溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

不用意な発言に思う 【東芝の不適切会計処理の例】

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本当は調査結果報告が出るまで待とうと思っていたけど、

『また、同社は将来的に可能と判断したコストダウン分をもとに、工事や資材などの費用を見積もっていたことが社内調査で判明。同社幹部は「我が社ならばここまでのコストダウンができると見込んだもの。故意ではなく会計技術の問題」と弁明した。』

 

これで、個人的にはほぼ確信した。故意だな、と。おそらく、このやり方で社内的に理屈付けをしてきたのではなかろうか。

 

工事の売上を工事完成基準で会計処理する場合、例えば、工期3年、受注総額100億円、工事原価総額70億円の工事であれば、3年目に工事が完了した時点で、

3年目PL

売上 100億円

原価   70億円

利益   30億円

となる。1年目、2年目には工事は進行しているけれども、売上も原価も、そして利益も把握されない。

ところで、工事原価がその後の仕様変更等による追加により120億円に増加したらどうだろう?100億円の受注総額に対して一転20億円の赤字が見込まれることになる。

この場合、会計ルールでは、そうした赤字(工事損失)の発生が分かった時点で『工事損失引当金』を認識することになる。工事が完了する以前に、売上が計上される以前でも工事原価の増額により損失が見込まれる場合は工事を受注したことによる損失を売上や利益よりも先に認識することになる

 

これが、工事進行基準になるとどうか?

会計ルールは、会社の事業活動の実態を反映することを基本概念としている。工事完成基準だと、工期3年の工事が、1年目、2年目と着々と進行する最中、つまりモノの価値が着々と形成されるにも関わらず、その様が1年目、2年目の損益計算書(PL)にまったく反映されないのはいかがなものか?反映したほうが、PLを見た人が会社の活動が分かりやすいんじゃないの?ということで、受注総額、工事原価総額、そして工事の進捗がちゃんと測れることを条件に、工事の完成を待たずして工事の売上、利益を認識する方法だ。

先の受注総額100億円、工事原価総額70億円 工期3年の工事の場合はどうなるか?

1年目の工事原価が14億円、2年目の工事原価が28億円発生したとすると、

1年目の工事売上は、100億円*工事進捗度(14億円/70億円=20%)=20億円

2年目の工事売上は、100億円*工事進捗度(28億円/70億円=40%)=40億円

となる、

1年目PL

売上 20億円

原価 14億円

利益  6億円

 

2年目PL

売上 40億円

原価 28億円

利益 12億円

となる。

2年通算で、売上は60億円、利益は18億円積み上がった。

ここで問題が発生した。仕様変更、追加工事の発生が見込まれ工事総原価が120億円に増加することになるとどうだろう。

この場合は、工事完成基準と同様、工事の損失が見込まれた時点で工事損失引当金を認識することになる。この場合、1,2年目に認識した利益の取消修正も必要になるだろう。

 

過去の利益の取消修正なんてとんでもない!となると、会社としては何とかして工事の総原価を予算通りに上げる原価削減という名の皮算用を始めるかもしれない・・・

本当は予想される工事損失を屁理屈をつけて先送りするとすると、工事損失はPLに現れない。これは、工事完成基準でも工事進行基準でも同じだ。

しかし、工事進行基準ではすでに認識された18億円の利益はそのまま据え置きとなる。損失が認識されないばかりか利益が認識されたままとなる。

あくまで仮定、想像であるが、分かったうえで『故意ではなく会計技術の問題』

と言うのであれば、もはや確信犯にしか聞こえない。会計技術の問題では無く、原価見積の問題だろう。

会計ルールは会社の事業活動の実態を反映するためにあるのであって、会社のご都合主義で捻じ曲げて解釈して良いわけではない。

ルール自体は中立であっても、まさにgarbage  in, garbage out

つい、本音が出ちゃったのかなあ、そんなことを思った報道だ。

 

あくまで、推論に過ぎないので、詳細はあくまで第3者委員会の説明を待ちたいと思う。