溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

銀行の貸倒引当金減少は善か?に思う

www.nikkei.com

 

銀行が貸倒引当金を減らしている。全体の残高は不良債権問題でゆれた1998年の5分の1、いまやバブル期と同水準にまで下がっている。戦後2番目の長さの景気拡大を背景に融資先の経営改善が進んでいるなら当然だが、どうもそれだけではない銀行の事情も絡んでいるようなのだ。』

 

本日、日経朝刊、銀行の融資先に対する貸倒引当金が減少しているとの記事。書かれているように、銀行の貸倒引当金が減少する理由は大きく2つ。

 

① 銀行の支援や企業自身の努力で経営状態が上向き、リスク区分は要注意先から正常先へと改善したため

② 企業の中期的な成長を見ようとせず、新規事業等への融資を抑制したため

①の場合は、企業の成長とともに銀行の融資も増加するが回収リスクは低下した結果、

②の場合は、企業の成長も停滞し銀行の融資も減少する、いわゆる縮小均衡ということだ。

 

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記事が問題視しているのは、特に②の場合。

『銀行として企業の経営リスクを減らす役割を果たしているなら「良い引当金減少」。ただ、企業の中期的な成長を見ようとせず、有望な事業の芽を摘んでいるのであれば「悪い例」といえる。 「善玉か悪玉か見極める必要がある」。地域の魅力研究所代表で金融庁参与でもある多胡秀人氏は、引当金がなぜ減ったのか中身をみるべきだと話す。取引先企業への融資を渋ったり引き揚げたりして、減少している場合もあるからだ。』

また、銀行の業績に対する影響へも指摘は及ぶ。

引当金の計上は銀行には費用になり、利益を下押しする。日銀のマイナス金利政策の下、利ざやは大幅に縮小し、「金利0%台」の融資が全体の6割超。マネックス証券の大槻奈那氏は「0%台でしか貸せないなら、リスクの低い融資先に絞るのは銀行には合理的なこと」とみる。リスクがある企業には貸さず融資を引き揚げる。これが引当金減少の隠れた要因だ。』

 

と、貸し渋り貸しはがしを指摘しておいて、

 

『「自らの顧客基盤を失い、ビジネスモデルの持続可能性にさらに悪影響を与える」。金融庁リスクを過度に避ける銀行の姿勢に警鐘を鳴らし、取引先の育成・支援に取り組むよう促す。』

 

もっと、ちゃんと融資しろ、と。

 

自分のことを優先して企業を痛めつけるとは何事か、金融機関としての社会的な役割をしっかり果たせ、という論調。

 

もっともといえばもっとも。

バブル後の長引く不況時にも銀行による貸し渋り貸しはがしを原因として中小企業をはじめとする多くの企業が倒産に追い込まれ、これが更なる不況を作り出したともいわれる。こうした経緯もあって、こう突っ込まれると銀行としても釘を刺された形になるのかもしれないし、社会全体としてもそうした印象を持つかもしれない。

 

しかし、である。

銀行からすれば、

 

貸せるものなら貸すよ!

 

という思いもあるのではないか。

営利企業である以上儲けは追求すべきだし、金利手数料で儲ける銀行からすれば融資はできるものならしたいだろう。実際、優良会社には融資の話は事欠かない(逆に需要はないのだが・・・)

 

もちろん、最初から結論ありきの融資引き上げや貸し渋りは良くない。

 

とはいえ、どんな企業に対しても積極的に融資しろというのも無体な話だ。回収困難と判断される分かって融資すべきでないし、そんなことして業績を大きく悪化させたらそれこそ株主から訴えられかねない。

 

例えば、

これまで継続的に赤字の会社が来期から黒字化します

新規事業を第2の会社の収益の柱とします

等々

 

熱心に説明されても、その根拠が合理的に説明されているか

 

という点に企業側が対応できているのだろうか?


融資を断わられ、

 

銀行は当社の事業の新規性や成長性を理解していない

銀行は過去の実績しか評価してくれない

 

という意見も耳にするが、ある意味それは当たり前。

 

銀行は事業の専門家ではないし、

しかも利害は対立する

批判的に見るのは当然だろう。

 

それを批判するのは簡単だが、それだけでは結果は変わらない。

銀行が気にする点を企業が合理的に説明できているかどうかを再考すべきだ。

 

一例であるが、

何故、売上が成長するのか?

⇒何を売るのか?(製商品)誰に売るのか?(顧客)どこで売るのか?(地域)どのように売るのか?(チャネル)等々

結果としての売上高が成長するというのであれば、当然にこれらに変化があるべきで、これらの点に対する説明もなく単に売上高の10%成長と言われても

個人的には、疑問しか浮かばない。

 

また、その販売を支えるための費用は、資産は?特に、 これまでとは異なる事業やチャネルでの販売となれば、当然、これらにも変化があるだろう。

 

そして、そのための資金はどの程度必要になるのか?単に運転資本が苦しいからとりあえず貸して欲しいと言われても、一体いくらの資金が必要なのかも分からない企業にはとてもじゃないが恐くて貸せない・・・

 

そして、こうした企業の事業戦略が財務予測(予測財務諸表)となって数字に落とし込めているか、という点が重要だ。

いくら熱心に言葉で説明されても、発する側、受ける側によって温度差はあるし、計画のいい面ばかり説明されても逆にリスクが気になるし、予測の幅によって売上、利益、そして資金需要をどの程度変動するのか、といった点を言葉よりも客観的な数字で表現する必要がある。銀行も組織であり、融資担当者の一存で融資判断がされるわけではない。・・・と社長が熱く語っています!で決裁が下りるわけもないことは容易に想像がつくだろう。

 

事業計画の合理性もさることながら、事業計画を数字に落とし込む点において、

人材やスキルが十分でない企業が少なくないように思われる。

金融庁は、この点の育成・支援も念頭に置いているかもしれないが、銀行だけに求めるのであればそもそも人材の確保からして難しいだろう。仮に可能としても、当然にそのためのコストが貸出金利へ反映されることになる。

 

事業に必要な資金の調達が企業にとって重要であるならば、技術、販売、製造等と同様に財務・会計の人材の調達や育成に注力すべきだと思う。

結構、軽視されがちに思えるし・・・

 

銀行の貸倒引当金の減少要因の1つである

『企業の中期的な成長を見ようとせず、新規事業等への融資を抑制したため』

は銀行だけの問題としてしまうと事態は改善しないのになあ、

 

と記事を読みながら思うのだった。