溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

確定拠出年金の導入加速 誰にとって良いことなのか?

 

http://www.nikkei.com/paper/article/?ng=DGKKASFS05H0V_V00C15A5MM8000

シャープ、東芝のニュースで少し時間が開いたが、会社で働くサラリーマンには重要な話。

 

5/6 日経朝刊から

『運用成績で年金額が変わる確定拠出年金を導入する企業が増えている。厚生労働省の調べでは3月末時点で1万9832社と2020年までに2万社とした政府の目標を近く達成する見通しだ。他の企業年金総合・経済面きょうのことば)と比べ企業の財務負担が軽いことや、優遇税制の拡充などが背景だ。運用環境の好転も追い風となり、4月には三菱東京UFJ銀行や電通などが導入し、東芝も検討を進める。』

 

企業年金制度を確定給付年金(DB)から確定拠出年金(DC)へ制度変更する会社がここにきて増加しているとの記事。

確定拠出年金公的年金に上乗せする企業年金の一つとして01年に始まった。従業員が投資信託などの運用商品を自ら選び、運用成績が良ければ将来の年金額が増える。掛け金が非課税になる税制優遇がある。政府は12年の成長戦略で20年に2万社の導入を目標に掲げていた。』

何故、今増加なのか?という点については、

『導入が増えた背景は主に3つある。1つは運用利回りが予定を下回ると企業が穴埋めしなければならない確定給付年金と異なり、企業に穴埋め義務がないことだ。確定給付年金から確定拠出年金に切り替える企業が増え、確定給付年金は3月時点で1万3969件と、1年前から約400件減った。

 2つめは政府が確定拠出年金の非課税になる掛け金の上限を3回にわたり引き上げ、導入を後押ししたことだ。直近では14年10月に月4000円引き上げ、同5万5000円と導入当初に比べて5割増えた。

 3つめは運用環境の好転だ。今年3月末時点の日経平均株価は2年前と比べ55%上昇し、4月には15年ぶりに2万円台に乗せた。円安で外貨で運用する投信の多くは含み益がある。「企業が労使交渉で提案しやすくなっている」(大手銀)』

要因2は確定拠出年金普及を政府が後押ししているからであり、要因3はアベノミクス効果による株高の環境が確定拠出年金移行への躊躇を和らげているからにすぎない。

問題は要因1だ。確定拠出年金は『運用利回りが予定を下回ると企業が穴埋めしなければならない確定給付年金と異なり、企業に穴埋め義務がない』。

将来の年金受取額を思った金額にするために現在の資金を株式や債券で『運用して増殖する』ことを前提にする、つまり100の元手で100以上の年金受給を得ようとすると、会社なり従業員なりの将来の年金のための掛金を誰かが金融商品等に投資して運用益を稼ぐことになる。しかしながら、過去の事例からも明らかなように、運用は成功もすれば失敗することもある。プロだろうが素人だろうが思惑が外れて100の元手が80,70・・・最悪0となってしまうことはあり得るのである。

確定給付年金は、会社が従業員に対して将来の年金受給額を約束するため、運用が失敗した場合、その補填責任は会社が負う。そのため、運用の失敗は会社の業績や財政に大きな影響を及ぼすことになる。その場合、会社の株主、投資家、債権者等のステークホルダーからの責任追及は免れない。

と、言うことで、ではその運用リスクを従業員各人に転嫁してしまおう、というのが確定拠出年金だ。確定拠出年金では、従業員の将来受け取る年金額は約束されない。将来の年金のための毎月の掛金は約束するから、後の運用は従業員各人でどうぞ、というものだ。当然、運用の失敗の責任は従業員各人にある

投資の運用リスク自体は無くならない訳だから当然のことだ。運用リスクが会社から従業員に移転しただけであるが、それが会社にとっては重要なのだ

 

個人的には、企業年金制度自体の良し悪し、優劣でということではなくて、会社も従業員も年金制度を理解して、さらに年金制度に対する責任を全うするという自覚とスキルが重要だと思う。企業年金制度は従業員の会社に対するロイヤリティや業務へのモチベーションにも影響すると考えられるため、会社にとっては年金制度設計にはこの点も重々考慮が必要だろう。対して、従業員にとっては自分のことは自分で考える意識変化が必要だ。『自己責任』というスローガン(?)が叫ばれて久しいが、まだ十分に根付いているとは言えない状況と見る。『前から会社の年金資産運用方針には反対だったんだ、これでようやく自分の方針に沿った年金資産運用ができる』というサラリーマンは果たしてどの程度だろうか・・・ 企業年金制度は、単に会社の財務数値の問題だけでなく、会社と従業員の関係、個人の働き方等社会全体の価値観に及ぶ問題だ。