売上高の区分厳密に IFRSと米国基準が統一へ :日本経済新聞
少し前の記事であるが、久々にIFRSネタ。
『広告業界の首位交代か――。電通が5月に公表した決算説明会の資料が市場関係者の注目を集めた。15年3月期の予想連結売上高が6693億円と、業界2位の博報堂DYホールディングスの1兆1510億円を下回ったためだ。』
電通の例を挙げて、IFRSに移行すると売上高が激減するとか、その他、売上に関する日本基準とIFRSとの違いを挙げて、IFRSになると日本の会社の売上がこんなに変わる、という内容である。
そりゃあ、会計基準が違えば(結果としての)売上高が変わることもあるわな。
というか、作成ベースが異なる会社に売上高を比較することに意味があるのか?
会計基準(物差し)の違いで売上の金額が変わったとして、それが会社の価値を左右するのか?
といった、素朴な疑問を持つ方も少なくないのではないかと思う。
世界各国と異なる会計基準を使っていると、(結果として)決算数値への不要な差異が生じる。海外の投資家にアピールするためには彼らとの共通ルール、共通言語で説明する必要がある。
『IFRSと米国基準が統一すれば、日本基準は「ガラパゴス化」する。新日本監査法人の河野明史シニアパートナーは「日本基準が世界的に希少なものとみなされ、投資家の関心が低くなる」と指摘する。』
と記事は続く。
IFRSと米国基準が統一すれば、確かに今以上には日本基準の希少性(?)は高まるかもしれない。
だが、日本基準のガラパゴス化によって『日本企業の魅力が低まったり』、『海外の投資家の関心が低くなる』については少々疑問である。
例えば、こんなデータがある。
『東京証券取引所が19日に発表した2013年度の株式分布状況調査によると、外国人の日本株保有比率は30.8%と過去最高を記録した。金融機関の保有比率を上回り、今や「日本企業の筆頭株主」になっている。』
外国人投資家はまだ日本株を買ってくるのか | 週刊東洋経済(ビジネス) | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト
『東京証券取引所が発表している投資部門別株式売買状況によると、東京証券取引所と名古屋証券取引所の全市場売買金額のうち60%以上を海外投資家が占めている。』
ランキング | 海外投資家が買った銘柄トップ30、売った銘柄ワースト30! | 会社四季報オンライン
現在(2014年3月期)IFRSを採用している会社は20社未満(全上場会社の1%未満)である。近く(2017年度まで)に採用を公表している会社を含めても約50社である。
要するに、未だほとんどの会社がIFRS採用していないのである(米国会計基準を適用している会社は平成24年度で32社)。
http://www.shinnihon.or.jp/corporate-accounting/case-study/2013/2013-10-02.html
ちなみに、上の四季報オンラインのデータにおける海外投資家が買った、売った、保有比率トップ30(保有比率はトップ10)にはIFRS適用会社は含まれていない。
この状況をどうみるべきだろうか。
日本基準を適用していると、海外投資家の関心は低まるのだろうか?
海外の投資家にとって、彼らが慣れ親しんだ(IFRSがそうであるかはこれまた疑問であるが、一応そういうことにしておく)会計基準で作成した決算数値であれば、それに越したことはないが、それだけで『では投資しよう』とはならないだろう。会計基準以上に重要な投資ファクターは、企業のビジネスが今後どう展開していくのか、将来いくらキャッシュを稼ぎ出す見込みがあるのか、そしてその場合における企業の価値がいくらか、つまり、投資に見合うかどうかの判断が必要になる。
少なくとも今、日本の株式市場を席巻しているような規模、レベルの海外投資家にしてみれば、会計基準が違うから投資対象から外すなんて、そんな生易しいものではないように思う。儲かりそうならそんな差異は障害とも思わないような方々ではないのか・・・?
そしてそのためには決算数値以外の様々な情報を必要とする。決算数値は重要ではあるが投資判断の一部に過ぎない。ましてや会計数値にしたって、たとえIFRSで作成されたとしても会社から提示されたデータを鵜呑みにすることはないだろう。経営者へのインタビューや他のルートからの情報を収集して独自に企業価値を見積もるだろう。
会計基準と投資対象としての魅力は 果たしてどれだけの相関があるのだろうか・・・
もちろん、会計基準の内容と、なにより運用が徹底されているかどうかは大問題ですが・・・