『経営再建中のシャープが現在1218億円ある資本金を1億円に減らす方針を決めたことが9日、分かった。6月下旬の株主総会で承認を受け、実施する。』
シャープが、121,885百万円ある資本金を1億円まで減資するとの報道。経営破たんした会社以外でここまでの大幅な減資をする例はかなり珍しい。
ところで、今回の減資が財務上何が変わるのかを確認してみたい。
『今回の減資は、破綻企業の法的処理などで使われ、株式が紙くずになる「100%減資」とは違い、既存株主の持ち分は変わらず、1株当たりの価値も損なわれない。株式上場も維持される。資本金で累積損失を処理する帳簿上の手続きに過ぎないためだ。』
簡単な例を使って説明すると、
資本金 100
利益剰余金 △99・・・いわゆる累損
純資産 1
の状態を、
資本金 1
利益剰余金 0
純資産 1
に変えるということだ。要は、資本金と累損を相殺するということだ。純資産は、資本金、資本剰余金、利益剰余金など、資金の拘束力の強さ等の性格の違いによって内訳区分されているが、株主の持ち分という点では、純資産合計(*)であることに変わりはない。(*)少数株主持分(連結)、新株予約権等株主の持ち分でない項目もあるがここでは割愛する。
つまり、今回の減資は資本金を減らすと言っても実際に株主に資本金を返還する(有償減資)ではなく純資産の内訳項目間の移動(無償減資)であり、『既存株主の持ち分は変わらず、1株当たりの価値も損なわれない。』ということになる。
逆に言えば、今回の減資によって本質的にシャープの財務体質が改善することもない。
では何で、1億円まで減資なのか?であるが、
『資本金が1億円以下となれば、法人税の軽減税率が適用されるほか、従業員数などの企業規模に応じて赤字でも課税される外形標準課税の適用から逃れることができる。しかし、節税効果は「数億円程度」(関係者)に過ぎない。』
資本金1億円以下⇒法人税法上の『中小企業』となり様々な税務メリットはあるが、記事の通り節税メリットは高々数億円程度と見込まれ、シャープの大勢に影響があるとは思えない。
1億円はともかく、増資の前には新たな出資者を迎えるに当って、禊というか既存の株主が責任を取る、身辺を一旦キレイにするという意味で累損の解消(無償減資)をするが、今回も爾後の増資のための準備ということだろう。実際、シャープは2014年3月期にも1,400億円の増資をしているが、その際も1,600億円の減資を行い資本剰余金と併せて2,900億円の累損を解消している。それでも、体勢立て直しがおっつかず、もう一回増資による資本強化ということだろう。
ということで、シャープの今回の99%減資であるが、減資を行っただけでは財務体質が改善されるわけでもなく、ましてや業績が回復するわけでもなく、な~んにも変わらない。
変化があるとすれば、あのシャープが『中小企業』に転落!?という世間的なインパクトを与えたということだろう。『大企業の名を捨ててまで出直す姿勢を市場に示す意味合いの方が強い』と記事にもあるが、インパクトだけで終わることなく、また短期的な財務体質の改善(資本注入)だけでなく、稼ぐ力の回復に期待したい。