溝口公認会計士事務所ブログ

京都在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。会計監査、内部監査代行、内部統制の構築・改善業務、IPO支援業務、原価計算制度構築・改善業務、企業価値算定業務等のコンサルティング業務を中心に活動する傍ら、グロービス経営大学院大学でアカウンティングの講師もしています。日頃の業務の中で気づいたことをブログに書いていきます。【保有資格】公認会計士(CPA)、公認内部監査人(CIA)、証券アナリスト協会検定会員(CMA)、地方監査会計技能士(CIPFA)、(元)公認情報システム監査人(CISA) 

親子上場って有なの、無しなの? 【ソフトバンクの例】

www.nikkei.com

 

『世界で企業の新規株式公開(IPO)のルールが骨抜きになるリスクが高まっている』

との日経記事(2018/3/19)

 

ソフトバンクグループ(SBG)のソフトバンク(携帯子会社)の上場方針の公表等を例に、親子上場に対する規制が緩和される可能性を示唆している。

 

親子上場とは、その名の通り、親子そろっての株式上場を指す。

問題となるのは、子会社の株式上場だ。

 

親子上場のメリット・デメリットとして一般的に挙げられるのは、

 

【親会社のメリット】

・子会社株式を市場で売却することによる資金調達

・子会社株式の市場価値向上

・子会社に対する管理負担の軽減(子会社の信用力向上による資金・人材調達)

 

【子会社のメリット】

・親会社から独立性が増すため、経営の裁量が増える

・従業員のモチベーションの向上

 

【親会社のデメリット】

・子会社に対する支配力が弱まる

・子会社の上場による情報開示

 

【子会社のデメリット】

・親会社への依存度が低下することによる営業力の低下、管理コストの負担

・子会社の少数株主の利益が不当に阻害される

 

これらのメリット・デメリットはどの立場からかによる相対的なものが多い。特にデメリットについては、上場のメリットのためのコストとして捉える方が自然で、それをデメリットとするのもどうかと思う。

また、親会社のメリットである子会社株式売却による資金調達についても、同じ会社が2度上場するようなもの、つまり資金の2重どりだ、という指摘もされる。

 

親子上場の最大の問題は、子会社のデメリットとして挙げた、

 

子会社の少数株主の利益が不当に阻害される

 

ことだろう。

 

この点、東証は例えば『2008年度上場制度整備の対応について』で、

http://www.jpx.co.jp/equities/improvements/general/tvdivq0000004iib-att/2008program.pdf

親会社を有する会社の上場は、上場制度として禁止するのは適切ではない、としながらも、少数株主との利益相反のおそれなどの内在する弊害や問題点があること、昨今の経営環境においては上場会社には本格的な連結経営が求められていることを踏まえれば、投資者をはじめ多くの市場関係者にとって必ずしも望ましい資本政策とは言い切れない、として、全国の取引所と協調して、実質的に一体の親会社及び子会社による上場を認めないことを明確にしている。

上場する子会社には親会社(支配株主)が存在し、親会社の判断によって子会社に不利な条件による取引を強要される、子会社から資金を吸い上げられる、上場後短期間で再度非公開化される等々、親会社以外の子会社の株主の権利や利益が不当に損なわれるおそれを指摘してのことだ。

 

『親会社と子会社が共に上場する親子上場は、株式持ち合いと並び欧米ではほぼ見られない日本独特の資本政策だ。親会社が自らの利益を優先し、子会社の一般株主の利益を損なう恐れがある。』

 

株式公開して上場会社になることをgoinng publicと言う。

公共の存在、社会の公器となるという意味だ。

理屈抜きにして、直感的にどこかの会社の子会社が上場会社になるって変だと思わないだろうか?

初めて耳にした時に、大人の事情はともかく、おかしな制度だなと感じたのを覚えている。

 

日本では、ソフトバンクとヤフー、NTTとNTTドコモ、キャノンとキャノンマーケティング、等々以前から親子上場する企業はある。世界的に見ても多い部類だろう。

世界では、ロシア、ブラジル、イスラエルにいくつか例は見られるが、世界的な大市場であるアメリカや欧州では見られない(というか僕は知らない)。

 

日本市場における外国人株主が増加するにつれて、

親子上場っておかしくね?

といった指摘の声が強くなり、2006年度をピークに減少傾向が続いている。日経記事によれば、

海外投資家からの批判も強く、2016年度末は270社と10年前のピークから3割減っていた。

とのことだ。

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ところが、だ。

潮目が変わりつつあるとのこと。それも、世界的に。

 

日本では、

『半面、IPOを逃す恐怖もちらつく。ロンドン単独上場を選ばれてしまうと「自国の大企業に見切りをつけられたとして、世界からの評価が下がってしまう」(東証幹部)。東証の苦しい胸の内を見透かすように、SBGは条件緩和を迫る。東証には上場企業の子会社が1部に上場する場合、親会社は持ち株比率を65%未満に下げるルールがある。経営の重要事項を単独で決められる「3分の2以上」に達しないようにするためだ。ただ上場を目指す企業が海外に上場している場合は緩和されることがある。SBGはソフトバンクのロンドン同時上場でこの例外規定の「ウルトラC」を狙っており、上場後も7割程度を持ち続けたい考えのようだ。』

この動機と屁理屈、と苦笑いがやっと・・・

事情は分からなくもないが、会社と言い、東証と言い、

恥も外聞もないとはこのことか。

 

そして、この流れは日本(東証)に限った話ではない。  

香港取引所、シンガポール取引所、ロンドン証券取引所、世界の取引所が時を同じくしてルール緩和に向かっている。

 その背景には、世界的なカネ余りがある。現在のIPOはもはや成長資金の調達が目的ではなく、既存株主の換金場所の確保へと変わってきたという。

また、

『18年1~3月の世界のIPOによる調達額は337億ドル(16日時点)。かたや世界IT大手8社は同期間にこれに迫る249億ドルの買収を実施した。上場企業の非公開化も増え、17年末の日米英の上場企業数は計約1万1500社と20年前から約2200社減った。』

 

要するに、投資機会の減少が続く投資家にとってはそうは言っても親子上場は1つの投資機会、そしてもはや公共の利益を守る存在から営利企業に変貌した取引所にとっても取引は多いほどありがたい・・・

 

そういう事情もあってのルール緩和だろう。

『投資家と企業の間に立って市場の規律を保つのは本来は取引所の役目だ。「基準にそぐわない企業のIPOを認めない毅然とした態度が求められる」(野村総合研究所の大崎貞和氏)。』

 

願わくば、証券取引所の矜持に期待したい。

もっとも、証券取引所だけの問題ではないのだけれど・・・