溝口公認会計士事務所ブログ

京都市在住、大阪を中心に活動している公認会計士です。日頃の業務の中で気になったことを書いています。

MTGの不適切売上は何が問題だったのか?   【一括売上認識と消化売上認識の違い】

前回のブログから結構な時間が経ってしまった・・・

 

先日、シックスパッドやReFaで有名なMTG社が2019年9月期決算の決算発表の延期を発表した。

 

『またっ!?』

と思ったのは、同社は2019年9月期の第2Q(3月)も決算発表を延期したからだ。

 

今回の延期理由は、「会計監査人に対して韓国の取引先の在庫状況に関する通報があり、社内調査をしている」とのことだ。

www.asahi.com

 

『あ~やっぱり』と

『何で持ち越したのか?』

というのが率直な感想だ。

 

決算発表延期の発表後の11/19に、同社は2019年9月期の業績修正(下方修正)を行った。

棚卸資産評価損45億

減損損失87億

の計上により連結業績は、

連結売上高:360億(前期:583億)

連結営業利益:△74億(前期:69億)

連結当期純利益:△76億(前期:69億)

となる見通し。

詳細は☟

https://ssl4.eir-parts.net/doc/7806/tdnet/1772771/00.pdf

 

今回の業績予想修正の内容を説明する前に、

前回、つまり当第2Qの決算発表延期について説明しておくことにする。

てっきりブログに書いていると思っていたら・・・

すっかり飛ばしていたことに気づいた(汗)

 

当第2Qの決算発表延期の原因は、「中国の子会社「MTG上海」で

不適切な会計処理が行われていた疑い」だった。

www.asahi.com

 

その後、第三者委員会による調査が行われ、2019年7月12日付で第三者委員会による調査報告書が公表された。

https://ssl4.eir-parts.net/doc/7806/tdnet/1731754/00.pdf

 

不適切な会計処理の背景には、同社の経営理念や意思決定プロセスなどの内部統制やガバナンスの問題もあるのだが、それらの問題は次回、別途に書くことにして、今回は不適切な会計処理の内容に限定して進めることにする。

 

調査報告書によれば、売上げに関する主な不適切な会計処理を3点指摘している。

 

①国内輸出代行会社(C社)との中国越境EC向け売上

②上海の代理販売事業会社(A社)への売上

③中国のECサイト運営代行企業(B社)への売上

 

取引スキームは異なるが、総じて、MTGないしはMTGの上海子会社からA,B,C社への売上は成立してないにも関わらず、MTGが売上を計上し実態よりも

売上、利益を過大に計上していた、というものだ。

 

同社が2019年7月に公表した過年度の連結決算数値の訂正によれば、金額的影響額は以下のとおり。

f:id:tesmmi:20191126141919p:plain

MYG発表資料を基に筆者作成

かなりの規模の売上が過大計上されていたことが分かる。

 

では、具体的にどのような点が問題となったのか?

 

まず、一番規模が大きかったC社向け売上について。 

想定の取引スキームは、

MTG⇒C社⇒中国越境EC

ちなみに、今回の不適切会計処理の対象となった主な商品は『ReFa』。

 

想定通り商品が中国越境ECへ流れれば問題なかったのだが、

実際にはC社で商品が滞留した。

そもそも、C社は輸出代行を担う商社であり、中国のECサイトへの直接の販路はない当事者間で、中国越境ECサイト運営会社との諸交渉はMTGが行うことになっていたとのことだ。つまり、実際の商品の販売活動はMTGが主体となる。その後の販売も思わしくなく、結果として、C社に販売した商品は、MTGの上海子会社が返品を受けることで合意した。

MTGは日本の会計基準を採用している。

日本基準では、売上は実現基準にしたがって認識される。

実現基準の要件は、

 

財貨の移転又は役務の提供の完了

・対価の成立

 

この2要件が満たされた時点で売上は認識される。また、財貨の移転の完了は、

所有に伴う重要なリスクと経済価値が移転していること、

が考慮される。

これらの点から改めてC社向け売上取引を見ると、C社へ納品した時点では同在庫に対する販売先の開拓や交渉など依然としてMTGが関与する部分が大きく、ましてや最終的にMTGが当該在庫を引き取るということになれば、実質的に在庫をコントールしているのはMTGと判断される。

したがって、MTGがC社へ販売した時点で一括して売上を認識するのではなく、C社から中国のECサイトへ販売された時点で消化的(段階的)にMTGの売上を認識すべきという判断となる。

 

A社、B社向け売上の想定取引スキームは、

MTG上海(子会社)⇒A社⇒B社

この取引スキームはそもそもMTG上海とB社の取引だったが、B社が新規取引先であったため、社内規定を満たすために従来取引のあるA社を介在させたというもの。したがって、取引スキームにA社が主体的に関与する経済的合理性はそもそもない。また、上記取引スキームについての三者の合意(契約)も未締結(2019年1月)であることから、当然のごとくA社はB社からの支払いが無いこと理由にMTG上海に対する支払いを行っていない。

日本企業の連結目的のためには、海外子会社は米国基準かIFRSに従って会計処理する必要がある。

IFRSでは、売上が認められる要件の1つに『企業が、顧客に移転する財又はサービスと交換に権利を得ることとなる対価を回収する可能性が高い』ことを挙げている。A社としては、B社への転売を前提として取引スキームに参画したのであり、三者間契約が未締結の状況では、A社は当初から支払期限到来時にMTG上海へ代金を支払う意図はそもそもなかったと判定され、結果、IFRSに従えば、売上の計上は認められない。 

 

B社に対する販売単価は他社に比べて非常に高かった。その理由は、B社の販売活動において実際に発生する運営費用をMTG上海が負担する旨が基本契約で取り決められていたからとのこと。つまり、MTG上海はB社へ販売後の商品に関するマーケティング、販促、ECサイト利用、物流等に係る費用含みでB社への販売価格を設定したということだ。また、こうした状況では、B社の販売先であるECサイトへの販売価格や販売手法についてもMTG上海の意向が強く反映されると考えられる。

IFRSでは、『顧客が資産の所有に伴う重大なリスクと経済価値を有している』ことが実質的な所有権が移転したと考える条件となる。しかし、取引の実態を見れば、商品がB社へ渡った後も引き続き商品に対する重大なリスクと経済価値を有しているのはMTG上海と考えるのが妥当だ。

したがって、B社に対する売上は、商品に対する実質的な支配がB社に移転していない以上、IFRSに従えば、MTG上海は一括売上認識することができない。こちらもC社取引と同様、B社がECサイトを通じて最終顧客へ販売した時点で売上を消化的(段階的)に認識すべきである。

 

以上、第三者委員会による調査報告書の見解をざっとまとめてみた。

いずれも形式的にはともかく、会計基準に沿って吟味すると、実態としてはMTG及びMTG上海の売上の要件を満たしていないということだ。

こうした実態に即した判定は実は難しい場合もある。会計ルールの要件1つ1つに取引実態を当てはめて検討すると、個別には要件を満たしたり、満たなさなったりするケースもある。

そのような場合、やはり目的、取引の経済合理性が重視される。

MTGは2018年7月に東証マザーズに上場した。2018年9月期は上場後初の決算だ。ここで成長の鈍化を見せたくない。持続的な成長をアピールしたいという経営者の思いに反して中国からのインバウンド需要の急速な減速や中国における新EC法の影響もある中、何とか売上、利益の数字の辻褄合わせをする動機があった。また、社内関連部署間の情報の隠ぺい監査法人に対する虚偽の報告など意図的な情報操作も調査報告書で指摘されている。

こうした点を踏まえての今回の結論と思われる。

 

また、売上の認識について、日本基準とIFRSでは要件等の表現が異なる部分があるが、個人的には表現の違いはあれど実質的な違いは無いと理解している。

IFRSの方が日本基準よりも厳しいと思われる傾向があるがそんなことはない。

IFRSでダメなものは日本基準でも

当然ダメ !!

しかし・・・

日本の会計実務は、会計原則を斟酌して取引実態に応じてあるべき会計処理を考えるというよりは、総論賛成、各論反対が如く、取引慣行など現場の都合を重視するがあまり、ともするとあるべき会計処理から乖離することが少なくないように思われる。

 

会計ルールの順守もコンプライアンスであるという意識が薄いように感じるのは気のせいだろうか・・・

 

減損逃れは梅の花だけの問題なのか? 【梅の花の会計不正】

https://www.asahi.com/articles/ASM8Z4VSNM8ZTIPE01V.html

 

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和食レストランの梅の花福岡県久留米市)は30日、不適切な会計処理が発覚したことを受け、発表済みの2019年4月期決算を訂正した。不採算店の資産価値を下げる減損処理を適切に行った結果、純損益は1億8400万円の黒字から、9億8100万円の大幅な赤字に転落した。

 同時に、10年9月期から18年9月期まで計9年分の決算も訂正した。いずれも店舗の減損処理の修正に伴うもので、10年9月期と16年9月期の純損益は黒字から赤字となった。

 梅の花は不適切会計を巡り今年6月、弁護士らによる第三者委員会を設置。今月29日公表の報告書で、赤字店舗を黒字化して減損処理回避し、決算の数字をよくみせる不適切な会計処理を約10年間にわたり行ってきたことを明らかにした。」

朝日新聞 9/2/2019)

 

 

梅の花の採った手法の「減損逃れ」は、記事にもあるように本来赤字の店舗を黒字のように見せかけて、減損損失を先送りにする会計不正である。

梅の花が、何故会計不正に及んだのか、また、何故10年の間発覚しなかったのかについては、同社の第三者委員会がまとめた報告書を参照して欲しい。

 

梅の花 第三者委員会 調査報告書はこちら☟
https://discl.quick.co.jp/PDF/TD2019082900001

 

会計不正を誘発した同社の内部統制にもこうした会社に典型的な問題点が多々見られるが、それについては別の機会に書くとしたい。

減損損失の対象は、固定資産だ。例えば、梅の花のような外食チェーンの業態であれば主に店舗の建物、構築物等の固定資産が減損の対象となる。不採算店舗の赤字が継続すると、店舗の建物や構築物等の価値が低下していると見做され、固定資産の帳簿価額を固定資産の実際の価値まで特別損失として減損処理するというものだ。

もう少し詳しい減損判定のプロセスは、こちら☟を参照していただきたい。
https://globis.jp/article/7210

実際にはそれぞれ実態に即して判定されるので、減損のタイミングや損失額は誰が判定しても同じ結果となるとは限らない。つまり、判定においては会社の

恣意性が介入するということでもある。

例えば、資産のグルーピングだ。
梅の花のような外食チェーンの業態では、通常は店舗ごとに資産グループを決定しているが、理屈の上では常にそうとは限らない


資産グルーピングの基本的な考え方は「独立したキャッシュフローを生み出す最小の単位」であり、実務では管理会計上の管理区分や投資意思決定の単位などを考慮して資産をグルーピングする。
つまり、何をもって独立したキャッシュフローの生成単位とするかは、会社の資産管理の方針が大きく影響する。


例えば、会社が地域を管理単位として設定しており、店舗ごとではなく1地域に属する複数の店舗からのキャッシュフロー総額で地域の業績を管理し、地域ごとに出退店の意思決定をしているのであれば、資産グループは地域単位とすることも考えられる。
攻めるときには一気に攻める、退くときには一気に退く、と言った出退店の方針を掲げ、実際に、そのような管理、意思決定を実行しているケースだ。
このようなケースでは、例えば地域内の1店舗の業績が悪化したとしても、他の店舗がそれをカバーして、地域全体として業績悪化と評価されない場合は、減損処理は不要になる。

しかし、実際には梅の花も然りで店舗単位で業績管理していたり、出退店の意思決定をしているケースが多いので、外食チェーンの業態では店舗単位で資産のグルーピングするのが一般的と言うことだ。


また、業績の悪化という定義も一律に決めるのは難しい。そもそも、資産グループの業績を何で測るかも一律に決まるものでもない。というのも、何をもって業績評価をし、投資意思決定をしているかはやはり会社によるためだ。


梅の花は、店舗ごとの利益で業績評価していた。そして、店舗利益を以下のように定めていた。

店舗利益

=店舗売上-店舗直接費-本社費配賦額

店舗利益は、店舗に係る人件費、減価償却費だけでなく、本社やセントラルキッチンの人件費や減価償却費の各店舗への配賦額も控除している。
梅の花の会計不正は、この本社費等の配賦額の算定方法を操作していた。

梅の花の本社費等の配付基準等は以下。

 

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実際には、経営実態に合わせて間接費集計区分・配賦基準を構造的に階層化しており、さらに各階層間の論理的な関連をエクセル関数で複雑に組み合わせるなど、その正確性を検証するためにはそれなりのエクセル知識を要する状況だったとのこと。そして、その複雑性を利用して店舗への配賦割合算定基礎数値を操作していたとのことだ。


不自然に複雑な仕組みはそれ自体が不正の余地となりやすい典型例

と言える。

 

ところで、本社費等の配賦前の利益で減損判定をするのはダメなのかと言う意見もあろう。

確かに、会社全体として利益を出すためには店舗に係る直接費だけでなく、本社費等も店舗の利益で賄う必要がある。しかし、本社費等は店舗の営業に直接関係して増減する費用ではない。不採算店舗を閉店したからと言って本社費が自動的に削減できるわけではない。むしろ、店舗が本社費配賦前で利益を出している場合は、その利益が失われることによってむしろ会社全体の損益が悪化する場合もあり得る。したがって、本社費配賦前利益(店舗売上ー店舗直接費)で出退店の意思決定を行うという経営判断もあるだろう。あるいは、仮に地域の中に不採算店舗が存在しても、他社に対する地域全体での優位性を維持強化するためには、敢えて閉店しないという判断もあるかもしれない。

つまり、経営判断において重視する経営管理指標や損益状況は会社によるのであって、一律に与えられるものではない。

 

固定資産の減損は、根本的には会社の事業が良好に進捗しているかどうかであり、そしてそれは会社の事業内容や経営管理における考え方に大きく影響を受ける。

したがって、会社の経営管理の考え方を無視した一律のルール設定はそもそもおかしい

これが、会社によって減損のタイミングや金額に差異が生じる根本的な理由だ。

 

事業の実態を考慮した柔軟な減損判定であるべきという会社側の意見はよく聞く。

しかし、そうした会社の減損判定の妥当性をジャッジする監査法人にとってはどうだろうか?


減損会計について、監査法人時代、ある先輩に次のようなことを言われたことがある。
会計士が会社に減損処理を求めると、大抵の会社は反発する。顔を真っ赤にして失礼だ!、会社の事業をよく理解していないあなたに何故当社の事業がダメだと判断できるのか!、と。しかし、会計士にそんな指摘をされること自体恥ずかしいと思って欲しいよ、と。

減損の会計基準では、概ね2年程度の継続的な損益やキャッシュフローの赤字の場合に減損が必要とされる。会計基準だから、会社の事業をよく理解していないからこそ、それだけの猶予を見ているとも言える。
2年も赤字を垂れ流しておいて、何も異常を感じてないのか、対策を講じていないのか、ということだ。


つまり、会社の業績管理から見れば、減損の会計基準など相当に緩いはずで、監査法人から指摘されるまでもなく、会社はもっと早期に店舗の業績の悪化を察知し、対策を実施しているはずだ。また、そうであれば、結果として減損の判定に該当する店舗は無い(既に、業績回復するか閉店しているので)。
監査法人の指摘に対して、2年で減損なんてルールが厳しすぎる!と顔を真っ赤にして怒る会社ほど、不採算店舗に対する対策はというと、

もう少し状況を静観したい

業績回復するように頑張る

といった具体性の無い精神論的な意見しか得られないということも少なくなかった。

 

ところで、減損の会計基準には、店舗損益は本社費等の配賦後で評価すると明記されている。

先ほど業績には複数の考え方があると書いたが、理屈はそうだが実際には会計基準で1つに決められている。これは何故なのか?


先述のように、本来は会社の事業等の実態に応じた減損判定であるべきだが、いかんせん、実態に応じた会社の方針が明確でないことが少なくない。例えば、何年を継続的な損益悪化と考えるかについても、会計基準の2年という意見に対して、それは短い、実態を反映していない、と反論はあるが、会社側からの合理的な根拠に基づく具体的な年数の提示が無いことが少なくない。

理論対理論であるべきなのだが、理論対浪花節では議論の余地がない。


減損の会計基準が画一的なルール設定になっているのは、こうした状況を考慮して、その場しのぎの都合の良い理屈よる減損処理の先送り、つまり会社の意図によって損失が将来に繰り延べられる弊害を重視した結果だろう。

監査法人も減損に対してはかなり厳しいというか画一的な対応のように思える。とにかく減損を先行、取得後間もない固定資産の減損、未稼働の固定資産の減損といった例もあった・・・

 

固定資産の減損それ自体は会計処理であるが、本質的には、会社が投資した事業が計画通りに進捗しているかどうかを評価する1つの視点であり、まさに経営管理そのものだ。

 

梅の花での減損逃れも根本的には、(出退店の)経営判断と(減損)会計処理を別個と認識している点にあるように思う。そのような会社は少なくないのではないだろうか?

 

経営者が減損判定は単に会計処理の問題ではなく、会社の業績管理や投資意思決定のプロセスの一部との認識を持ち、減損判定プロセスを経営管理の仕組みに取り入れることが、杓子定規な減損判定から脱却し、結果として事業の実態に即した減損の会計基準につながるようにも思う。

エフエム東京の粉飾決算で使われた「連結外し」の本当の目的とは!?

 

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エフエム東京が8/21、2017年3月期~2019年3月期連結決算に関し、デジタル放送事業で生じた赤字を隠蔽する目的で、損失を抱えた子会社を連結決算から外す粉飾決算をしていたことが発覚、公表に至った。

 

記事はコチラ☟

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO48816940R20C19A8TJ1000/?n_cid=SPTMG002

 

ざっと、3期間で営業利益が約11億円水増しされていたとのことだ。

エフエム東京の直近(2019年3月期)の連結業績は

 

売上高  :18,530百万円(185億円)

営業利益 :  1,475百万円(14.7億円)

当期純利益:     549百万円(5.4億円)

総資産  :39,628百万円(396億円)

純資産  :30,308百万円(303億円)

 

なので、それなりのインパクトと言える。

 

僕は車での移動時間が長いので、道中はほぼFM東京系列のラジオ番組とともにいるといっての過言ではない。バラエティーに富んだ番組とパーソナリティに長時間のドライブの疲れも緩和される気がする。会社と番組は別と言えばそれまでだが、それだけに個人的には残念なニュースだった。

 

報じられたように、今回発覚した粉飾決算の手口は 

「連結外し」

だった。

意外と言えば意外。

 

というのも、連結外しは連結決算における典型的な粉飾の手口で、過去にも

ライブドアカネボウ粉飾決算でも使用された。

そして、その都度ルール改正が施され、また、監査法人のチェックも厳しくなっており、現在は連結外しはかなり難しくなっているからだ。

 

「連結外し」についてはコチラをチェック☟

https://globis.jp/article/7189

  

連結外しは、本来、連結決算に含めるべき子会社を意図的に連結対象から外す手法だ。連結外しの目的は、損失の付け替え、損失を子会社へ押し付けて

親会社の業績を良く見せることだ。

エフエム東京のケースもこれに該当する。

 

気になったので、第三者委員会のレポートを確認してみた。

https://www.tfm.co.jp/company/pdf/news_aff8c32a0a9f794bb1d7039cfefdc99e5d5cd64086651.pdf

エフエム東京 調査報告書by第三者委員会 8/8/2019)

 

すると、思わぬ発見があった。

 

【連結決算義務は無かった!?】

エフエム東京非上場会社だ。

連結決算書の作成が義務付けられるのは、有価証券報告書を提出する会社、つまり、主に上場会社が対象となる。エフエム東京は非上場会社で有価証券報告書も提出していないので、連結決算書を作成は義務付けられていない。しかし、会社法上の大会社(資本金5億円以上または負債総額200億円以上)は任意で連結決算書を作成することが出来る。

 

詳細はコチラ☟

https://www.shinnihon.or.jp/corporate-accounting/commentary/companies-act/2016-06-03-01.html

 

つまり、エフエム東京任意で連結決算を行っていると思われる。

おそらく、株主などからの要請からと思われる。

 

任意でやっているのに粉飾かよ!

と思いたくもなるが、そこは利害関係者間の軋轢というものだろうか・・・

 

【完全な連結外しでは無かった!?】

エフエム東京の連結外しの対象となるデジタル放送事業子会社

「TOKYO SMARTCAST(TS)」は、実は、2017年3月期から

持分法適用関連会社としてエフエム東京の連結決算に組み込まれていた。

連結外しの目的からも、完全にエフエム東京の連結決算から除外されていた思っていたのでこれは意外だった。

 

TS社は2105年に設立された。当初エフエム東京及びその子会社が保有する株式の議決権割合は96%だったが、重要性が乏しい、つまり規模が小さすぎて連結に含めてエフエム東京グループの業績を把握する上では影響なし、ということで連結から外された(これは問題なし)。しかし、企業規模(というか損失)の拡大とともに重要性が増したため、2016年3月期には連結子会社となった。

そして、2017年3月期以降に保有株式の実態を欠く異動により持分法適用関連会社へ変変更したということだ。

 

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エフエム東京の第三者委員会による調査報告書より筆者作成

意外に感じた理由は、

持分法と連結法では利益に与える違いは無い

からだ。

エフエム東京が業績の悪い子会社の損失を隠す目的であれば、

持分法の適用対象からも外さないと意味がない

つまり、持分法の適用対象としていたら広い意味で連結外しとは言えないのである。

 

ところが、第三者委員会による報告書では、連結外しによる影響額を以下のように記載している。

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連結外しの影響額 ㈱エフエム東京三者委員会による調査報告書より筆者作成

何と、利益に対する影響額が発生していた。

2017年3月期を例にとると、当期純利益に対する影響額は41百万円とある。

本来であれば利益に対する影響はゼロのはずだ。

しかし、エフエム東京は見せかけの株異動で議決権比率が見かけ上、49.5%から38.5%へ低下した状態になっていた。本来の議決権比率であれば営業損失の49.5%の189百万円がエフエム東京の負担分ということで、修正前の148百万円との差額が△41百万円となる。

 

2018年3月期の親会社株主に帰属する当期純利益の修正影響額△128百万円は2つの要因による。1つは、2017年3月期同様の本来の議決権比率によるTS社純損失のエフエム東京負担分への修正(40百万円)だ。

そして、2つは、TS社の債務超過部分に対する負担(86百万円)の合計だ。

TS社は2018年3月期に債務超過となった。債務超過となった以降の損失は親会社責任として全額、エフエム東京が負担する形で連結決算へ取り込んだ。

 

これが3期累計で利益への影響額は、

 

営業利益 :1,117百万円

経常利益 :   720百万円

当期純利益:   362百万円

(注)当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益とした。したがって利益剰余金への影響額と同じとなる。

 となる。

 

理屈の上では、持分法と連結法では連結決算における利益の違いは無い。

しかし、エフエム東京は、

 

・議決権比率の修正による損失増

・TS社の債務超過に対する損失増

 

により、損失負担を軽減していたことになる。

 

エフエム東京のTS社の連結外しはこれが目的だったのだろうか?

 

エフエム東京の狙い】

もちろん、議決権比率を低下させることで被る損失額を小さくする目的もあろう。

しかし、一番重視したのは営業利益への影響だろう。

 

持分法による投資損益は営業外費用・収益に計上される。TS社が利益を出そうが損失をだそうが、エフエム東京の営業利益への影響はゼロだ。

しかし、連結子会社として連結決算に組み込むと、TS社の売上、営業損失、資産、負債が全て項目ごとに合算される。

 

詳しくはこちらを参照☟

https://globis.jp/article/4702

 

三者報告書には、連結外しの理由として経営者の保身を挙げている。

報告書では以下が記載されている。

 

「TFMの連結営業利益の悪化の原因がTSの営業損失にあることが明らかになった場合、i-dio事業の収益の源泉であるTSの経営状況、財務状態が大幅に悪化していることが、又は、(中略)これまでTFMグループで総額100億円規模の投融資資金を投じてきたにもかかわらずi-dio事業全体の状況が芳しくないことが、社外取締役を含むTFMの取締役や、株主その他の利害関係人等にも広く共有されることになる。

そうすると、撤退を含めたi-dio事業の抜本的な見直しを検討せざるを得ない事態となるおそれがあり、また、i-dio事業に多額の投融資を行い積極的に事業を推進してきた経営陣の経営責任を問われるおそれがあった。」

 

TS社が運営するデジタル放送事業「i-dio」は2016年にサービスを開始したが、利用者の低迷により赤字が続いており、この経営責任を株主や社外取締役から追及されるのを経営者が避けたかったということだ。

 

どんな事情があるかは知らないが、何とも身勝手な理由と言わざるを得ない。

ネットでは、こうしたエフエム東京の体質をタイマーズ時代の故忌野清志郎氏が見抜いていたというニュースが流れているが、果たしてどうなのだろうか・・・

 

また、会計監査の責任も今後、指摘されるかもしれない。

過去の粉飾の事例を受けて、会計ルール同様、会計監査も厳格化されている。

 

ましてや、記事にも

「報告書ではTS社の株式を購入した3か月後にエフエム東京の別の子会社が一部のTS社株を買い戻しているほか、TS社の取締役の過半数エフエム東京やグループ会社の役職者で占めているため、連結子会社と認定した。」

とあるように、今回のエフエム東京のケースは株の異動はそこまで手の込んだものでもないように思われる。

それに、単に連結除外ではなく、連結子会社を持分法適用関連会社として持分法とするのは会計的にかなりの知見が伺える。

これが会計監査で見逃されていたのは個人的には不思議でならない・・・

 

 

ヤフーは実は親会社じゃなかった!?   【ASKULの例 その2】

前回に続いて、アスクル第2弾。

 

前回書いたように、アスクル対ヤフーの役員選任決議を巡った論争で、まず気になったのはアスクル社外取締役≠独立役員、だったが、関連する情報を得る中で、もう1つ気になる点に出くわした。

 

【親子上場が問題なのか?】

 

7/23の独立役員会による記者会見でも、再三、ヤフーによる権力の乱用が指摘された。

また、そうした状況を生むそもそもの要因として親子上場の是非が質疑応答でも議論された。

 

è¨èä¼è¦ã«åºå¸­ããã¢ã¹ã¯ã«ã®æ¸ç°ç¬ç«ç¤¾å¤åç· å½¹ï¼23æ¥ãæ±äº¬é½ä¸­å¤®åºï¼

(記者会見での戸田独立社外取締役 日経新聞より拝借)

 

親子上場については、日本特有の上場形態とも言われ、そのメリット・デメリットについて従来様々な議論がなされてきた。

当事務所ブログでも過去記事で言及しているので、参考にしていただきたい

過去記事はコチラ☟

奇しくもコチラのソフトバンク・・・

tesmmi.hatenablog.com

 

アドバイザーの松山弁護士の回答の中で以下の件があった。

「親会社=支配株主というのは、自分の一声でその会社のガバナンスを変えてしまうことが出来るを持っている。~中略~ただ、自分の議決権行使で上場企業のガバナンスを変えられるとう力を持っている以上はやはり、そこには守るべきルール・マナーがあるべき。」

まさに、ノブレスオブリージュ

個人的に大いに納得させられた。

 

と、そこで疑問。

 

ヤフーってアスクル親会社だったっけ?

 

【子会社の判定根拠は?】

 

ヤフーの議決権比率は約45%

議決権の過半数を持っているわけではない。

 

でも、会計上は必ずしも議決権割合だけで親会社と判定されるわけではない。

会計上の親子関係、つまり親会社から見た場合の、連結子会社の判定は以下の通り。

 

①50%超の議決権を所有

②40~50%の議決権を所有+緊密者の議決権や役員等の特別な関係あり

③0~40%未満の議決権を所有+緊密者の議決権+役員等の特別な関係あり

 

なお、

緊密者:自己の意思と同一の内容の議決権行使が認められる者

特別な関係:過半数の役員派遣、重要な財務、営業、事業の契約等、資金調達額の総額の過半の融資、など

 

議決権は関係ないんか~い!?

 

連結子会社かどうかの判定は、実質支配力基準といって、対象企業の意思決定機関を「支配」しているかどうかがポイントとなる。

筆者は、通称、ゼロ連結、つまり、会社としては0%の議決権の所有だが、連結子会社とした例も経験したことがある。

 

詳細はこちらを参照☟

https://www.shinnihon.or.jp/corporate-accounting/commentary/consolidated/2016-04-12-01.html

 

だから、ヤフーが議決権割合以外に、緊密者がいたり、人事、契約、資金、技術等の特別な関係をアスクルと有していれば、連結子会社と判定することも大いにあり得る。

 

【実は親会社では無かった!?】

 

そういうことで親子関係なのかなと思っていたら、記者から以下質問というかつぶやきがあった。

 

アスクルコーポレートガバナンス報告書には親会社ナシと書いてあるのに、親子上場しているのか不思議』

 

ん?どういうことだ?

 

気になったので両社の有価証券報告書を調べてみた。

 

まず、ヤフー側

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ヤフー㈱ 2019年3月期有価証券報告書より

議決権割合は過半には満たないが、アスクルを子会社と判定しているようだ。上述の実質支配力基準に基づいた特別の関係を考慮した結果だろうか。

 

次に、アスクル

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アスクル㈱ 2019年5月20日有価証券報告書より

 

【その他の関係会社って何?】

 

アスクルって5月『20日』決算なんだ・・・

それはさておき、アスクルはヤフーを

『その他の関係会社』と判定している。

親会社ではない・・・

 

なんだ、これは?

親は子と呼び、子は親じゃないという

その関係・・・

 

まず、その他の関係会社の説明が必要だろう。

その他の関係会社とは、ある会社が他の会社を関連会社としている場合、他の会社から見てある会社のことを指す。

言葉で説明すると分かりにくいかもしれないので、図示するとこう☟

f:id:tesmmi:20190801142706p:plain

図_その他の関係会社ってどんな関係_溝口公認会計士事務所ブログ

関連会社の定義はこちらを参照☟

https://globis.jp/article/4533

 

要は、アスクルから見た場合、支配されているとまでは言えないが、それなりの影響力を持たれている会社として、ヤフーを認識している、ということだ。

 

そのままやん!

 

ヤフーはアスクルの約45%の議決権を持っているから、この点だけでアスクルの重要な意思決定に対する影響力を持つ。これは明らかだ。

しかし、アスクルは、一定の影響力は持たれているが支配はされていない、と認識しているということになる。

 

『え!?僕、あなたの子供でしたか?

全く気が付きませんでした~』

 

議決権比率などの外形的な点以外は外部から親子判定するのは難しい。

が、

当事者同士の認識がズレるということはあるのだろうか?

 

答え

そういったケースは、まず、無い

 

100万歩譲って、もし仮に当初の親会社、子会社の判定に食い違いがあったにせよ、関連会社と子会社ではグループ内での位置づけも、コミュニケーションの取り方も異なる(例:連結決算において必要な情報)から、両社が親子認識のズレに気づかないことはあり得ない。

 

そもそも親会社子会社とった関係は、会計数値のみならず、経営のガバナンスにも大きな影響がある。相手が了解していないのに一方が勝手に子会社とするなど考えられない。

 

と、書きながら、そういえば、他に大株主がいながらも40%所有の会社を連結子会社にしていた例があったなあ、と思い出したが、それもかなりレアなケース(笑)

 

両者が、互いに会計ルールに従った親子判定の結果が食い違うことは無い、普通。

 

では、ヤフーとアスクルで起きている認識の齟齬は何故か?

 

GAAP差異って何?】

 

実は、両社、財務諸表作成において適用する会計ルールが異なるのだ。

 

ヤフーの会計基準IFRS国際財務報告基準

アスクル日本基準で財務諸表を作成している。

 

実務では、IFRSの方が日本基準よりも連結の範囲、つまり子会社の判定を広く捉えることがあるようだ。

参考情報☟

https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/ifrs/disclosure/ifrs-disclosure016.htm

 

ヤフーは、15年3月期にIFRSへ移行したが、その際はアスクルは未だ持分法適用会社だった。

ヤフーがアスクル連結子会社化したのは、16年3月期のことだ。

 

その理由について、ヤフーは有価証券報告書で次のように述べている。

アスクル㈱による自己株式取得の結果、当社が保有するアスクル㈱の議決権比率は41.7%(2015年5月20日現在)から44.4%(2015年8月27日現在)となり、議決権の過半数保有しておりませんが、議決権の分散状況および過去の株主総会の投票パターン等を勘案した結果、当社がアスクル㈱を実質的に支配していると判断し、同社を連結子会社としております。』

 

また、その後提出された訂正有価証券報告書では、

日本基準では持分法適用関連会社であるが、IFRSでは連結子会社と判断した旨が記載されている。

 

(参考)ヤフーの訂正有価証券報告書(2017年2月21日提出)

https://s.yimg.jp/i/docs/ir/archives/vsreport/yuho2015_vsreport_teisei.pdf

 

この理由付けも微妙な感じがするなあ・・・

 

要するに、日本基準では連結子会社に該当しないが、IFRSだと連結子会社と判定されるケースがある、ということらしい。

 

なお、ヤフーはアスクル連結子会社化に際して、ヤフーが保有するアスクルに対する資本持分を公正価値により再測定した結果、16年3月期の連結PL上、約600億円の再測定益を計上している。

これが無かったら、減益だったのね・・・

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ヤフーの2016年3月期有価証券報告書より

 

 

 

日本基準とIFRSの基準差異、つまりGAAP差異

隙間で生じたズレ

とでも言うのか・・・

 

こうした例を直接経験したことがないので何とも言えないが、日本基準も実質支配力基準で子会社判定しており、IFRSはパワーと影響力基準とでも言うのか、表現方法の違いはあれどIFRSと基本的な考え方に差異は無いと認識していた。

確かに、日本基準では重要性の判定、特定の特別目的会社、一時的な支配といった連結の範囲から除外する特例的な取り扱いはあるが(IFRSではこうした明文の規定はなく、個別に判断する)、一般の事業会社における連結の範囲の判定にGAAP差異はちょっと想像し難い。

 

具体的に、どの項目の考え方が変わるのだろうか?

日本基準だとプラス社は緊密者には該当しないが、より実質的な判定が必要なIFRSでは、実はヤフーの息がかかった緊密者に該当し、これと議決権を合わせると過半を押さえる、ということだろうか?

 

いずれにしても、ヤフーとアスクルの親子認識のズレは、両社の適用する会計基準の違いが絡むかなりレアなケースであることは間違いない。

 

前回の社外取締役と独立役員の違いと言い、なんと言うか、稀であること自体が問題であるとは言わないが、レアであることはやはり通常では都合の悪い事情があるということでもあり、そうした事情から派生的に通常ではありえないような状況に発展する可能性はあるだろう。

 

連結決算における親子会社の判定は会計の話ではあるが、こうした会計的な判定の食い違い1つをとっても、両社の関係のこじれの原因が透けて見える気がする・・・

 

いよいよ明日に迫ったアスクルの定時株主総会

岩田社長の再任の決議の行方は果たしていかに?

 

 

 

 

 

 

社外取締役と独立役員の違いって何?    【ASKULの例 その1】

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO47685930T20C19A7TJ1000/」

 

アスクルとヤフーが大変な事態になっているようだ。

 

アスクルの大株主であるヤフーが第2位の株主であるプラスと組んで、岩田代表取締役をはじめ3名の社外取締役の再任決議に否決を投じる見込みだ。理由は、アスクル、中でもLOHACO事業の業績が芳しくないとのこと・・・

 

もちろん、岩田代表取締役をはじめとするアスクル側はこれに猛反発。

実はヤフーが、LOHACO事業の買収を画策しているとの思惑も走り、事態は混迷を深めている。

中でも特に異例だったのが、7/23に開催されたアスクル独立役員会の記者会見だろう。独立役員会がこうした記者会見を開くのは聞いたことが無い。しかも、その内容は、基本的にアスクル支持、というかヤフー批判・・・

 

アスクル独立役員会記者会見資料☟

https://pdf.irpocket.com/C2678/GDpy/ln8K/nNMa.pdf

アスクル独立役員会記者会見質疑応答☟

https://pdf.irpocket.com/C0032/GDpy/C5Mj/YUjs.pdf

 

当事者の方々には申し訳ないが、こうした事例は僕のような人間には格好のネタでもあり、情報を収集するといくつか興味深い点が見られた。

 

photo(ITmediaNEWS様から写真を拝借)
この会見、久保利先生の黒さが気になって内容が全く入ってこなかった・・・
 
それはともかく、まずは、最初に興味を持った点である
 
社外取締役と独立役員の違い
 
についてから書くことにする。
 
というのも、アスクル
10名の取締役の内、5名が社外取締役だ。
しかし、5名の社外取締役の内、3名のみが独立役員だ。
 
2名は社外取締役であるが、独立役員でない
 
てっきり、両者は実質的に一致すると思っていたので、疑問に思ったという次第。
もっとも、東証の要求では、独立役員最低1名なので、必ずしも社外取締役の全員を独立役員と指定する必要はない。しかし、後述の会社の例のように、通常は、独立役員に該当する場合は社外取締役かつ独立役員とするのが普通と思われる。
 
社外取締役と独立役員の違い】
 
企業の不祥事が後を絶たず、企業統治、コーポ―レートガバナンスが重視される環境下、その1つの改善策として社外取締役の導入が挙げられる。
東証コーポレートガバナンス・コード(CGコード)でも、当初、最低1名から始まり、2名、更には、3名以上と年々質量ともに社外取締役の導入強化が推し進められている。
社外取締役の質やコーポレートガバナンスに対する実効性についての課題認識もあるが、その点はここでは一旦わきに置くとする。
 
社外取締役は、会社法の概念だ。会社法では、指名委員会等設置会社監査等委員会設置会社社外取締役を設置する義務がある。また、公開会社かつ大会社金融商品取引法が適用される会社)も実質的に社外取締役を設置が求められる。
 
一方、コーポレートガバナンスの発信源は証券取引所東京証券取引所)だ。東京証券取引所は上場規程の企業行動規範として、独立役員を最低1名確保することを遵守すべき事項として挙げている。東証の言う独立役員とは、一般株主保護の観点から、経営陣から独立した役員だ。
 
なお、独立役員には取締役だけでなく監査役も含まれるが、ここでは、論点を取締役に限定するため、独立役員=独立社外取締役として話を進める
また、企業行動規範とCGコードのそれぞれで独立役員、独立社外取締役に対する要求があるが、両者とも、独立社外取締役に関しては同様の趣旨との理解のもとに、両者を併せて「CGコード」による要求として話を進める。
 
 
ちょっとややこしいが

 

会社法社外取締役

CGコード:独立役員

 

をそれぞれ求めている。

 

会社法上もCGコード上も対象となる会社に大きな違いは無い。 

しかし、CGコード上要求されているのは、社外取締役ではなく、

独立役員ということだ。

 

【社外性と独立性】

 

そこで、それぞれの不適格要件を確認してみる。

 

会社法社外取締役

①当該会社の代表取締役、業務執行取締役、執行役及び支配人その他使用人(以下合わせて「業務執行者等」という。)
②過去10年間において当該会社の業務執行者等であったことがある者
③過去10年間において当該会社の取締役・会計参与・監査役であったことがある者の場合は、その取締役・会計参与・監査役への就任の前10年間において業務執行者等であった者
④子会社の業務執行者等
⑤過去10年間において子会社の業務執行者等であった者
⑥過去10年間において子会社の取締役・会計参与・監査役であったことがある者の場合は、その取締役・会計参与・監査役への就任の前10年間において業務執行者等であった者
⑦親会社の取締役、執行役及び支配人その他使用人
⑧兄弟会社の業務執行者等
⑨当該会社の取締役、執行役、支配人その他使用人の配偶者及びその二親等以内の親族
平成26年会社法改正前は、①~⑥のみが社外取締役となれなかったが、改正により⑦~⑨が加わり、要件が厳格化された。

 

CGコード:独立役員

① 当該会社の親会社又は兄弟会社の業務執行者
② 当該会社を主要な取引先とする者若しくはその業務執行者又は当該会社の主要な取引
先若しくはその業務執行者
③ 当該会社から役員報酬以外に多額の金銭その他の財産を得ているコンサルタント、会
計専門家又は法律専門家(当該財産を得ている者が法人、組合等の団体である場合は、
当該団体に所属する者をいう。)
④ 最近において①から③までに該当していた者
⑤ 次の(a)から(c)までのいずれかに掲げる者(重要でない者を除く。)の近親者
(a) ①から④までに掲げる者

(b)当該会社又はその子会社の業務執行者(社外監査役を独立役員として指定する場
合にあっては、業務執行者でない取締役又は会計参与(当該会計参与が法人である場
合は、その職務を行うべき社員を含む)を含む。)
(c) 最近において前(b)に該当していた者

両者の要件は全く同じではない。

 

期間しばり会社法の方が厳しいともいえるが、不適格対象者という点では、取引先等までが不適格となるコーポレートガバナンスの方が厳しい。

これは、一般株主の利益保護の観点から、社外性だけではなく、むしろ経営者からの独立性をより重視した結果だろう。

会社法社外取締役としつつもその選定においては独立性を重視することにはなっている、念のため補足)

 

なるほど、要件が異なるということは、それぞれの対象となる人物も異なるという訳か・・・

それが、アスクル社外取締役≠独立役員の理由なのだろうか?

いや、ちょっと待て

 

【どういう人物を選定?】 

では、企業はこの要件の齟齬にどう対応しているかというと、おそらく、両方の要件に該当しない、つまり会社法、CGコードの双方の要求水準を満たす人物を選定するだろう。

 元々こうした制度が無くても社外取締役を中心にボードを編成するという会社であればともかく、従来多くの上場企業は社内取締役がボードの中心だっただろう。

対象者の確保という目的からすれば、会社法コーポレートガバナンスの双方からの要求に対して、それぞれ別個に対応するのはあまりに不効率であり、最少人数で両方の要件を満たすように考えるのが普通と思われる。

 

そこで、比較的社外取締役の人数が多いと思われる指名委員会等設置会社を中心に10社、最近決算期の株主招集通知をチェックしてみた。

 

チェックした会社

ソニー

パナソニック

トヨタ

・日産

・イオン

・Jフロントリテイリング

オリックス

東芝

ソフトバンク

楽天

 

思った通り、社外取締役全員が独立役員に該当していた。

独立役員に該当しない人物をわざわざ社外取締役として選定する理由はない、

ということだろう。

 

アスクル社外取締役の正体】

 

さて、最初の疑問。

気になるアスクル社外取締役≠独立役員2名の正体は、

 

今泉公二氏:プラス代表取締役兼務

小澤隆生氏:ヤフー取締役専務執行役員兼務

 

なるほど、

取引先と大株主

か・・・

 

プラスはアスクルにとって重要な取引先であると同時に、ヤフーに次ぐ第2位(約11%)の大株主でもある、というかアスクルの生みの親だ。

ヤフーは、約45%の筆頭株主とはいえ、親会社ではない(実はこの解釈が微妙なのでそそれは次回に書く)。

つまり、当該2名は、会社法社外取締役要件は満たすが、CGコードの要求水準は満たさない、というレアなケースと言えるだろう。

 

もっとも、両者の要件が異なるため、こうしたケースも無くは無いだろうが、先述のように、CGコードを満たすためであれば、独立役員にカウントされない

社外取締役を選定する手は無いと考えるのが普通だろう。

 

ということは、アスクルには、というか、ヤフーとプラスにはCGコードを満たすという以外の目的があったということになる、のかな・・・

超特盛は『お得』なのか? 【吉野家の例】

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO47146060Z00C19A7TJ2000/

 

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(写真は7/10付日経朝刊から拝借) 

 

ちょっとした小ネタを(笑)

 

吉野家ホールディングスが9日発表した2019年3~5月期の連結決算は、最終損益が10億円の黒字(前年同期は3億8800万円の赤字)だった。牛丼店「吉野家」で牛丼の新サイズ「超特盛がヒット。既存店売上高が好調で、人件費や材料費などの高騰を吸収した。』

 

超特盛のヒットにより吉野家が前年同期の赤字から一転、黒字10億とのこと。

競争の熾烈を極める外食産業にあってもまだまだ損益改善の余地はあるものだなあ、と思いつつも、職業柄ついつい、損益改善要因が気になる(笑)

まず、気になったのは、

販売増加が単価要因なのか、客数要因なのか、

という点。

 

売上=客単価*客数

だ。

 

『新規メニューでは5月に発売した「ライザップ牛サラダ」も堅調だった。うどん店「はなまるうどん」との共通割引クーポンなどの販売促進策も集客に寄与した。3~5月期の既存店売上高は6.1%増加した。客数は0.3%増で、客単価は5.8%増と大きく伸びた。』

 

客単価の上昇が主要因のようだ。

 

そして、

客単価=商品単価*注文数

なので、更に、販売増の要因が商品単価の上昇なのか、

それとも注文数の増加にあったのかについては、

 

『超特盛は税込み価格で並盛より400円高い780円だが、発売後1カ月で100万食を超え、その後も好調を維持しているという。』

 

商品単価の上昇、つまり、超特盛の販売増加が奏功したということだろう。

 ちなみに、すかいらーくなどのファミレスでは、客単価を上げるために、+1品を稼ぐということで客当たり注文数を増やすべくデザート開発に注力していると聞く。

一口に販売増加といっても、商品単価、注文数、客数、それぞれ業態によって取り組みやすさに違いがあることが分かる。

 

次に、利益面を見てみる。

『営業損益は10億円の黒字(前年同期は1億7800万円の赤字)だった。米の価格や人件費が上昇したが、増収効果で補った。売上高に占める原価の割合は0.9ポイント下がり、人件費や広告費を含む販管費の割合も1.4ポイント下がった。』

 

最終利益では、記事のとおりだが、吉野家HD公表の2020年2月期の1Qの四半期報告書によれば、本業の収益力の営業利益までの推移は以下の通り。

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吉野屋HDの四半期報告書の情報から筆者が作成

 

売上総利益増加要因分析】

                               (単位:百万円)

f:id:tesmmi:20190712101909p:plain

吉野屋HDの四半期報告書の情報から筆者が作成

 

四半期ベースでは、対前年同期比で売上総利益率が約1%改善している。1%というとさほど大きくないと思うかもしれないが、利益率1%の改善効果を金額で表すと約5億円だ。約11億円の営業利益の増加の内、ざっと半分が売上総利益率の改善による。要因の筆頭に挙げられるのが、超特盛ということだろう。(売上総利益の増収効果にも、超特盛などの高単価商品の販売増加による影響額も含まれる)

なお、このデータは連結決算数値なので、このうち吉野家は約半分のボリュームを占める(他は、はなまる、アークミール、京樽など)。『吉野家』に限定した分析であれば、セグメント情報を確認する必要がある。

 

要するに、

当期1Qの営業利益の改善は、材料等のコストアップはあったものの超特盛を中心とした商品単価の増加による売上総利益の増加(約24億円)が、販管費の増加(約12億円)を吸収し余りあった

と言うことだろう。

 

超特盛のような高単価商品が売上総利益に好影響を与えるのは感覚的にも理解できると思うが、

こんな記事を発見した(笑)

https://news.nicovideo.jp/watch/nw5181670

牛肉に関しては大盛の2倍(推計220g)という触れ込みなので、そうなっていないのは少し残念ではあるが、それはともかく、

仮に牛肉の量が並盛の2倍(注)としても、ご飯、玉ねぎ、タレ、全ての材料が並盛の2倍ということではないだろう。

 

(注)大盛の2倍であるが、ここでは販売価格がザっと2倍である並盛との比較のため

 

要は、並盛と比較すると、

 

商品単価増加割合(2倍超)>原価増加割合(2倍未満)

 

当然ながら、利益率は改善することになる。

 

ということは・・・

 

超特盛は、

吉野家にとって『超得』盛!!

 

会社の利益が改善するということは、利用者側から見ると割高なものを買わされているという見方もできる。

もっとも、超特盛を食べることでプライスレスな満足感が得られるのであれば利用者にとってもお得ということではある。

 

ちなみに、飲み放題メニューでは原価率の高そうなものを中心にオーダーしてしまうのも職業病(笑)

 

 

 

 

 

 

1株当たり純資産(BPS)の紛らわしさ    【1株当たり情報】

先日、1株当たり純資産の計算式

について改めて考える機会があった。

 

改めて考えると、確かに名前と中身がミスマッチというか、

紛らわしさを感じた。

 

【1株当たり純資産の計算式】

 

1株当たり純資産(BPS=Book Value per Share)というと以下の計算式をイメージする人が多いのでないだろうか?

 

1株当たり純資産(BPS

=純資産/発行済株式数

 

名称から普通はそうイメージするだろうし、また、ざっくりと1株当たり純資産の意味を理解するには十分だ。

実際、そんな説明をしている書籍やインターネット記事なども見られる。

 

ところが、実際には・・・

 

1株当たり純資産(BPS

普通株主に係る期末の純資産/期末の普通発行済株式数ー期末の普通株式の自己株式数

 

なんだか面倒くさそうだ・・・

(ということもあり、先ほどの簡略的な表現をしているのかも)

 

【何故、普通株式?】 

まず、目につくのは普通株式という単語だろう。

何故、わざわざ『普通』と断りを入れるのか?

答えは、普通じゃない株式があるかもしれないからだ。

会社によっては優先株式、劣後株式のような普通株式とは性格の異なる株式を発行しているケースがある。

このような株式を種類株式と言うが、種類株式には会社の資金調達の多様化のニーズに応える機能がある。

例えば、会社が資金調達はしたいが経営に口を出して欲しくないという場合、経営には参加できない代わりに配当金は普通株主よりも優先する配当優先株を発行するといった具合だ。

 

つまり、1株当たりといっても株式の性格が必ずしも一致しないため、一括りに扱うわけにはいかず、株式の性格に応じた純資産を計算する必要がある。

 

では、何故、『普通株式』1株当たりの純資産なのか?

適用指針には、『1株当たり純資産額の算定及び開示の目的は、普通株に関する企業の財政状態を示すことにあると考えられるため』とある。

こういうと身もふたもないのだが、理由としては、通常は普通株式の発行数が圧倒的に多く、株主にとって最も関心が高いであろう普通株式を対象としたということだろう。また、1株当たり純資産(BPS)は、株価の割高、割安の水準を示す指標であるPBR(Price Book‐value Ratio)の分母となる。株価は普通株式の株価であるから、両者の対応関係から1株当たり純資産は普通株式を対象としているとも言える。

 

PBR(株価純資産倍率)

=株価/1株当たり純資産(BPS

 

しかし、普通株式が重視されているとは言え、普通株式以外の株式が殊更に軽視されている訳ではない。適用指針では、普通株式以外の株式に係る1株当たり純資産額に重要性が認められる場合には同様に開示対象とするとしている。

いわゆる、 2 種方式(ツークラス法)と呼ばれる方式だ。

 

詳細は以下を参照☟
企業会計基準適用指針第4号
1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針 』
https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/shihanki-s_5.pdf

 

【何故、自己株式を控除?】

次に、自己株式を発行済株式数から控除している点。

1株当たり純資産の開示の趣旨は、普通株式1株当たりの期末時点での財産を表すことだ。自己株式は、実質的に資本の払い戻しと解釈されてる(消却はされていないため資本から直接控除はされていない)。そして、自己株式には、配当請求権残余財産分配請求権もない。つまり、共益権も自益権もない。

期末時点での純資産の分け前に預かれない株式のため、控除される。

 

【何故、純資産全額が対象でない?】

最後に、分子の純資産の意味だ。

純資産には、実は普通株主に帰属しない資産(*)も含まれている。

例えば、新株予約権、非支配株主持分(連結のみ)だ。

  

新株予約権は、そもそも株式は未発行

非支配株主持分は親会社の株主以外の株主の持ち分だ。

 

(*)他に、優先株式に係る資本金、資本剰余金、当会計期間に係る優先配当、新株式申込証拠金、自己株式申込証拠金など

 

純資産、自己資本、株主資本の違いについては

こちらを参照☟

https://globis.jp/article/5067

 

何故、そんなモノが純資産に含まれているのかと言うと、資本の概念が変化したためだ。ずっと以前は、資本というと株主の持分という定義だった(当時は、B/Sでも”純資産の部”ではなく”資本の部”と表記していた)。

ところが、時価主義が会計へ反映されるにつれて段々と資本の概念が変わり、資産から負債を控除した残りが純資産を表すようになった。そのため、非支配株主持分や新株予約権のように現時点の親会社の株主に帰属しない資産も純資産に含まれることになる。

 

1株当たり純資産の趣旨からは、あくまで対象とすべきは現在の親会社の株主に帰属する財産(1株当たりの)であるから、対象とならない項目は控除することになる。

  

 

なお、この考え方は1株当たり純利益ROE自己資本利益率)にも同様に当てはまる。むしろ、それらと平仄を合わせている。

 

ところで、例えば、ROEの分母は純資産ではなく、自己資本(*)としている。

 

自己資本=純資産ー(非支配株主持分(連結のみ)+新株予約権

 

概念的には、自己資本は1株当たり純資産の分母に一致

する(普通株式のみの場合)。

ROEの場合は、”純資産利益率”とは呼ばず”自己資本利益率”と呼ぶため、受け取る側も分母は≠純資産なのか、と気づきやすい(でも無いか?)。

 

この点、1株当たり純資産としつつも、実は純資産全部が対象でないというのは紛らわしいと言えば、確かに紛らわしい。

 

”1株あたり自己資本”とか、名前の交通整理をしたらいいのに(笑)