溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

東芝のパソコン事業で問題となった『有償支給』は何が悪かったのか?

www.nikkei.com

東芝の不適切会計処理の影響額がどんどん膨れ上がっている。

報道の通りであれば、利益に与える影響額ではカネボウを抜いて国内企業の不適切会計処理の最大規模になりそうだ。

『主要な事業分野で具体的な金額が明らかにされているのは自動料金収受システム(ETC)などインフラ部門の512億円ぐらいだが、「パソコン事業でも500億円規模になる可能性がある」(東芝関係者)という。』

パソコン事業でも新たに500億円規模の利益過大が見込まれるとのことだが、これは償支給取引』を利用した利益の先食いによるものとのことだ。

取引の流れは、

『まず東芝が、液晶パネルや通信機器などの様々な部品を安く大量に調達し、組み立て委託先の台湾メーカーに仕入れ値より高い値段でいったん売却。その後、工賃を上乗せした価格でパソコンの完成品を買い戻すという流れだ。』そして、その後外注から仕入れた加工済みの完成品を外部の得意先に売却することで、一連の取引が完結する。

おそらく、東芝は以下のような会計処理をしていたのではないか。

①液晶パネル等の部材を100で購入

借)(部材)仕入 100 貸)買掛金 100

 

②委託先の台湾メーカーに部材を110で売却

借)売掛金 110 貸)(部材)売上 110

借)(部材)売上原価 100 貸)(部材)仕入 100

この時点で利益が10(110-100)発生・・・これが問題!!

 

③委託先の台湾メーカーから加工済みの完成品を150で買い戻し

借)完成品(仕入)150 貸)買掛金 150

外注先の加工賃は40

 

④外部の得意先へ完成品を200で売却

借)売掛金 200 貸)(完成品)売上 200

借)(完成品)売上原価 150 貸)(完成品)仕入 150

この時点の利益は50(200-150)

取引全体での利益は60(②+④)

 

材料の有償支給は、外注加工業者に『有償』で材料を支給して、外注加工業者から加工代金を上乗せした代金で完成品を『買い戻す』取引だ。この買い戻しを前提とした取引という点がポイントだキャッチボール取引を耳にしたことはあるだろうか?A社とB社が1つの商品の売り買いを(互いに利益を乗っけて)繰り返すと互いに売上と利益が積み上がっていくのが想像できるだろう。このような状況は内輪でボール(=商品)を回しているに過ぎず、対外的に新しい付加価値を創造(=売上、利益)したとは言えないことから材料を有償支給した時点では利益を認識せずに外部の得意先に完成品を販売した時点で利益を認識すべき、というのが会計ルールだ。

 

上記①~④の取引で、無償支給だったとすると、完成品原価140(部材100+加工賃40)を200で外販することにより60の利益を得たことになり、この60は④の時点で認識すべきであるが、東芝の有償支給の会計処理が上記とすると②の時点で10の利益を先食いしていることになり、これが積もり積もって500億円に達するということだ。

この点を記事には次のように記載している。

『期末までにパソコンの完成品がきちんと外販されれば問題はない。ただ売れずに完成品在庫が残ると、安く買った部品を高く売った取引で生じた一時的な利益だけが蓄積される。東芝は、完成品が売れていないのに、部品取引の利益が過大に積み上がり、結果的にパソコン事業全体の損益を実態より良く見せかけていた疑いがある。』

 

なお、有償支給自体は以下のような意義があるとも言われ、有償支給取引自体をすべきでないということではない。あくまで、有償支給取引の会計処理方法の問題であり、少なくとも有償支給時に利益を認識することはNGということだ。

 

有償支給の意義【例示】

外注元にとっては・・・

・在庫管理業務の外注先への移転

・外注先にコスト意識を持たせる

外注先にとっては・・・

・売上(仕入も)が加工賃のみでなく、部材+加工賃と大きくなり信用力増