溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

本人と代理人の境目は⁉【収益認識会計基準】

収益認識会計基準の個別論点についてリクエストをもらったので、

今回は、本人取引と代理人取引の区分について書いてみる。

 

まず、そもそもどんな内容かを少し触れておく。

 

例えば、BがAから商品を仕入れて、Cへ販売するような取引が検討の対象となる。

 

A(仕入先)⇒B(当社)⇒C(顧客)

        仕入値30    売価50

 

問題となるのは、Bの売上はいくらか?

だ。驚くかもしれないが、実はこれまではルールとして明文化されていなかった

Cへの売価が50なのだから、50に決まっているだろう、思うかもしれないが、Bの役割が、AとCをつなぐ仲介の場合はどうだろうか?

実際の商取引は複雑だ。様々な取引条件があるだろう。取引条件によっては、Bの販売価格は50が不適当な場合もあるかもしれない。

これまでは、明確なルールが無かったため、売上計上額は業界の慣習等に基づく会社の判断によっていた。その結果、同一の取引について会計処理が異なる場合もあり、企業間の決算数値(売上高)に比較可能性が保てないことがあった。

 

売上は、会社のビジネスの規模信用力を表す重要な財務情報だ。 

そこで、収益認識会計基準では、会社が取引の当事者なのか、それとも、当事者から取引の一部を代行する者なのかを区分し、取引における会社の立場によって会計処理を統一する。そして、取引の当事者を本人、代行者を代理人という。

 

会社が取引の本人である場合は、顧客に対する販売価格(総額)が売上高となり、代理人の場合は、顧客への販売価格と仕入先からの仕入値の差額(純額)が売上高となる。要するに、代理人の売上は手数料売上ということだ。上の例では、本人の場合の売上高は50、代理人の場合の売上高は20となる。

 

つまり、取引の本人か代理人かで、売上の金額が大きく変わることになる。

繰り返すが、売上高は会社にとって重要な経営数値であるため、従来、多くの会社は本人として販売価格の総額を売上高として計上してきたと推察する。

従来の取引を、収益認識会計基準に照らして改めて検討すると、取引の代理人に該当し、純額で売上計上すべきということも大いに考えられる。

前回のJ・フロントリテイリングのように、総額から純額への変更となれば、決算書の”見栄え”は大きく変わるだろう。

 

【本人・代理人の区分の基準】

①顧客に対する契約の履行について、主たる責任を有する

②在庫リスクを有する

③販売価格に対する裁量権を有する

 

①例えば電気製品の販売の場合、購入した顧客は電気製品が適切に機能することを期待するだろう。ということは、取引の本人としては、顧客の期待通りのベネフィットを享受させる責任があることになる。品質に対する問い合わせやクレームがあった場合に、「あ、それはウチでは分かりませんから、メーカーに直接問い合わせてください」となると、本人とは言えない。誤解の無いように補足すると、必ずしも販売した会社が修理をする責任があるということではない。製造物責任はメーカーにあるので実際の修理等はメーカーが実施することなると思うが、取引の本人としては窓口として顧客に対して一義的な責任を果たし、別途メーカーとの交渉等を行うことが求められるだろう。

 

在庫リスクとは、在庫に対する責任を持つということだ。その場合、責任だけではなく、在庫から得られる利益(ベネフィット)も同様だ。例えば、デパートなどでみられる消化仕入の場合、商品はデパートにあるが、売れ残った場合にメーカーへの返品が可能という場合は、実質的な在庫リスクはメーカ―が負担していると考えられる。

 

③販売価格に対する裁量権は在庫リスクとも関係する。例えば、販売価格は商品やメーカーのイメージやブランドにも関わるため、小売店に勝手な安売りを認めないというような場合だ。仕入れた商品をいくらで販売しようと仕入先からとやかく言われないという契約や状況であれば、価格に対する裁量権があると判断できるだろう。

 

取引の本人に該当するか、それとも代理人となるかを要素分解すると上記3要素だが、それぞれが互いに関連しあっている部分もあるので、通常は3つとも〇かあるいは3つとも✕となるのではないかと思う。しかし、なかには取引条件等から3つとも〇あるいは✕とはならないケースもあるかもしれない。その場合は、取引内容から総合的に判断することになるだろう。

その際には、やはり①がベースになるのではないかと考える。

収益認識会計基準では、販売取引について、まず、顧客との契約を識別することから検討を始める。そして、履行義務、取引価格、履行義務への取引価格の配分、履行に応じた収益認識という検討の流れだ。

取引の代理人というと、売上が純額(減額)になることもありネガティブなイメージがあるかもしれないが、そもそも顧客とどんな(販売)契約をしているかの認識が従来は曖昧かつ形式的だったのではないかと考える。

例えば、販売代行業務においても販売代行という契約に対してはあくまで取引の本人であり、上の例で言えばその取引価格が20であるところを従来は形式的な販売価格の50を履行義務に対する対価と誤解していたという見方もできる。

 

一から十まで事前に決めるのは堅苦しい、取引の中でお互い話し合って柔軟に対応していこうという、ある意味日本的経営の賜物かも知れないが、何を契約しているか、販売しているかが不明確な状況って、会計処理以前に取引上、恐ろしいことではないかと思うのだが・・・