株式の追加取得で利益が上がるのは何故か? 【三越伊勢丹の例】
「三越伊勢丹ホールディングスは26日、持ち分法適用会社で高級スーパー「クイーンズ伊勢丹」を運営するエムアイフードスタイル(東京・新宿)を完全子会社化すると発表した。2018年に投資ファンドに売却した66%分を買い戻し、現在保有する34%分の株式を再評価することで22年4~6月期に39億円の特別利益を計上する。」
三越伊勢丹HDが、関連会社を子会社化することで特別利益39億円を計上するとの記事。
ちなみに、同社の適時開示情報はこちら☟
https://pdf.irpocket.com/C3099/Xq7P/p7d3/Ixkk.pdf
ちょっと調べると同様の事例は結構ある。
実は以前にも同じネタでブログを書いてたのだが、少し時間も経ったので改めて書いておくことにする。
・株式を購入しただけで利益が上がるのか?
株式を追加しただけで利益が出るの?それに再評価って何?
と不思議に思う人もいるのではないだろうか。
通常、資産を取得するだけでは利益は上がらない。例えば、株式(有価証券)100万円を取得する際の会計処理は次の通りだ。
株式取得時の会計処理
(単位:百万円)
現金預金と有価証券を交換するイメージだ。
では、いつ利益が上がるかと言うと、株式を処分する時点だ。100万円で取得した株式を120万円で売却すると、次のような会計処理になる。
株式売却時の会計処理
(単位:百万円)
では、何故、三越伊勢丹HDで株式の取得によって利益が上がるのかというと、これは、連結会計の考え方による。
・段階取得に係る損益とは?
連結会計基準では、単に他社の株式を取得することと(株式を取得する結果)他社を支配することは大きく異なると考える。例えば、A社がB社の30%の株式を取得していたところに新たに30%を追加取得して合計60%の株式を取得することでB社の支配を獲得する場合、過去に所有した30%を一旦清算して、改めて60%の株式取得を行ったと考える。その際、60%を取得した時点におけるB社の時価を新たな投資原価とする。つまり、過去の株式の取得原価と支配獲得時の時価の差額(この場合は利益)が「段階取得に係る差益」として特別利益に計上されるという仕組みだ。
言葉ではピンと来ないかもしれないので、簡単な設例で説明してみる。
なお、株式の追加取得によって他社の支配を獲得するには次の2パターンがある。
① 10%⇒60%
② 30%⇒60%
連結会計では、他社の支配するに至らなく点も一定の影響力を及ぼす場合は持分法を適用することになる。株式であれば20%以上を保有する場合等が該当する。①と②では、持分法の適用対象となるかどうかの違いがあるが、説明が簡単なので①のパターンで説明する。なお、三越伊勢丹HDのケースは②のパターンだ。
・設例による解説
A社が2020年3月31日にB社の株式を10%取得し、その2年後の2022年3月31日に50%を追加取得し、支配力を獲得したとする。
なお、単位は省略する。
①A社のB社株式取得の履歴
②2022年3月31日のA社及びB社の貸借対照表(要約)
なお、支配獲得時(2022年3月31日)のB社の土地の時価は70,000であったとする。
この場合、連結会計処理は次のようになる。
③B社資産の時価評価
B社の土地の時価評価を行う
この時点で、B社の貸借対照表は次のようになる。
④A社におけるB社株式の修正
そして、A社では、B社に対する投資額を支配獲得時の時価へ修正する。
計算式を示すと次の通り。
段階取得に係る差益=B社に対する投資額(時価)ーB社に対する投資額(簿価)
=@65✕600-36,500=2,500
ここで、特別利益である段階取得に係る差益が出現することになる。最初に@40で取得した10%を50%を追加取得した時と同じ単価、つまり@60で再度取得したことに修正している。実際にはそんなに支払っていないので差額が利益になるということだ。
そして、連結消去仕訳は次のようになる。
のれん=A社のB社投資額39,000-B社資本の部✕A社持分比率60%=3,000
非支配株主持分=B社資本の部✕非支配株主持分比率40%=24,000
例えば、追加取得時に段階取得に係る差益を認識せず、つまり、過去の取得分を再評価しないとすると、連結消去仕訳は次のようになる。
違いは、B社株式とのれんの金額に表れる。そして、のれんは日本基準であれば、20年以内の期間で償却され段階的に費用となる。段階取得により思わぬ利益が出てラッキーと思うかも知れないが、利益と費用のタイミングの差こそあれ、結局はその影響は相殺されることになる。
おカネが動いていないのだから、そりゃそうだろうけど・・・
段階取得に係る差益を得と考えるか、それともぬか喜びと考えるかは貴方次第です、ということかも。
以上、マニアックなネタではあるが、それでいて同様の事例は少なくない。
段階取得に係る差益について知っておいても悪くないだろう。