「銀行界が企業へ融資する際に設ける財務制限条項(コベナンツ)の開示に神経をとがらせている。金融庁は条件に該当する企業に有価証券報告書への記載などを求める方針だが、具体的な内容を明らかにすることへの銀行界の抵抗感は強い。金融取引に及ぼす影響は大きく、開示の範囲をどう定めるか今後の焦点になりそうだ。」
とのことだ。
コベナンツという言葉を耳にしたことはあるだろうか?
普通に生活してたら聞くことはないだろうなと、思ったりする。
大学院のクラスでも、そもそも何語ですか?
とか聞かれたりする(笑)
記事には、
「コベナンツは融資や社債で資金調達する企業に課された義務。借り入れの場合、条件に抵触すると銀行は期限前に一括の返済を求めることができる。すべての貸し出しに付くわけでなく、企業の信用力や融資額を勘案して決める。」
と説明がある。
コベナンツは、銀行などが企業へ融資をする際に契約書に記載する特約事項のことだ。
債務者が特約事項に抵触する行為を行い資金提供者に不利益が生じる場合は、債務者は期限の利益を喪失することになる。記事にあるように、コベナンツに違反すると資金提供者は債務者に対して融資の一括返済を求めることもあり得る(契約による)ということだ。期限前に融資が引き上げられると、企業などの債務者にとっては事業継続の危機にも至る重要な事項だ。
コベナンツにはいくつか種類があるが、重要視されるのが財務制限条項だろう。
【主なコベナンツの種類】
・情報開示義務
・担保提供制限条項(ネガティブ・プレッジ条項)
・格付維持条項
・事業維持条項
・資産譲渡制限条項
・財務制限条項
財務制限条項の代表的なものが、添付の日経新聞の記事に記載されている。
(日経新聞7/18/2023より)
財務制限条項は、資金提供者の金融機関にとっては、
・融資先の財務状況を事前に察知することができる
・融資の迅速な回収につながる
・比較的信用リスクの高い企業への融資も可能になる
などのメリットがある反面、
・融資後の継続的な監視等の管理コストの負担
などのデメリットもある(融資先との関係悪化も・・・)。
一方、融資を受ける企業にとっても、
・信用力が低くても融資を受けられる可能性が広がる
・無担保で融資を受けられる
などのメリットがある。これにより、事業継続や成長が可能になる。無担保で融資を受けられるというのは、担保に供する資産が無い場合に財務制限条項を課すという方が分かりやすいかもしれない。
もちろんメリットばかりではなく、
・財務制限条項に抵触すれば、融資を引き揚げられるリスクがある
・経営の自由度が制約される
などのデメリット(というか制限)は理解しておくべきだ。
また、財務制限条項は、純資産比率、流動比率など財務諸表や財務諸表から得られる財務比率を用いて設定されることが多い。そのため、企業としては財務制限条項に抵触しないように数値等を操作するインセンティブが働きやすいとされる。そのため、会計監査では、有利子負債等に対する財務制限条項の有無を確かめ、存在する場合には対象となる財務諸表の項目は監査リスクが高いエリアとして監査手続きを検討することになる。
「投資家にとり、融資契約のコベナンツが開示されればリスクの実態を把握しやすくなる。業績が悪化した企業の貸付金を銀行が回収する一方、社債権者が置き去りにされる事態を防ぐ効果もある。」
今回、金融庁がコベナンツ開示を求める(強化する)趣旨は、資金提供者に限らず広く財務諸表(有価証券報告書)の利用者に対して投資に関する有用な情報を提供することが目的だ。
ところで、従来(というか今も)、有価証券報告書には財務制限条項に関する情報は記載されている。
【現在の有価証券報告書の財務制限条項の記載箇所】
• 経営上の重要な契約等(事業の状況)
• 財務諸表の追加情報、借入金等明細表(経理の状況)
しかし、日本の会計基準では全ての財務制限条項について記載が求められるわけでなく、「利害関係者が会社の財政状況、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関して適切な判断を行う上で必要と認めた場合」に限って記載が必要となる。実態としては、日本の多くの企業は財務制限条項の記載については消極的と言われる。これに対してIFRSや米国基準(採用している会社)では、項目や内容に関して積極的な開示が多くみられるとのことであり、基準間の開示レベルの相違を解消することも今回の目的だろう。
これに対する銀行と企業の反応について、記事には次のようにある。
「銀行界では個別の取引を公表することに抵抗感が根強い。大手行の幹部は「企業に厳格な条件が課されていることが分かると、そうまでしないと融資を受けられないのかとの思惑が広がりかねない」と指摘。「コベナンツを外したがる企業が増えるのではないか」と懸念する。
銀行にとってコベナンツには信用補完の側面がある。担当者は「実際に外したら追加の担保を設定したり、金利を引き上げたりする必要が出てくる」と話す。貸付金利は開示の対象外となりそうだが、借入金額や担保の内容など具体的にどこまで開示を求めるのか。銀行界と金融庁の調整はこれから本格化する。」
さもありなん、という印象だ。
そういうことじゃないのだが・・・コベナンツが付されるかどうかは既に金融機関と企業との間で決まった話なのに、公表するかどうかでその判断が変わり得るという・・・いやはや、日本はまだまだ情報統制と言うか、愚民政策というか、自己責任の考え方が浸透していないなあと感じる・・・