溝口公認会計士事務所ブログ

京都在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。会計監査、内部監査代行、内部統制の構築・改善業務、IPO支援業務、原価計算制度構築・改善業務、企業価値算定業務等のコンサルティング業務を中心に活動しています。また、グロービス経営大学院大学でアカウンティングとファイナンスの講師活動も行っています。日頃の業務の中で気づいたことをブログに書いていきます。【保有資格】公認会計士(CPA)、公認内部監査人(CIA)、証券アナリスト協会検定会員(CMA)、地方監査会計技能士(CIPFA)、(元)公認情報システム監査人

伊藤忠・デサント 40%TOBの意味  【会計士のつぶやき】


maonline.jp

 

今回が事務所ブログ200回目の投稿。

かれこれ4年、早いなあ(遠い目)・・・

 

今回は、200回記念ということで(?)、

伊藤忠デサントに対するTOBの意味

について思うところを書いてみたい。

 

伊藤忠デサントの持ち株比率は約30%

それなりの影響力はあるが、実質的な経営支配権を持つまでには至らない。

 

デサント1984年と1998年の2度にわたる経営難の際に伊藤忠からの出資、支援を受けて経営再建してきた。それ以前はデサントの経営は創業家が中心だったが、94年以降、3代続けて社長は伊藤忠から送り込まれていた。ところが、2013年に創業家(石本社長)が復権創業家が悲願の経営権奪還ということだろうか、韓国市場を重視するなど独自路線を展開した。しかし、これが伊藤忠との経営方針の違い、軋轢を生んだ。業を煮やした伊藤忠は、デサントを子会社化し同社の経営権を握る目的で今回のTOB(株式公開買い付け)に踏み切ったということのようだ。

 

しかし、このような経緯からすれば、TOBにより取得する持ち株比率が40%というのは理解に苦しむ。株主総会での重要議案の拒否権の1/3は取得できるものの、過半数には届かない。

この点は、他方のメディアや識者からも呈されている。

何か理由があるんだろうな、とは思ってはいたが、どうにも合点がいく理由が見当たらなかった。

なんでかな、と考えていたところに、この記事や他にもいくつか同様の視点で書かれた記事を読んで、なるほど、と思った。

 

ここからは、その”なるほど”を説明するのだが、特段の根拠があるわけではない。

あくまで

一会計士の妄想的ファンタジー

として理解いただきたい。

 

日本では、敵対的買収は難しいと言われて久しい。

そもそも、何をもって敵対的買収と言うかも曖昧な場合が多いが、伊藤忠デサントのケースを見ても、よくあるパターンは買収者対経営者だ。

有名なところでは、スティールパートナーズによるブルドックソース明星食品の買収、王子製紙北越製紙買収、村上ファンド阪神電気鉄道買収などだが、ことごとく失敗に終わっている。

買収の成否も曖昧ではあるが、分かりやすい例では、50%超の議決権を取得することだろう。金商法により、買付け後の株券等所有割合が3分の1を超えるような株式取得をする場合はTOBによる必要がある。大量保有報告書(通称:5%ルール)もあるので秘密裏にこそっと取得というのは難しい。

 

買収失敗と言うことは、会社の既存の株主(旧株主)が買収者(新株主)に対して株式を譲渡することを拒否したということだ。上場会社であれば、オーナー家の持ち株比率は相当に低下していることが通常だ。デサントは特に経営難の際に伊藤忠の支援を受け入れていることもあり、創業家の持ち株比率は5%に満たない(有価証券報告書から推察)。

創業家だが、オーナー家とは言えないレベル

だ。

要するに、経営者兼オーナーであれば、買収者はまさにインベーダー(侵略者)であり、これを拒絶するのは分かる。しかし、会社の経営者でもオーナーでもない株主が、さながら経営者と自身を同一視して、買収者を侵略者とみるのはどうにも不思議だ。特に相手が外国人(外資)の場合は、その傾向が顕著に表れる。『日本の伝統や価値ある資産を外国に奪われても良いのか』というナショナリズムを煽ったり、『奴らは買収したら会社を切り刻んで売却して利益を得ることしか考えていない、従業員が不幸になる』と被害者感情を煽ったりすることも要因としてはあるのだろう。

しかし、冷静に考えると、TOBは通常、現在の株価にプレミアムを付けて提示される(デサントの場合も約50%のプレミアム)。また、そもそも買収ターゲットとされるのは、本来の会社のポテンシャルに対して成果が見合わない経営をしているからともいえる。そのままの経営を継続して、TOBで提示された価格より株価を高められるかは相当に怪しい

企業買収というと、一見、買収される側が被害者であり可哀想、買収する側が憎き悪者とされるが、皮肉にも実際には、

企業買収によって利益を得るのは買収される側の株主

であることが多い。

 

しかし、このような構図で企業買収を括るのを多く見かける。 

 

そして、この構図の理解こそが、

今回のTOBスキームの背景にあるのではないかと推察する。

 

要は、日本の企業や経済社会には、資本の論理が根付いていないということだ。

資本の論理や法律云々よりも社会の合意形成を重視する国民性。きっちり決めごとを結ぶのは相手を信用していない証拠ととらえる。例えば、取引基本契約書を取り交わしていないケースもごまんとある。

資本の論理を振りかざして50%超のTOBを仕掛けること自体にアレルギーを感じるのだ。買収の理由はさておき、当事者以外の直接関係ない社会全体までもが買収者を悪者扱いするきらいがある。

 

伊藤忠はそれを避けたかったのではないだろうか。

 

無理矢理に経営支配権を奪えば、デサントの株主や従業員も反発する。仮に、デサントの現経営陣に問題があったとしても、却って彼らの立場を良くしてしまうことにもなる。買収成立後にごたごたが続けば、デサントの経営が停滞し株価も低迷するだろう・・・

 

また、そのような影響を感じたデサント株主が応じないと、TOBは不成立となる。メディアは伊藤忠TOB失敗』と報じるだろうし、その結果、伊藤忠の株価が下落なんてことにもなり得る。

 

そうなれば、伊藤忠は益々立場が悪くなる

 

しかし、50%超に至らないレベルのTOBであれば、デサント株主のアレルギー反応も抑えて、実質的な利得を考えてTOBに応じる可能性が高まる。また、TOBに応じなかった株主にとっても株価上昇の恩恵を得ることができる。

伊藤忠TOB公表TOB価格の2,800円)は1月31日TOB公表直前の株価1,871円の1.5倍だ。2/1の終値は2,771円まで上昇した。記事を書いている3/27時点では2,826円とTOB価格をさらに上回った。

役員構成も、伊藤忠から2名、デサントから2名、+中立的な社外役員2名を提案し、こちらもあからさまな経営支配はしないポーズを示している。あくまで会社の重要意思決定は合理性を重視してのことという体を作る。

実際どうかは分からないが、強かなやり口だ。

 

また、伊藤忠TOB成功という実績も重視したのではないだろうか。同じ40%の議決権を取得したにせよ、50%超を狙っての40%と40%を宣誓しての40%では成否のイメージが異なる。増して、40%を超える株主となれば、多くのデサント株主が今回のTOBに賛同している印象づけることができる。今回のTOB成立の結果、石本社長が退任して新たに伊藤忠から社長が派遣されることなった。この事実を見ても、

40%TOBであるが、さながら買収成立を彷彿

とさせる。

 

伊藤忠の岡藤社長はデサント連結子会社したいという報道もあった。

現在の持ち株比率約30%は会計上は関連会社として持分法適用会社だ。これを連結子会社化しても、財務的な影響はさほどない。

例えば、利益に与える影響は無い

むしろ、連結子会社とした場合、デサントの総資産が連結財務諸表に取り込まれるためROAなど一部の財務指標は悪化すると思われる。

したがって、連結子会社とする理由は財務的な目的よりも、グループ会社としての位置づけを持分法適用会社から連結子会社に引き上げることで、伊藤忠デサント経営への関与の度合いを深めることを目的としたのではないだろうか。

少々実務的な話になるが、例えば経理実務においても持分法適用会社と連結子会社では親会社が入手できる情報が相当違いがある。親会社の要求を通しやすいかどうかということだ。情報や資料の要求に際しては、相手方の作業を必要とすることもあり、持分法適用会社の場合、通常は他にマジョリティを持っている株主がいることが多く、要求を通しにくい(要求しにくい)。デサントの場合は、伊藤忠筆頭株主ではあるが、創業家出身の社長の体制下では経理だけでなく、様々な経営判断に必要な情報の入手が困難だったのではないだろうか。

ところで、説明が前後するが、

40%の持ち株比率でも連結子会社とすることは可能だ

もちろん、どんな場合でも可能ということではないが、現在の会計ルールでは、連結子会社の判定は議決権比率だけでなく、トータルで見て実質的に支配しているかどうかで判断する。極端な例では、0%の議決権比率でも連結子会社となる場合もある。

伊藤忠のように40%の議決権を有している場合には、これ以外に、

人事、資金、取引等を通じてデサントの意思決定機関を実質的に支配していると推察される場合は連結子会社と判定される。

実際にどのような判定になるかは、TOB成立後の最初の決算期の決算で明らかになるだろう。

 

このように考えると、今回の伊藤忠デサントに対する40%TOBの意味は、

チェスでいうところの”チェック”の状態といえるのではないか。

また、名実ともにデサントを子会社化するとの意向をデサントの株主や社会全体に示すとともにお伺いを立てる、一定の猶予期間を設ける意味を持つのではないかと考える。

 

資本の論理を振りかざさない、力ずくでない企業買収。

合意形成を強調しながらも、実質的には徐々に経営支配を強め実効支配に至る。

 

つらつらと書いてきたが、要するに、今回の伊藤忠によるデサントに対するTOBは、

 

日本の国民性を意識した新型の敵対的買収

 

ではないかと思う。

 

今後、このタイプの買収が増えるのではないだろうか。 

 

なお、そうは言いつつも、

実効支配が既成事実化した段階では50%超の議決権を押さえにかかる、

とみるが、果たしてどうだろうか・・・