溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。元BIG4パートナー。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

決算発表ポイント解説ブログ 【IHIの例】

www.nikkei.com

 

決算発表解説ブログと題しながら、いきなり決算発表でない記事を取り上げてしまった(汗)・・・

この時期は3月決算会社の第3四半期(Q)決算発表の時期だ。2月中旬のタイムリミットまでこれから続々と上場会社の決算発表がなされる。また、決算発表の前に『前さばき』としてこんな数字になるよ~とか、こんな損失が発生するよ~と、いざ決算発表して投資家(や株価)がアップセットしないように事前の情報開示をする会社もある。

IHIはまさにその例だ。

IHIは23日、米国の連結子会社の関係会社株式評価損と国内の関連会社の債務保証に伴い、2017年3月期に計265億円の損失が発生すると発表した。』

 

日経にはこのような書き出し。

要素としては、株式評価損と債務保証の2つがあるので、1つずつ取り上げる。

 

①関係会社株式評価損

米子会社の採算が悪化により個別では関係会社株式評価損として155億円の特別損失を計上、連結ベースでも同様の額が営業損益の押し下げ要因となる。

 

IHIの個別と連結それぞれの影響が書かれているので少々分かりづらいかもしれない。

関係株式評価損(155億円)は、IHI個社の決算で計上される(特別損失)。

 

簡単な例で説明する。

 

親会社が子会社に200億の出資(子会社設立)

 

(親会社)子会社株式 200億円 ⇒(子会社)資本金 200億円

 

子会社の業績が不振で、損失が溜り溜まって、155億円になったとする。

すると、子会社の純資産は

 

(子会社) 資本金 200億円

     △欠損金 155億円

      純資産  45億円

と純資産が45億円になる。親会社から見れば、200億円の投資が45億に目減ったことになる。

このような場合、会計ルールではざっと半値未満に投資価値が下落した場合(さらにいうと、業績の回復が難しい場合)、投資額の価値を切り下げる必要がある。

これが、IHIが今回発表した関係会社株式評価損の意味だ。

 

一方で、IHIグループの連結決算への影響はどうかというと、連結決算では子会社の決算書(P/L、B/S、C/S等)を合計することから連結作業をスタートする。子会社の業績の悪化は子会社のP/Lの至るところに表れているだろうから、それがそのままにIHIの連結P/Lに反映される。

 

これも簡単な例で示す。

155億円の損失は累積的なものだろうが、単純化して今年度の損失が155億円とする。

子会社のP/L

売上高    500

売上原価   400

売上総利益  100

営業費用   255

営業利益  △155

税金費用    0  ・・・営業外、特別は割愛した

当期純利益 △155

とすると、これがIHI親会社のP/Lに合計されるので、連結ベースでは営業利益に155億円の損失が表れることになる。

 

ちなみに、連結決算では、IHI親会社での株式評価損155億円は取り消される。155億円の株式評価損のそもそもの原因は、子会社の業績不振であるが、連結P/Lでは当の子会社の業績(P/L)を取り込んで、結果155億円の損失を反映しているため、株式評価損をそのまま生かしておくとダブるためだ。

 

②債務保証

創薬関連ではは医薬品の製造会社に保証していた110億円の債務を特別損失として計上するとのこと。

債務保証と損失の関係がもしかしたら分かりにくいかもしれない。

UMNファーマと共同設立した会社UNIGENの製造資金及び運転資金に係る債務の保証をIHIが行っていることが話のスタートだ。そして、諸事情により保証債務の 履行可能性及び回収可能性,つまりIHIにとっては債務の肩代わりによる損失の発生の可能性が高まったものと判断し,保証債務額の全額である 110 億円を債務保証損失引当金(特別損失)とし て計上するというものだ。IHIとしては、他人(といっても子会社だが)の借金を代理弁済するが、この支出はIHIにとって将来の投資でもないし、現在や将来の収益獲得のための費用でもない、単なる損失(費用と損失の違いも近くに書いてみよう・・・)だ。今回は、未だ債務保証が履行されたわけではなく、債務保証の履行の可能性が高まったということで引当金として計上されたが、確定損失でも引当金繰入でも会計上、P/Lへの影響は同じだ(税務上の取り扱いは異なる)。

 

 以上、IHIのプレスリリースの内容を説明してみた。

好評であればシリーズ化してみたい(笑)

 

ちなみに、

 

『同社は17年3月期の最終損益をゼロ(前期は15億円の黒字)と見込んでいる。資産売却などにより2月1日の16年4~12月期の決算発表では通期の業績予想を据え置く。』

 

と締めている。3Qの決算発表は同時に本決算(3月)の業績予想とも大いに関係する(投資家の関心)。そのため、会社としては、3Qの業績だけでなくそれも踏まえて本決算をどう着地させるかを考える必要がある。3Q決算はそういうタイミングでもある。

 

IHIのプレスリリースは☟

https://www.ihi.co.jp/var/ezwebin_site/storage/original/application/e6d341b705b3adfc8c4c1f594076aedb.pdf