2021年第1弾のテーマは、
債務超過。
債務超過については、
『資産がマイナスになることあるんですか?』
といった質問をよく受ける。
【資産はマイナスになるのか?】
債務超過というと以下のように図示されることが多い。
図①
純資産が△(マイナス)表示されるあれだ。
計算上はそうなる(理解できる)が、どうもモヤモヤするということらしい。
そこで、次の図はどうだろうか?
図②
単純に表の構成を変えただけで、図①と内容は同じだ。
債務超過の定義は、
負債が資産を上回る状態
だ。
したがって、
純資産のマイナス=純負債
となる。
あくまで、純資産のマイナス
であって、
資産自体がマイナスになる訳ではない。
資産がマイナス!?
とモヤモヤ感を感じる人は、この点を勘違いしているのではないだろうか?
【債務超過となる原因】
では、どういう場合に債務超過になるのか、
簡単な例で説明しよう。
住宅ローン3,000万円で、住宅を建設したとする。
図③
住宅に必要な資金を全額負債でまかなったため、自身の持ち分=正味の資産は0だが、債務超過ではない。
そして、残念なことに住宅の価値が半減(1,500万円)したとすると、
図④
と債務超過の状態になる。要するに、
資産価値が下落したが、借金はそのまま残った
状態だ。
次の例。
昨年末、漫才コンビ霜降り明星の粗品さんが、借金400万円を元手に競輪で大勝負するもあえなく大負けというニュースがあった。
粗品さんの大勝負中の状態はこちら。
図⑤
そして、大負けした直後の状態がこちら。
図⑥
なお、車券の価値は0だが、便宜上それなりのスペース(青の部分)をとっている。
粗品さんは、
「何してんねん…。400万円無くなった、借りた400万円無くなった」
と力なくつぶいやいた、とある。
なお、粗品さんのコメントを補足すれば、
400万円のおカネは無くなったが、
借金400万円は無くなっていない
(友人たちが借金をチャラにしてくれれば別だが)
これも債務超過の状態だ。
以上、シンプルかつ身近な例(?)で説明したが、債務超過の構造は会社でも同様だ。
住宅のパターンが、資産価値の下落による資産の減少、減損や評価損の場合だ。
粗品さんのパターンは、事業に投資したおカネがそれ以上の価値を生まなかった、
つまり赤字(が累積)の場合だ。
会社には資本金があるので、さきほどのように必要資金を全て借金で賄うことは無いが、赤字の累積が資本金を上回れば、トータルで純資産はマイナスとなる。
【債務超過になると倒産する?】
債務超過は会社にとって決して良い状態とは言えないが、では、債務超過になると即倒産するかというと必ずしもそうとは言えない。
会社が倒産に至る最大の要因は、資金繰りの問題、つまり、債務の返済が不能となることだ。つまり、債務の返済を猶予されたり、事業運営に必要な資金が別途提供される場合は、債務超過であっても倒産とはならない。
しかし、先の例のように、債務超過に至る要因は、会社にとって決して好ましいものではない。なかでも、直近数年間の業績悪化(赤字)を原因として債務超過となった場合は、事業自体に将来性が乏しい場合が少なくなく、その場合は、投資家も積極的に会社を支援しようとしないだろう。そうなると、結果として資金繰りに窮するので倒産に至ることになる。実際、倒産した会社は倒産直前に債務超過であることが多い。
一方、不動産の時価など資産の一時的な価値の下落や事業自体には将来性があるものの、経営のかじ取りが上手くいかずに継続赤字の結果、債務超過となっているようなケースもある。
この場合は、新たな資金調達や経営者の交替により事業継続が見込まれる場合もある。
この点は、後ほど少し補足する。
資金調達の方法としては、
・融資 (追加)
・債務免除
・DES
・増資
などがあり、いずれも資金調達のメリットと同時にデメリットもあるため、ケースに応じて選択することになる。
こちらも論点満載のため、別の機会にそれぞれのメリット・デメリットについて書くことにする。
なお、上場会社の場合は、東京証券取引所の上場規程で、「債務超過の状態となった場合において、1年以内に債務超過の状態でなくならなかったとき(原則として連結貸借対照表による)」は、上場廃止基準に抵触することになる。
上場廃止となると、信用力の低下などを要因として倒産に至ることもある。
【自己株式で債務超過!?】
また、自己株式を大量に取得することで債務超過になる場合がある。
アメリカでは、フィリップモリス、ボーイング、スターバックス、マクドナルドなどは、自己株式の取得などの積極的な株主還元の結果、債務超過になっている。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO55605220T10C20A2EA2000
アメリカでは債務超過がすぐに経営不安にはつながるとは限らない。
フリー・キャッシュ・フロー(純現金収支)の黒字が続く見通しであれば借金返済を迫られる懸念は小さいためだ。記事によれば、マクドナルドは債務超過でも投資適格のトリプルB格の格付けを得ている。
むしろ、会社の事業や成長ステージにもよるが、積極的な株主還元が企業価値の向上に資する場合がある。
【時価純資産と簿価純資産】
債務超過は、貸借対照表、簿価ベースで評価されるが、上述したポテンシャルは高いが一時的な要因で債務超過となった会社も含めて、このような会社は純資産を株式時価総額で捉えた時価ベースでは債務超過ではないのが通常だ。
時価純資産と簿価純資産の違いは、簿価純資産が過去の実績に基づく結果であるのに対して、時価純資産は現在の価値である点だ。
過去の実績というのは、会計では土地などの資産は原則として取得した金額で据え置かれる(取得原価主義)。また、過去の業績の累積的な結果が、純資産に反映されることを意味する。
一方、現在の価値とは、土地など現在の時価や将来の事業計画に基づく将来予測キャッシュフローの割引現在価値(DCF)などに基づいて純資産を算定するということだ。
したがって、簿価ベースで債務超過となっている会社であっても、含み益を多く抱えている、あるいは、今後の事業の成長等が期待される場合は時価ベースの純資産はプラス、つまりnot債務超過となることもある。
図⑦
なお、WACCの算定において、債務超過の場合はD/E比率はマイナスになるのかとの質問もあるが、WACC算定におけるD/E比率は時価ベースだ。時価ベースのD/E比率がマイナスになるとしたら、そうした会社をWACC法で(企業価値)評価する前提に無理があるように思う。
とはいえ、経営が悪化すれば資金繰りが行き詰まるリスクも高まるため、何らかのきっかけで金利が急上昇すれば、経営破綻のおそれもあるので注意が必要ということも頭に入れておきたい。