溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

中堅監査法人の合併報道に思う 【太陽・優成の例】

www.nikkei.com

 

中堅監査法人太陽監査法人優成監査法人が来年2018年7月の合併に向けて基本合意したとのこと。

 

基本的には大賛成だ。

予てより、中堅監査法人の統合、大きく言うと業界再編はもっと進めないといけないと思っている。

 

 

まず、品質の問題。特に最近は会計監査の社会的な信頼云々の問題がクローズアップされているので、監査法人の会計監査業務に対する品質の向上がクライアントである会社からもそうだし、社会全体からも求められる。

ところで、会計監査の品質と言っても、結局、

ヒト、カネ、情報に尽きると思う。ここで、会計監査の品質の定義について本来はキッチリとしておきたいのだが、ちょっとヤヤコシイ部分もあるので、ここではぼんやりと一般的な品質をイメージしてもらって良い。

ヒトについては、まずは優秀な人材がどれだけ採用できるかということだ。公認会計士資格(いわゆる2次試験を通過した公認会計士の卵で可)を持っているのだから問題ないのではないか、と思うかもしれないが、それはそれ、試験は試験。一定水準をクリアしたとはいえ個人差はある。一般事業会社と同様に、通常は大手の方が優秀な人材は集まりやすい。

とはいえ、どんな優秀な人材も一人前の会計監査人になるには育成が必要だ。試験に合格しただけの公認会計士の卵が仕事(会計監査)を立派にできるかどうかというとそうでもない(まずできない)。したがって、定期的な研修制度やOJTの質と量が重要だと思う。ここに、カネと情報が効いてくる。大手の監査法人であれば、職員に対して定期的な研修制度を提供したり、クライアントの業種も社数も多いので職員は広範囲の業務経験を得ることができる。現在は(これまでもだが)、会計に関するルールが頻度高く改正される環境であり、会計監査の現場を担当する職員1人1人がいかに正しい知識をタイムリーにアップデイトしているかは会計監査の品質に大きく関わる。また、ルールは知っていても、会計のルールには適用において判断の余地がある(どんなルールもそうだと思うが)。会計ルールの趣旨と実際の取引(会計事実)の両者を合わせて都度適切な判断をするには、やはり数々の業種や企業からの会計監査経験がものを言う。大手になれば会計監査チームの人員の質も高ければ、クライアント企業の役員、従業員の質も高い。かつ、会計監査で問題となる会計処理の質もまた高くなる傾向がある(経験上)。

また、海外とのネットワークもある。大手4社は、あずさ=KPMG、新日本=E&Y、トーマツ=Deloitte、あらた=PwCと、国際的なアカウンティングファームと提携関係にある。世界主要国に拠点があることもそうだが、グローバルな大企業のクライアント、そういったクライアントとの関係によって得られるノウハウ(監査ツール開発含む)、資金力、あるいは世界の主要国における会計士団体に対する影響力などもある国際的な大手アカウンティングファームとの提携が、また日本国内におけるヒト、カネ、情報へ影響を及ぼす。

 

このように、

監査法人の規模の違いは規模にとどまらず、会計監査の品質にも大きく影響する。

 

事業会社が監査法人を選ぶ場合、何を選定基準とするだろうか?そもそも実際のところ会計監査って何しているのかよくは知らないという会社(経営者)も多いのではないか。実際、目にするのは最後に提出される1枚の提携文言が記載された紙(監査報告書)なので、だったら安い方がいい(価格)ということになろう。とはいえ、昨今の企業不祥事、不適切会計を意識すれば、そうは言ってもちゃんとした体制の処(品質)にお願いしたい、という気持ちもあるだろう。品質に関しては、グローバルに事業展開している会社はグループ全体を同じ監査法人(海外ネットワークを含めて)に委託したいというのも含まれる。

価格と品質の均衡という点が、従来、僕が監査法人の業界再編をすべきと思う理由の1つだ。価格と品質の点において、

大手と中堅の監査法人間のかい離が大きすぎるのだ

上述したが、品質を保つにはカネがかかる。当然、かけたコストが監査報酬に反映される。記事の法人業務収入を見ても明らかだろう。監査報酬のレベルは大手よりも中堅(中小)の方が低い(公認会計士業界の目安はあるが)。

一方で、会計監査が義務付けれる上場会社、会社法上の大会社と言っても規模や事業の特殊性、あるいはグローバル展開は様々だろう。ということは、会計監査に求める品質にも幅があるのではないかと思うのだ。あまりにも高すぎる品質は不要、

会社のニーズに応じた品質を適正価格で提供できるような監査法人があれば、という意見もあるだろう。

現状は、ある程度にグローバルに事業展開するような会社であれば4大監査法人をアポイントせざるを得ない状況だ。一方で、大手になればそれなりに”規制”も多く、必ずしも会社の事業実態を斟酌した会計監査を提供するかというと果たして疑問な部分もある。この点は会計監査の品質って何?という部分になるのでここでは詳細は省く。簡単にいうと、明文化されたルールブックに沿って画一的な会計監査手続と判断をするのが会計監査の品質になってしまっている傾向がある。その結果、監査手続きが不効率化(⇒監査報酬アップ)したり、必ずしも会社の事業実態を反映した会計処理とならない場合がある。優成の小松氏の『一定の規模は拡大するものの、四大法人並みになろうとは考えてはいない。迅速で丁寧な対応ができる良さは大切にしていきたい』は、この点を指しているのだろう。当然、会社としては不満を感じるわけだが、さりとて、では監査法人を代えるといっても(他は小規模の処ばかりだし)実質的に受け皿となる監査法人がない・・・ということだ。また、4大監査法人から選べると言っても競合他社と同じ監査法人は情報漏洩などの点からも避けたいという意見もあり、

実際には選択の余地がない(から我慢せざるを得ない)という望ましくない関係が継続することにもなる。これらは会社側の立場から書いているが、監査法人からも会社に対する言い分はあるだろう。お互いのために、本当の意味での自由競争でお互いに見合った会社と監査法人を選択できる環境が望ましいのではないかと思う。

 

そういう意味で、今回の太陽・優成人の合併は歓迎すべきところだ。監査法人の合併も主導権、ポジション、給与体系と言った人事面やらこれまでの利益剰余金の取り扱いなどの課題があり、なかなか難しいのが実態。しかし、太陽の山田氏が言われるように

企業側の選択肢を広げることが社会にとって有益だ

個々の監査法人や個人の事情を超えて、会計監査の社会的意義の向上、もって社会的信頼を獲得という大儀のもと、この流れを加速してもらいたいと思う。

インタビューでは否定されているが、東芝の受け皿なんてのが今回の合併の目的だったなんてのはご勘弁願いたいが・・・