溝口公認会計士事務所ブログ

京都在住、大阪で活動している公認会計士です。会計監査、内部監査代行、内部統制の構築・改善業務、IPO支援業務、原価計算制度構築・改善業務、企業価値算定業務等のコンサルティング業務を中心に活動する傍ら、グロービス経営大学院大学でアカウンティングの講師もしています。日頃の業務の中で気づいたことをブログに書いていきます。【保有資格】公認会計士(CPA)、公認内部監査人(CIA)、証券アナリスト協会検定会員(CMA)、地方監査会計技能士(CIPFA)、(元)公認情報システム監査人(CISA) 

実際、運転資本ってどう理解すれば良いの?

運転資本ってどう理解すれば良いのか?という質問を受けることがあるので今回は運転資本について書いてみたい。

 

運転資本はワーキングキャピタルとも表現され、例えば以下のように表される。

運転資本=売上債権+たな卸資産-仕入債務

図にすると、

   
売上債権 仕入債務
   
   
   
たな卸資産 運転資本
   
   

運転資本という勘定科目は貸借対照表(B/S)にはないので、さしずめ『借入金』と言ったところだ。

 

この運転資本=借入金(借金)について、簡単なモデルを使って説明する。

前提

1月末に商品100を仕入れ、支払は1か月後(2月末)

2月末に商品100を100で販売(商品は仕入れた1か月後に販売)

4月末に商品代金100を回収(販売の2か月後に代金回収)

このサイクルを毎月繰り返す。

(仕入と売上が同額なのは単純化のため)

上の式に当てはめると、

運転資本:売上債権200(2か月分の売上)+たな卸資産100(1か月分の在庫)-仕入債務100(1か月分の仕入)=200

となる。つまり借入金が200必要と言うことなのだが、これがピンとこない方もいるだろう。

上代金の回収(4月末)の前に2月末に仕入の支払100が必要だ。では、100持っておけば良いと思うかもしれないが、実はこのサイクルを毎月繰り返しているので3月末(2月仕入分)にさらに100の仕入の支払いが必要となる。つまり、売上の代金回収の4月末までに合計200の資金需要(”つなぎ資金”)が発生することになる(3月仕入分は4月末の売上代金回収で賄うとする)。この資金需要が運転資本であり、借入で賄うとするとその分借入金(借金)が必要になると言う訳だ。

この例からも理解できるが、仕入の支払から売上代金の回収までの期が長くなればなるほどつなぎ資金が多く必要になるということから、キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)を厳しく管理する会社も増えてきている。

キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)

売上債権回転日数+棚卸資産回転日数-仕入債務回転日数

 

 さて、運転資本分だけの借金が必要になる。すなわち、図の運転資本の面積が大きくなると会社の借金が大きくなるが、それは以下の場合が考えられる。

・売上債権が大きくなる⇒売上が成長する。売掛金の回収が遅れる。

・たな卸資産が大きくなる⇒売上が成長する。在庫が売れずに溜まる。

・仕入債務が小さくなる⇒売上が減少する。買掛金の支払いサイトが短縮される。

売上債権、たな卸資産、仕入債務は売上高に密接に関連するので、運転資本も売上高の増減によるところが大きいが、売上高が一定であっても売掛金やたな卸資産の滞留、買掛金の支払期間の短縮化によって運転資本は影響を受ける。

 

売掛金の回収を早めろ、無駄な在庫を持つな、と社内でよく言われることであるが、運転資本の観点からも一理ありということだ。

売掛期の回収が遅れるということは、本来は得意先が借金をしてでもウチに支払うべき代金を内が借金をして(金利を払いながら)待っていることを意味する。

不要な借金をすることがいかに経営を圧迫するかが解ると思う。

これが運転資本管理の重要ポイントの1つだ。

 

売掛金やたな卸資産が滞留すると言った良くない兆候が現れれば経営者も『資金繰りは大丈夫か?』と反応するだろうが、全くそのような悪しき兆候がない場合でも運転資本が増加することがある。売上が成長している、つまりビジネスが順調に大きくなっている場合である。

 

         
      売上債権 仕入債務
      150 150
         
         
売上債権 仕入債務      
100 100      
       
      たな卸資産 運転資本
たな卸資産 運転資本   150 150
100 100      
       

 

 

これは売上だけが1.5倍になり、売上債権の回収サイト、仕入債務の支払いサイト、そしてたな卸資産の在庫期間が変化しなかった場合である。売上が1.5倍になるということは(利益率が一定であれば)仕入も1.5倍になる。その結果、運転資本も1.5倍の150となる。つまり、追加の資金需要が50(50追加の借金が必要)発生するので、事前に把握してファイナンス(借入)が必要とある。しかしながら、売掛金やたな卸資産の滞留のような悪しき兆候でないため盲点になり易いのである。こういった事例はベンチャー企業などの成長著しい企業に当てはまる。ビジネスが順調な場合こそ資金需要に備えよ、運転資本管理のポイントの2つ目はこの点である。金利負担も何も借りられて初めて持てる悩みであり、調達できなければ資金ショートとなる。

 

ところで、運転資本は売上債権+たな卸資産-仕入債務 以外に

運転資本=流動資産(現金除く)-流動負債(有利子負債除く)

運転資本=流動資産流動負債(有利子負債除く)

と表現されることもある。

そもそも運転本=有利子負債(借入金)であるからそれを除く(それが知りたいのだ)のは当然として、先の

運転資本=売上債権+たな卸資産-仕入債務

を含めると3パターンとなる。

一体、どれが運転資本なのか分らなくなる。

 

実はいずれも真意は同じであるが目的の違いが表現の違いになっているのではないかと考える。

(以下、100%私見であることを予めお断りしておく)

運転資本=流動資産(現金除く)-流動負債(有利子負債除く)

運転資本=流動資産流動負債(有利子負債除く)

は、違いは現金(及び預金)を含むかどうかだが、いずれも売上債権、たな卸資産、仕入債務以外の項目を含んでいる。事業運営のためには売上債権やたな卸資産以外の資産を調達する必要があり、それを外部からの借金で賄うとすればやはりその分の借り入れも必要になる。つまり、事業を運営するために結局いくらの外部借り入れが必要なのかを把握するためには売上債権やたな卸資産以外の項目も含めて考えるのが妥当である。両者の違いは現金(及び預金)を含めない場合はいわゆるネット借入額の把握であり、(現金及び預金が0というのは現実的でないので)事業運営のために必要な手元資金を含めて借入額を把握する場合は現金及び預金を含める。

 

一方、運転資本を売上債権、たな卸資産、仕入債務に限定する場合は、いくらの借入金が必要なのかという残高(バランス)よりも、例えば資金繰りや資金計画を立てる上で、当月から来月、あるいは当期から来期に運転資本がいくら増加(あるいは減少)するかという変化(フロー)に関心がある場合のように思う。B/Sを構成する他の項目に比べて売上債権、たな卸資産、仕入債務は仕入、売上取引によって『日々変化』する。つまり、日々変化する分を抜き出して運転資本を算定することで来月、来期の資金需要の変化分を把握することが目的のように考える。

 

いずれも資金需要、いくら外部から借り入れたら良いのか?を把握する目的は同じだが、何に焦点を置くかによって若干把握方法が異なるのだと思う。

こう考えると、やはり経営の実践、経験の中から生み出されたコンセプトなんだなあ、と改めて感じる。運転資本、机上の計算としてとらえるのではなく、何でそういうコンセプトがあるのだろう、自分だったらどう使えば役に立つのだろう、ということを考えることが大切なのだと思うクリスマスイブであった(笑)