前回に続いて、収益認識会計基準の個別論点。
今回は、リベートの会計処理について。
リベートは、
仕入/売上割戻し、販売奨励金、協賛金、インセンティブ、バリューディスカウント
など業界や商慣習によって呼び名も様々だ。
流通業、家電、医薬、食品など様々な業界で従来活用されている。
リベートは、メーカーにとっては流通の支配や自社製品を卸問屋や小売店に対してエンドユーザーへプッシュするためのツールとして機能する一方、過度なリベートは独禁法違反になるケースもある。また、リベートは、複雑かつ実態がブラックボックス化すると海外から批判を浴びることもある。メーカーにとっても、事務処理の負担など非効率な面もあり、リベートの廃止や見直しを検討するメーカーも増えているという。
リベートの会計処理も様々だ。
売上から控除する場合もあれば、販売促進費(販売費及び一般管理費)として計上する会社もある。
従来は、リベートの会計処理として明確なルールはなかったため、会社独自の判断や業界の商慣習にならった会計処理が行われてきた。
しかしその結果、会計処理が、売上値引なのか販管費なのかによって、売上高、売上総利益率への影響も異なる。
前回の売上の総額、純額の問題と同様、企業間の比較可能性が保てないおそれが生じる。
そこで、収益認識会計基準でリベートの会計処理が明確になった。
リベートの会計処理
収益認識会計基準では、リベートは変動対価の取引にカテゴライズされる。変動対価とは、文字通り、取引条件によって取引価格が変動する可能性のある取引価格のことだ。変動対価には、リベートのほか、返品権付販売、仮単価での販売、ペナルティー等が含まれる。
リベートは、収益認識会計基準では、変動対価の中でも顧客に支払われる対価として取り扱われている。
変動対価を含む販売取引の場合、発生し得る対価で売上を計上する。
発生し得る対価とは、例えば、単価100円で100個販売を達成すると、顧客へリベートが1,000円支払われるとして、その達成が確実視される場合、売上高は、9,000円(100円*100個ー1,000円)となる。
従来、売上を10,000円計上して、リベートを販促費1,000円と計上していた場合と比較すると、P/Lは以下のように変わる。
なお、売上原価は7,000円(=@700円*100個)とする。
従来 今後 (単位:円)
売上 10,000 9,000
売上原価 7,000 7,000
売上総利益 3,000 2,000
販管費 1,000 0
営業利益 2,000 2,000
ここから、少し詳細に説明する。
・変動対価かどうかの判断
取引契約上、リベートの条件等が明記されている場合はもちろんだが、実質的にリベートの発生可能性が高いと見込まれる場合も含まれる。例えば、業界にリベートの慣行が根付いている、過去の実績等から顧客がリベートを期待している等の場合が挙げられる。実際には、取引ごとの個別判断になるが、まあ、常識的に見て、リベートが発生するかどうかで判断することになるだろう。
・発生し得る対価
発生し得る対価は、以下で見積もる。
最頻値:発生し得る対価の額のうち、最も可能性の高い取引価格
期待値:発生し得る対価の額の加重平均
最頻値は、発生し得る対価が2つの場合に限る。白か黒か、ということで、白の可能性が高ければ白の対価となる。一方、期待値は、条件等により対価が起こり得るパターンが3つ以上の場合だ。この場合は、それぞれのパターン(対価)の発生確率を加重平均で対価を見積る。
上述のリベートの例が、最頻値の一例だ。では、最頻値、100個販売が達成されるか/されないかのどっちが多いかをどう判断するのか、は、過去の同様のケースの実績が参考になるだろう。
期待値の例を1つ挙げる。
先ほどのリベートで、70個達成で500円、90個達成で800円、100個達成で1,000円と段階的なリベート設定がされているとする。
そして、過去の同様のケースから、それぞれの達成確率が、40%、20%、20%で、50個に到達しない確率が20%の場合、
発生するリベート見積り額=500円*40%+800円*20%+1,000円*20%
=560円
となる。
したがって、売上計上額は、
100円*100個ーリベート見積額560円=9,440円
となる。
この場合の販売時の会計処理は以下となる。
(単位:円)
借)売掛金 10,000 貸)売上 9,440
返金負債 560
なお、変動対価の見積りは、各会計期間末日に見直す必要がある。
また、リベートを認識するタイミングについても補足しておく。
先の例では、リベートを支払う時点ではなく、販売時点で将来支払われるのリベートを売上高から控除した。これは、以下の理由による。
収益認識会計基準では、リベートなど顧客に支払われる対価を取引価格から減額する場合には、次の①② のいずれか遅い方が発生した時点で(または発生するにつれて)収益を減額する。
①関連する財またはサービスの移転に対する収益を認識する時
②企業が対価を支払うかまたは支払を約束する時
②は、支払が将来の事象を条件とする場合も含み、支払の約束は取引慣行に基づく場合も対象となる。
リベートの契約(実質的な内容の取り決め)は、商品の販売前にされている場合が多いと思われる。とすると、いずれか遅いタイミングは①となる。したがって、リベートは、通常、商品の販売時点で認識(販売価格から減額)するという訳だ。
以上、ざっと、リベートの会計処理が2021年4月1日以降、どう変わるかについて書いてみた。税務との関連も気になるところだが、長くなりそうなので別の機会にしたいと思う。
さて、収益認識会計基準の個別論点の第3弾があるかどうか、
リクエスト次第、かな・・・