溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

イオン、ウエルシア子会社化で特別利益300億円 ~株式取得で特別利益の仕組み~


イオン、ウエルシア子会社化で特別利益300億円 15年2月期 :日本経済新聞

 

『イオンは持ち分法適用会社だったウエルシアホールディングスを連結子会社化したことで、2015年2月期に300億円規模の特別利益を計上する見通しだ。子会社化以前から保有していたウエルシア株の簿価が時価に比べ低く、段階取得に係る差益が発生すると見込まれるためだ。

 段階取得に係る差益とは、もともと株式の一部を保有していた会社を子会社化した時に発生する利益のことを指す。イオンはもともと保有していたウエルシア株の簿価と、子会社化した際の取得価格との差に基づき特別利益を計上する。』

 

ちょっとマニアック(?)な会計処理が報道されていたので紹介してみたい。

と言っても、現在の(連結)会計のルールによる会計処理は記事の通りなのだが、

単純疑問として『なんで株を買っただけで利益が出るのか?』と不思議に思った方もいるのではないか?

通常、株式取引においても株は買っただけではなく、売って初めて利益が出る(売却価格>購入価格)。

 

例えば、ある会社(A社)が他のある会社(B社)の株式を買い進めて、過半数の株式(議決権)を保有した時点でB社を子会社とする。この場合の株券(議決権)を過半数押さえた時点を連結会計ルールでは『支配獲得時』と言い、この時点で取得した株式に対応するB社の持ち分について支配獲得時の時価評価をする必要があるとしている。そして、ポイントは段階取得、例えば1回目の株式取得30%、2回で30%取得して子会社(60%議決権取得)の場合、1回目の30%取得時にB社の対応する持ち分を時価評価したとしても、2回目の30%取得時(この時点で支配獲得)にB社の対応する持ち分『全部』(この場合は60%)を、時価評価『し直す』ことが必要となる。

この支配獲得時に1回目に取得した分を改めて時価評価し直すことが理由で『段階取得に係る差益』(特別利益)が認識されることになる。

 

段階的に子会社とするにはざっと以下の2パターンがある。

1.1回目10%取得、2回目50%取得で支配獲得

2.1回目30%取得、2回目30%取得で支配獲得

違いは1回目の取得で持分法適用会社(ざっとした理解では株式の20%以上を取得する場合)になるかどうかである。イオンのケースは2のパターンであるが、段階取得に係る差益が認識される点では同じであるので、単純化のために1のパターンで会計処理を見てみよう。

 

1年目にB社の財務状況が純資産700の時にその10%(なのでその値打ちは700*10%の70)を150、要するに1%当り15で取得した。この差額80については財務諸表には反映されていないB社の保有不動産の含み益や『のれん』といった目に見えない価値を評価したものと言える。

2年目にB社の財務状況が純資産800の時にその50%(なのでその値打ちは800*50%の400)を1,000、今度は1%当り20で取得した。1回目の取得時よりも1%の取得単価が@ 15→@20にアップしている。

アップ要因としては、その間のB社の利益、保有不動産の含み益増加、『のれん』価値の増加などが考えられる。要はその間にB社の値打が高くなった訳だ。

 

そして、ここがポイントなのだが、2回目取得時点1回目に取得した分(@15)も合わせて@20で評価しなおすという点だ。

 

つまり、累計取得分60%*@20=1,200が支配獲得時の保有株式の価値となる。一方で、2回のB社株式の取得原価(支払った対価)合計は1,150(150+1,000)である。

この差額、50(1,200-1,500)が『段階取得に係る差益』(特別利益)であり、イオンのケースでは300億円となる。

 

この意味をどう考えれば良いのか?

一気に(2年目に)60%取得して子会社にしたら、1,200払わないと買えなかったけど、先見の明で、ここまで価値が高まる前に少し分(10%)を安く買っていたから結果1,150の支出で済んだ。そのご褒美ということだろうか(笑)。

それはともかく、一気に過半数を押さえて子会社化するよりも段階的に株式を取得して子会社化すると(子会社の値打ちが徐々に高まる前提であれば)利益が出る、という子会社化するプロセスの違いによって損益に違いが出るということは知っておいてもよいかも知れない。 

 

なお、支配獲得後に追加で株式を取得する場合は、このような利益が出ることは無い。念のため…