「清水建設の建築事業の採算が大幅に低下する懸念が高まっている。鉄骨や鉄筋の建材価格の急騰といった事業環境の変化がゼネコン各社に押し寄せる中、清水は不採算になるリスクを示す工事損失引当金と、低採算の大型工事などの受注などで次期繰越高が積み上がる。利益率の低迷が長引くようだと、成長のための大型投資も滞りかねない。」
(日経新聞朝刊12/22’21)
不採算工事が会社の収益性を圧迫することは想像に難くないと思うが、では、
いつ
どれだけ
の利益率を悪化させることになるだろうか?
これが、今回のテーマである「工事損失引当金」を理解することで明確になる。
工事損失引当金は、工事で損失が発生する可能性が高いと判明した場合に計上する必要がある。
そもそも前提として、工事契約にいついては、一定期間にわたり履行義務が充足されると考えられるため、工事の進捗に応じて収益が計上される。21年4月から「収益認識会計基準」が導入されたが、工事契約の収益計上については、従来の「工事進行基準」と変わっていない。
設例を使って、工事損失引当金の計上方法を見てみる。
(設例)
A社は、ビル建設を1,000で受注した。工期は3年で、受注時における工事に係る総コストは800であった。1年目までに発生した工事原価は400であった。
2年目に発生した工事原価は400であったが、資材価格等の高騰により総コストが400増加することが見込まれた。施主との交渉により受注額は1,100へ変更された。
(2年度末までの実績と今後の見込み)
なお、1,2年目は実績値、3年目の数値は見込み額である。
1年目の収益計上額:1,000×(300/800)=375
2年目の収益計上額:1,100×((300+400)/1,200)ー375=266.7≒267
3年目の発生コスト:1,200ー(300+400)=500
3年目の収益計上額:1,100ー(375+267)=458
となる。
工事の進捗に応じて収益計上するというのは、総コストの内、当年度に発生したコストの割合に応じて受注額を分割計上するということだ。
ただし、設例にように、途中で総コストや受注額に変更が生じた際には、それまでに計上した収益とコストの修正はせずに(*)、変更後の受注額と総コストを用いてその時点の累計の収益とコストから既に計上済みの収益とコストを差し引いて当該年度の収益とコストを計算する(設例では2年目の収益とコストの計算)。
(*)もちろん、過去の各時点における総コストの合理的な根拠に基づいて見積もられている限りにおいて、だ。そんな会計不正が少し前にあったような・・・
そして、2年目の期末時点で、3年目に42の損失が見込まれることがほぼ確実となったことから、3年目の予想損失42も2年目の決算において引当金計上することになる。
(工事損失引当金の会計処理)
2年目の決算時:
借方)工事原価 42 貸)工事損失引当金 42
工事損失引当金は負債(勘定)だが、会計処理では同時に工事原価が同額計上されることになる。実は、工事損失引当金ではなく、工事原価の計上が収益性を圧迫することになる。
時系列的に言えば、2年目に負担する損失は133であり、42は来年、3年目に発生が見込まれる損失なのだが、これを前採りして2年目に計上する。つまり、損失だけが2年目にドンと計上されるため、利益が大きく損なわれることになる。なお、工事原価は売上総利益に影響することになる。
企業にとって、まだ発生していない損失を先行して計上するのは何とも酷に思えるかもしれないが、これが引当金の考え方だ。
引当金についてはこちらを参照☟