溝口公認会計士事務所ブログ

京都在住、大阪で活動している公認会計士です。会計監査、内部監査代行、内部統制の構築・改善業務、IPO支援業務、原価計算制度構築・改善業務、企業価値算定業務等のコンサルティング業務を中心に活動する傍ら、グロービス経営大学院大学でアカウンティングの講師もしています。日頃の業務の中で気づいたことをブログに書いていきます。【保有資格】公認会計士(CPA)、公認内部監査人(CIA)、証券アナリスト協会検定会員(CMA)、地方監査会計技能士(CIPFA)、(元)公認情報システム監査人(CISA) 

固定資産の耐用年数って変えちゃっていいの? 【伊藤園の例】

www.nikkei.com

伊藤園が1日発表した2016年5~7月期の連結決算は、純利益が前年同期比50%増の35億円と、5~7月期として過去最高となった。7月の猛暑を受けて麦茶が伸びたほか、脂肪吸収を抑える食物繊維を加えたお茶などの機能性表示食品も堅調だった。自動販売機に対する耐用年数の見直しで、減価償却負担が減ったことも貢献した。』

 

 伊藤園が好調のようだ。食品メーカーは気温や日照時間などの天候に業績が大きく左右されるが、今年の猛暑は一般市民にはともかく、伊藤園の業績には追い風となった。

 

ところで、前年同期比、売上高は1%増の1290億円に対して、営業利益は65億円と52%増えた。その内、自動販売機の耐用年数について、従来は5~6年だったのを今期から8年に変更したことによる減価償却費の減少が営業利益を約9億円押し上げた効果があったという。前年同期に比べてざっと営業利益22億円の増加の内、約9億円が自動販売機の耐用年数の見直し(延長)による影響という。と、言うことは、前期と同じ ベースで比較した場合(耐用年数の見直しが無かったとすると)、営業利益の増加は約半減の13億円程度と言うことだ。

 

固定資産は買ったときに購入代金の全額が即費用となるのではなく、爾後数年の使用期間(耐用年数)に亘って減価償却により費用処理される。

減価償却については☟を参照:

今更聞けない『減価償却』って実際どういうこと? - 溝口公認会計士事務所ブログ

耐用年数は、固定資産を買ったときに固定資産の特性や使途や使用環境等を考慮して独自に設定される(というものの、一般的には法人税法の規定による法定耐用年数を参考にされることが多い)。が、その後の特性、使途、使用環境等の変化に伴い使用可能年数の変化が認められる場合には、会計ルール上、耐用年数の変更を見直されなければならないことになっている。

なので、伊藤園のように固定資産の耐用年数を見直すこと自体は何ら問題ない。

 

しかし、耐用年数を延ばす方向での変更は結果として減価償却費を減らすことにより営業利益(場合によっては売上総利益も)を増加させる、

つまり会計処理方法の変更による増益効果となるため、

会社の利益操作に使われる余地もある。そこで、上場会社など会計監査が必要な会社では、会計監査人(公認会計士)が会社の耐用年数の変更の主張が実態の変化に基づく妥当なものどうかをエビデンスを基に判断することになる。伊藤園のケースでは、耐用年数の延長の要因の1つが自動販売機の高性能化としているため、高機能化がどのように使用可能年数の長期化に繋がるのか、高性能な自動販売機を導入した時期から実際に自動販売機の使用期間が長期化していることを表す等のエビデンスを準備し、会計監査人と協議したと思われる。

そして、会計監査人の合意があった場合、財務諸表の注記に「耐用年数を変更した旨、その影響額」を記載する。

伊藤園 決算短信https://www.itoen.co.jp/files/user/pdf/ir/fr/apr17/2809aj.pdf

 

伊藤園のケースも財務諸表注記に耐用年数変更の「影響額」が記載されていたから、約9億円の増益効果があったことがわかるのだ。

財務諸表注記は馴染みのない人も多いかもしれないが、

利益の増加要因事業活動の変化(誤解を恐れずに言えば企業努力)なのか、会計処理方法の変化なのかを理解して業績を評価するのとそうでないのとでは評価の結果も違ってくるのではないだろうか?

 

 ちなみに、同じ固定資産の会計処理でも減価償却方法の変更では取り扱いが異なる。

例えば、減価償却方法を定率法から定額法へ変更する場合、やはり減価償却費は減少し、利益は増加するのが通常だ。この点は耐用年数の変更と同じだ。ところが、減価償却方法の場合は、実態が変わったという明確な事実が把握しづらい

少し専門的になるが、固定資産の経済的価値の消費パターンが定率的から定額的に変わったかと言えば、それを証明するのは難しいと言うことだ。何故ゆえに変更するのか、その理由の客観的な説明のし易さが耐用年数の変更の場合と異なる。そもそも減価償却方法はある前提のもとに固定資産の経済的価値が減少するという言わば見做しに基づくものだ。固定資産の帳簿価額がその時点の時価を表していないことからも明らかなように、固定資産の価値が実際に減少しているという実態を表しているわけではない。要するに、

耐用年数の変更事実の変更に基づく変更であるのに対して、

減価償却方法の変更は見做しから見做しへの変ということなのだ。したがって、減価償却方法の変更の場合は、財務諸表注記に「変更の旨、その理由、変更の影響額」を記載することが求められる。何故変更するのかについて合理的な理由の説明も求められるのである。会計監査など外部への説明のしやすさから言えば、会社にとっては、減価償却方法の変更の方がハードルが高いとも言える。