溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

売上高が激減する⁉【収益認識会計基準】

2021年4月1日以降開始事業年度から、

収益認識に関する会計基準(収益認識会計基準)が適用開始となる。

3月決算の会社であれば来期から、12月決算であれば再来期からの適用

ということだ。

なお、制度開始(強制適用)に先だって早期適用(2019年4月~)も可能だが、

現時点で早期適用に踏み切った会社は30数社に過ぎないとのこと。

上場会社が約3,750社あるとすると、相当少ないのが分かるだろう。

 

(☟こちらの情報を参考にさせていただいた)

【加藤】収益認識会計基準の先行適用状況 - 株式会社ラルクはIPO(株式公開、上場)を支援するコンサルティングを行っております。新規上場

 

収益認識会計基準は、国際財務報告基準IFRS)とのコンバージェンスの一環として制定されたのは周知の事実だ。

既にIFRSを適用している(適用を決定している)日本企業が約230社あることから見ても相当少ない印象だ。収益認識会計基準は、IFRS(15号顧客との契約から生じる収益)を参照していることから、実質的に同等の準備、検討であろうと考えるが、果たして・・・まあ、色々とあるのだろう。

 

なお、米国会計基準(USGAAP)の収益認識に関する会計基準IFRS(15号)は文言レベルで概ね同一にまで調整されている。

収益認識会計基準は、まさに収益認識のグローバルスタンダードに統合する流れだ。

 

さて、収益認識会計基準で一体何が変わるのか?

 

簡単に言うと、売上の

 

金額(いくら)

時点(いつ)

 

が変わる。

 

金額(いくら)の典型例が、

 

受託販売返品権付販売だ。

 

受託販売は消化仕入などとも呼ばれ、デパートなどで、顧客に販売した時点で売上計上と同時に、メーカーからの仕入計上を行うケースだ。例えば、50で仕入れた商品を100で売上げると、P/L上は売上100となるが、収益認識会計基準では売上は50となる。当該取引におけるデパートの機能は、メーカーと顧客の仲介機能であり、デパートが創出した新たな経済的価値は50ということだ。

 

                従来    会計基準

売上    100              50 

原価           50                0

利益   50              50

利益率  50%    100%

 

なお、この場合も利益は変わらない。

利益率はむしろ改善することになる。

この点は、IFRSでも全く同様で、以前、J・フロントリテイリングIFRSの任意適用を開始した際に、デパート事業の消化仕入に関する収益認識方法の違いによるインパクトが約6,500億円(減少率約60%)と発表した。

 

tesmmi.hatenablog.com

 

返品権付販売は、一定条件下で顧客が商品を返品可能な販売が該当する。最近では、ECの普及に伴いアパレル事業など返品OKの販売も増えている。

従来は、返品権付販売では、販売した商品全数量に対して全額売上を計上し、将来において返品が見込まれる数量分に相当する売上総利益について返品調整引当金を計上していた。売上総利益については返品見込み分が控除されていたが、売上高は全く考慮されていなかった。

これに対して、収益認識会計基準では、販売数量の内、将来返品が見込まれる数量分については、売上を計上せず(返品負債を計上)、返品期日が経過するなど返品の可能性が無くなった時点で、保留分の売上を計上することになる。

参考までに、購入後1週間以内、かつ未使用等の条件を満たす場合、返品可能という条件で衣料品を販売する場合の会計処理を示す。

 

前提)単価1,000円(原価700円)の商品を100着販売し、うち5着の返品が見込まれる。

 

【会計処理】 

(従来)

借)現金 100,000円 /貸)売上 100,000円

借)売上原価 70,000円 /貸)商品 70,000円

借)返品調整引当金繰入額 1,500円 /貸)返品調整引当金 1,500円

 

(収益認識会計基準

借)現金 100,000円 /貸)売上 95,000円

              返品負債  5,000円

借)売上原価 66,500円/貸)商品 70,000円 

   返品資産  3,500円

 

となる。

利益に対する影響は無いが、売上高が見込返品分減少するのが分かるだろうか。

 

なお、返品調整引当金は収益認識会計基準の適用開始のタイミングで廃止となる。

(返品調整引当金についてはコチラ☟を参照)

tesmmi.hatenablog.com

 

他に金額(いくら)の変更に該当する取引は、

仲介取引(実質的な手数料ビジネス)

リベート

酒類メーカー(酒税)

有償支給取引(材料等)

などが挙げられる。

業種的にも、小売業、卸売業を始め不動産仲介業、製造業一般など幅広い業種に影響があると考えらえる。また、J・フロントリテイリングのように金額的にも多額となることが予想される。

 

時点(いつ)の典型例は、

 

製品と保守サービスのセット販売

 

だ。

 

製品100を購入すると2年間の保守サービスがオマケされるとする。従来は、製品の販売時に100の売上計上が通例だったのではないか。

ところが、収益認識会計基準では、製品と2年間の保守サービスの通常販売価格情報を入手し、例えば通常販売価格がそれぞれ、製品90、2年間保守サービス30とすると、製品の販売価格は75(=100*90/120)、保守サービスは25(=100*30/120)となる。つまり、1年目の売上は87.5(=75+25/2)となり、従来よりも12.5減少することになる。もちろん、取引金額自体に変更が無ければ、2期合計した売上総額に変化はないが、1年目、2年目の各年度の売上金額に影響がある。

 

他に時点(いつ)の問題が予想される販売取引は、 

スポーツクラブなどの入会手数料

ライセンス契約

ポイント制度

などが挙げられる。

 

なお、出荷基準については、代替的な取り扱いとして容認される。

日本企業の多くが採用する出荷基準は、収益認識家計基準の原則的な考え方からは否定される。実際、IFRSでは出荷基準は認められず、先行してIFRSを任意適用した会社は出荷基準から着荷基準等への売上計上タイミングの変更に苦慮したと思われる。

収益認識会計基準では、IFRS同様、原則的には出荷基準は売上計上の要件を満たさないものの、国内販売に限って、出荷から支配の移転(通常は着荷)までの期間が通常の期間である場合は、出荷基準で収益を認識することができる、としている。

 

ここまで、ざっくりと収益認識会計基準で何が変わるのかについて書いた。

売上計上の方法が大きく変更になるように思うかもしれないが、実は売上の基本的な考え方は従来と大きく変わることはない。

従来は実現主義という考え方にしたがって会計処理をしてきた。

日用品の小売販売のような比較的シンプルな取引であれば、実現主義にしたがった場合も、収益認識会計基準と同様の会計処理になるのだが、実際のビジネスは多種多様、取引条件が複雑な場合なるもあるだろう。しかしながら、日本には、ソフトウエア工事売上などの特定の取引を除き、売上、つまり収益認識に関する包括的な会計基準が存在しなかった(実現主義は、ルールではなく考え方)。

従来は、実現主義のコンセプトを念頭に置いて、会社ごとに会計処理(いつ、いくらの売上を計上するか)を判断してきた。

 

tesmmi.hatenablog.com

 

その結果、同一の取引に対して会社によって異なる会計処理となることもあり、他社との売上高の比較可能性に問題が生じることになる・・・

こうした点も、収益認識会計基準の導入の背景となる。

 

これまで当たり前だったと販売取引の会計処理も、収益認識基準に当てはめて改めて検討すると、会計処理の変更が必要となる場合もある。

3月決算の会社では、来期からの実施に向けて、現在最終確認中と思う。

 

次回以降、例に挙げた具体的な販売取引について、収益認識会計基準に従った場合の会計処理、従来の会計処理との変更点を解説してみたい(ニーズがあれば(笑))。