溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

自社株買いと株価の関係 最近の傾向 【少しボヤキ系】

http://www.nikkei.com/paper/article/?ng=DGKKASGD18HK5_Y6A510C1EN1000

www.nikkei.com

5月19日日経朝刊から

 

『一部の投資家は、これまであまり注目されてこなかった、ある数字をもとに銘柄選別を始めている。ある数字とは、1株あたり利益だ。』

と言うことで、1株当たり利益に注目した記事。

1株当たり利益の何に注目したか、

1株当たり利益の伸びが当期純利益の伸びを上回る会社は、株価が堅調

と言うことだ。

1株当たり利益が伸びている会社の株価が上昇しているとのことだが、その立役者が自社だ。

『日本の株式市場では長らく、企業業績を純利益の増減率で評価する習慣が続いていた。他方、自社株買いが旺盛な欧米では、1株利益の増減で判断することが一般的になっている。』

過去ブログにも書いたが、株価の1つの目安としてPER(株価収益率)がある。

 

株価=1株当たり利益*PER

 

なので、1株当たり利益が高まると株価が上昇する関係にある。

 

自社株は1株当たり利益を算定する際に、発行済み株式数から控除されるため、例えば、10,000株発行している会社が2,000株の自社株を購入すると場合、

当期純利益が1百万円とすると、

1株当たり利益は125円(=1百万円÷(10,000株-2,000株))となる。

自社株を取得しない場合(100円)よりも株価が25%高まることになる

 

『インテリア商社大手のサンゲツのように、17年3月期の純利益が減る見通しなのに、1株利益は逆に増加を見込む企業もある。』      

 

という極端な例もあるように、純利益の額が低下したにもかかわらず、自社株を取得することで1株当たり利益が高まる方が株価に好影響らしい

 

こんな事情で株価が上昇ってどうなんだろうか?

 

利益額が下がって自社株を買ったことが、株主にとっての会社の価値が高まっていると言えるだろうか?

 

もっとも、適正株価と言っても、誰にとって適正かにもよる。

 

株主にとっての適正株価と言っても、長期保有目的の株主もいれば、短期保有目的の株主もいる

どの株主が正しくてどの株主が間違っているということもない。

 

まあ、短期保有目的の各株主にとっては株式の価値は高まったと言えるかも知れない。

 

しかし、会社が生み出す利益額が減少している場合、もう一つ言うと前提条件が変わらなければフリーキャッシュフローが減少しているとすれば、企業価値は減少していることになる。

ケーキ自体は小さくなったのに、食い扶持が減ったことで、1人あたりの分け前が増えただけ、だ。

 

そして、自社株は株式交換ストックオプションの付与などで再放出すればその瞬間に1株当たり利益は下がることになる

 食い扶持が再び増えることもあるわけだ…

 

経営者も株主、投資家も事情の分かった者同士の化かし合いならお好きにどうぞだが、よもや、会社の価値が高まったと真顔で受け取る人がいないことを願うばかりだ…

 

新年度に入っても気が抜けない後発事象とは? 【三菱自動車の例】

headlines.yahoo.co.jp

燃費不正の問題が発生したタイミングでこうなるだろうな、とは思ったが、

やはり、その通りの展開となった。

 

三菱自動車が、昨日の5月25日に先月4月27日に発表した2016年3月期の業績発表数値修正すると発表した。

燃費試験データの不正に関して発生が見込まれる損失約191億円を特別損失として追加計上するということだ。

三菱自動車から燃費試験の不正についての発表があったのは2016年3月期の終了後の4月20日だ。時系列としては、2016年3月期が終了した後、すなわち2017年3月期に入ってから、ということになる。

 新年度に入ってから発覚した費用をその前の年度(2016年3月期)の決算に取り込まないといけないのだろうか?

このように、決算期末(この場合は2016年3月末)以降に発生した事象の内、会社の決算数値に重大な影響を及ぼすと考えれらる事象『後発事象という。後発事象には、

 

・修正後発事象

・開示後発事象

 

の2種類がある。このうち、修正後発事象は、さかのぼって前期(この場合は2016年3月期)の決算に関連する費用または損失を見積もって反映する必要がある。他方、開示後発事象はその必要はなく、事実と来期以降の決算に及ぼすと見込まれる影響を(2016年3月期の)決算書に注記(投資家等に来期以降の悪影響を注意喚起する意味)する。

後発事象が、修正後発事象か開示後発事象かのいずれに区分されるかは、期末日現在、実質的な原因が存在していたかどうかによる。

 

工場閉鎖を例にとると、過去から製品の売り上げが低迷し、工場の稼働率も落ち込み、いよいよ工場閉鎖を新年度の4月に取締役会で決議するような場合、取締役会の決議は4月だが、工場閉鎖の根本的な原因は3月末時点ですでに発生していると考えられる。このような場合は、修正後発事象として取り扱われ、工場の減損損失を3月末決算へ反映する。

他方、これまで順調に稼働してきた工場が4月に入り火災で焼失したなどの突発的な原因による災害損失などは開示後発事象として取り扱われることになる。

 

三菱自動車の場合は、燃費試験の不正は過去から行われており、2016年3月末現在で今回の補償等の損失の原因はすでに発生したとして修正後発事象と判断され、P/Lの特別損失に『燃費試験関連損失』191億円として計上したということだ。

三菱自動車の決算修正発表)

http://www.mitsubishi-motors.com/content/dam/com/ir_jp/pdf/financial/2016/160525-4b.pdf

 

燃費試験関連損失の内容は、燃費データ改ざんに関連するガソリン代の差額、エコカー減税の追加納税分とのことで、対象となる車台数で割ると1台当たり約3万円とのこと。

国による燃費測定が未了の段階であり、また顧客への補償額なども未定なので、あくまで会社の暫定的な見積もりだろう。

 

実は、今回の修正発表の内容を確認すると、財務諸表の注記情報

『当該燃費試験に関連した損失のうち、当連結会計年度末において合理的に見積ることが可能な金額を燃費試験関連損失引当金として計上しておりますが、利害関係者への具体的な補償内容等が決定してないことから、翌連結会計年度以降変動する可能性があります。

と記載されていた。修正後発事象として取り扱うも、関連損失のすべてを金額換算して見積もることが時間的、物理的に難しい場合は、開示後発事象と同様に注記対応となる。今回、特別損失とした191億以外に来期以降追加の損失の可能性が高いということを示唆している。

 

ところで、今回の修正後発事象による決算修正発表は、金商法有価証券報告書)に基づく決算数値についてだが、会社法株主総会招集通知)決算はどうなっているのだろう?

タイミング的にはおそらく会社法決算については会計監査は終了(監査報告書)しているだろうから、会社法決算には191億円の追加損失は反映されていない(開示後発事象として注記)と思われる。株主総会での配当などの決議への影響なども気になるところだ・・・

 

いずれにしても、まだまだ結末には程遠い・・・

 

 

 

決算発表集中日 その理由とは? 【最後少しボヤキ系】

www.asahi.com

 『東証によると、13日は計747社が決算を発表し、過去最多の「集中日」となった。東証は期末後45日以内の決算発表を企業に促し、投資家が余裕をもって決算情報を分析できるように発表の前倒しも求めた。』

先週の5月13日が3月決算会社の決算発表の集中日だった。

ここ数年、取引所の要請もあって分散傾向にあった決算発表がそのぶり返しなのか、一転して過去最多の混雑を極めたとのこと。

決算発表とは、会社が決算をまとめて外部に公表する手続きだ。記事にもあるが、取引所は45日ルール(今は緩和され望ましいレベル)、決算日から45日以内での決算発表を推奨しており、その期限前のぎりぎりのタイミング(金曜日)が5月13日(金)ということだ。これは、業績をできるだけ早期に投資家・株主に投資資意思決定のための情報を届けるという目的だ。そして、望ましいと言いながらも、50日を超える場合はその理由を開示しろという要請もあり、会社からすれば決算が遅れた理由を書かされるというのはある意味辱しめを受けるようなものなので、実質的にはルールといっても良いだろう。

 

一方で、会社からすれば外部公表した業績を会計監査で修正することになれば、訂正発表することにもなり、これもまた恥ずかしい・・・ということで、会社が決算をまとめるだけでなく会計監査もある程度終わった段階で決算発表となると、45日は結構厳しいハードルだろう。ということもあり、5月13日を含む期限前の最終週に決算発表が集中する傾向はどうしてもある。

もっとも、早い会社は早い。一番早い会社(あみやき亭)は4月1日に決算発表しているが、これは特殊としても、3月決算会社約2,400社のうち、4月20日までに発表する会社は10社程度ある。そして、1つ目のピークがGW前発表で200社程度、2つ目のピークがGW明け発表で300~400社程度となり、翌週が45日ルールの週の駆け込み発表になる。

 

取引所がもう1つ要請しているのが、決算発表の分散だ。会社の決算体制や45日開示という中でどうしても期限間際での決算発表に集中することは理解できるものの、『株主・投資者による決算情報の収集や分析に影響を及ぼし、結果として開示された決算情報の投資判断への反映が遅延するなどして、証券市場における価格形成の円滑性、効率性が低下することが懸念されるところです。』として出来るだけ決算発表日の分散を求めている。また、ピンポイントではギリギリのギリ、45日目の午後3時にオンラインでの登録が集中するとシステムがオーバーフローするなんていう問題もある。

ここ数年は、決算発表日の分散が効果として表れていた。例えば、今年の5/13、つまり45日以内の最後の金曜日に当たる以下の日程の決算発表社数は以下。

 

2015年5月15日 359社 (15.2%)

2014年5月15日 259社 (12.4%)

これに対して

2016年5月13日 747社 (約25%)

昨年対比倍以上の集中度合いになった。大幅に分散傾向が停滞(悪化)したようにも見えるが、実は昨年までは5月11日(月)~5月15日(金)の週の間での発表日の分散を図っていたということもある。つまり、直前の2,3日で分散させていた決算発表が今年は5月13日に集中してしまったということであろう。

業績が悪いとあまり目立ちたくないので他社と同じ日に発表して目立たなくする、ということも言われるが、会社の業務カレンダーは決まっていて5月の取締役会日の午後に決算発表という流れが多いのではないかと思われる。したがって、業績の良い悪いで日をズラすというこは通常はあまりないのではないかと思う。それよりも、業績予想値、特に今年は想定社内レートをどうするか、の確定に時間がかかったのではないか。また、ホンダのように(タカタのリコール問題の影響額)決算に織り込むべき数字が(監査法人との協議も含めて)確定しない状況などでは決算発表日を遅延することになる。

 

決算発表が集中した理由の1つとして記事には、

『しかし、複数企業の社外取締役を掛け持ちする経営者が増えた結果日程調整が難しくなって、決算発表が集中する事態を招いた。』

 

コーポレートガバナンス・コードの目玉の1つの社外取締役、これが決算発表の集中の原因とは、なんとも皮肉な結果だ・・・

 

 

繰延税金資産の取り崩し 【ベネッセの例】 ~小ネタ~

www.nikkei.com

『ベネッセホールディングスは6日、2016年3月期の連結最終損益が82億円の赤字になったと発表した。前の期(107億円の赤字)に続き2期連続の最終赤字。従来は38億円の黒字計画だったが、通信教育講座「進研ゼミ」の会員減に対応し販売費を積み増したため利益が減少。当該事業の将来性を見積もり直したことで税金費用も増加した。

 売上高は前の期比4%減の4442億円、営業利益は63%減の109億円だった。連結子会社で通信教育事業を担当するベネッセコーポレーションが将来の利益を見込んで計上していた繰り延べ税金資産95億円を取り崩し、費用負担が増えた。』

 

例の顧客情報の流出が発覚に起因する会員の大量退会。これに伴い、当事業事業計画を見直したところ、将来に期待できる税務上の利益(課税所得)が過去の欠損金などの将来減算一時差異(繰延税金資産の元)を上回らない金額が税金ベースで95億円、ということだ。税前利益ベースだとざっと300億円の将来利益の見込みが減少したことになる・・・

 

それにしても、95億円の繰延税金資産の取り崩しで連結最終利益が82億円の赤字ってことは、これが無かったら13億円の黒字2期連続の赤字は免れたわけか・・・

 

どういう検討の末の判断だったんだろうか?

かなりの修羅場だったのでは・・・

 

と思えば、本日原田CEO退任・・・

 

マイナス金利が業績に与える影響 【ボヤキ系】

www.nikkei.com

 『日銀のマイナス金利政策の影響が、年金の負担増を通じ企業収益を圧迫し始めた。長期金利利回りがマイナス圏に下がったことで、企業が将来の年金の支払いに備えて用意する必要のある金額が増えるためだ。関連費用は判明分だけで1000億円を超えた。日清食品ホールディングス住友不動産などで今期の関連費用が膨らむ見通しで今後、上場企業に同様の処理が広がりそうだ。』

 

 『あらかじめ将来の給付額を決める確定給付型の年金の場合、企業は従業員の将来の退職金や年金の支払いに備えて現時点で必要な金額(退職給付債務)を準備する。その際、「割引率」と呼ばれる利率を使って債務額を計算する。

 適用する割引率は長期国債の利回りなどを基に決めており、市場金利が下がると割引率も低下する。割引率を下げると退職給付債務が増えるため、不足分を決算に反映する必要がある。反映させる時期や期間は企業ごとに異なる。』

 

要するに、

マイナス金利金利の低下)⇒(会計処理での)割引率の低下⇒年金債務の増加⇒利益の減少、純資産の減少

ということだ。

日清食品ホールディングスは2017年3月期に数十億円規模で関連費用が膨らみ、利益水準をその分押し下げそう住友不動産では17年3月期に費用が数億円増加し、三井金属でも数十億円の費用が生じる可能性がある。システム開発オービック2億円前後の費用を計上する見通しだ。』

 

前期までに(というか金利低下の傾向を適時に)割引率を見直した(低下させた)会社はそれほどのダメージはないかもしれない。前期に割引率引き下げを見送り、高い(1.5%以上)割引率を維持してきた会社は今回のマイナス金利(ほどの金利の低下)は大きなダメージとなるだろう。ちなみに、LIXILは1.6%、大和ハウスは1.7%。

 

 『LIXILグループは16年3月期に国内の年金関連費用が約100億円増えたことなどで、連結最終損益が200億円の赤字(前の期は220億円の黒字)に転落した。大和ハウス工業も16年3月期に関連費用849億円を特別損失に計上した。』

 

まあ、現行の退職給付会計ルールに当てはめればそういうことなんだけど・・・

 

会計ルールの設定側でも

マイナス金利になると割引率もマイナスにすべきか?』

という議論も真剣にされたとのこと。

 

将来の年金債務を現在価値に割り引くときの割引率をマイナスにするということは、

年金債務の現在価値>将来の年金債務

となり、割引率ならぬ割増率となってしまう・・・笑えないけど・・・

ということもあって(もちろんこれだけの理由ではないが)、マイナス金利であっても割引率は0の採用も可、ということになった。

 

なんだかなぁ・・・

そこで常識的な判断入れるんだったら、会計ルール自体常識的にすれば良いのでは?

と思うのだ。

 

要するに現行の会計ルールでは、金利の変化による年金債務(現在価値)の変動分や年金資産の価値変動分を全額毎年の決算(B/SとP/L)に反映しろ、ということ。

(注)P/Lについては、会社の選択により全額あるいはその一部が当期純利益に反映される。一部の場合は、残額は包括利益に反映される。

 

だから、金利が下がれば企業の財政状態、業績は悪化するし、上がれば改善する。どっちに振れるかは金融市場次第・・・

また、その影響額は本業の稼ぎを吹っ飛ばす勢いだ・・・

 

企業年金制度なんて危ない制度をやっているからこういうことになるのであって、仕方ないですよ、と言われるかも知れないが、従業員への退職後の年金制度が何で企業の存続を危うくすることになるのかピンとこない会社も多いのではないか?

 

以前(平成24年改正前)はこのような金利の変動による年金債務や年金資産の金額の変動は全てを即時に会社の決算に反映してはいなかった。

従業員の退職時期までの期間(平均残存勤務期間)にわたって償却していた。例えば、今年100の損(数理計算上の差異)が発生し平均残存勤務期間が10年とすると、毎年10(100*1/100)ずつ決算(P/L、B/S)に影響させていた。

金利の変動なんてどうなるか読めないし(その読みが外れた影響が数理計算上の差異おとなる)、従業員の退職までの期間で金利が今度は上振れして結局チャラになるかもしれない。それを毎年毎年全額、決算に反映させたら『毎年の』財政状態や業績のアップダウンが激しくなってしまう。本業が順調に推移しているとすれば、それこそ投資家をスリード(誤解)させることになる。だったら、毎年の変動は把握はするが決算への影響は漸次が良いのではないか、という考え方だ。

 

要するに考え方、価値感の違いなのだ。

従来会社は存続するもの、来年も再来年もその先もずーっと存在する。だから、今年に全部影響させなくても徐々にやっていけば良いということになる。

一方で、現在の潮流は、この変化が激しくグローバルな競争の中で明日生き残れる保証はないM&Aもある。来年云々ではなく、今、現時点の会社の価値を示すことがメインコンサーンだ。そのためには、今存在する資産も負債も全部決算に載っけるのが当然となる。

 

まあ、おカネが世界を駆け巡るということは会計ルールもグローバルにならざるを得ないわけで、世界の全体傾向がそうであるならば、仕方ないんだけど・・・

もはや日本一国だけで会計ルールを設定することは現実的でないし。

 

会計ルールは、国や時代を構成する多くの人々の価値観を反映したものであるべきだと思う。願わくば、現在の会計ルールの背景にある思想や価値観がそれを反映したものであって欲しいと思うばかりだ。

 

 

株式持ち合いって何の意味があるの?

ちょっと古い記事なのだが・・・

主力企業で持ち合い株を手放す動きが広がっている。大林組は今後5~6年で1000億円分を売る。コマツは保有をほぼゼロにした。パナソニック花王のように持つ意味が薄い株式は売却する方針を打ち出す例も相次ぐ。景気回復に向け企業は資金の有効活用を求められている。各社は余分な資産を処分して得る資金を、成長投資へ振り向ける。』

 

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持ち合い株、日本の高度経済成長を支えたある意味1つの日本的経営の象徴が過去の負の遺産として解消される、というもの。

高度成長において資金需要が旺盛、それでいて不安定な資本市場という経済社会にとっては資金調達側である会社と資金供給側である金融機関の利害が一致した1つのスタイルだった。

また、実際にはこの点が長らく重用されてきたのだが、安定株主による経営の安定化という経営者にとってのメリットがあった。取引上の関係のある複数の会社が相互にお互い株式を持ち合うことにより、株主総会において物言わぬ株主として一定の議決権を行使するというものだ。株主総会をスムーズに終わらせるだけでなく、例えば外資からの乗っ取りに対する防衛策としても機能した。

一方で、経営者にとってのメリットは、株主にとってのデメリット、安定株主工作による株主総会の形骸化株主による企業統治、エクイティガバナンス、が損なわれる、という問題が指摘されてきた。

日本の経済社会で株主がモノを言い出したのはそれほど昔のことではない。本格的にモノ言う株主が台頭しだしたのは所謂ハゲタカファンドのようなバブル後経営に行き詰った日本企業の外資による買収以降だろう。

それまでは、メインバンクによるデッドガバナンスが中心であった。ということは、メインバンクが自社の株式を一定割合保有していれば、経営者は銀行との事前交渉によって大方の経営方針が決定出来る、という相乗効果もあったわけだ。株主総会の前に、経営者とメインバンクとの話し合いによって重要事項は決定されるので、株主(総会)は当然軽視される。今では、とんでもない話だ、となるだろうが・・・

 

何でもそうかもしれないが、経済が上手くいっている時は、本来のあるべきかどうかは別にして、企業が儲かって金利も配当もそれなりに払っている内は、デッドだろうがエクイティだろうが、ガバナンスは対して問題にならなかった。

 

ところが、国内景気、経済環境が悪くなると状況が一変した。

株式持ち合いの弊害の面がクローズアップすることになった。

バブル後、海外におカネの調達先を求めた政府は急速に会計ルールを欧米に合わせるように改正した(会計ビッグバン)。この中で、保有株式の時価評価、いわゆる保有株式の含み損益を決算に反映させるようにした。業績の悪い取引先の株式を多く保有する銀行はこうした含み損が自己資本比率を圧迫することになった(一定比率を下回ると銀行は潰されることに・・・)。さらに、出資先に融資もしている銀行は融資に対する回収不能分の引当金(貸倒引当金)も必要になり、これがさらに銀行の決算を悪化させた。株式の含み損や貸倒引当金自体は決算に反映されようが、実損というかキャッシュとしての損はないのだが、これを機に融資先に対する『貸しはがしが起こると実態経済に大きな打撃を与えることは周知の事実だ。

株式持合い、特に銀行が取引先企業の株式を保有することは会社1社の問題ではなく社会的な問題となる・・・

 

事業会社同士の株式持合いはどうかといと、取引関係強化や資本提携関係の構築のため、というのが良く聞かれる株式持合いの目的だ。具体的に関係強化で何のメリットが期待できるのかというと・・・

他社よりも早く技術などの情報が入手できる

他社よりも仕入れ値が安くなる

他社よりも有事の際には協力してもらえる

といったところだろうか。

そもそも特定の相手とのこういう関係自体(実行されれば)、会社法的に大丈夫かという気もするが、経済的に見てもこれは特定の取引先等との長期安定的な関係を前提にしており、技術革新やビジネスモデルの変化のスピードや取引のグローバリズムが進む今のご時世で果たしてどうなのかなあ・・・

どうも変化の中で旧態依然のやり方を粛々と続けて時代の波に取り残される、そういう経営者を擁護するような策に思えてしまう。

 

また、当社をよく知った取引先に株式を持ってもらわなければ(持合いを解消したら)、買収リスクが高まる、という意見もある。

買収されたら良いんじゃないの?

と思うのだ。

資本の論理を振りかざすつもりはないが、そもそも株式会社で上場してるってことはそういうリスクは付き物だ。今は、グリーンメーラーや転売目的の買収に対しては対応策も認められている。その会社のリソースを認めてそれとのシナジーの発揮をし得る相手に買収されれば、今よりもその会社の業績も良くなるし、そうなれば、取引先もビジネスチャンスは増えるし、株主への配当も増える。もちろん、買収されるのが嫌だという株主は市場で売却できる。従業員も活躍の機会が増えたり昇給の機会もある。もっとも、買収を機に売却される事業部や解雇される従業員もいるだろう。しかし、その会社が存続していたとしてもそうならないという保証はない(これは別問題なのだが、どこでも生きていける力をつけていく必要がある)。

買収する/されるは、会社にとって、そのステークホルダーにとって、大きな環境変化であるが、同時に将来の成長、成果にとっての大きなチャンス(機会)でもある。

 

では、買収されて誰が困るのか? 

株式持ち合いが事業を成長させることができない、新しいビジネスを創出することもできない、外部の経営環境が変化する中で変化しない、変化できない、その結果、会社を弱体化させる残念な経営者が自らの身を守るためのものだとすると、これほど迷惑な話はない。

よく『会社にとってメリット/デメリット』と聞くが、言う立場によって内容が異なるので注意が必要だ。

その場合の会社とは誰のことなのか?

それによって、YesにもNoにもなる・・・

 

記事に戻って・・・

『スチュワードシップコード(SC)』、そして『コーポレートガバナンス(CG)コード』により特にメガバンクに対して(もちろん、一般の事業会社も)株式持ち合いを解消が促進されることになった。

CGコードで言えば、攻めのガバナンス、おカネを有効に活用して成果を上げ、株主に積極的に還元、という掛け声からは、一向に利益を生まない株式(配当はもらえるけど・・・)におカネを投じて寝かせるのは不効率。とっとと売却してその資金事業に積極投資(して儲けろ)しろ、ということだ。

ただし、持ち合い株式を売却するだけでは、CGコードが重視するROEも改善しない(含み益がある場合は却って低下)ので注意が必要だ。持ち合い株式を売却で得たおカネを事業に投資して、その事業から追加の利益を得て初めてROEが改善する。

 

事業会社にとっては、以前はともかく現在が株式持ち合いってどれほどのメリットがあるのか?と疑問視する声も多い(まあ、はっきりいって無いに等しい)。とはいえ、これまで保有してきた取引先の株式を売却すると、何で今!?的に取引先に変に思われても説明が・・・という会社にとっては、CGコードは福音となるかもしれない(それでもばれると気悪いし・・・)。

 

会社の中には、持ち合い株式を一定の基準で区分して売却しやすいものから順に売却していくというやり方もある(と思う)。

最近目にするのは、減損損失の穴埋め的に持ち合い株式の売却益を充てて当期純利益の帳尻を合わせる、というもの。

ここに会社の逞しさを見るのである(笑)

 

 

 

 

 

 

厳格監査、それとも幻覚監査? 

www.nikkei.com

相次ぐ会計不祥事に監査法人が対応を迫られている。東芝の利益水増しを見抜けず、行政処分を受けた新日本監査法人提携先の国際会計事務所や外部有識者によるチェックを導入。トーマツビッグデータ分析で不正リスクを洗い出す。決算書の適正さを保証する公認会計士への信頼が失われれば、投資家の疑心暗鬼は深まるばかりだ。組織として監査の質を高める手立てが欠かせない。』

 

決算書は投資判断の要であり、監査法人は企業から報酬を受け取って適正かどうかを保証する。東芝の事件は監査への信頼を揺るがした。投資家が抱く不信感に企業は敏感だ。30日には富士フイルムホールディングスが2017年3月期から監査人を新日本からあずさに変えると発表した。』

 

会社の会計監査を担当する監査法人への風当たりが益々厳しくなるようだ。

もっとも、何やらよくわからないが難しい資格を持った賢そうな人たちがやってるから大丈夫なんだろうな~と思っていたらそうでもなかったということが世間一般の知るところになってしまったのだから無理もない(初めてのことではないが・・・)。

 

となると、不信の目で見られる監査法人としても何らかの対応をせざるを得ない。

それは分かる。が、問題はその方向だ。

 

例えば、

新日本:提携先の国際会計事務所の品質管理担当者が駐在。外部有識者によるチェックも。

トーマツビッグデータを使った不正リスクの洗い出し

あずさ:会計士の補助作業をするスタッフを5年間で2~3倍の400~500人に

 

これを聞いて、株主・投資家はどう思うだろうか?

『今まではちゃんとやってなかったのか?』

という反応が目に浮かぶ・・・

(会計監査の)品質管理もろくに出来ないインターンみたいな連中がやっていたのか?

今まで不正リスクを適当に抽出していたのか?人手不足で本来するべき監査手続きをしていなかったのか?

今までの会計監査は、それこそ信頼して良いものなのか?余計に心配になるのではないだろうか?

 

PwCあらた:パートナーに続き、補佐する会計士も最大7年間で担当企業を交代

 

よく指摘される『慣れ合い』監査の防止である。長いこと同じ会社を担当し続けると慣れ合いの関係になり、会計不正を指摘できなくなる、ということだ。

同じような指摘として、そもそもおカネ(監査報酬)もらっている相手にキツいこと言えるのか?もある。

よ~く指摘される点なので、世間一般ではそうなる人が多いのだろう・・・

 

どうなんだろうか?

世間的には『これで体質改善が期待できるな』という反応が期待できるのだろうか?

自分が会計監査の業界にいたからかもしれないが、どうも改善の方向が違うように思えてならないのだ。

 

そもそも、会計監査人(公認会計士)に最も重要な資質は『精神的独立性』だ。

どれだけ会社と関係が長期になろうが、担当者と仲好くなろうが、自信の責務に対して忠実であり続ける精神性だ。もちろん、責務とは投資家・株主などのステークホルダーに対して会社の会計情報の適正性についての(監査)意見表明をすることだ。

なので、担当が7年だろうが、100年だろうが、それで精神的独立性が揺らぐような人は会計監査なんかやってはいけない。個人的には大丈夫という会計監査人であっても、例えば監査法人にいると担当会社数やその報酬総額が法人内出世の要件になり、会社(クライアント)と会計処理を巡って揉めたりしてチェンジを要求されたりすると出世に響く。また、こういう場合は得てして法人内部の機関とも揉めるので社内評も下がるので、これまたマイナス・・・という理由であってももちろんダメ←パートナー職のケース

 

手続きや監査スキルの問題(不正リスクのビッグデータを使った洗い出しや補助者の増加)も、これが本当に根本的な問題なのかな?と首をかしげたくなる。

そもそも、1円2円の会計処理の間違いが問題となっているのではない東芝では数千億円規模の間違(というか、意図した間違い)が問題になったのであって、それは手続きを増加させれば解決につながるようなものと質が違うように思うのだ。

それだけのインパクトのある不適切な会計処理の間違いが発生するような監査リスクや財務諸表のエリアを見逃すというのはちょっと考えれらない。普通に会計監査の訓練と経験を積んだ会計監査人であれば、『ちゃんと目を開けて』監査すれば問題なくクリアできる程度の話に思える。問題は、『ちゃんと目を開けて』監査できない/していない事情にあるのではないかと思うのだ。

例えば・・・

監査法人)組織といっても合併合併の繰り返しで融合しきれないままモザイク的な組織で、見た目上同じ看板を掲げているだけで実はお互いがアンタッチャブルということもある(と思う)。そうなると、監査法人内の小集団の会計監査人のスキルや経験など結局は品質も属人的にならざるを得ない。そういった中、会計監査の品質向上という名目で監査手続きが増強されると現場の会計士は夥しい数の手続きをこなすことに精いっぱいで1つ1つの監査手続きの意味を考えなかったり、それだけならまだしも、よくよく考えれば発見できた会計不正や会計処理の間違いを見逃すことにもなり得る。

また、良かれと思って導入している定期的に担当者を交代する、ローテーション制度も、会計監査の品質や会計監査人のアティテュードにはマイナスな部分もあると思う。

会計不正や会計処理の間違いの起こりやすいエリアは会社の事業によって異なる。そして、その事業や不正リスクを理解するには一定の経験年数が必要となる。一概に何年ということは難しいが、それを定期的に交代させるということは逆の言い方をすれば、監査チームには常にその事業や不正リスクに精通した人材がいないことを意味する。また、どうせ何年かで交代するということが分かっていれば、その期間内だけ問題がないように過ごそうというネガティブな意識が芽生えるのはこの業界に限らずであろう。

監査法人が中途半端に企業化している状態が良くないのではないかと思う。そもそも、監査法人公認会計士の集まりであり、基本的には専門家集団、経営者といっても果たして・・・

 

話は戻るが、そもそも世間一般には会計監査は何なのか、ちゃんと理解されているだろうか?

今回の例もしかり、会社の会計不正の問題が起こると監査法人の責任が問題となる。

しかし、くれぐれも断わっておくが、会計不祥事を起こしたのは会社であって監査法人ではない。監査法人の問題はあくまで会計不正を見抜けなかった、あるいは会計不正の事実を監査報告書を通じて表明しなかった、と言うことだ。

それはそれで大問題ではあるが、まるで会社とグルになって会計不正を働いたような印象を持たざるを得ない報道もある。

実際の会計監査の役割と機能、会計監査に対する社会からの期待とのギャップ、期待ギャップ、会計監査に付きまとう問題だ。

長きにわたって存在する期待ギャップを一掃するのことは容易でない。 

しかし、監査報告書が添付された決算書が投資判断の要、というその重要性を考えれば、その監査報告書がどういうプロセスを経たものなのかを会計監査の受益者である株主、投資家といった会社の会計情報の利用者にも理解してもらうことが肝心であるように思う。会計監査の信頼回復というのであれば、そういった方向の改善活動が必要になると思う。

何やっているかよく分からない人、僕は信頼しないので・・・