経営者の都合で減損処理は可能なのか?【ふくおかFGの例】
『ふくおかフィナンシャルグループ(FG)は21日、熊本銀行と親和銀行の経営統合に伴って発生したのれんの残り948億円を一括償却すると発表した。2017年3月期の連結最終損益予想は400億円の黒字から548億円の赤字に転じる。』
ふくおかFGが、熊本・親和銀を統合した07年には1834億円であったのれんの未償却残高948億円を一括償却するとのこと。その結果、黒字決算が赤字に転落なので、これはかなり思い切った判断だ。
ところで、固定資産の減価償却もそうだが償却方法や期間(耐用年数)は一度決めたら、その前提が変わらない限り継続して適用するのが原則だ。これを
継続性の原則と言うが、利益が出た時は償却費を多目に、利益が少ない時は少な目にといった具合の利益の調整弁としないためだ。
しかしながら、固定資産の取得後の事業環境変化などにより思ったように収益が見込めない場合、その時点で改めて固定資産の価値を評価して、その価値まで帳簿価額を切り下げるのが減損処理だ。今回、ふくおかFGが発表したのはまさにそれだ。
では、ふくおかFGが今回、熊本・親和銀行との統合で発生したのれんにどのような状況変化があったのだろうか?
『ふくおかFGは10月に予定している十八銀行との経営統合を控え、
M&Aで用いられる手法で熊本・親和銀の評価を改めて見直したところ、
「簿価の50%を下回る場合」という一括償却の基準に該当した。ふくおかFGは「熊本銀・親和銀の株式が10年前の経営統合時に想定しなかった経営環境の変化や、マイナス金利政策の影響を受けた」と説明している。』
どうも釈然としない・・・
何が釈然としないかというと、評価方法を変えているのだ。
スポーツも同じで、選手のパフォーマンスは同じでもルールが変わればこれまでセーフだったものもアウトになる。では、ルールを変えるのは妥当なのか?ということだ。
記事は続く。
『ただ、純資産を使ったこれまで通りの方法で判定していれば、一括償却の基準には該当しないという。ふくおかFGは統合以降、毎年約90億円ののれんを償却しており、その負担は28年まで続く見通しだった。』
ということだ。
このタイミングで、
評価基準を変更する合理的な理由があったのか?
ふくおかFGによれば、マイナス金利の導入など、市場環境の激変に対応して子銀行の株式評価を見直し、減損が必要になった、とのことだが、10年分をまとめて償却し、将来の環境変化に対応する余力を確保する、とか、将来のために余裕がある時期に償却する、という説明もあった。
報道されている以上の詳細は分からないので、あくまで経験からの勘に過ぎないが・・・
どうも、来るべきM&Aに備えて、その後またのれんの償却費負担が発生するので、
今のうちに落とせるものは落として余力を残しておこう、
といった意図が透けて見えるように思えるのだが、気のせいだろうか?
会社のIR資料でも、次期以降は(のれんの償却費負担が減るので)良くなりますよ、がやたら強調されているように思うし・・・
のれんの減損判定基準の詳細までは外部公表しないので期待薄だが、今後の決算発表資料などで、
のれんの減損判定について具体的に何を見直したのか?、
また、
このタイミングでの見直しは妥当だったのか?
について公表されるのを期待する。
ふくおかFGの例からも分かるように、
会計処理は機械的に粛々と行われるものばかりではない。
のれんの減損処理、引当金の設定、繰延税金資産の取崩
等々
金額の見積もりや処理の時期については、経営者の判断に依存
する部分が少なくない。
もちろん、判断には合理的な根拠が必要だし、ふくおかFGのような上場企業であれば外部の監査法人が納得するだけの理由が必要になる。しかし、そこにも一定の幅がある。
つまり、誰がやっても金額、タイミングが同じになるとは限らない。決算数値はそういった性格を帯びている。しかも、概してこれらの項目は最終的な会社の業績数値に与える影響は大きい。したがって、決算数値の利用者は、作成された数字だけでなく、経営者の意図も合わせて読み取る必要がある。
【ふくおかFGのIR】