溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

キャッシュ・フロー計算書の読み方 【久々にレクチャー系】

久々にレクチャー系。

 

アカウンティングのクラスで財務3表の読み方について講義をすると、P/Lに比べて

キャッシュ・フロー計算書(以下、CF計算書)は分かりにくいという意見がよくある(B/Sもだけど、これはまた別の機会に)。

これって馴染みが薄いから分かりにくいということで、決して難易度が高いということではないと思う。ちょっとしたコツさえつかめば実は全然難しくない。

 

 ところで・・・

会社は赤字でもすぐには倒産しないが、

キャッシュが底をつくとたちまち倒産する

 

事業の成長性も収益性ももちろん重要だが、倒産してしまっては元も子もない。

従業員、取引先、融資先など多くのステークホルダーにとっては、会社のキャッシュがどういう状況かはもしかしたらP/Lの売上、利益以上に重要な関心事かも知れない

 

ということで、今回はCF計算書の読み方について書いてみたい。

 

【CF計算書の形式】

現在、多くの会社(CF計算書の作成が義務付けられているのは上場会社等に限る)が作成するCF計算書は『間接法』で作成されている。これが、また一般のユーザーを遠ざける遠因にもなる。というのも、率直に分かりにくいのだ。

 

https://keiei.freee.co.jp/wp-content/uploads/2014/09/f87192f8614cc2b7ab84cb9bedb13119.png

 

間接法というぐらいだから、『直接法』のCF計算書もある。あるにはあるが、知る限り全ての会社が間接法で作成している。というのは、

間接法が作成がしやすいからだ。実は、CF計算書が義務付けれるまでは、キャッシュ・フロー情報は『資金収支表』という名称で、財務諸表の附表として有価証券報告書に含まれていた。この資金収支表は直接法で作成されていた。当時は注目されることも無く、間接法で読みにくくなってからキャッシュ・フロー経営の重視などで注目されるとは皮肉なものだ。

 

それはさておき、直接法と間接法の違いは『営業活動によるキャッシュ・フロー(以下、営業CF)』の部分だけで、その他の『投資活動によるキャッシュ・フロー(以下、投資CF)』、『財務活動によるキャッシュ・フロー(以下、財務CF)』はどっちで作っても全く同じ。違いは無い。

 

受講者の多くは、営業CFの作成(利益から営業CFへの調整計算)の難解さに目を奪われて、CF計算書の仕組みが分からない=CF計算書が理解できない、となるようだが、作成の仕組みが分かることとその意味するところが理解できることは全く別。

 

作成方法など知らなくても気にする必要なし。

着眼点を押さえておけばちゃんと読める。

 

そうは言っても、少しぐらいはCF計算書の構造を理解しておく必要はある。

 

【CF計算書の構成】


・営業活動によるキャッシュ・フロー(営業CF)
・投資活動によるキャッシュ・フロー(投資CF)
・財務活動によるキャッシュ・フロー(財務CF)

 

と3つのキャッシュ・フローから構成されている。簡単に説明すると、


営業CF: 一定期間に会社の事業から生み出されたキャッシュ
投資CF: 一定期間に事業の維持・成長のために投じられたキャッシュ
財務CF: 一定期間に株主、債権者から/へ調達・返済(還)されたキャッシュ

だ。

 

構造については、これだけでOK。

 

【CF計算書の着眼点】

次に、着眼点を4つ。

 

① 営業CFが黒字か?

  会社は事業からキャッシュを生み出しているのかどうかということだ。会社が事業からキャッシュを生み出していれば、営業CFは黒字になる。営業CFが赤字ということは、事業を続けるほどに会社がどんどんキャッシュが流出していることを意味する。リストラなどで一時的であればその限りでは無いが、継続的に営業CFが赤字の状況は早晩会社のキャッシュが尽きることとなる。

 

② 何に投資しているか?

  よく勘違いされるが、投資CFは赤字が普通。投資CFが赤字ということは、会社が投資にキャッシュを使っているということだ。投資CFの説明からも、事業の維持・成長のためにキャッシュを投じる(使う)ことが望ましいということだ。しかし、投資CFには、有価証券の取得や貸付金なども含まれるので、会社の事業の維持・成長につながる投資かどうかをチェックする。メーカーにおいては、製造設備などへの投資、すなわち、有形・無形固定資産の取得(による支出)などが該当する。また、M&Aだと子会社株式の取得(による支出)という項目で投資CFの項目に記載される。

最近、成長が著しい会社はメーカーに限らない。ITやECなど人材こそが会社の重要リソースという会社が増えてきている。このような会社にとっての投資とは、人材の確保、育成、研究開発などで、会計上はこれらの項目は人件費、研究開発費(R&D)としてPLの営業利益までに反映される。したがって、営業CFに反映されており投資CFには表れないので留意が必要だ。

 

③ 営業CF+投資CFは黒字か?

  会計上の定義ではないが、営業CF+投資CF(投資CFが赤字とすると、営業CF-投資CFとも)は黒字かどうかを確認する。これは、よくフリー・キャッシュ・フロー(FCF)と言われる。簡単に言うと、キャッシュ・フローの余裕度だ。毎月100の収入がある人が50使って50の余力があれば、不測の事態等への対応の余裕がある。一方、100の収入に対して100使う場合、何事もなければギリギリ回るが、突発的な事態が発生すると対応に困るのは理解できるだろう。

 

④ 営業CF>当期純利益か? 

  営業CFはPLの営業利益と関係があると誤解されやすいが、簡単に言えば、

営業CFは当期純利益のキャッシュ版だ。営業CFをよく見ると、利息の受け払いや、キャッシュを伴う特別損益、さらには法人税の支払いも含まれる。

  さて、①は営業CFが黒字か?ということで、赤字は論外(1年限りは例外)。では、黒字なら問題ないかというと、営業CF<当期純利益だと怪しい。何が怪しいかというと黒字倒産の懸念がある。PLで当期純利益が黒字で、営業CFがそれ未満(赤字も含む)黒字倒産の予兆はまさにこの点に表れる。普通に健全な会社であれば、

営業CFは当期純利益の2~3倍は期待できる。

 

【CF計算書の簡単な分析】

 

以上、4点のポイントだけ理解しておけばCF計算書は十分読み取れる(仮に作成できなくても)。

 

例えば、以下の2つのCF計算書を見てみよう。

 

              A社     B社

当期純利益 100     200

調整額   200    △300

営業CF     300    △100

 

投資CF    △100     200

 

財務CF    △100     200

 

トータル     100     300

 

なお、

日本では、CF計算書は税金調整前当期純利益から調整計算を開始するが、ここでは便宜上当期純利益から開始している。また、

間接法のCF計算書の『税前利益⇒営業CF』へ至る調整項目を一括して『調整額』として記載している。実際には、減価償却費や売上債権やたな卸資産の増減などの各項目ごとに記載される。


A社のこの期のキャッシュの面からの状況をざっくり読み取ると次のようになる。

本業から300のキャッシュを生み出し、将来の事業への投資(設備投資など)に100のキャッシュを投じ、更に借入金を100返済して財務体質を改善した。

営業CFは黒字。更に、当期純利益よりも3倍大きい。投資にもキャッシュを投じている(投資内容は不明だが、ここでは設備投資を仮定)。さらに、資金的余裕(営業CF+投資CF=200)を活用して、負債の返済(ここも仮定)を進めた、と言ったキャッシュをどう稼いだか、どう使ったかを読み取ることができる。

同様に、B社。

本業では100のキャッシュを失い(流出し)、土地などの保有する資産を売却して200のキャッシュを調達し、さらに200の借入れでキャッシュを賄った、といった状況が読み取れる。

特に、当期純利益が黒字(200)なのに営業CFが赤字(△100)。整額△300の要因が、売上債権の増加、あるいはたな卸資産の増加が主たる要因によってこのような状況になっている場合には、黒字倒産に至る予兆と言える。これは、事業が(急)成長している場合も該当するが、事業が行き詰まり粉飾まがいの行為を行っている場合もそうだ。

黒字倒産の予兆は、当期純利益黒字、営業CF赤字にそのサインが表れることを覚えておいてほしい。

最近の上場会社の倒産の事例はこのパターンが多い。

過去ブログは☟

 

tesmmi.hatenablog.com

 

B社は事業からキャッシュを生み出せていないので、何とかキャッシュを工面しようとして手持ちの資産(不動産など)を売却し、更には借り入れをしてキャッシュを確保している。もちろん、このような状況がいつまでも続くとは思えないだろう。

 

A社とB社、キャッシュ・フローの典型的な良好なパターンと悪いパターンではあったが、上記の4つの着眼点を意識すると、結構CF計算書から、キャッシュの面からの両社の状況が読み取れたのではないだろうか?

 

【キャッシュが増えていれば良いのか?】

ところで、CF計算書の読み取り(分析)をすると、

キャッシュが増えている会社の方が良好ではないか

という意見があるが、必ずしもそうは言えない。

例えば、上記のA,B社ではB社の方がキャッシュは増えている(A社:100<B社:300)。

しかし、B社の方がキャッシュに苦労していると考えられるのは先ほどの分析のとおりだ。


CF計算書から会社の何を読み取りたいかによるが、

会社が将来に亘ってキャッシュを生み出す力

があるかどうかは、会社がどの活動でキャッシュを生み出し、何に使っているかに大いに関係するからだ。つまり、CF計算書はキャッシュの増減ではなく、キャッシュ・フローの内訳にこそ意義がある。トータルでキャッシュが増えたかどうかの結果だけならばCF計算書を作成するまでもなく、B/Sなどでキャッシュの増減を把握すれば済む。

ちなみに、最近ソニーの例が日経新聞で掲載されていた。

www.nikkei.com

『ソニーが2017年から独自のキャッシュフロー(CF)計算書の開示を始めた。』ということで、記事を読んだが、最初何が独自なのか全くわからなかった(あまりに当たり前なので)が、どうやら以下がポイントのよう。

 

『資金の流れを測る上で重要なCFだが、ソニーが開示するCF(金融を除く)は

事業が現金を稼ぎ出す能力により焦点を当てたのが特徴だ。前の期の現金収支の状況をスタートに置き、営業や投資、財務活動に伴う収支を反映する。ここでは、通常は財務CFとして算入する借入金の返済や資金調達に伴う資金の増減は考慮しない。

 「借り入れを増やせば手元資金が増えるのは当たり前」(村上氏)。借り入れに伴う資金の出入りはあくまで別物とみなし、期中の増減要因から除外する。』

 

キャッシュの増減だけで会社の良しあしを判断するのであれば、事業でキャッシュを稼ごうが、銀行から借り入れようが同じ、ということになる。しかし、どっちが将来における継続性を期待できるかというと自明だろう。

 

もっとも、だからCF計算書で営業CF、投資CF、財務CFに区分してるんでしょ、何を今更・・・と言いたくもあるが。

 

 

ところで、文中、キャッシュ、キャッシュと連発しているが、そもそもキャッシュとは何かを最後に触れておく。ここでいうキャッシュとは、CF計算書上のキャッシュのことだ。細かい定義はこちらを参照☟

現金及び現金同等物 | PwC Japanグループ

ザックリ言えば、現金ないしは現金に極めて近い、要求したら短期(おおむね3か月以内)で現金化可能な有価証券ということだ。したがって、B/S上の現金及び預金の金額とは異なる。例えば、短期に資金化可能な有価証券も含まれるし、一方、流動資産に含まれる満期が3か月超の預金は含まれない。

二重課税は何が問題なのか? 【希望の党の例】

ちょっと前の記事を引用。その後、内部留保内部留保課税について様々なメディアで識者などから意見が上がり、結果として、内部留保に対する社会的な認識が高まってきたのは良いことだと思う。このブログでも過去に何度か内部留保について書いているが、これを機に少なくとも内部留保≠現金』の理解がビジネスパーソンの常識となって欲しいところだ。

今回は、内部留保課税について少し触れてみたい。
希望の党が今回の選挙公約に掲げた企業の内部留保への課税、いわゆる内部留保課税。賃上げや設備投資を促す起爆剤にするのが小池氏の狙いとのこと。

 

https://www.nikkei.com/content/pic/20171006/96958A9E9381949EE2E49A86888DE2E4E3E2E0E2E3E5E2E2E2E2E2E2-DSXMZO2191624005102017000003-PB1-7.jpg

ここで、内部留保≠現金だから、内部留保が大きいからと言って現金を貯めこんでいるとは限らない。それを理由に課税するのはおかしいという意見もあろうが、ここでは、議論の焦点をブラさないために、仮に内部留保=現金として進める。実際、10/21日経朝刊(https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20171021&ng=DGKKZO22528140Q7A021C1DTA000


)でも、金額はイコールではないものの、内部留保保有現金の増減はシンクロしており、総じて、内部留保の高まりが現金をため込んでいる状況の背景にあることは言える。まあ、ここでそれを言いたいわけでないが・・・

 

https://www.nikkei.com/content/pic/20171021/96959999889DE0E0E7E0EAE3E6E2E0E2E3E2E0E2E3E5968693E2E2E2-DSKKZO2252816020102017DTA000-PB1-2.jpg


内部留保課税に反対の理由として、二重課税だから、という意見が目立つ。
これについて違和感を覚える。では、

二重課税じゃなかったら納得するのか?


税制は難しい。課税には公平性、中立性が重視されるべきであるが、言うは易しで、何をもって公平、中立なのかが判別しにくい。誰から見るかによっても公平委の定義は変わり得る。


世の中に二重課税がないかというと、既に存在する。制度として運用されている、つまり認知されているのだ。もちろん、不満が無いとは言わないが、国民全体として一定の範囲で納得が得られているのだ。

二重課税の代表的な例は
相続税、配当課税や特定同族会社の留保金課税だ。
これ以外にも、ガソリン税に対する消費税も二重課税ではないかという誤解もあるほどだ。


二重課税は、一の納税者 に対して、一の課税期間において、一の課税要件事実、行為ないし課税物件を 対象に、同種の租税を二度以上課すことを指す。したがって、ガソリン税に対する消費税などは、納税者が異なるので二重課税には当たらない。


相続税も、所得に対する所得税と相続資産に対する相続税は課税物件が異なるという見方もある。この点、日本の税制では、ザックリ言うと所得税と同様に相続税は実質的に所得にかかる税金という立て付けであるため二重課税とされる(遺産取得課税方式を採用しかつ所得税の補完税として構築されている)。


配当金は、法人の所得に対する法人税と配当を受ける個人に対する所得税は納税者が異なるという意見もある(法人実在説)。一方で、法人税所得税の前取りであり、同じ課税物件である所得に対する二重課税だという見方もある(法人擬制説)。現在の税制では、後者の立場に立つ。つまり二重課税というわけだ。ちなみに、この二重課税については、申告による配当控除(二重課税の解消)が認められている。


ヤヤコシイ部分は読み飛ばしてもらって結構だが、要するに、二重課税と言っても、
二重課税自体が多義的な不確定な概念なので、見方によって玉虫色に変化してしまい、誰にとっての二重課税、いつのどの所得等に対する二重課税なのかを明確にして議論しないとそもそも二重課税なのかどうかもよくわからないことがしばしばある。


企業の内部留保に対する課税については、法人税を課税された後の所得に対する課税であるため二重課税と考えて問題ない。しかし、当期新たに発生した内部留保に対する課税なのか、それとも期末の内部留保残高に対する課税なのかによっても話は変わる。後者のストックに対する課税となれば二重課税どころか多重課税となる・・・

二重課税は筋が良い課税かというと、それはやはり筋が良いとはいい難い。二重課税を認めると担税力を超える課税となり、課税の公平性を欠き、また競争意欲を削ぐ原因となるからだ。いくら頑張って稼いでも、稼ぎのほとんど(場合によって稼ぎ以上)を税金で取られてしまっては頑張って働く意欲は減衰するだろう。

国としても

多くの卵を得ようとして、鶏を弱らせては本末転倒
だろう。

しかし、だからといって、二重課税が即悪い、とするのも早計だ。

そもそも、何故税金が必要かと言えば、市場の失敗の補完のためだろう。

簡単に言えば、市場原理だけに任せておくと、民間の企業は自分たちに直接のメリットの期待できることしかやらない。一企業としてはそれで結構だが、しかし、国や社会全体には必要(公共財)というものがある。例えば、国防、警察、外交などだ。民間がやらない以上、国がやるしかないし、そのために必要な資金を税として民間から徴収する。これが税金だ。

また、経済発展のために民間の自由競争は促進するとしても、自由競争の結果、

行き過ぎた貧富の差が生まれる場合がある。

これに対して、一定の所得の再分配を促すために課税をする。相続税などの資産税や所得の累進課税などがこれに当たる。


富裕層からすれば不平等に映るかもしれないが(そもそも平等という定義自体誰を念頭におくかによって変わる)、社会全体としては平等を促す制度ということだ。

例えば、相続性。ある意味、人間を怠けさせないための戒律的な税金と言えるかもしれない。3代続けば財産は0になるという。これは相続財産に3回(代)課税されると財産が0になる(相続財産=相続税総額)ということだ。これも勝ち組を勝ち組のままにさせない、同時に誰にでもチャンスがある、常に自由競争を促し、国の経済を成長させるという目的が税制に反映されているとも言える。同様に、特定同族会社の留保金課税も配当を小さくして(その分が内部留保になる)配当課税を逃れる(租税回避)に対する懲罰的な課税だ。これもある意味、課税の公平性がベースにある。

何が言いたいのかというと、課税の大義名分は何ですか、ということだ。
二重課税だから悪いのではなくて、その理由、目的に納得感を持たせられるか、が重要だと思う。


もちろん、社会のために必要なおカネであることが大前提だが、必要なおカネは二重課税だろうが何だろうが国民から税金として徴収するしかないのである。国民にしてみれば、額に汗して稼いだおカネだ。二重課税でなくても払いたくないものだ。


何故必要なのか、そして、社会にどう活かされるのか、納得感が得られるのか


が議論されるべきだと思う。

 「ためられてきたお金が設備投資や配当に回る」。小池氏は6日、自らの経済政策「ユリノミクス」の目玉の一つとして内部留保課税を掲げ、その目的について、こう語った。

内部留保課税で果たして実現するのだろうか・・・

 

ところで・・・

 

内部留保金課税案に対して企業経営者(経団連とか)からの反対意見はクローズアップされるが、株主や投資家からの声があまり聞こえてこない。内部留保って株主のモノなのにね(笑)

 

中堅監査法人の合併報道に思う 【太陽・優成の例】

www.nikkei.com

 

中堅監査法人太陽監査法人優成監査法人が来年2018年7月の合併に向けて基本合意したとのこと。

 

基本的には大賛成だ。

予てより、中堅監査法人の統合、大きく言うと業界再編はもっと進めないといけないと思っている。

 

 

まず、品質の問題。特に最近は会計監査の社会的な信頼云々の問題がクローズアップされているので、監査法人の会計監査業務に対する品質の向上がクライアントである会社からもそうだし、社会全体からも求められる。

ところで、会計監査の品質と言っても、結局、

ヒト、カネ、情報に尽きると思う。ここで、会計監査の品質の定義について本来はキッチリとしておきたいのだが、ちょっとヤヤコシイ部分もあるので、ここではぼんやりと一般的な品質をイメージしてもらって良い。

ヒトについては、まずは優秀な人材がどれだけ採用できるかということだ。公認会計士資格(いわゆる2次試験を通過した公認会計士の卵で可)を持っているのだから問題ないのではないか、と思うかもしれないが、それはそれ、試験は試験。一定水準をクリアしたとはいえ個人差はある。一般事業会社と同様に、通常は大手の方が優秀な人材は集まりやすい。

とはいえ、どんな優秀な人材も一人前の会計監査人になるには育成が必要だ。試験に合格しただけの公認会計士の卵が仕事(会計監査)を立派にできるかどうかというとそうでもない(まずできない)。したがって、定期的な研修制度やOJTの質と量が重要だと思う。ここに、カネと情報が効いてくる。大手の監査法人であれば、職員に対して定期的な研修制度を提供したり、クライアントの業種も社数も多いので職員は広範囲の業務経験を得ることができる。現在は(これまでもだが)、会計に関するルールが頻度高く改正される環境であり、会計監査の現場を担当する職員1人1人がいかに正しい知識をタイムリーにアップデイトしているかは会計監査の品質に大きく関わる。また、ルールは知っていても、会計のルールには適用において判断の余地がある(どんなルールもそうだと思うが)。会計ルールの趣旨と実際の取引(会計事実)の両者を合わせて都度適切な判断をするには、やはり数々の業種や企業からの会計監査経験がものを言う。大手になれば会計監査チームの人員の質も高ければ、クライアント企業の役員、従業員の質も高い。かつ、会計監査で問題となる会計処理の質もまた高くなる傾向がある(経験上)。

また、海外とのネットワークもある。大手4社は、あずさ=KPMG、新日本=E&Y、トーマツ=Deloitte、あらた=PwCと、国際的なアカウンティングファームと提携関係にある。世界主要国に拠点があることもそうだが、グローバルな大企業のクライアント、そういったクライアントとの関係によって得られるノウハウ(監査ツール開発含む)、資金力、あるいは世界の主要国における会計士団体に対する影響力などもある国際的な大手アカウンティングファームとの提携が、また日本国内におけるヒト、カネ、情報へ影響を及ぼす。

 

このように、

監査法人の規模の違いは規模にとどまらず、会計監査の品質にも大きく影響する。

 

事業会社が監査法人を選ぶ場合、何を選定基準とするだろうか?そもそも実際のところ会計監査って何しているのかよくは知らないという会社(経営者)も多いのではないか。実際、目にするのは最後に提出される1枚の提携文言が記載された紙(監査報告書)なので、だったら安い方がいい(価格)ということになろう。とはいえ、昨今の企業不祥事、不適切会計を意識すれば、そうは言ってもちゃんとした体制の処(品質)にお願いしたい、という気持ちもあるだろう。品質に関しては、グローバルに事業展開している会社はグループ全体を同じ監査法人(海外ネットワークを含めて)に委託したいというのも含まれる。

価格と品質の均衡という点が、従来、僕が監査法人の業界再編をすべきと思う理由の1つだ。価格と品質の点において、

大手と中堅の監査法人間のかい離が大きすぎるのだ

上述したが、品質を保つにはカネがかかる。当然、かけたコストが監査報酬に反映される。記事の法人業務収入を見ても明らかだろう。監査報酬のレベルは大手よりも中堅(中小)の方が低い(公認会計士業界の目安はあるが)。

一方で、会計監査が義務付けれる上場会社、会社法上の大会社と言っても規模や事業の特殊性、あるいはグローバル展開は様々だろう。ということは、会計監査に求める品質にも幅があるのではないかと思うのだ。あまりにも高すぎる品質は不要、

会社のニーズに応じた品質を適正価格で提供できるような監査法人があれば、という意見もあるだろう。

現状は、ある程度にグローバルに事業展開するような会社であれば4大監査法人をアポイントせざるを得ない状況だ。一方で、大手になればそれなりに”規制”も多く、必ずしも会社の事業実態を斟酌した会計監査を提供するかというと果たして疑問な部分もある。この点は会計監査の品質って何?という部分になるのでここでは詳細は省く。簡単にいうと、明文化されたルールブックに沿って画一的な会計監査手続と判断をするのが会計監査の品質になってしまっている傾向がある。その結果、監査手続きが不効率化(⇒監査報酬アップ)したり、必ずしも会社の事業実態を反映した会計処理とならない場合がある。優成の小松氏の『一定の規模は拡大するものの、四大法人並みになろうとは考えてはいない。迅速で丁寧な対応ができる良さは大切にしていきたい』は、この点を指しているのだろう。当然、会社としては不満を感じるわけだが、さりとて、では監査法人を代えるといっても(他は小規模の処ばかりだし)実質的に受け皿となる監査法人がない・・・ということだ。また、4大監査法人から選べると言っても競合他社と同じ監査法人は情報漏洩などの点からも避けたいという意見もあり、

実際には選択の余地がない(から我慢せざるを得ない)という望ましくない関係が継続することにもなる。これらは会社側の立場から書いているが、監査法人からも会社に対する言い分はあるだろう。お互いのために、本当の意味での自由競争でお互いに見合った会社と監査法人を選択できる環境が望ましいのではないかと思う。

 

そういう意味で、今回の太陽・優成人の合併は歓迎すべきところだ。監査法人の合併も主導権、ポジション、給与体系と言った人事面やらこれまでの利益剰余金の取り扱いなどの課題があり、なかなか難しいのが実態。しかし、太陽の山田氏が言われるように

企業側の選択肢を広げることが社会にとって有益だ

個々の監査法人や個人の事情を超えて、会計監査の社会的意義の向上、もって社会的信頼を獲得という大儀のもと、この流れを加速してもらいたいと思う。

インタビューでは否定されているが、東芝の受け皿なんてのが今回の合併の目的だったなんてのはご勘弁願いたいが・・・

 

店長評価にROA導入の意図は!? 【J・フロントリテイリングの例】

www.nikkei.com

 『J・フロントリテイリング傘下の大丸松坂屋百貨店では、2018年2月期(国際会計基準)から店長の評価指標総資産利益率(ROA)」を導入する。従来は店舗ごとの利益が評価軸だった。より具体的に、細分化して利益を上げる意識を高めることを狙う。』

 

先日、三越伊勢丹HDの業績管理指標について書いたが、今度はJ・フロントリテイリングの情報。

傘下の大丸松坂屋の店長の評価指標にROAを導入するとのこと。記事にもあるが、利益だけじゃなくて資産の効率的運用も意識させる目的だろう。

 

ROA=経常利益(*)÷総資産

   =経常利益/売上高(経常利益率)×売上高/総資産(総資産回転率)

(*)日本では経常利益を分子におくことが一般的だが、より正確には事業利益(営業利益+金融収益(受取配当金、受取利息等)を用いる。

 

ROAを高めるためには、経常利益率(収益性)を高めるか、あるいは総資産回転率(効率性)を高めるかの2つのアプローチがある。

 

百貨店のようなビジネスは一般的には薄利と言われる。薄利で有れば効率を効かせることによって総合的指標を改善しようという目論見ともとれる。

そして、ROAを改善すれば、その結果ROEも改善する。

一応確認しておくが、

 

ROE=売上高純利益率*総資産回転率*財務レバレッジ

 

収益性が、ROAの売上高経常利益率と異なるが、経常利益を増加させれば通常は当期純利益も増加するので、収益性を改善するという根本的な点では同じだ。財務レバレッジを一定に据え置くとすれば、ROAを高めれば連動してROEも高まるのが分かるだろう。

 

同社の連結ベースの中期経営計画(2017~2021)では、2021年度目標の1つとして、

  

        2021年度  2016年度実績

連結営業利益   560億円    417億円

連結営業利益率   10.0%     9.2%

連結ROE       8.0%       7.6%

 

を掲げている。グループ全体の話にはなるが、事業内容を従来の『マルチリテイラー』から小売業の枠を超えた『マルチサービスリテイラー』を目指し、不動産事業の割合を12%まで増加させるなど事業環境的にも従来より投資対効果の効率性が重視されることも、今回の店長の業績評価指標にROAを導入する理由の1つではないだろうか。

 

『Jフロントは不動産事業を強化するなど「脱・百貨店」を進める。今年4月に開業した「GINZA SIX」(東京・中央)では賃料収入を柱に据えた。』

 

なお、ROEの項の内、財務レバレッジは、資金の調達手法(負債と自己資本)は前者ベースで判断しているだろうから(店舗ごとに増資、借入等の意思決定をしていれば別だが)店長の評価からは除外しているのだろう。財務レバレッジは本社でコントロールできるから、収益性と効率性は現場で頑張ってほしい、ということだろうか。

 

三越伊勢丹HDといいJ・フロントリテイリングといい、それぞれ経営目標に対してどんなアクションを起こせば(変えれば)達成できるのかを考えた結果のKPIであり、理にかなった施策だと思う。逆に言えば、それだけ厳しい市場環境に置かれているからこそとも受け取れるのだが・・・

 

店長(店舗)の業績管理指標にROA導入自体は良いのだが、1つ気になるのは、

店舗のA=資産をどう考えるのか?また、店長の評価にどう結び付けるのか?だ。

店舗の資産がそもそも何か、だが、我々消費者が目にする商品の多くは出店社であるメーカーの所有だろうから、百貨店の資産のメインは、不動産(建物、建物付属設備、土地、借地権等)だろう。

大型店、中型店などの店舗のサイズによって期待される利益も概ね比例するのであれば利益率は店舗規模によって差異はそれほどないと思われる。しかし、店舗が自己所有なのか、リースなのかによっては分母である店舗資産額に差異が表れる。リース契約によっては、オフバランス(not 資産)場合は資産が軽くなりその分効率性が改善する(したように見える)。つまり、リースの店舗の方が効率性、ひいてはROAが高く出ることになる。これは次の点にも関連するのだが、店舗間のROAの調整をどうするのかな?と思う。

 

『 全国14店(単体ベース)の大丸松坂屋百貨店の店長が対象だ。今期見通しのROA(営業利益ベース)は平均で4.6%。店舗ごとに目標水準は変えるが、「全店平均で5%以上」(若林勇人取締役)を目指す。達成度に応じて報酬や昇進時の評価に反映させる。』

 

記事にあるように、目標ROAの水準は店舗ごとに変えるとのことだから、算定ベースの不均衡はそこで加味されるのだろう(具体的にどう調整するのか興味あり)。

 

それ以上に気になるのが、責任と権限のバランスだ。利益責任を店長に求めるのはそれなりに納得感はあるのだが、資産の投資責任はどうだろうか。ROAは設備投資などの投資されたおカネを有効活用して売上、利益につなげるということだが、その投資は誰が決めたの? ということだ。要するに、資産の投資意思決定権限が店長に委譲されているのか?ということだ。先述の自己所有、リースの選択も然りだ。仮に店長に店舗に係る資産の投資決定権限があるとしても、店長の任期がどの程度かにもよるが、前任、あるいは前々任の店長が意思決定した資産の活用責任を問われるというのも評価される店長の身になればモチベーションの維持向上も気になるところだ。

 また、そもそもの疑問として、店舗に関わる大規模な投資案件は本社決裁ではらなかろうか。となると、そもそも店長に投資の権限が無いことになる…

 

もっともKPIは1つのメジャメントに過ぎないし、評価において考慮すれば良いとも言える。確かに言えるが、果たしてどう考慮するのか…その辺りが気になる。

 

ところで、J・フロントリテイリングは、当期(2018年2月期)から会計基準

IFRSへ移行する。 移行目的は次のとおり。

『当社グループでは、適正な資産評価に基づいた効率経営の実践や、当期利益重視の経営管理、 財務情報の国際的な比較可能性を高めることによる、海外投資家の利便性向上を目的として、 次期中期経営計画の開始(2017年3月から)に合わせて、IFRSを任意適用することといた しました。』

(出所:http://www.j-front-retailing.com/_data/news/161227_IFRS_J.pdf

 

先述の同社の中期経営計画にも掲げられている2021年の目標数値は実はIFRSベースの数値だ。

 

ちなみに、日本基準からIFRSへ会計ルールを変更することによって2017年2月期の連結ベースの売上高と営業利益は以下のような影響がある。

 

                                               (単位:億円)

            2017年2月期

       日本基準  IFRS

連結売上高    11,085   4,529

 

連結営業利益   445   417

連結営業利益率  4.0%  9.2%

 

売上高の差異の主たる要因は、百貨店(4,463億円)とパルコ(2,000億円)の総額取引をIFRSに則りそれぞれ消化ベース、純額取引金額へ変更したことによる減少。売上の金額修正のみで営業利益にはほとんど影響がないのが分かるだろう。この変更により、売上(規模)は小さくなるが、利益率は改善する。

先日のブログ(収益認識に関する会計基準(案)の公表に思う - 溝口公認会計士事務所ブログ

)で書いたように、日本の収益認識の会計ルールが近く変更になる。この変更による業績への影響の大きな業界として筆頭に挙げられるのが百貨店業界だ。規模を追う経営から利益、効率を求める経営への転換。

収益認識の会計ルールの変更がJ・フロントリテイリングの業績評価制度の変更に影響した部分もあったかも知れない。

 

 

何故、内部留保がやり玉に挙げられるのか?

m.newspicks.com

 

夏休みもなくドタバタしていたら、気づけは前回のブログから1か月近く経過していた・・・

 

内部留保に関するニュースが掲載されていたので久しぶりに内部留保について書いてみる。

 

財務省が1日発表した法人企業統計調査によると、企業が利益を蓄積した「内部留保」は2016年度末時点で過去最高の406兆2348億円となり、初めて400兆円を超えた。』

 

内部留保については以前もブログに書いた。2015年1月だったので、約2年半前。その時は内部留保が約330兆円だったから、それからさらに70兆円超増加したことになる。

 

『景気回復を背景に企業が資金をため込んでいる実態が浮き彫りとなり、投資や賃上げを求める圧力が一段と強まりそうだ。』

 

具体的には・・・

 『内部留保が増加している背景には、好業績に見合った賃上げや投資が控えられている側面がある。』

 

過去ブログも麻生大臣の内部留保をため込む企業は守銭奴という指摘だった。


 内部留保は企業の利益から税金や配当金、役員賞与など社外へ流出する分を差し引いた残りを積み上げたものだ

この手の指摘は、まず内部留保を現金及び預金(=おカネ)と見做している。で、

おカネをため込んで使わないとは何事か!、

そのせいで景気が回復しない。

賃上げや設備投資におカネを回して経済に貢献しろ!

 

あるいは、おカネをおカネのまま留め置くことは、利益を生まない資産を寝かせることになるので会社の総合的な収益性を表す指標である

ROEROAの悪化につながる

というものが多いように思う。

 

内部留保は利益をベースとするが、売掛金があれば利益は上がるが現金は未回収となりその分が違いなどにより、必ずしも利益=おカネとはならない。また、仮に現金商売、在庫も残らないという場合は一旦、利益=内部留保となるが、現金がその後、設備投資などに充てられるとするとこの場合もおカネ(の増減)=利益(の増減)とはならない。例えば、1,000の設備投資をするとおおカネは1,000出て行くが、利益は毎年減価償却分(例えば、10年定額償却であれば100(=1,000*1/10))が影響することになる。

いわゆる利益(の積み上げの内部留保)とおカネの差異

ということだ。

なので、おカネをため込む=悪、ということであれば、内部留保と言わずに、ストレートにB/Sの対岸であるおカネの大きさ、あるいは増加に着目すれば良いのに、回りくどいなあ、という意見もあるだろう。

 

もちろん、その通りで、内部留保が積み上がっても、設備投資や企業買収におカネを投じていれば、おカネはビジネスに投資されているので、内部留保だけでを見ておカネをため込むという先の指摘には当たらない。そして、その投資は一時に費用として利益に影響はもたらさないものの、減価償却を通じて徐々に影響を与える。なお、ここでは賃上げの是非の議論はちょっとわきに置く・・・

つまり、利益(=内部留保)とおカネの減り方のタイミングにはズレはあっても、積極的に投資していれば利益も減るので内部留保はそんなに積み上がらない。

内部留保がどんどん積み上がるのは結局のところおカネも適切に使えていないからだ

ということになる。

  

また、B/Sの現金(及び預金)は、毎年の会社の儲けや設備投資といった事業に関する要素だけでなく、財務取引などその他全ての会社の活動の結果であるので、例えば、儲けが出ても(内部留保は増加しても)それ以上に借入の返済をすれば現金(及び預金)は減少することになる。

好業績に見合った賃上げや投資が控えられているかというと、それ以外に要素が多く入り込むことになる。

 

したがって、あの会社、

こんなに儲かったくせに使わずに貯めこんでいる、(しかも

株主へ配当を支払った後にも関わらず)

という状況を指摘しようとすると、

内部留保がどれだけ積み上がったか

を見るのが分かりやすい、ということで

内部留保がやり玉にあげられやすいのではなないかと思う。

 

『一方、企業側は「合併や買収など、将来の経営に必要な資金」と繰り返しており、内部留保をめぐる議論は今後、激しさを増しそうだ。』

 

対するに、企業側の言い分。将来何があるかは誰も分からない。いざという時に頼りになるのは何といってもおカネだ。しかし、だからと言って、無目的にため込むのは経営者としてはやはりどうかとも思う。将来の合併や買収におカネが必要ということであれば、それを経営計画で示す必要があるだろう。こうした会社は過去に大きな成功を収めたがPLCが成熟期、衰退期を迎え次なる一手を出せずにいることも少なくない。会社将来の合併や買収を具体的な計画が無いことの言い訳に使ってはいけないと肝に銘じておきたい・・・

 

 

 

 

会計監査の信頼が遠く霞んだ日・・・ その2

www.nikkei.com

 

長くなりそうだったので分割。

その2は、内部統制監についてだ。

 

これも釈然としない・・・

 

日本の内部統制監査において、「不適正意見」はまず無い

あり得なくはないが、まず無い。

 

まず、少し内部統制報告制度、監査制度を簡単に説明すると・・・

 

内部統制報告制度は、

会社(経営者)が、内部統制報告制度に則って、適正な財務報告を行うに足る社内体制(内部統制)を敷き適切に運営しているか、チェックをしているかを定期的に確認して(金融庁に)その結果をレポートする制度のこと。

 

それを受けて、

内部統制監査制度は、

会計監査人(監査法人)が会社(経営者)が採った自社の内部統制の評価の範囲や評価手続き等が妥当かどうかについての監査意見を表明する制度のこと。

 

ざっくり言うとこういうことである。

 

ポイントは、監査法人が監査の対象とするのは会社(経営者)の評価プロセスと結果であって、会社の内部統制そのものでは無い、ということだ。

少々分かりにくいかもしれないが、JSOX制度導入時に監査コストの上昇などの懸念から日本ではこのような制度とした。ちなみに、アメリカでは監査法人が直接会社の内部統制が有効か否かの意見表明をする(これを、ダイレクト・レポーティングと言う)。

 

こういう制度のため、少々分かりづらい状況が発生する。

例えば、会社(経営者)が自社の内部統制を評価して当社にはこういう内部統制上の問題(報告すべき重要な不備)があります、とレポートし、会計監査の結果、確かにそのような問題がある、と判断される場合は、内部統制監査上は『無限定適正意見 』となる。

 

と、言うことは、内部統制監査で『不適正意見』が意味するところは、

会社(経営者)と監査法人との内部統制に関する『意見が不一致』

ということだ。

 

で、実際の内容を確認すると、以下。

 

あらた監査法人の主張は、

例の特定の工事損失(工事損失引当金)6,522億円を本来会社の決算財務報告に係る内部統制が有効に機能していたら、あるべき2016年3月期に適正に計上されていたはずで、それが当期ずれ込んだことが内部統制上の重要な不備だと主張している。争点となっている内容は財務諸表監査と同様。まあ、これは普通。

 

一方の東芝経営者の主張は、簡単にまとめると以下。

監査法人から指摘された不備は、M&Aに関して発生した特別の会計処理に関するものであり、その会社自体が(再建中で)評価すべき内部統制の範囲から外したので現在の会社の内部統制に実質的な問題は無い、というもの。要は、

患部を切り取ったので問題なし、ということだろう。もともと、ウチの会社じゃ無かったしということも含まれているのかもしれないが、それを言い出すとM&Aは今後出来なくなるな・・・

 

ものすごい違和感・・・

意見相違があることは無くは無いが、そこ争う所じゃないでしょう。

ぶっちゃけ、仮に会社の内部統制自体は99%有効に機能していたとしても、1%の隙間を突いて不正が発生、発覚したとする。その場合であっても、会社としては、確かに問題は起きましたがこれは全くの偶然の産物であって、当社の内部統制上の問題は有りません、とは言えないものだ。JSOXにおける内部統制は、会社が正しい決算報告をするための内部統制に限定しているため、内部統制(プロセス)の評価と、決算数値(結果)の評価は独立せずに相互に関係する。そのため、不適切会計などが結果として生ずると内部統制(プロセス)は結果責任を取らされることになる、というわけだ。

また、会計監査では不適正意見が表明されると上場廃止が問題となるが、内部統制監査あるいは会社の内部統制報告制度にはそのような規定は無い

 

つまり、会社として、どうしてもウチの内部統制は有効なんです、と主張する理由は何なのだろう?という疑問。

 

ここからは完全に個人の憶測となるが・・・

 

もしかしたら、バーターかな?と。

とりあえず、守るべき会計監査で曲がりなりにも『適正』をキープして、比較的ダメージの少ない内部統制監査で『不適正』を出させて監査法人のメンツを保つ、みたいな。

いや、これは完全に浅はかな憶測に過ぎませんが・・・

 

ちなみに、東芝は2016年3月期の内部統制報告において

・経営トップらに対する監督強化

 取締役会(メンバー)の構成 

 指名委員会の構成機能

 監査委員会の構成・監督機能

・内部統制機能強化

 予算統制見直し(チャレンジ)

 業務プロセス(工事の進捗管理

 内部通報制度の強化

 など

・マネジメント・現場の意識改革

といった内部統制上の報告すべき重要な不備を報告している。

 

その多くは、個別の業務フローを単純に見直せばすむという不備ではなく、会社の企業文化とか社風と言った会社全体レベルの統制も含まれる。

これら会社全体レベルの統制に関する不備は、一般的には改善に時間を要すると言われるが、これらの不備も1年で全て改善した、と報告をしている。

このゴタゴタの1年の間にである・・・

 

ホンマかいな・・・

 

だとすると、何としても内部統制は有効(不備は改善された)とする事情が別にあったのだろうか・・・ 

 

会計監査の信頼が遠く霞んだ日・・・ 【東芝の限定付適正意見】

www.nikkei.com

東芝は10日、2017年3月期の正式な連結決算(米国会計基準)を発表した。同期の有価証券報告書(有報)について「限定付き適正」の意見を監査法人から受け取り、有報も関東財務局に提出した。米原子力事業の損失の認識を巡って監査法人と意見が対立し有報提出の法定期限を6月末から延長していたがようやく決着した。大きな経営課題を1つクリアしたが、再建の道筋はまだ見通せず正念場が続く。』

 

大きな経営課題を1つって・・・会社も会社なら報道も報道か・・・

と毒づいてしまうぐらい、この監査意見ってどうよ。

 

【何が起こったのか?】

事前の「限定付適正意見」との報道に、まさか~と思ったが、まさか本当にこうなるとは・・・

で、もしや何ゆえに限定付適正意見なのかについての説明が(監査報告書に)書かれるのではないかほのかな期待をしてあらた監査法人東芝に対する平成29年3月期の監査報告書を確認してみたが、案の定、定型的なもの。

 

もしかしたら、多くの人は、東芝監査法人でモメたウエスチングハウス社のS&W社取得に係る特定工事契約に関連する損失(工事損失引当金)6,522億円の計上時期(2016年3月期に認識すべき損失では無かったのか?)の問題を『除けば』それ以外は

適正意見を出せるレベルの決算だということを監査法人が示した、と理解しているのではないだろうか?

さらに、もしかしたら、得体の知らぬ不安感じゃなくて、問題点が明確な分その点を割り引いて評価すれば良い、と思う人もいるのではないか・・・

 

東芝の決算、あるいは東芝の将来に対して事業関係者や市場関係者がどう評価をするか、これは、それぞれの立場で判断してもらえば結構と思う。

 

が、会計監査にそういった判断をさせるのは筋が違うように思う。

 

【何が問題なのか?】

このような事例において、果たして限定付適正意見が出せるのか?ということだ。

 

限定付適正意見というのは、定義では、

 一部に不適切な事項はあるが、それが財務諸表等全体に対してそれほど重要性がないと考えられる場合には、その不適切な事項を記載して、会社の財務状況は「その事項を除き、すべての重要な点において適正に表示している」と監査報告書に記載する。』

分かりやすい「会計・監査用語解説集」:監査意見の種類 | 日本公認会計士協会

 

その事項を除き、とあるので問題点を除外すれば他の部分は適正と読めなくもない。「部分適正」といった報道もあった。

しかし、限定付適正は問題点を除外してそれ以外の部分はOKという趣旨ではない

問題点はあるが、それを

『含んだとしても』全体として会社の決算書は適正

と判断される場合にのみ表明される監査意見なのだ。

そうでないと、不適正意見との違いは何だ?ということになる。

不適正意見は、問題点が大きすぎて、会社全体の決算数値が歪められてしまう場合に出される。

要するに、会計上の問題点のインパクトの大きさによって限定付適正、不適正意見となるのであって、この問題点は脇に置いておいて・・・としたら、不適正意見など無くなってしまう。

 

そもそも、会計監査は会社の決算書が全体として適正かどうかについての監査意見を表明する制度であり、この部分は適正、この部分は不適正といった部分的な意見表明はしない。それが良いか悪いかは別議論であって、現状の会計監査制度はそうなっている。

 

繰り返すが、会計上の問題点があったとしても、会社全体の数字としては概ね会社の財務状況を正しく表している、というのが限定付適正意見であり、果たして今回の東芝のケースはどうか?

 

問題となった工事損失:6,522億円

 

東芝の決算数値抜粋(2017年3月期有価証券報告書より)

    2016年3月期  2017年3月期 

             (単位:億円)

売上高     51,548     48,707

当期純利益    △4,600           △9,656

純資産            3,288            △5,529

 

会計監査でいうところの決算書が「全体として適正」というのは、決算書の読者が会計数値から会社の業績や財政状態を概ね正しく判断できる、

スリードさせない、程度に正しいという状況だ。

現状では、6,522億円の損失は2017年3月期に含まれている。これを仮に2016年3月期の損失として2016年、2017年の決算数値を組み替えると・・・

 

       2016年3月期  2017年3月期 

             (単位:億円)

売上高     51,548     48,707

当期純利益     △11,122           △3,134

純資産         △3,234                  993

 

となる。どうだろうか?

工事損失の組替前後で東芝の決算の全体としての印象が変わらなければ全体として重要性なし、となるのだろうが、赤字が1/3に減少したり、純資産が債務超過から復活したり、とここまでの大きな数字の変動を重要性無しというのはどうも無理があるように思う。

少なくとも僕の経験からは、このようなケースで限定付適正を出せたかというと無理だと言わざるを得ない。

絶対的な基準値があるわけでは無いが、監査法人ごとに基準値を置いており、利益でいうと税前利益の5%程度の会計上の問題(誤りなど)であれば無限定適正であり、それを超えると限定付適正、もっと大きくなると不適正となる。

 

ということで、会計監査の制度の立てつけや、個人的な経験を基にした感覚では、今回のようなケースでの限定付適正意見は釈然としないのだ。

 

そんなことは、あらた監査法人も重々承知のことだろうし、だとすると何でこういう結果になってしまったのだろうか、という疑問が生じる。

 

分かっていながら、「その事項を除き」と言う表現を利用した、印象操作に思える。

 

【何でこうなったのか?】

要はそこに何らかの高度な政治的判断が入ったのではないか、ということなのだが、それはそれで結構だと思う。会社の大小で語るべきことではないが、それでも東芝のような会社をどうこうするとなれば事務的な形式的な判断に留まらず、というのは有りうべきことだと思う。

 

しかし、会計監査を使うなよ、と思うのだ。

 

会計監査は会計監査制度に則って会計の専門家が粛々と独自の判断を下せば良いことだ。会計監査の重要な意義の1つに独立性がある。会社と利害関係の無い第3者である会計の専門家が会社の決算に対して意見表明することに意義がある、ということだ。

そこに別の目的や恣意が介入すべきではない。

 

度重なる会計不祥事を受けて(まあ起こしたのは会社なのだが)、公認会計士協会は会計監査の社会からの信頼回復に向けて取り組んでいるが、

こんなことしてて会計監査が社会からの信頼を得られると思っているのか・・・

 

会計監査で不適正意見だったとしても、それで即上場廃止としなければ良いだけの話だろう。会計の専門家はこう言っている、それを受けて証券取引所なりが取り扱いをどうするのかを判断すればよいだけの話だ。

 

もちろん、これは限られた情報を基にした個人的な感想にすぎない(その割に、刺激的な見出しになったが・・・)。もう少しちゃんと調べればなるほど、『なるほど、それで限定付適正なのね』、と僕の誤解であることを切に願うばかりだ。