが、ROCEはより投資家を意識した指標と言える。この点は、2023年3月に東証から出された「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」にも言及されているが、PBRを改善するには、黒字であるだけでなく投資家の期待を超える黒字を出すことが重要である。これを換言すると、

 

ROCE>WACC(投資家の期待リターン)

 

となる。ROCEはROICでも良いが、投資家の期待に対して実績がどうだったかという意味合いでは、ROCEの方がよりフィットしているだろう。

 

一方、EVAは、経済的付加価値(economic value added)といい、利益から使用する資本の資本コストを控除した差額で表す。EVAの計算式は、次のとおりだ。

 

EVA=NOPAT(税後営業利益)ー投下資本×WACC

 

EVAは単年度の指標なので、資本コストはWACCそのものではなく、いわば年間の資本使用料という意味だ。

 

ここで、改めて、ROICとEVAの関係を整理してみる。

 

ROIC=NOPAT÷投下資本

 

EVA=NOPATー投下資本×WACC

 

だから、

 

EVA=投下資本×(ROICーWACC)

 

となる。

ROICとEVAの違いを”率”で表すか、”額”で表すかの違いと言われるが、計算式からも明らかだろう。

 

なお、

 

EVAスプレッド(%)=ROICーWACC

 

として、EVAを%で表す指標もある。

 

EVAには計算式に投資家の期待リターンであるWACCが含まれるので、EVAがプラスであれば投下の期待リターンを上回る経済的価値を創出している、マイナスであれば経済的価値を棄損していることが分かる。この点は、NPV(net present value)と似ている。なお、NPVが予測期間を通じたフリーキャッシュフローの現在価値の合計と(初期)投資の差額であるが、EVAはこれを単年度ベースで表す点が異なる。

 

一方、ROICは投下資本の収益性を表すが、それ自体の良し悪しは分からない。この点は、IRRとも似ているが、別途、WACCのような基準となる目標値、ハードルレートを設定し、これと比較することにより成果としてのROICを評価する必要がある。

 

もし、J・フロントリテイリングが、この点に利便性を感じてEVAを採用するのであれば理解はできる。しかし、それであれば、ROICとWACCを比較すれば済む話なので、わざわざEVAと併用するまでもないと思うが、どうなのだろうか?分かりやすさ、ということなのだろうか?

 

また、記事には

 

「Jフロントは22年2月期にROICを導入した。百貨店一本足からの脱却が狙いだが、24年度の事業別ROICの見通しは百貨店が11.5%とWACC(4〜5%)を大きく上回るのに対し、デベ事業は4.4%にとどまる。若林氏は「デベ事業は投資効率だけでみると開発をあきらめざるを得ない案件が出てくる」と強調する。」

 

とあり、これがEVA導入の理由かどうかは分からないが、それだったら、事業別ROICを算定すれば済むことなのにとも思う。

 

この点については、記事にも

 

「EVAとROICは額と率の違いこそあるが、指標のベースとなる考え方は近い。一方、EVAは企業全体の稼ぐ力を見るためROICのような事業別管理には適さないといった特徴がある。花王は業績が低迷し、収益性の低い事業のてこ入れのために23年にROICを導入して二刀流に切り替えた経緯がある。」

 

との指摘もある。

なお、EVAが企業全体の稼ぐ力を表すとされているが、必ずしもそうは言えないと思う。

事業別ROICを算定するには、事業別投下資本が前提となる。また、事業別ROICの評価には事業別WACCが必要となるため、それらを使えば事業別EVAを算定することはできる。

 

そういえば、J・フロントリテイリングは、2018年2月期、店長評価にROAを導入した。これについては、当時、事務所ブログで取り上げた。

 

tesmmi.hatenablog.com

 

当時、P/L管理だけでなく、投資効率を含めた資本収益性を重視する企業はまだそれほど多くなかったと記憶している。果たして、その成果はどうだったのだろうか?

 

J・フロントリテイリングの役員が話すように、「ROICは万能な指標ではない」。ROICに限らず、全ての指標は万能ではない。したがって、目的に合わせて適した指標を選定することが重要となる。また、指標は、社内外に対して戦略や事業計画、またその進捗状況を伝達するコミュニケーションツールでもあるから、仮に目的が同じであっても、表現の仕方によって使い分けることは考えられる。

 

つらつらと書いてみたが、実際のところ、J・フロントリテイリングがROICに加えてEVAを併用する真意は分からない。

いずれにしても、指標は、導入することが目的ではなく、指標を活用することにより、経営課題が明確になる、改善策の進捗が把握しやすくなる、モチベーションアップにつながるなどを通じて企業価値が向上に役立つことが期待される。

J・フロントリテイリングの今後に注目したいと思う。

 

 

 

研究開発費(R&D)調整後CFって何?【ホンダの例】

www.nikkei.com

 

「ホンダは財務管理に新たな指標を導入する。中期でみた資金配分の原資を「研究開発費(R&D)を使用前の営業キャッシュフロー(CF)」とし、成長投資の水準を現金収支で管理しやすくする。電気自動車(EV)事業は資金の流出が先行する特性があり、普及動向に応じて投資のタイミングを柔軟に判断する狙いがある。」

 

ホンダは、これを「R&D調整後営業CF(キャッシュ・フロー)」と称し、重要指標の1つとするとのことだ。

 

一般に、企業が将来のための「投資」としての支出が、会計上、全て「投資」として扱われることにはならない。

例えば、日本基準では、製造設備などへの投資はバランスシート上、固定資産に計上され、その後段階的に費用化(減価償却費)される。これが、「投資」が会計上も投資として取り扱われるということだろう。

一方、研究開発費や人件費は、原則として発生した年の費用として処理される。

(なお、製造原価に含まれる人件費は棚卸資産に含まれる形でバランスシートに計上される)

 

そのため、キャッシュ・フロー計算書では、研究開発費や人件費は営業CFに含められることになる。

キャッシュ・フロー計算書は、営業CF、投資CF、財務CFの3つのキャッシュ・フローに区分されるが、こうした会計処理の結果、企業が投資と考える支出が、営業CFと投資CFに分散されて表示されることになる。

 

「新指標を使えば資金の原資側と配分側の両方でR&Dの規模を可視化し、営業CFとR&Dを一体管理しやすくなる。自社の稼ぎ具合に応じ、どの程度の予算までをEVの開発や販売費に使っても余裕のある資金繰りを保てるのかをより緻密に調整できるようになる。」

 

ホンダは、営業CFから既に控除された研究開発費を一旦戻して「R&D調整後営業CF」とし、R&D調整後営業CFをどのように活用したか(どう活用するかの計画にも)を分かりやすく示そうとしたと考える。

 

 

このように、会計基準に基づかない情報をnon-GAAP情報という。

GAAPとは、一般に公正妥当と認められる会計原則(generally accepted accounting principles)を言う。

GAAPに基づいた情報には、例えばP/L、B/Sなどの財務諸表に含まれる各利益、資産、負債等の情報、あるいはこれらの情報を用いたROEや各利益率などの財務指標の数値などがある。

広く一般に適用される会計ルールに基づく情報は、汎用性が高い反面、必ずしも個社の事業の特性を的確に表しているとは限らない。そこで、自社の事業の実態を投資家等により適正に理解してもらうために、中期経営計画や決算説明会などでnon-GAAPを使用することがある。

non-GAAP情報はこちらを参照☟

globis.jp

 

R&D費用を敢えてGAAPに基づかない取り扱いをするということは、ホンダにとってR&D費用が中長期的な企業価値の向上にとって重要なファクターであることを物語っているとも考えられる。

 

自社株買い計画って実行しなくても良いの?

www.nikkei.com

今回も小ネタです。

 

「上場企業による自社株の買い付けが進んでいる。取得枠の総額に対して8割が買い付けを済ませた。KDDIなど多くの企業がほぼ上限まで買い付けたが、ニデックなど自社の株価動向を見ながら買い付けタイミングをうかがう「待機組」もいる。」

 

自社株買いの「待機組」というのは初めて聞いた。

 

日経500種平均株価の採用企業で、4~9月に自社株買いを発表した177社を集計した。同期間に設定した取得枠(9兆8962億円)に対して、実際に買い付けされた額は12月2日までの開示で7兆7936億円と、進捗率は79%となった。取得枠のうち95%以上を既に買い付けた企業は99社あった。背景には株主らから資本効率の改善を求める声があり、積み上がった利益で株主還元する動きが広がっている。」

 

最近は特に株主に阿る経営の声が高まり、株主還元に力を入れる会社が多い。株主還元というと、自社株買いと配当(+株価を上げるキャピタルゲイン)があるが、減配リスクがある配当よりも自社株買いの方が臨機応変に対応しやすいといったメリットがある。

 

一方で、取得枠を設定したが自社株の買い付けが進んでいない企業もあるとのことだ。

「5月に350億円の枠を設けたニデックは2日、自己株式の取得状況を発表し、取得株、取得総額ともゼロだった。」

ニデックは、自社株買いの目的を「株価が市場動向から想定以上に著しく乖離(かいり)した場合や経営環境の変化に応じ、機動的に資本政策を遂行するため」としている。自社株取得枠の期限は25年5月まであるため、今後取得が進む可能性はあるが果たしてどうか。

 

日経新聞朝刊12/4/2024より

 

自己株式の取得は、原則的として株主総会で、

・取得する株式の数

・株式と引き換えに交付する金銭の総額等

・株式を取得することができる期間(1年を超えない期間)

を決議する。

その後、実際の取得は取締役会決議によって行われる。

なお、発表した自社株の取得枠の上限まで実際に自社株を取得する義務はない

 

自社株買いには、現状の株価が割安であるとのメッセージを投資家に伝えるシグナリング効果」があるとされる。メッセージを察知した投資家が会社の株式を取得することにより、株価が上がる可能性が高まる。ちなみに、シグナリング効果は、自社株買いの計画(取得枠)を発表した時点で期待される。

自社株買い計画の発表後の株価推移などの状況の変化によって、自社株買いの進捗が進まない場合ももちろんあるだろうが、シグナリング効果を狙って毎回発表しているとしたら・・・やるやる○○には注意が必要かもしれない。