溝口公認会計士事務所ブログ

京都在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。会計監査、内部監査代行、内部統制の構築・改善業務、IPO支援業務、原価計算制度構築・改善業務、企業価値算定業務等のコンサルティング業務を中心に活動する傍ら、グロービス経営大学院大学でアカウンティングの講師もしています。日頃の業務の中で気づいたことをブログに書いていきます。【保有資格】公認会計士(CPA)、公認内部監査人(CIA)、証券アナリスト協会検定会員(CMA)、地方監査会計技能士(CIPFA)、(元)公認情報システム監査人(CISA) 

子会社在庫の未実現利益って何? 【ヤマハの例】

 

www.nikkei.com

 

 『ヤマハの2018年3月期は、対ユーロでの円安進行の一服が利益を押し上げそうだ。円安一服により海外子会社の在庫で連結ベースの利益になっていない「未実現利益」が縮小し、増益要因となる。円安に伴う輸出採算の改善も含め、今期の営業利益を前期比30億円程度押し上げる。』

円安進行によりヤマハが増益になるとの報道。

輸出型企業にとって円安が追い風であることは多くのビジネスパーソンが理解していると思う。

為替が企業経営に与える影響はこちら☟

 

tesmmi.hatenablog.com

  

しかし、今回は『円安の一服』が利益に好影響ということで、

俄かには理解できないのではないだろうか?

ということで、今回はこの仕組みを説明してみたい。

 

【子会社在庫の未実現利益って何?】

まずは、子会社在庫の未実現利益から説明する。

 

例えば、以下の取引を考えて見る。

親会社:自動車メーカー

子会社:自動車販売会社

商流:親会社⇒子会社⇒外部の顧客

 

【取引】

親会社:製品100を子会社へ120で販売

子会社:親会社から仕入れた製品120を150で外部へ販売

 以上の取引で、決算期末日において販売子会社に親会社から仕入れた製品120が在庫で残っていたとする。

 

親会社では、子会社に製品を販売した時点で20(120-100)の利益を計上している。

親会社の単体決算ではこれでいいのだが、問題は連結財務諸表を作成する場合だ。

連結、すなわちグループ全体としてみると、製品在庫が親会社から販売子会社へ移動しただけでグループ外部には販売されていない。つまり、連結決算上は、

親会社の製品売上はノーカウントとなる。

しかし、連結決算手続きの過程で一旦、親会社、子会社等の連結会社のB/S、P/L等を合計(合算)しているため、利益の20を取り消す必要がある。

お察しのとおり、子会社の製品在庫に含まれる20が連結決算上の『未実現利益』となる。

  

子会社の決算書の製品在庫金額は子会社の仕入価格は120だが、連結グループとしてみた場合は、あくまで親会社での製造原価の100となるため未実現利益(内部利益)相当分20部分を取り消す必要がある(*)。また、子会社では、この120を期末在庫として売上原価を計算しているが、連結グループとしてみた場合はその分売上原価が小さく(=利益が大きく)なっている。したがって、以下の会計処理でこれらの影響を取り消す。

 

【会計処理】

(借)売上原価(子会社) 20 /(貸)たな卸資産(子会社) 20

    ↑子会社の売上原価過小分を増加  ↑未実現利益の消去

 

さらに税効果の調整も必要になるが、ややこしくなるのでここでは割愛する。

 

なお、それに先立って売上も取り消す必要があるのではと思った人は勘がいい。その通り、親会社の販売子会社に対する売上と子会社の親会社からの仕入れも取り消す。

 【会計処理】

(借)売上原価(子会社) 120 /(貸)売上(親会社) 120

 

以上、会計処理を説明したものの、まあ細かい会計処理はともかく、一旦、個別の会社で計上された利益が連結グループとしてみた場合には内部取引の利益と考えられる場合、連結決算上は取り消す必要がある。

これを『未実現利益』と言う点だけでも理解してもらえば結構と思う。

 

円高が進むと何故利益が減るのか?】

ヤマハはピアノなどの楽器を中心に国内やアジアで製造し、本社経由で海外の販売子会社に出荷している。中略 海外在庫を円建てに換算する際、円安が進むと連結ベースの消去額が増える。』

上の設例で分かるように、一旦、個別決算で計上した利益を連結決算で取り消すだけなので本来、損も得もない

それが、円安が進むと連結ベースの消去額が増えると言う。

 

これは、為替換算の手続きの影響だ。

 

以下の設例を見てほしい。

 

親会社:海外子会社へ製品(原価100円)を販売1.2ドル(@100円/㌦)で販売

海外子会社:決算日に親会社から仕入れた製品を在庫として保有

決算日の為替レートは@120円に円安が進行したとする。

 

ここで、親会社で計上された利益は20円(1.2㌦*100円-100円)だ。

 

では、海外子会社の在庫に含まれる未実現利益はいくらになるだろう?

 

おそらくヤマハでは、以下のようになっていると思われる。

 

1.2㌦*@120*20/120=24円

 

1.2*@120:海外子会社が保有する在庫金額(親会社から外貨建て仕入金額*期末時点の為替レート)

20/120は:親会社における利益率

 

親会社で計上した利益20円に対して、

海外子会社の在庫に含まれる未実現利益24円

 

となり、親会社で計上された利益<海外子会社の在庫に含まれる未実現利益

 

つまり、親会社で計上した利益を取り消す以上に未実現利益を取り消すことになる

 

為替換算の会計ルール上、

 

親会社の個別決算での売上の為替換算発生時レート、つまり販売した時の為替レート(この場合は@100円/㌦)を使用し、

連結決算における海外子会社の外貨建決算書の換算決算日レート(この場合は@120円/㌦)を使用するためだ。

この点もややこしいので読み飛ばしてもらって構わないが、原則的な会計ルールでは、未実現利益消去の際に適用する(在庫の)換算レートは発生時の為替レートとある。つまり親会社が販売した際の@100円だ。これを適用すれば、20円の未実現利益に対して20の取り消しとなるため、為替レートが円安に振れようが損得は無い。しかし、このような親子間の取引が継続反復的に行われる場合、子会社に残る在庫がいつ仕入れたものかを把握するのは実務上容易でない場合が多い。そのため、会計ルール上、そのような場合は、他の合理的な為替レートの使用を認めている。それが、具体的には決算日の為替レートなどになる。

 

以上の結果、期中、円安が進行すると、実際に親会社が販売した以上に円換算後の子会社の親会社から仕入れた在庫金額が大きくなり、利益率はこの場合親会社での利益率(20/120)なので、未実現利益も親会社で計上された利益よりも大きくなる

 

ヤマハの記事の意味はこの関係を指摘しているのではないかと思われる。

 

もちろん、これは為替差、つまり単価面の変動であって、それがヤマハのように何億円もの影響額になるためには、それだけ数量、つまり、

海外子会社の保有する在庫量が大きいためだろう。記事にもそれを物語る件がある。

 

ヤマハは連結全体の2割弱を欧州で稼ぐ。17年4~9月期は対ユーロで円安が急速に進んだ影響でユーロ圏で未実現利益が増え、連結ベースの利益を圧迫。営業利益が前年同期より7億円下振れした。ヤマハは在庫の回転期間が比較的長く、対ドルも含めて急速に円安が進むと連結ベースの未実現利益の増加の影響を受けやすい。』

 

と、まあ、この部分だけ切り取れば記事のような状況になるのだが、ヤマハのようなグループ取引で円安になれば円換算する以上、連結決算は増益要因になると思うんだけどな・・・