溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

為替レートが動くと決算書のどこに影響が出るのか?


円安加速で「急激な上下は経済に影響」と麻生財務相 (SankeiBiz) - Yahoo!ニュース BUSINESS

 

麻生太郎財務相は7日の閣議後会見で、日銀が10月31日に追加の金融緩和を決定した後に急速な円安が続いていることに「急激に上下するのは経済にいろいろ影響を与えるのは確か」と述べ、日本経済へのマイナス影響に注視する姿勢を示した。

 自動車など輸出産業の収益拡大によって税収増が見込める一方、原油など輸入品のコスト負担は増え、ガソリンや灯油の消費量が多い地方経済を直撃する。』

 

このところの急激な円安は輸出型産業にとっては追い風となる一方で、原材料を海外から輸入している会社にとってはコストアップに繋がる。わずか2年ほどの期間に円ドル為替レートが70円台から115円と150%近くの下落は確かに実体経済にもそして決算数値の見え方にも大きな影響を及ぼすことになる。

 

ところで、為替の影響は財務諸表のどこに影響として表れるのだろうか?

ここで確認してみたい。

 

まず、P/L。外貨建の売上、仕入は取引時点の為替レートで円換算されるため、為替変動は売上高、売上原価の増加、減少に直接影響する。

売上高を例にとると、同じ1000ドルの売上でも@100円では100,000円、@120円では120,000円と外貨ベースの取引実績は同じでも円ベースの決算書上の印象は異なる。これが『輸出型企業の円安による増収効果』と言われるものである。原価部分を国内で調達していると、一時的には利益率にも好影響となる。

仕入の場合も売上と同様に、外貨ベースでの仕入れ値は変わらなくても円安(円高)になると円貨での仕入れ値が上がる(下がる)のと同様の影響がある。なお、P/L(売上原価)への影響の出方(損益へのインパクトとタイミング)は、たな卸資産の評価方法(先入先出、平均法)によって変わってくることになる(この点はこちらを参照:在庫評価益!? JXホールディングス - 溝口公認会計士事務所ブログ

なお、取引時点の為替レートであるが、輸出入取引を頻繁に繰り返す会社にとって為替レートを日々把握して会計処理するのは大変であろうということで、継続処理を条件に当月中の売上全てに前月末レートなどを使うことも認められている。

以上は国内会社を想定した場合であるが、海外子会社を持つ会社では現地法人の現地通貨のP/L項目(売上、仕入など)が全て円に換算されて親会社(国内会社)の連結決算に取り込まれる。その際、P/Lの各項目はざっくり言って期末時点の為替レート(原則は期中平均レート)で円に換算されるため、現地通貨ベースの業績が前年度と同じでも円安になれば円ベースでのP/Lの金額が大きくなる(売上であれば増収になる)。

 

また、為替差益、差損もある。現在の会計ルールでは売上、仕入といった商取引の後、代金決済までの期間の為替変動は金融取引として商取引とは区別して営業外損益として会計処理される。したがって、為替差益、差損は発生すると営業利益には影響は無く、経常利益に影響を及ぼす。

売掛金の発生、つまり売上時点の為替レートが@120円として、その後回収時点に為替レートが@130円に円安に振れると@10円(×外貨金額)の為替差益が発生する。

なお、代金決済が決算日をまたぐ場合は決算書上一旦期末日の為替レートで換算し直す必要があるので、この場合も為替差益、差損が把握されることになる。

 

売上取引を例に簡単にまとめると、昨年、今年ともに1,000ドルの売上、昨年が@100円、今年が@120円、そして(今年の)1,000ドルの代金回収時が@130円とすると、

円安による増収効果:1,000ドル*(@120円-@100円)=20,000円

売上高に影響

円安による為替差益:1,000ドル*(@130円-@120円)=10,000円

営業外収益(経常利益)に影響

となる。

 

このように、一口にP/Lに及ぼす影響と言ってもその項目は様々である。

 

売上高   ←円安(円高)によって増加(減少)

仕入高   ←円安(円高)によって増加(減少)

売上総利益 ←ケースバイケース(売上円安効果>仕入円安効果→利益率UP)

営業利益  

経常利益  ←為替差損益により変動

 

一方、B/Sでは保有する外貨建の現金、預金等の有価物、外貨建の売上、仕入の対の項目である売掛金や買掛金を始め外貨建の資産、負債はざっくり言って期末時点の為替レートで円に換算する必要があるため、円安/円高によって大きく/小さくなる。 

また、P/Lと同様に海外子会社を多数抱える会社は連結決算の際に各子会社の現地通貨での決算を円に換算する。その結果、例えば円安が進むと何も資産を買わなくても資産が増えたように見えることになる。買収時に発生した『のれん』もその後の為替変動の影響を受ける。

 

さらに、為替換算調整勘定なる項目が純資産に含まれている。海外子会社設立時の資本金は投資時点の為替レートで据え置かれるため、それ以外の項目を決算時点の為替レートに置き換えるとB/Sの左右に差額が生ずる。この差額を埋めるのが、為替換算調整勘定だ。プラザ合意以降、基本的には円高基調なので、多くの日本企業は為替換算調整勘定はマイナスである。意味合いとしては、その海外子会社を今畳んで清算したらこれだけの為替変動による差益、あるいは差損が出るというイメージだろう。

 

設立時                 10年後

1ドル=200円              1ドル=100円  

資産 1,000ドル/資本金 1,000ドル   資産 1,000ドル/資本金 1,000ドル

=200,000円   =200,000円      =100,000円   =200,000円

バランス                        為替換算調整勘定

                             △100,000円

                            これでバランス!

 

以上、ざっと為替変動が決算数値に与える影響を書き出してみた。

 

為替は様々な影響を受けて変動するので、予測も難しく会社にとっては管理し辛いファクターだろう。だが、非情にも決算数値は為替変動を漏れなく受け、経営者は否応無く対策が求められる。大変である。敬意を表したい。

 

そういえば、ある会社の社長がこんなことを言われた。その会社は国籍は日本だが、取引のほとんどが海外、USドルベースで行われている。

「ウチは全部ドルで取引している。ドルの預金だって毎回円に変えているわけじゃない。ドルで再投資してる。なのに何で決算の時だけ実際には損も得もしていないのに、為替差損益で業績ご左右されるのか?ピンとこない」

 

ルールなのでと言えばそれまでだけど、感覚としては分かるなあ〜

機能通貨、導入されると良いかも。